食品添加物等における遺伝毒性評価のための戦略構築に関する研究

文献情報

文献番号
200837009A
報告書区分
総括
研究課題名
食品添加物等における遺伝毒性評価のための戦略構築に関する研究
課題番号
H18-食品・一般-009
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
能美 健彦(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
研究分担者(所属機関)
  • 本間正充(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 山田雅巳(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 松田知成(京都大学 工学研究科)
  • 太田敏博(東京薬科大学 生命科学部)
  • 長尾美奈子(慶応大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安心・安全確保推進研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、遺伝毒性の閾値形成機構をメカニズムに基づいて研究するとともに、内因性DNA損傷の分析法、遺伝毒性物質の複合影響、遺伝毒性検出用F344 gpt deltaトランスジェニックラットのバリデーションを進め、遺伝毒性発がん物質の閾値形成機構に関する基盤的研究を推進する。
研究方法
Ames試験菌株TA1535の酸化ピリミジン損傷に対する修復能(nth, nei)を欠損した変異株を用いてL-システイン等の遺伝毒性を検索した。ヒト細胞株TK6を用いてAF2の遺伝毒性を検索し、変異体の分子解析を行った。遺伝毒性発がん物質の閾値に関する国際シンポジウムを開催し、遺伝毒性の閾値に関する国際情報を収集した。Ames試験菌株の除去修復能欠損株(TA100)と野生型株(TA1975P)を用いて、6種類の変異原の複合効果を検討した。LC/MS/MSを用いて、アクリルアミドによるDNA損傷を分析した。F344 gpt deltaラットに2,4-diaminotoluene(2,4-DAT、発がん物質)と2,6-diaminotoluene(2,6-DAT、非発がん物質)を投与し肝臓の変異を解析した。
結果と考察
L-システインは塩基置換を誘発し、その遺伝毒性は塩基除去修復により抑制された。AF2は塩基置換以外に欠失変異を誘発した。国内外21名の招へい講演者を迎え平成20年7月に閾値に関する国際シンポジウムを開催した。講演内容を日本環境変異原学会機関誌の特集号として出版した。発がん物質の用量効果曲線の分析に基づき、遺伝毒性発がん物質の閾値は臓器により異なることを示唆した。複数の低用量遺伝毒性物質は相加効果を示した。アクリルアミド由来のN7-グアニンDNA付加体の分析法を確立した。2,4-DATは発がん標的臓器である肝臓に変異を誘発したが、2,6-DATは陰性であった。
結論
遺伝毒性の閾値形成には、DNA修復の関与が考えられ、誘発される変異のタイプや標的臓器により閾値の有無は異なることが示唆された。DNA損傷の化学分析、遺伝毒性物質の複合影響は、低用量域での遺伝毒性のリスクを考える上で重要である。F344 gpt deltaトランスジェニックラットは、発がんの標的臓器において遺伝毒性を解析する際に有用である。

公開日・更新日

公開日
2009-04-08
更新日
-

文献情報

文献番号
200837009B
報告書区分
総合
研究課題名
食品添加物等における遺伝毒性評価のための戦略構築に関する研究
課題番号
H18-食品・一般-009
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
能美 健彦(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
研究分担者(所属機関)
  • 本間正充(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部 )
  • 山田雅巳(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部 )
  • 松田知成(京都大学工学研究科)
  • 太田敏博(東京薬科大学生命科学部)
  • 長尾美奈子(慶応大学薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安心・安全確保推進研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、遺伝毒性の閾値形成機構をバクテリアとヒト細胞を用い、メカニズムに基づいて研究する。またDNA損傷の化学分析法、遺伝毒性物質の複合影響、遺伝毒性検出用gpt deltaトランスジェニックマウスおよびラットの評価を進め、遺伝毒性発がん物質の閾値形成機構に関する基盤的研究を推進する。
研究方法
酸化塩基損傷に対する修復能(mutM, nth, nei)を欠損したAmes試験菌株を用いて臭素酸カリウム等の遺伝毒性を検索した。ヒト細胞TK6を用いて臭素酸カリウム、AF2の遺伝毒性を検索した。遺伝毒性発がん物質の閾値に関する国際シンポジウムを開催し、遺伝毒性の閾値に関する国際情報を収集した。Ames試験菌株の除去修復能欠損株(TA100)と野生型株(TA1975P)を用いて、6種類の変異原の複合効果を検討した。LC/MS/MSを用いて、内因性アルデヒド、アクリルアミドによるDNA損傷を分析した。gpt deltaマウス由来の胚繊維芽細胞(MEF)には石綿(クロシドライト)を曝露し、gpt deltaラットには臭素酸カリウム、2,4-diaminotoluene(2,4-DAT、発がん物質)を投与し変異を解析した。
結果と考察
臭素酸カリウムは、Ames株に塩基置換を誘発し、その遺伝毒性は塩基除去修復により抑制された。臭素酸カリウムとAF2は、ヒト細胞に欠失変異を誘発した。参加者200名を得て遺伝毒性発がん物質の閾値に関する国際シンポジウムを開催した。講演内容を日本環境変異原学会機関誌の特集号として出版した。発がん物質の用量効果曲線の分析に基づき、遺伝毒性発がん物質の閾値は化合物および発がんの標的臓器により異なることを示唆した。アルデヒド、アクリルアミド由来のDNA付加体の分析法を確立した。クロシドライトは、MEF細胞に酸化DNA損傷に基づく欠失を誘発した。臭素酸カリウムおよび2,4-DATは、ラットの発がん標的臓器(腎臓と肝臓)に変異を誘発した。
結論
遺伝毒性は、低用量域ではDNA修復作用により抑制され、事実上の閾値が形成される可能性が考えられる。だが閾値の有無は、遺伝毒性物質の種類、誘発される変異のタイプ、発がん標的臓器により異なる。DNA損傷の化学分析、遺伝毒性物質の複合影響は、低用量域での遺伝毒性のリスクを考える上で重要である。gpt deltaトランスジェニックマウスおよびラットは、発がんの標的臓器において遺伝毒性を解析する際に有用であり、遺伝毒性物質の閾値形成機構を究明する上で重要な役割をはたすと期待される。

