“Deep Safety”(真の医療安全)実現に向けた法政策:医療安全における「法との断絶」の克服を目指す比較研究

文献情報

文献番号
202122014A
報告書区分
総括
研究課題名
“Deep Safety”(真の医療安全)実現に向けた法政策:医療安全における「法との断絶」の克服を目指す比較研究
課題番号
20IA1010
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 太(神奈川大学 法学部)
研究分担者(所属機関)
  • 樋口 範雄(武蔵野大学 法学部)
  • 佐藤 雄一郎(東京学芸大学 教育学部)
  • 木戸 浩一郎(帝京大学 医学部)
  • 織田 有基子(日本大学大学院法務研究科)
  • 磯部 哲(慶應義塾大学 大学院法務研究科)
  • 児玉 安司(東京大学医学部附属病院)
  • 我妻 学(東京都立大学 法学政治学研究科)
  • 小山田 朋子(法政大学 法学部)
  • 畑中 綾子(東京大学  未来ビジョン研究センター)
  • 井上 悠輔(東京大学 医科学研究所)
  • 佐藤 恵子(京都大学大学院医学研究科)
  • 安樂 真樹(東京大学医学部附属病院 )
  • Ortolani Andrea(オルトラーニ アンドレア)(立教大学 法学部)
  • 瀬尾 雅子(東京大学医学部附属病院)
  • 秋元 奈穂子(立教大学 法学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
4,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は,過去20年間の医療安全の諸政策における法の役割について再検討を行い,“Deep Safety”(真の医療安全)の実現のための法政策上の課題を探ることである.そのため諸外国の医療安全対策(事故報告,補償制度,原因究明枠組など)と法の関係についての最新の議論を包括的に吸収しつつ,医療事故調査制度の現状分析を含め,医療安全における適正な法の役割について提言を行う.
「Deep Safety実現に向けた法政策」と題した所以は,安全対策,法の役割,両面の再検討が必要と考えたためである.第一に,システム志向・非懲罰的な対応を柱とする医療安全対策の効果について,近年疑問がでてきた.最大の理由は,医療の専門性・複雑性・現場環境の多様性であり,一律の安全対策の難しさである.ルールを守るだけの表層的な対応ではなく,むしろ不断の見直しを可能とする,根強い安全文化の構築(Deep Safetyの実現)が求められている.日本でも様々な医療安全対策が構築され,特に医療事故調査制度は世界的にも注目を集めるものであった.しかし運用を見ると,報告件数の低迷を指摘する声がでるなど十分機能しているかに疑問がある.
第2に,医療安全における法の適正な役割の再検討も始まっている.個人の責任追及を否定する従来の政策では,「法との断絶」が過度に重視される傾向があったが,過剰な部分もあった.安易な刑事責任の追及は論外にせよ,再教育,支援と組み合わせたより穏健な形での個人の責任追及は,医療安全の観点から望ましいとの主張がでてきた.
そこで本研究では,網羅的な文献研究と,医療・法律の専門家や現場の認識面の検討を織り交ぜ,医療安全対策での法のあるべき姿を提示する.
研究方法
より具体的には,以下の2つの観点から分析を行う.初(R2)年度は,事故事例報告・補償制度・懲戒制度など諸外国における過去20年間の医療安全対策の効果の検証を踏まえた上で,医療安全対策における法の役割の再検討に関する文献調査を中心に行う.
 第2(R3)年度は,初年度の検討の疑問点の解消を行うとともに,海外の議論状況については,実地調査などによって医療・行政・法学の専門家と意見交換し,最新状況の把握も進める.さらに,日本の医療事故調査制度等に対する現場の認識に関して意見聴取を行う.そして医療安全対策と法支援機能の効果と課題などを分析し,日本での医療安全対策の改善への示唆をえたい.
結果と考察
初(R2)年度は,事故事例報告・補償制度・懲戒制度など諸外国における過去20年間の医療安全対策の効果の検証を踏まえた上で,医療安全対策における法の役割の再検討に関する文献調査を中心に行ってきた.
 現下のコロナ禍において国内外の実地調査が困難であった点を除いては,概ね計画通り順調に進んでいる.調査対象国の医療安全対策とそこでの法機能に関して,文献調査を中心に可能な限り網羅的に検討してきた.具体的には,米豪などにおける医療事故・医療安全対策における法の役割に関する先行研究を可能な限り網羅的に検討することを目指してきた.また担当部局の医療安全推進室と綿密に連絡を取っており,日本の医療事故調査制度の課題の把握のみならず積極面の把握およびその発信の在り方についての実態調査も医療安全推進室からも協力を得て実施した.それらを含め今後の医療安全の見直し議論において基礎的な資料や課題についてとりまとめる予定である.
 第2(R3)年度は,初年度の検討の疑問点の解消を行うとともに,海外の議論状況については,コロナ禍ゆえ,オンライン・文献調査などによって,最新状況の把握も進めてきた.さらに,日本の医療事故調査制度等に対する現場の認識に関して意見聴取を行ってきた.これらの検討を通じ,医療安全対策と法支援機能の効果と課題などを分析し,日本での医療安全対策の改善への示唆をえることを目指した.
結論
令和2-3年度の検討からは,依然として医療安全とアカウンタビリティの適正なバランスの模索が必要であることがわかった.運用担当者・利用者などに意見聴取し,医療事故調査制度の更なる発展のための基礎的な研究を行ってきた.

