文献情報
文献番号
202120015A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV・エイズの早期治療実現に向けての研究
課題番号
21HB1003
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
谷口 俊文(国立大学法人千葉大学 医学部附属病院・感染制御部)
研究分担者(所属機関)
- 野田 龍也(公立大学法人奈良県立医科大学 医学部 公衆衛生学講座)
- 今橋 真弓(柳澤 真弓)(名古屋医療センター 臨床研究センター 感染・免疫研究部)
- 尾又 一実(国立国際医療研究センター 臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
11,540,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
世界各国では国連が提唱している90-90-90を達成するためにHIV感染者の治療をCD4細胞数の値に関わらず、すべての感染者を対象に開始することを提言している。日本の90−90−90を推計した論文ではHIV感染者の86%が診断されており、またその中の83%がARTによる治療中であるとしている。NDBを用いた抗HIV薬の解析では約25,500人がARTで治療を受けている。そこから逆算すると、約5,000人が診断されておらず、約5,400人が診断されているがARTによる治療を受けていないことになる。すなわち、約10,400人のプールから新規HIV感染者が生まれていることが想定される。
新規HIV感染者を減らすためにはHIVと診断された感染者をなるべく多くARTで治療すること(治療体制)が重要であるとされる。本研究ではHIV感染者をなるべく多くARTで治療する治療体制の構築のために、Rapid ARTの効果について基礎資料を作成することを目的とする。
新規HIV感染者を減らすためにはHIVと診断された感染者をなるべく多くARTで治療すること(治療体制)が重要であるとされる。本研究ではHIV感染者をなるべく多くARTで治療する治療体制の構築のために、Rapid ARTの効果について基礎資料を作成することを目的とする。
研究方法
1)Rapid ARTにより新規感染者やエイズ発症症例がどの程度減少するのかをシミュレーション・モデルにて検証
HIV感染症に対する早期治療(Rapid ART)の効果としてHIVが診断されているがARTによる治療を受けていない感染者に対する新規感染者減少およびエイズ発症減少を数理モデル作成のうえ推測する。
2)NDBから得られるデータに基づいた医療経済的な効果の算出
NDBから得られるHIV感染者のコホートで一人あたりの年間の総医療費などを算出する。またNDB上のHIV感染者のうち、エイズ指標疾患を発症している患者のコホート化する。(1)の数理モデルより得られたRapid ARTにより回避できた新規HIV感染者およびエイズ発症例の予測モデルと前年度までに算出した医療費により、Rapid ARTによる医療経済効果を推計する。
3)Rapid ART実現のための経済的実態調査
• HIVと診断されてから、治療開始までにかかる期間
• Rapid ARTを導入した場合、治療開始までにかかる治療費用
• 自費診療や助成制度利用のない保険診療などを利用して治療している感染者数の推計、(ⅰ)これら感染者が治療している場合に負担している費用の実態把握、(ⅱ)治療していない感染者数と感染させるリスクの推計
•海外で治療を受けていたが日本では治療を受けていないあるいは自費診療や助成制度利用のない保険診療などで治療している人の数の推計、(ⅰ)どうやって治療をしているのか実態調査(治療中断・自己輸入など)、(ⅱ)日本で治療している場合に負担する費用の実態把握
HIV感染症に対する早期治療(Rapid ART)の効果としてHIVが診断されているがARTによる治療を受けていない感染者に対する新規感染者減少およびエイズ発症減少を数理モデル作成のうえ推測する。
2)NDBから得られるデータに基づいた医療経済的な効果の算出
NDBから得られるHIV感染者のコホートで一人あたりの年間の総医療費などを算出する。またNDB上のHIV感染者のうち、エイズ指標疾患を発症している患者のコホート化する。(1)の数理モデルより得られたRapid ARTにより回避できた新規HIV感染者およびエイズ発症例の予測モデルと前年度までに算出した医療費により、Rapid ARTによる医療経済効果を推計する。
3)Rapid ART実現のための経済的実態調査
• HIVと診断されてから、治療開始までにかかる期間
• Rapid ARTを導入した場合、治療開始までにかかる治療費用
• 自費診療や助成制度利用のない保険診療などを利用して治療している感染者数の推計、(ⅰ)これら感染者が治療している場合に負担している費用の実態把握、(ⅱ)治療していない感染者数と感染させるリスクの推計
•海外で治療を受けていたが日本では治療を受けていないあるいは自費診療や助成制度利用のない保険診療などで治療している人の数の推計、(ⅰ)どうやって治療をしているのか実態調査(治療中断・自己輸入など)、(ⅱ)日本で治療している場合に負担する費用の実態把握
結果と考察
1)数理モデルの作成:逆算法(Back Calculation)を使用してRapid ARTによる新規感染者数の推計を行った。検査による捕獲率は現状のままとして加療率を変動させて推計した。加療率を0.81に設定した場合には現状と同程度、もしくは増加傾向であるが、Rapid ARTを導入して0.9に増えた場合には減少に転じる。すべてのHIV感染者を即治療導入とした加療率1の場合、大きく減少に転じるが、捕獲率が70~80%であるため、0とはならない。次にコンパートメント・モデルによる推測モデルも作成した。ARTが遅れてウイルス量が検出感度以下になるまで2年かかり、0.5ではRapid ART開始により半年で検出感度以下になるという推計の比較ではRapid ARTを2023年に実行したとして新規感染者数、感染者数累計ともに後者で大きく減少する。研究計画は順調に進んでおり、次年度は妥当性の評価などを行う。
2)NDBデータからエイズ発症者の解析:傷病名で抽出を試みているがまだ完了していない。またvalidationを取れるように治療などと突合させている。エイズに伴う医療費を計算する。抗HIV薬治療前後における医療費を計算して、エイズ発症者と非エイズ発症における医療費の差分の傾向を解析する。
3)Rapid ART実現のための経済的実態調査:名古屋医療センターに初診未治療で受診した患者434名を分析した。ART導入までの日数の中央値は42日、90%の患者は161日、半年未満で治療が開始されている。4級が取得不可で治療ができない患者は1.8%という結果であった。研究計画は順調に進行しており、次年度は海外での医療費負担の実態調査などを行う。
2)NDBデータからエイズ発症者の解析:傷病名で抽出を試みているがまだ完了していない。またvalidationを取れるように治療などと突合させている。エイズに伴う医療費を計算する。抗HIV薬治療前後における医療費を計算して、エイズ発症者と非エイズ発症における医療費の差分の傾向を解析する。
3)Rapid ART実現のための経済的実態調査:名古屋医療センターに初診未治療で受診した患者434名を分析した。ART導入までの日数の中央値は42日、90%の患者は161日、半年未満で治療が開始されている。4級が取得不可で治療ができない患者は1.8%という結果であった。研究計画は順調に進行しており、次年度は海外での医療費負担の実態調査などを行う。
結論
Rapid ARTを導入することにより加療率を向上させることができれば、新規感染者数が減少に転じることが数理モデルにより示された。エイズ発症者に関しては医療費が非エイズ発症者より多いことが見込まれる。これに関してはNDBのデータ解析を進める。公費の基準を満たさないために約1.8%の患者が治療を受けられない状況が判明した。これらの患者の影響を解析する。
公開日・更新日
公開日
2022-06-09
更新日
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