公開日・更新日

公開日
2009-04-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-01-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200837009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
低用量域での遺伝毒性は、DNA修復作用により抑制され、事実上の閾値が形成される可能性を示した。だが、遺伝毒性の閾値は、遺伝毒性発がん物質の種類、誘発される変異のタイプ、発がん標的臓器により異なる。またDNA損傷の化学的定量、遺伝毒性物質同士の複合効果が低用量域でのリスク評価においては重要である。gpt deltaトランスジェニックマウスおよびラットは、発がんの標的臓器において遺伝毒性を解析することができ、当該発がん物質が遺伝毒性物質であるか否かの判定にきわめて有用であることを明らかにした。
臨床的観点からの成果
該当しない
ガイドライン等の開発
gpt deltaトランスジェニックマウスおよびラットに関する研究成果は、OECDガイドライン策定の基礎となるTransgenic Rodent Mutation Assays Detailed Review Paperに取り上げられ、21st Meeting of the Working Group of National Coordinators of the Test Guidelines Programme (WNT21、2009年3月31日?4月2日、パリ、フランス)にて討議された。
その他行政的観点からの成果
gpt deltaトランスジェニックマウスおよびラットに関する研究成果は、World Health Organization / International Programme on Chemical Safety (WHO/IPCS)の主催するIPCS Harmonized Scheme for Mutagenicity Testingに関する会議(2008年6月30日?7月1日、ブラッドフォード、英国)で参考にされ、その成果は英国環境変異原学会機関誌Mutagenesisに掲載される。
その他のインパクト
「遺伝毒性発がん物質の閾値に関する国際シンポジウム」を平成20年7月22、23日に東京にて開催した。国外からの招へい講演者5名(米国2名、英国1名、ドイツ2名)、国内招へい講演者16名、参加者は約200名であった。招へい講演者には、遺伝毒性、毒性病理学、放射線生物学、分析化学、統計学、薬物代謝の専門家、行政官および消費者の代表が含まれる。シンポジウムの講演内容は、日本環境変異原学会の機関誌 ”Genes and Environment Vol. 30 (4), 2008)に特集号として出版した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
51件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
8件
学会発表(国内学会)
77件
学会発表(国際学会等)
57件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
特許第3799445号 突然変異検出用トランスジェニックラットとその作製方法およびそれを用いた突然変異試験法
その他成果(施策への反映)
1件
食品添加物の安全性評価においてトランスジェニック遺伝毒性試験がはたす役割を明らかにし、その実施を促進した。
その他成果(普及・啓発活動)
3件
発展途上国(トルコ、インド、ブラジル)においてトランスジェニック遺伝毒性試験に関する講演を行い、in vivo遺伝毒性の普及啓発に努めた。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
M. Mazaki, K. Kataoka, T. Kinouchi, et al.
Inhibitory effects of caraway (Carum carvi L.) and its component on N-methyl-N-nitoro-N-nitrosoguanidine-induced mutagenicity
J. Med. Invest. , 53 (1) , 123-133  (2006)
原著論文2
M. Yamada, K. Matsui, T. Nohmi
Development of a bacterial hyper-sensitive tester strain for specific detection of the genotoxicity of polycyclic aromatic hydrocarbons
Genes Environ. , 28 (1) , 23-30  (2006)
原著論文3
N. Koyama, H. Sakamoto, M. Sakuraba et al.
Genotoxicity of acrylamide and glycidamide in human lymphoblastoid TK6 cells
Mutat. Res. , 603 , 151-158  (2006)
原著論文4
S. Ishikawa, Y. Sasaki, S. Kawaguchi et al.
Characterization of genotoxicity of Kojic acid by mutagenicity in Salmonella and micronucleus induction in rodent liver
Genes Environ. , 28 (1) , 31-37  (2006)
原著論文5
T. Matsuda, H. Yabushita, R.A. Kanaly et al.
Increased DNA Damage in ALDH2-Deficient Alcoholics
Chem. Res. Toxicol. , 19 (10) , 1374-1378  (2006)
原著論文6
M. Ikeda, K. Masumura, K. Matsui et al.
Chemopreventive effects of nobiletin against genotoxicity induced by 4-(methylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1-butanone (NNK) in the lung of gpt delta transgenic mice
