薬剤耐性食中毒菌サーベイランスに関する研究

文献情報

文献番号
200837003A
報告書区分
総括
研究課題名
薬剤耐性食中毒菌サーベイランスに関する研究
課題番号
H18-食品・一般-003
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 治雄(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 秋庭正人((独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 安全性研究チーム)
  • 五十君 靜信(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
  • 浅井 鉄夫(農水省動物医薬品検査所 検査第二部 抗生物質製剤検査室)
  • 甲斐 明美(東京都健康安全研究センター 微生物部 食品微生物研究科)
  • 山口 正則(埼玉県衛生研究所 臨床微生物担当)
  • 泉谷 秀昌(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 田口 真澄(大阪府立公衆衛生研究所 感染症部 細菌課)
  • 田村 豊(酪農学園大学獣医学部 衛生・環境部門 獣医公衆衛生学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安心・安全確保推進研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
サルモネラ、カンピロバクターの多剤耐性化が我が国ばかりでなく世界的にも進んできている。本研究においては、家畜、食肉および食中毒患者から分離されるサルモネラ、カンピロバクターの薬剤耐性菌の現状及び動向について全国レベルの調査を行う。
研究方法
家畜,食品及び患者由来のサルモネラ,カンピロバクターの分離菌株の血清型,生化学的性状,ファージ型を調査する。各薬剤、特に臨床上治療に使用される薬剤(フルオロキノロン、第3,4世代セファロスポリン系薬剤)に対する年度ごとの耐性頻度の変化に注目して調査を行う。
結果と考察
病畜由来サルモネラから、7.6%にセファロスポリン耐性、0.6% にフルオロキノロン耐性が認められた。その内訳は、ESBL産生株がS. Infantis 6株(耐性遺伝子型 CTX-M-2、CTX-M-14、TEM-52、SHV-5-2a)、S. Manhattan 1株(TEM-52)およびS. Typhimurium 1株(CTX-M-2)、またAmpC型β-ラクタマーゼ産生株が7株、すべてS. Infantis(CMY-2)であった。埼玉県内で2008年に、散発下痢症患者等から分離されたサルモネラのうち最も多く分離されたS.Typhimuriumでは52.6%が耐性を示し、1株はフルオロキノロン耐性および第3世代セフェム系薬剤であるCTX耐性株(bla CTX-M-14と bla TEM-1遺伝子を持つESBL産生菌)が1株分離された。家畜、鶏肉等のカンピロバクターの調査ではERFXに対する耐性率は、平成18,19年にC. jejuni(37.5%, 25.8%)及びC. coli(30.2%, 53.8%)でそれぞれ認められた。人のカンピロバクター症の第一次選択薬であるEMに対する耐性は、C.coliの約30%で認められたが、C.jejuniには全く認められなかった。
結論
家畜に分布するサルモネラとカンピロバクターの薬剤感受性状況を調査した結果、医療上重要なフルオロキノロン剤やセファロスポリンに対する耐性が出現・増加している傾向が認められた。特にセファロスポリン耐性遺伝子はヒトの下痢症の原因サルモネラの多くの血清型に浸透してきている。愛玩動物、特に犬におけるフルオロキノロン耐性大腸菌の保菌状況が、17.0%と高く、蔓延していることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2009-04-02
更新日
-