公開日・更新日

公開日
2022-06-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-06-22
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202122014B
報告書区分
総合
研究課題名
“Deep Safety”(真の医療安全)実現に向けた法政策:医療安全における「法との断絶」の克服を目指す比較研究
課題番号
20IA1010
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 太(神奈川大学 法学部)
研究分担者(所属機関)
  • 樋口 範雄(武蔵野大学 法学部)
  • 佐藤 雄一郎(東京学芸大学 教育学部)
  • 木戸 浩一郎(帝京大学 医学部)
  • 織田 有基子(日本大学大学院法務研究科)
  • 磯部 哲(慶應義塾大学 大学院法務研究科)
  • 児玉 安司(東京大学医学部附属病院)
  • 我妻 学(東京都立大学 法学政治学研究科)
  • 小山田 朋子(法政大学 法学部)
  • 佐藤 智晶(青山学院大学 法学部)
  • 畑中 綾子(東京大学  未来ビジョン研究センター)
  • 井上 悠輔(東京大学 医科学研究所)
  • 佐藤 恵子(京都大学大学院医学研究科)
  • 安樂 真樹(東京大学医学部附属病院)
  • Ortolani Andrea(オルトラーニ アンドレア)(立教大学 法学部)
  • 瀬尾 雅子(東京大学医学部附属病院)
  • 秋元 奈穂子(立教大学 法学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は,過去20年間の医療安全の諸政策における法の役割について再検討を行い,“Deep Safety”(真の医療安全)の実現のための法政策上の課題を探ることである.そのため諸外国の医療安全対策(事故報告,補償制度,原因究明枠組など)と法の関係についての最新の議論を包括的に吸収しつつ,医療事故調査制度の現状分析を含め,医療安全における適正な法の役割について提言を行う.
「Deep Safety実現に向けた法政策」と題した所以は,安全対策,法の役割,両面の再検討が必要と考えたためである.第一に,システム志向・非懲罰的な対応を柱とする医療安全対策の効果について,近年疑問がでてきた.最大の理由は,医療の専門性・複雑性・現場環境の多様性であり,一律の安全対策の難しさである.ルールを守るだけの表層的な対応ではなく,むしろ不断の見直しを可能とする,根強い安全文化の構築(Deep Safetyの実現)が求められている.日本でも様々な医療安全対策が構築され,特に医療事故調査制度は世界的にも注目を集めるものであった.しかし運用を見ると,報告件数の低迷を指摘する声がでるなど十分機能しているかに疑問がある.
第2に,医療安全における法の適正な役割の再検討も始まっている.個人の責任追及を否定する従来の政策では,「法との断絶」が過度に重視される傾向があったが,過剰な部分もあった.安易な刑事責任の追及は論外にせよ,再教育,支援と組み合わせたより穏健な形での個人の責任追及は,医療安全の観点から望ましいとの主張がでてきた.
そこで本研究では,網羅的な文献研究と,医療・法律の専門家や現場の認識面の検討を織り交ぜ,医療安全対策での法のあるべき姿を提示したい.
研究方法
より具体的には,以下の2つの観点から分析を行う.令和2-3年度は,事故事例報告・補償制度・懲戒制度など諸外国における過去20年間の医療安全対策の効果の検証を踏まえた上で,医療安全対策における法の役割の再検討に関する文献調査を中心に行ってきた.
 第2(R3)年度は,初年度の検討の疑問点の解消を行うとともに,海外の議論状況については,文献調査などによって最新状況の把握も進めてきた.さらに,日本の医療事故調査制度等に対する現場の認識に関して意見聴取を行った.そして医療安全対策と法支援機能の効果と課題などを分析し,日本での医療安全対策の改善への示唆をえてきた.
結果と考察
令和2-3年度は,事故事例報告・補償制度・懲戒制度など諸外国における過去20年間の医療安全対策の効果の検証を踏まえた上で,医療安全対策における法の役割の再検討に関する文献調査を中心に行ってきた.
 現下のコロナ禍において国内外の実地調査が困難であった点を除いては,概ね計画通り順調に進んでいる.調査対象国の医療安全対策とそこでの法機能に関して,文献調査を中心に可能な限り網羅的に検討してきた.具体的には,米豪などにおける医療事故・医療安全対策における法の役割に関する先行研究を可能な限り網羅的に検討することを目指してきた.また担当部局の医療安全推進室と綿密に連絡を取っており,日本の医療事故調査制度の課題の把握のみならず積極面の把握およびその発信の在り方についての実態調査も医療安全推進室からも協力を得て実施した.それらを含め今後の医療安全の見直し議論において基礎的な資料や課題についてとりまとめる予定である.
 第2(R3)年度は,初年度の検討の疑問点の解消を行うとともに,海外の議論状況については,コロナ禍ゆえオンライン・文献調査などによって医療・行政・法学の専門家と意見交換し,最新状況の把握も進めてきた.さらに,日本の医療事故調査制度等に対する現場の認識に関して意見聴取を行った.これらの検討を通じ,医療安全対策と法支援機能の効果と課題などを分析し,日本での医療安全対策の改善への示唆をえることを目指した.
結論
令和2-3年度の検討からは,依然として医療安全とアカウンタビリティの適正なバランスの模索が必要であることがわかった.運用担当者・利用者などに意見聴取し,医療事故調査制度の更なる発展のための基礎的な研究を行ってきた.