Genes Environ. , 28 (3) , 84-91  (2006)
原著論文7
M. Honma, M. Sakuraba, T. Koizumi et al.
Non-homologous end-joining for repairing I-SceI-induced DNA double strand breaks in human cells
DNA Repair , 6 , 781-788  (2007)
原著論文8
R.A. Kanaly, S. Matsui, T. Hanaoka et al.
Application of the adductome approach to assess intertissue DNA damage variations in human lung and esophagus
Mutat. Res. , 625 , 83-93  (2007)
原著論文9
K. Misaki, S. Matsui, T. Matsuda
Metabolic enzyme induction by HepG2 cells exposed to oxygenated and nNon-oxygenated polycyclic aromatic hydrocarbons
Chem. Res. Toxicol. , 20 (2) , 277-283  (2007)
原著論文10
M. Shimizu, P. Gruz, H. Kamiya et al.
Efficient and erroneous incorporation of oxidized DNA precursors by human DNA polymerase eta
Biochem. , 46 (18) , 5515-5522  (2007)
原著論文11
T. Matsuda, A. Matsumoto, M. Uchida et al.
Increased formation of hepatic N2-ethylidene-2'-deoxyguanosine DNA adducts in aldehyde dehydrogenase 2 knockout mice treated with ethanol
Carcinogenesis , 28 , 2363-2366  (2007)
原著論文12
K. Hidaka, M. Yamada, H. Kamiya et al.
Specificity of mutations induced by incorporation of oxidized dNTPs into DNA by human DNA polymerase eta
DNA Repair , 7 , 497-506  (2008)
原著論文13
M. Yasui, E. Suenaga, N. Koyama et al.
Miscoding properties of 2’-deoxyinosine, a nitric oxide-derived DNA adduct, during translesion synthesis catalyzed by human DNA polymerases
J. Mol. Biol. , 377 , 1015-1023  (2008)
原著論文14
Y. Okamoto, P.H. Chou, S.W. Kim et al.
Oxidative DNA damage in XPC-knockout and its wild mice treated with equine estrogen
Chem. Res. Toxicol. , 21 (5) , 1120-1124  (2008)
原著論文15
M. Nagao, S. Ishikawa, H. Nakagama et al.
Extrapolation of the animal carcinogenesis threshold to humans
Genes Environ. , 30 (4) , 160-165  (2008)
原著論文16
T. Nohmi
Possible mechanisms of practical thresholds for genotoxicity
Genes Environ. , 30 (4) , 108-113  (2008)
原著論文17
K. Yamauchi, S. Kakinuma, S. Sudo et al.
Differential effects of low- and high-dose X-rays on N-ethyl-N-nitrosourea-induced mutagenesis in thymocytes of B6C3F1 gpt-delta mice
Mutat. Res. , 640 , 27-37  (2008)
原著論文18
H. Nagayoshi, A. Matsumoto, R. Nishi
Increased formation of gastric N2-ethylidene-2’-deoxyguanosine DNA adducts in aldehyde dehydrogenase-2 knockout mice treated with ethanol
Mutat. Res. , 673 , 74-77  (2009)
原著論文19
K. Masumura, T. Nohmi
Spontaneous mutagenesis in rodents: spontaneous gene mutations identified by neutral reporter genes in gpt delta transgenic mice and rats
J. Health Sci. , 55 (1) , 40-49  (2009)
原著論文20
N. Niim, A. Sassa, A. Katafuch et al.
The steric gate amino acid tyrosine 112 is required for efficient mismatched-primer extension by human DNA polymerase kappa
Biochem.  (2009)

公開日・更新日

公開日
2013-05-27
更新日
-