文献情報

文献番号
200837003B
報告書区分
総合
研究課題名
薬剤耐性食中毒菌サーベイランスに関する研究
課題番号
H18-食品・一般-003
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 治雄(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 秋庭 正人((独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 安全性研究チーム)
  • 五十君 靜信(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
  • 浅井 鉄夫(農水省動物医薬品検査所 検査第二部 抗生物質製剤検査室)
  • 甲斐 明美(東京都健康安全研究センター 微生物部 食品微生物研究科)
  • 山口 正則(埼玉県衛生研究所 臨床微生物担当)
  • 泉谷 秀昌(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 田口 真澄(大阪府立公衆衛生研究所 感染症部 細菌課)
  • 田村 豊(酪農学園大学獣医学部 衛生・環境部門 獣医公衆衛生学教室)
  • 鮫島 俊哉(農水省動物医薬品検査所 検査第二部 抗生物質製剤検査室(現:農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所))
  • 石川 整(農水省動物医薬品検査所 検査第二部 抗生物質製剤検査室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安心・安全確保推進研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
農林サイドと厚生サイドの横の連携体制を通し、家畜、食材、患者から分離される食中毒細菌(サルモネラ、カンピロバクター、大腸菌、MRSA)の薬剤耐性状況を調査する体制を確立する。
研究方法
家畜,食品及び患者由来のサルモネラ,キャンピロバクターの分離菌株の血清型,生化学的性状,ファージ型を調査する。分離菌の遺伝型を分子疫学的手法により解析し、データーベース化する。
結果と考察
(1)病畜由来サルモネラ株において、フルオロキノロンに対する耐性株が認められた。下痢症患者からも同様にそれらに耐性の菌が分離され、治療に抵抗性を示す事例も観察された。家畜及び患者から分離されたフルオロキノロン耐性S.Typhimuriumは、MLVA解析の結果、同一クローン由来が示唆された。(2) サルモネラの染色体上に存在したAmpC型βラクタマーゼ遺伝子(blaCMY-2)が伝達性プラスミドに転移し、その後他の菌種に伝達され、また染色体に入り込む、そのような伝播様式で拡散していると示唆された。(3)フルオロキノロン剤(CPFX)と第3世代セフェム系薬剤(CTX)の両剤に対して耐性を示すサルモネラが下痢症患者由来株の中に2株見出された。臨床的に危惧されるケースがついに出現した。(4)肉用牛と肉用鶏から分離されたフルオロキノロン耐性C. jejuniの分離頻度は平均して各年30%前後であった。豚由来フルオロキノロン耐性C. coliの分離頻度は、2004年度から徐々に増加傾向にある。(5)ペット犬の糞便からフルオロキノロン耐性サルモネラが分離された。 ペット由来大腸菌の耐性は第3代セフェム剤14.3%、フルオロキノロン17.7%であった。(6)食肉(牛肉、鶏肉)から約1%にMRSAが検出された。
結論
病畜由来および下痢症患者からMLVA解析の結果、同一クローン由来が示唆されたフルオロキノロンに対する耐性サルモネラ株が分離された。肉用牛と肉用鶏から分離されたフルオロキノロン耐性C. jejuniの分離頻度は平均して各年30%前後、また豚由来フルオロキノロン耐性C. coliの分離頻度は、2004年度から徐々に増加傾向にある。今後の動向に注意が必要である。

