老化促進ストレス刺激と生体防御反応に関する研究

文献情報

文献番号
199700547A
報告書区分
総括
研究課題名
老化促進ストレス刺激と生体防御反応に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
磯部 健一(国立療養所中部病院長寿医療研究センター老化機構研究部長)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川忠男(国立療養所中部病院長寿医療研究センター老化機構研究部免疫室長)
  • 祖父江元(名古屋大学医学部神経内科教授)
  • 中島泉(名古屋大学医学部免疫学講座教授)
  • 澤田誠(藤田学園保健衛生大病態生化学講座助教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトの老化は外界からの様々な刺激により促進され、それに対する生体側の防御反応の強弱が個人の寿命を決定すると考えられる。本研究はこの仮説を実証するために遺伝子から細胞さらに個体レベルを有機的に結びつけるための実験系を構築し、老化のしくみを遺伝子と環境ストレスの相関という視点から解明することを目的とする。放射線、紫外線あるいは薬剤によるストレス刺激はp53, p21、gadd等の遺伝子を活性化し、細胞をアポトーシスあるいは細胞周期ブロックによる増殖停止に導く、このことと老化との関連を検索する(磯部、長谷川)。また、環境ストレスとシグナル伝達系で、酸化・還元(レドックス)機序によって起動し修飾されるシグナル伝達のカスケードを解明する(中島)とともにそれに対する生体防御系を検索する(磯部)。個体レベルでは免疫系の機能におよぼす影響を検索する。すなわち、ストレス刺激とシグナル伝達系が免疫系の老化にどう結び付くかを解析する(磯部、中島)。さらに、神経系の老化とストレス応答を解析する。advanced glycation end products (AGEs)と神経細胞死の観点から(祖父江).また、ミクログリアが中枢神経系細胞におよぼす作用解析から(沢田)検索する。
研究方法
1、ストレス刺激と遺伝子発現:我々が新しくクローニングしたgadd34類似
two hybrid法にてこの遺伝子産物と結合する遺伝子のクローニングを行った(長谷川)。
細胞老化に伴い発現が上昇するp21/WAF1遺伝子のプロモーターをルシフェラーゼreporter遺伝子上流に組み込み、各種ストレス刺激による遺伝子発現をルシフェラーゼアッセイにて測定した。(磯部)。2、ストレスとシグナル伝達系、生体防御系: SーS結合を代替するSー重金属ーS結合により蛋白分子を架橋するHgCl2などの重金属塩や、SH基のニトロソ化の後生ずるSーS結合で分子を架橋するSNAPを、細胞あるいは細胞から分離したチロシンキナーゼなどの情報伝達分子に作用させて、その活性の変化を測定した。微生物感染ストレスモデルとしてマクロファージ系細胞の培養系にIFN、 LPSを加え、NOラジカル産生を測定し、SODの発現をノザンハイブリダイゼイションで、さらにMn-SODプロモーターをクローニングし、ルシフェラーゼ活性を測定した。3、ストレス刺激と免疫系の老化:p53遺伝子欠損マウス(p53-/-) (磯部)PKCa遺伝子をマウス受精卵に導入して選択的にT細胞にPKCaを高発現するトランスジェニックマウスの免疫系にあらわれる老化現象を解析した(中島)。4、ストレス刺激と神経系の老化:SDラットから後根神経節を摘出,コラーゲン・ゲルを用いたexplant cultureを行った.培養液にはglyoxalまたは3-DGを添加した.2時間~6日間培養後,抗AGE抗体で免疫組織染色し,CML・pentosidineの誘導を検討した(祖父江).脳内でのストレス状態のモデルとしてミクログリアをLPS, IFN, TPAなどで刺激したのち、IL-12p35, p40およびそのレセプターの発現を調べた。
結果と考察
