文献情報
文献番号
202120013A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ予防指針に基づく対策の推進のための研究
課題番号
21HB1001
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
松下 修三(熊本大学 ヒトレトロウイルス学共同研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 椎野 禎一郎(国立国際医療研究センター 臨床研究センター)
- 塚田 訓久(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
- 塩野 徳史(大阪青山大学 健康科学部 看護学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
9,460,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、平成30年1月18日に改定されたエイズ予防指針に基づき、陽性者を取り巻く課題に対する各種施策の効果を経年的に評価するとともに、一元的に進捗状況を把握し、課題抽出を行うことで、一貫したエイズ対策を推進するところにある。エイズ予防指針に基づく課題の一覧表を作成し、これまでの研究、事業、HIV感染症に関するガイドラインとの関連性を整理し、HIV感染者・エイズ患者を取り巻く課題に関わる様々な専門家との討議を通じて各種課題を解決の方策を議論する。令和3年度は、昨年度に引き続き「予防指針に基づく課題の一覧表」とHIV関連の研究事業の報告書の解析結果に基づき、以下の3課題に着目した研究を行った。即ち1)早期診断治療のための仕組み作り、2)エイズ発症例を含むLate Presenterに対する対策、3) PrEP導入を踏まえた日本におけるコンビネーションHIV予防の3課題である。
研究方法
第35回日本エイズ学会学術集会にてシンポジウムを企画し、予防指針にかかわる多くの専門家や当事者を集めて議論を深めた。AMED耐性動向班のHIV遺伝子配列を再分析し、コロナ禍における我が国のHIV-1伝播クラスタの変化をモニタリングした。これにより明らかとなったコミュニティの把握困難な層(hard-to-reach層)の心理的特徴を検討する手法「AIによるフリーテキスト解析」を開発した。エイズ予防指針における各種施策の進捗状況把握のため、自治体(都道府県)を対象としたモニタリング調査を行った。「正しい知識の普及啓発」に関するモニタリング方法の一環として、一般成人におけるPrEPやU=Uなどの認知度に関するインターネット調査を行った。
結果と考察
令和3年度の解析で、2020年の我が国のHIV-1伝播クラスタが、コロナ禍の影響を受けてこれまでとは違う傾向を示すことが判明した。感染伝播の大きなクラスタの減衰は、コロナ禍における検査の脆弱さによって、新規感染の検出が困難になっている可能性を危惧させた。一方、アウトブレイク例やlate presenterの多いクラスタが検出できた地域にばらつきがあることは、検査体制が打撃を受けた地域と検査機会が維持されている地域があることを反映した可能性がある。Late presenterの多いクラスタの特徴を、迅速なネットワーク解析のみで見いだせたことは、早期検査・感染予防の対象であるにもかかわらず、把握が困難なhard-to-reach層を見出す鍵となる可能性がある。こうした層への検査機会の提供について、マーケティング手法を応用して手がかりを得るための研究手法を検討した。エイズ予防指針に基づく施策に関して、都道府県を対象としたモニタリング調査を行った。各自治体の従来の取り組みは、コロナ禍により大きな影響を受けていた。各自治体の負担軽減のためには、先行する成功事例に関する情報共有や、自治体の枠を超えた連携体制の構築が有用である。「正しい知識の普及啓発」に関するモニタリングのため、一般成人を対象とした調査を行った。「U=U」の認知は低いままであったが、「PrEP」に関しては、リスク層には徐々に認知されるようになり、使用経験は1.3%(2020)と3.5%(2022)とわずかながら増加傾向を示した。HIV感染者の高齢化に対応し、医療・福祉・介護などの領域が連携した取り組みが期待されている。
結論
我が国のHIV-1伝播クラスタは、コロナ禍の影響を受けてこれまでとは違う傾向を見せた。拡大していた大きなクラスタの減少は、検査控えの症例の存在を危惧させた。一方、地域によってはアウトブレイク例やlate presenterの多いクラスタでの新規検出例が見いだされており、地域差が大きいことが示唆された。Late presenterの多いクラスタの特徴を、迅速なネットワーク解析で見いだせたことは、NGO等による把握が困難なhard-to-reach層を見出す鍵となる。エイズ予防指針に定められた各種施策に関する各自治体の取り組みは、コロナ禍に大きな影響を受けていたが、これを契機に開始されたあらたな取り組みには注目すべきものがある。各自治体の先行する成功事例に関する情報共有や、自治体の枠を超えた連携体制の構築が有用である。一般社会人の調査で、U=Uの浸透はいまだに低い、一方で、PrEP使用割合は、わずかながら増加していることが示唆された。U=UやPrEPの啓発に関しては、感染リスクの高い当事者やコミュニティの中から広げていくことが必要である。本調査を実施し、結果を当事者に還元、意見交換を行うことで、我が国が進むべきエイズ対策の方向性を明らかにし、次世代のエイズ予防指針の政策形成に貢献すると考えられる。
公開日・更新日
公開日
2022-06-09
更新日
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