公開日・更新日

公開日
2009-04-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200837003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
MLVAの解析からフルオロキノロン系剤耐性S.Typhimuriumは他の耐性菌とは異なるクローンで、単一クローンの進展であることが判明した。この型の菌が環境へ拡大し、そこへプラスミド由来であるESBL産生、AmpC型β-ラクタマーゼ産生遺伝子が伝達されると、容易に両剤に耐性な菌が生成され、伝播していくことが予想され、そのことが実験的にも証明された。
臨床的観点からの成果
小児におけるサルモネラ感染においてフルオロキノロン耐性菌の場合に治療に抵抗する症例が見られているので、臨床現場への耐性菌情報の提供を行った。また、第3世代、第4世代セフェム系薬剤とフルオロキノロン系剤の両剤に耐性である菌がついに出現してきたことを見いだした。
ガイドライン等の開発
食品安全委員会動物用医薬品(第106回)/肥料・飼料等(第30回)/微生物・ウイルス(第5回)合同専門調査会(薬剤耐性菌に関するWG)平成21年2月10日の「牛および豚に使用するフルオロキノロン系抗菌性物質の承認および審査に関わる薬剤耐性菌に関する食品健康影響評価について」の審議
その他行政的観点からの成果
サルモネラ、カンピロバクターの動物および患者由来フルオロキノロン耐性菌の最近の傾向として本研究班のデーターが参考にされた。
その他のインパクト
サルモネラ感染で、フルオロキノロン系剤に耐性な菌に感染した小児の事例があることが朝日新聞に取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
19件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
M. Morita, K. Mori, K. Tominaga, et al.
Characterization of lysine decarboxylase-negative strains of Salmonella enterica serovar Enteritidis disseminated in Japan.
FEMS Immunol. Med. Microbiol. , 46 , 381-385  (2006)
原著論文2
M. Taguchi, K. Seto, W. Yamazaki, et al.
CMY-2 β-lactamase-producing Salmonella enterica serovar Infantis isolated from poulrty in Japan.
Jpn. J. Infect. Dis. , 59 , 144-146  (2006)
原著論文3
M.Morita, K. Ito, K. Hirose, et al.
Development of a real-time PCR assay for detection of gyrA mutations associated with reduced susceptibility to ciprofloxacin in Salmonella enterica serovar Typhi and Paratyphi A.
Microbiol. Immunol. , 50 , 707-711  (2006)
原著論文4
Harada K., Asai T., Kojima A., et al.
Characterization of Macrolide-resistant Campylobacter coli isolates from Food-Produing Animals on Farms Across Japan during 2004.
J.Vet.Med.Sci. , 68 , 1109-1111  (2006)
原著論文5
Y. Matsumoto, H. Kitazume, M. Yamada, et al.
CTX-M-14 type β-lactamase producing Salmonella enterica serovar Enteritidis isolated from imported chicken meat.
Jpn. J. Infect. Dis. , 60 , 236-238  (2007)
原著論文6
S. Yamasaki, K. Hara, H. Izumiya, et al.
Lysine decarboxylase-negative Salmonella enterica serovar Enteritidis: Antibiotic susceptibility, phage and PFGE typing.
J. Vet. Med. Sci. , 69 , 813-818  (2007)
原著論文7
K. Kawagoe, H. Mine, T. Asai, et al.
Changes of multi-drug resistance pattern in Salmonella enterica subspecies enterica serovar typhimurium isolates from food-producing animals in Japan.
J. Vet. Med. Sci. , 69 , 1211-1213  (2007)
原著論文8
Asai, T., Harada, K., Ishihara, K., et al
Association of antimicrobial resistance in Campylobacter isolated from food-producing animals with antimicrobial use on farms.
Jpn. J. Infect. Dis. , 60 , 290-294  (2007)
原著論文9
M. Akiba, Y. Nakaoka, M. Kida, et al.
Changes in antimicrobial susceptibility in a population of Salmonella enterica serovar Dublin isolated from cattle in Japan from 1976 to 2005.
J. Antimicrob. Chemother. , 60 , 1235-1242  (2007)
原著論文10
Asai T., Ishihara K., Harada K., et al.
Long-term prevalence of Antimicrobial-Resistant Salmonella enterica subspecies enterica serovar Infantis in Broiler Chicken Industry in Japan.
Microbiol. Immunol. , 51 , 111-115  (2007)
原著論文11
Wataru Yamazaki-Matsune, Masumi Taguchi, Kazuko Seto, et al.
Development of a multiplex PCR assay for identification of Campylobacter coli, Campylobacter fetus, Campylobacter hyointestinalis subsp. hyointestinalis, Campylobacter jejuni, Campylobacter lari and Campylobacter upsaliensis.
J Med Microbiol , 56 , 1467-1473  (2007)
原著論文12
Y. Une, A. Sanbe, S. Suzuki, et al.
Salmonella enterica serotype Typhimurium infection causing mortality in Eurasian tree saparrows (Passer montanus) in Hokkaido.
Jpn. J. Infect. Dis. , 61 , 166-167  (2008)
原著論文13
T. Asai, K. Harada, A. Kojima, et al.
Phage type and antimicrobial susceptibility of Salmonella enterica serovar Enteritidis from food-producing animals in Japan between 1976-2004.
New Microbiol. , 31 , 555-559  (2008)
原著論文14
M. Akiba, T. Sameshima, I. Uchida and et al.
Antimicrobial resistance of Salmonella enterica serovar Typhimurium isolated from cattle in Japan.
Food Additives and Contaminants. , 25 , 1076-1079  (2008)
原著論文15
Igimi S., Okada Y., Ishiwa A., et al.
Antimicrobial resistance of Campylobacter: Prevelence and trends in Japan.
Food Addit Contam. , 25 (9) , 1080-1083  (2008)
原著論文16
藤尾公輔、 清水晃、 松村浩介、 他
市販食肉、ヒト、豚および鶏から分離された黄色ブドウ球菌の薬剤感受性
日本食品微生物学会雑誌 , 24 (2) , 100-106  (2007)
原著論文17
田村 豊
動物用抗菌薬の使用状況と耐性菌の現状-ヒトにいたる耐性菌の伝播経路-
小児科 , 48 (4) , 437-444  (2007)
原著論文18
泉谷秀昌
サルモネラ食中毒
化学療法の領域 , 24 (7) , 1009-1015  (2008)
原著論文19
秋庭正人
動物に対するキノロン系抗菌剤の使用と耐性菌選択との関連
動物用抗菌剤研究会報 , 30 , 29-33  (2008)
原著論文20
秋庭正人
わが国の牛群におけるSalmonella Dublin薬剤感受性の変化
畜産技術 , 643 , 6-10  (2008)

公開日・更新日

公開日
2013-05-27
更新日
-