1、ストレス刺激と遺伝子発現:我々のクローニングしたGadd34は薬剤の一つであるMMSによりmRNAレベルでの誘導が確認された。この遺伝子産物と結合する蛋白質のクローニングを行い、三つのクローンを得た。第一のトランスリンは染色体の転座部位の一本鎖DNAに結合する遺伝子であり、ストレス刺激におけるDNA傷害との関係が示唆された。もう一つはIKと呼ばれる2型組織適合抗原の発現を調節する因子と相同性のある遺伝子であった。第三はキネシンファミリーに属する物でストレス刺激における細胞分裂に関与している可能性がある(長谷川)。これらの遺伝子の機能を詳細に解析し、新しいストレス刺激情報伝達系を明らかにするとともに、老化との関連を検索していく予定である。p21遺伝子はp53遺伝子の下流で発現が上昇することが知られ、DNA傷害性ストレスと細胞周期停止が関連するが、我々は、ヒストンのアセチル化剤がp53非依存性にp21発現を上昇させ、細胞周期を停止させることを見い出した。ヒストンのアセチル化剤は細胞を老化の形態に導くことも見い出し、細胞老化とヒストンのアセチル化の関係を解析中である(磯部)。2、酸化ストレスの分子作用点の解析と生体防御系;c-Srcを高発現するNIH3T3細胞に適量のHgCl2やSNAPを作用させたところ、自己リン酸化と外部基質のリン酸化の両方に関してキナーゼ活性が増加した。免疫沈降させたc-Srcに適量のHgCl2やSNAPを作用させたところ、そのキナーゼ活性が増加した。ラジカルに対する生体防御系の検索でNO ラジカルはMn-SODのmRNA発現を上昇させることを見いだした。本年度はMn-SODのプロモーターをクローニングし、レポーター遺伝子に組み込み、マクロファージ株に遺伝子移入し、ルシフェラーゼ活性を測定する系を確立した。現在LPS投与で活性が上昇することを見いだしたところである。この詳細なメカニズムと老化との関連をを次年度以降検索する。3、ストレス刺激と免疫系の老化:老化の指標であるCD44highCD45RBlowCD4+(メモリー)T細胞の割合が4か月齢のp53(-/-)マウスにおいて同齢のp53(+/+)マウスに比べ顕著に増加していた。T細胞増殖能が4か月齢のp53(-/-)マウスにおいて同齢のp53(+/+)マウスに比べ低下していた。すなわち、p53(-/-)マウスは早期に免疫系の老化を示した(磯部)。PKCaトランスジェニックマウスにおける長期解析の結果、本マウス系では免疫系の加齢現象が早期に現われた。すなわち、正常C57BL/6マウスに比べ著しく早期に、T細胞におけるPKCaの発現レベルが増加し、抗原刺激に対するT細胞の増殖応答能とB細胞抗体産生能が低下した。また、ナイーブT細胞が減
ってメモリーT細胞の割合が増加した(中島)。p53が欠損した細胞はストレス刺激が加わっても、そのまま細胞周期が進行し、老化が加速されると考えられる。また、PKCaを過剰発現させたマウスはストレス刺激によりシグナル伝達系がより早く進行するか、あるいは、情報伝達系の破綻が老化を促進させるのか現時点では謎である。4、ストレス刺激と神経系の老化:カルボニルストレスであるglyoxalおよび3-DGにより,神経細胞に時間依存的・濃度依存的にCMLが誘導され,これはaminoguanidineで阻害された(祖父江).精製ミクログリアはIL-12p35, p40 mRNAを発現し、ストレス刺激により、活性型p70 IL-12ヘテロダイマーを産生することが明らかになった。一方、type 2型ミクログリアの株細胞であるRa2はp40のみを発現し、IL-12アンタゴニストとして作用するp80ホモダイマーを産生することがわかった。Mac1陽性の軽度活性型GFP恒常発現ミクログリアを脳内に移行させて長期生存させた場合、その活性型は1-3ヶ月程度ではER-MP抗原陽性の静止型には移行しないことがわかった(沢田)。
結論
1、老化促進ストレスにより誘導される新らしい遺伝子と、その情報伝達経路に関連する遺伝子を多数クローニングした。2、細胞老化促進物質としてヒストンのアセチル化剤を見い出し、p21発現制御を検索中である。3、酸化ストレスがシグナル伝達系を変化させることを見い出した。4、感染ストレスで放出されるNOラジカル等がMn-SODの遺伝子発現を増強させた。5、p53ノックアウトマウス、PKCa過剰発現マウスは免疫系の老化を促進させる可能性がある。6、カルボニルストレスは神経系を老化させる。7、ストレス刺激に応答し、ミクログリアは神経細胞に対し、toxic に、また保護的に働く。その分子レベルの解析が可能になった。

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