公開日・更新日

公開日
2022-06-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202122014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
第1に,諸外国における医療安全対策における法機能に関する制度的枠組・運用についての正確な把握,第2に担当部局である医療安全推進室から提案があった日本の医療事故調査制度の課題についての専門家への意見聴取を行った.インタビュー結果については,インタビュー対象者の同意を得た上で,可能な範囲で匿名できないように配慮し担当部局の医療安全推進室にも提供した.これらの検討を経て,日本での医療安全の充実策とそこでの法機能のあり方の再検討を目指した.
臨床的観点からの成果
特になし
ガイドライン等の開発
現段階では特になし
その他行政的観点からの成果
まず研究班の会合には担当部局である医療安全推進室の担当者を招くなどして,日本の医療事故調査制度の課題と積極面の発信のあり様の分析など,行政的観点からの関心にも十分応えるべく研究を進めてきた.
広く医療安全における法の積極的および阻害的機能について,日本のみならず諸外国の最新の状況を調査し,比較可能な形で担当部局等に提供することにより,さらに,厚生労働研究データベースなどにも研究終了後も成果報告を継続することにより,医療安全向上の議論にも一定程度貢献できたと考えている.
その他のインパクト
総括・分担研究報告書,各分担者の所属する学会・所属機関の紀要などにおいて,濃密かつ,わかりやすい形でその成果を研究期間中にも積極的に公表しており,研究終了後も継続的に公表する予定であり,それらの情報について厚生労働研究データベースへの成果報告も継続予定である.
またコロナ禍において,多くの学会において総会シンポジウムなどがオンライン化しており,それらが一般向けにも開放されてきたことを利用し,それらの学会においても成果報告を行ってきた.研究終了後もそのような機会を積極的に利用する予定である.

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
岩田 太
医療安全の向上のための事故情報の説明・謝罪
医事法講座第11巻医療安全と医事法 , 第11巻 , 119-142  (2021)
原著論文2
畑中 綾子
医療事故の原因究明と医療安全制度の構築
医事法講座第11巻医療安全と医事法 , 第11巻 , 143-167  (2021)
原著論文3
秋元 奈穂子
医療事故被害者に対する補償制度-産科医療補償制度の現在と課題-
医事法講座第11巻医療安全と医事法 , 第11巻 , 169-194  (2021)

公開日・更新日

公開日
2023-05-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
202122014Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,100,000円
(2)補助金確定額
5,100,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,477,337円
人件費・謝金 732,937円
旅費 43,092円
その他 546,653円
間接経費 300,000円
合計 5,100,019円

備考

備考
収支差額19円は,自己負担.

公開日・更新日

公開日
2022-12-20
更新日
-