外傷患者に対する適切な救急医療提供体制の構築に資する研究

文献情報

文献番号
202122038A
報告書区分
総括
研究課題名
外傷患者に対する適切な救急医療提供体制の構築に資する研究
課題番号
21IA1013
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
大友 康裕(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 土谷 飛鳥(東海大学医学部医学科 准教授)
  • 高橋 邦彦(東京医科歯科大学 M&Dデータ科学センター 教授)
  • 遠藤 彰(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 救急災害医学分野)
  • 竹内 一郎(横浜市立大学 医学部)
  • 千田 篤(東京医科歯科大学 救急災害医学分野)
  • 森下 幸治(東京医科歯科大学 救急災害医学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
2,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、どのように外傷医療体制を構築するか、および受傷現場からどのような観点で搬送先の病院を選定するかについて解析することを目的とする。まず外傷医療体制の構築という視点から、地域における外傷患者の集約化の有効性について検討する。また先行研究では、病院前搬送時間が短いことは患者の良好な生命転帰と関連することが報告されているが、受傷から根治的治療までの時間と転帰との関連は未だ明らかではない。受傷から根治的治療までの時間を短縮するために直近の病院ではなく遠方の外傷診療に精通した専門施設(外傷センター)へと搬送するいわゆる「トラウマバイパス」の概念の妥当性を検証する。さらに患者の救急搬送元の地理情報をもとに、本邦の各地域で発生する手術を要する外傷患者の発生状況を地理空間モデルによって地域における効率的な外傷専門病院の分布を考察し、重点施設の必要数などを考慮した最適な外傷医療提供体制の構築に関する考察を行う。
研究方法
本研究はデータソースとして日本外傷データバンク(Japan Trauma Data Bank, JTDB)、National Clinical Database (NCD)、およびDiagnosis Procedure Combination(DPC)などのデータベースを用いる。用いるデータベースには、それぞれ利点・問題点があることを踏まえ、互いに補完しあうよう解析を進める。本年は、DPCとJTDBを用いた研究を行った。NCDデータ使用に関して、NCD事務局との調整に時間を要しており、今年度はデータ解析には至っていない。
日本航空医療学会全国症例登録システム(JSAS-R)に登録された全症例のうち、以下の適格基準にしたがって患者抽出を行ない、1)全症例および2)外傷患者に特化した疫学的な記述を行った。
横浜市では全国に先駆けて行政が地域重症外傷センターを指定し、重症外傷症例の集約化に努めてきた。その外傷設置前後の効果について後ろ向きコホート研究を行った。
結果と考察
DPCデータ解析において、重症度調整スコアが退院時の生死を予測する精度はArea under the receiver operating curve = 0.891であり、良好であることが示された。また、病院あたりの症例数と生存退院との関連を、重症度スコアで調整した一般化加法モデルで視覚化した結果、施設毎症例数の増加とともに生存退院が増加する関連を認めた。
JTDBデータ解析では、施設の外傷症例の年間集中治療室入室数の第一四分位を基準とし、第二四分位と第三四分位では有意な関連はなかったが、第四四分位では入院中死亡の改善と有意に関連していた
JSAS-Rを活用した研究では、全症例の記述および外傷患者に特化した記述を行い、DH搬送患者の全体像と外傷患者の全体像が把握できた。
 横浜市外傷検証委員会では、外傷死亡24症例全例に対して訪問調査(peer review)を行った結果、PTDと明確に判定されたものは1症例(1.7%)、年齢や病院の体制により潜在的なPTDの可能性があると判断された症例が7症例(11.9%)であった。これは、重症外傷センター設置前のPTD 9.8%、潜在的PTD 21%から、大幅な改善となった。
 地理空間モデルは、実データ入手後の解析方法についての枠組みを決定した。3次元空間(4次元空間)ベイズ推定による解析解により解析結果を得る事が可能であることを確認した。
結論
今年度は、以下の研究成果が得られた。
DPCデータ解析では、外傷患者ではいわゆるvolume-outcome relationshipが存在することが改めて示唆された。またJTDBの解析から重症外傷患者を多数診療する集中治療室を備えた外傷診療施設は重症度調整後もより良好な生命転帰をもたらす事が確認された。
JSAS-Rを活用することで、DH搬送患者の全体像と外傷患者の全体像が把握できた。
地域における重症外傷センター設置の有用性が明らかになった。
来年度も、最適な外傷医療提供体制(重点施設設置の有用性、搬送の際の病院選定の方法)についてのエビデンスを示すことで、地域の医療システム構築の際に有用な科学的根拠を提示していく。

公開日・更新日

公開日
2023-08-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202122038Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,900,000円
(2)補助金確定額
707,000円
差引額 [(1)-(2)]
2,193,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 38,016円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 0円
間接経費 669,000円
合計 707,016円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-10-18
更新日
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