石綿ばく露による健康障害リスクに関する疫学調査の開発研究

文献情報

文献番号
200836001A
報告書区分
総括
研究課題名
石綿ばく露による健康障害リスクに関する疫学調査の開発研究
課題番号
H18-労働・一般-002
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 謙(産業医科大学 産業生態科学研究所 環境疫学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 東 敏昭(産業医科大学 産業生態科学研究所 作業病態学研究室)
  • 大瀧 慈(広島大学原爆放射線医科学研究所計量生物研究分野)
  • 名取 雄司(医療法人社団ひらの亀戸ひまわり診療所)
  • 寶珠山 務(産業医科大学 産業生態科学研究所 環境疫学研究室)
  • 井手 玲子(産業医科大学 産業生態科学研究所 作業病態学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、わが国を含む先進諸国を中心に石綿関連疾患(ARD)の流行が社会問題化しており、将来長期に及ぶ健康被害が懸念されている。わが国で実施された将来予測は、最近の中皮腫死亡を将来に投影する出生コホート分析に基づいており、石綿使用の実態や経緯が考慮されていない。今後実施する将来予測に石綿使用の経緯を反映させる上で、石綿使用とARD死亡の基本的な関係を系統的に整理しておく必要があり、そのことを目的とした。
研究方法
利用可能なデータを有するすべての国について、最近の中皮腫死亡率を評価するため、1996-2005年における年齢調子済みの(年調)年間および期間死亡率(死亡数/百万人年)を算出した(年調期間死亡率をpMRと略す)。同期間におけるトレンドを評価するため、年調年間死亡率の年変化率(APCと略す)を算出した。石綿使用の歴史的パターンを評価するため、1人当たり石綿使用量(キロ/人年)とその変化分(△石綿使用量)を算出した。また、国段階の禁止措置も1つの指標とした。
結果と考察
禁止措置を導入した国々の石綿使用の減少速度は、導入しなかった国々の減少速度を2倍上回った。石綿使用の増加から減少の転換点は禁止措置よりも先行していることも判明した。1970-85年の石綿使用量の変化量は胸膜中皮腫の死亡に関する年変化率の優位な予測因子であった(説明率67%)。この結果に捕捉して、わが国における最近の中皮腫実態と石綿使用の歴史的経緯と比較検討し、わが国は胸膜中皮腫と全中皮腫について、死亡水準こそ世界中位であるものの、年調死亡率が統計的有意の上昇トレンドを示す世界で唯一つの国であった。わが国を含む数十の国で実施した禁止措置が、中皮腫トレンドに与える影響を検討した結果、禁止措置を含む石綿使用量の大幅削減がその後の疾病負担を減らす重要な予測因子であった。すなわち、国段階データに基づいて、使用禁止措置によって一定期間を経た後に中皮腫発生リスクの低減が期待できることを示すことができた点で意義がある。
結論
石綿使用量の変化がその後の疾病死亡の変化を予測したことから、石綿使用量を削減する国段階の介入は、禁止措置の導入を含め、アスベスト関連疾患の疾病負担を減ずるのに有効であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2009-06-23
更新日
-

文献情報

文献番号
200836001B
報告書区分
総合
研究課題名
石綿ばく露による健康障害リスクに関する疫学調査の開発研究
課題番号
H18-労働・一般-002
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 謙(産業医科大学 産業生態科学研究所 環境疫学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 東 敏昭(産業医科大学 産業生態科学研究所 作業病態学研究室)
  • 大瀧 慈(広島大学原爆放射線医科学研究所計量生物研究分野)
  • 名取 雄司(医療法人社団ひらの亀戸ひまわり診療所)
  • 寶珠山 務(産業医科大学 産業生態科学研究所 環境疫学研究室)
  • 井手 玲子(産業医科大学 産業生態科学研究所 作業病態学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2005年石綿使用工場の元従業員や周辺住民に中皮腫等石綿疾患患者が多発したとの報道以来、わが国で石綿疾患が大きな社会問題となった。本研究は石綿による健康障害リスクに関する疫学調査法について、国民的視点から既存知見を系統的にわかりやすく整理するとともに、国段階の対策評価に資する記述疫学指標および中皮腫の将来予測に関するわが国発の疫学調査法の開発を目指す。
研究方法
国民1人当たり石綿使用量を用いて各国の歴史的な石綿使用実態を記述し、国民レベルの曝露水準の代替指標に採用した。国際比較分析として、エンドポイントに年齢調整死亡率や同変化率を採用し、国段階指標どうしの相関係数を評価するエコロジカル分析を行った(単純相関分析)。より高次の統計解析モデルとして、同じ国段階指標に依拠しながらも「石綿曝露は、ある時点τまでは石綿消費量に比例するが、その時点以降は指数関数的に減少する」という仮定をおき、さらに「中皮腫患者における石綿曝露から中皮腫死亡までの期間の長さはガンマ分布に従う確立変数である」として、年次別1人当たり石綿使用量と中皮腫死亡に対する統計統計モデルを定式化した。
結果と考察
全世界で利用可能なデータを最大限活用した国際比較分析により、わが国は欧米に比べ、石綿使用・法規制・疾病流行の各側面について10-15年の遅れのあることが認められる。また、わが国は胸膜中皮腫と全中皮腫について、死亡水準こそ世界中位であるものの、年齢調整死亡率が統計的有意の上昇トレンドを示す世界で唯一つの国であった。1960年代の1人当たり石綿使用量が直近の中皮腫等石綿疾患の予測因子であり、さらにその変化量どうしの間に明瞭な相関が示されたことから、石綿使用の水準およびその変化割合が数十年後の疾病水準の予測因子になると考えられた。わが国の1960年代以降の使用量の減少速度は極めて緩徐であったことから、わが国の石綿疾患の流行が欧米に比べて長期化・蔓延化する懸念は強いと考察できる。
結論
現在の疾患水準が1965年の使用水準に対応していると想定すれば、わが国の中皮腫死亡の将来動向として、今後、現水準に比べ増加傾向に至ると考えることには妥当性があり、数十年単位の長期的な政策対応が必要になると考える。ただし、別のモデル解析では1965年以降に実際の使用量に比べた曝露量が減少するとの初期的知見も得られたことから、今後数年間の関連疾病の動向を詳細に注視する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2009-06-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200836001C