健診施設を活用したHIV検査体制を構築し検査機会の拡大と知識の普及に挑む研究

文献情報

文献番号
202120007A
報告書区分
総括
研究課題名
健診施設を活用したHIV検査体制を構築し検査機会の拡大と知識の普及に挑む研究
課題番号
20HB1003
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
川畑 拓也(地方独立行政法人大阪健康安全基盤研究所 微生物部ウイルス課)
研究分担者(所属機関)
  • 森 治代(地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 微生物部 ウイルス課)
  • 駒野 淳(大阪医科薬科大学 薬学部)
  • 本村 和嗣(地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 公衆衛生部)
  • 阪野 文哉(大阪健康安全基盤研究所 微生物部ウイルス課)
  • 渡邊 大(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センターエイズ先端医療研究部)
  • 大森 亮介(北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
15,380,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では、症状が出て初めて感染が判明するHIV症例が毎年約3割を占め、そのうち30〜59歳の就労世代は約7割以上にのぼる。この事はHIV対策の軸である保健所の無料匿名HIV検査が就労世代にとって利用しにくく、早期発見・治療による感染拡大の阻止と発症の防止の機会が失われていることを示唆している。
本研究では、結果の秘匿が担保された無料HIV・梅毒検査(以下HIV等検査)の受検環境を健診施設に整備する方法の確立と、健診受診者に配布する検査案内パンフレットを利用した啓発によるHIV感染症・エイズの最新知識の普及、健診機会のHIV検査を通じて潜在的な感染者を発見するための費用対効果の評価を行う。
研究方法
1.健診施設におけるHIV等検査提供の実践
沖縄県那覇市の協力健診施設にて令和3年8月から翌年2月末までHIV等検査を提供した。
2.健診施設におけるHIV検査陽性率推計のためのMSM向けHIV検査の提供
男性と性交する男性(MSM)のうち、HIV検査を利用する者の陽性率を推定する目的で、令和3年8月23日から9月30日までと、11月15日から12月18日までの間、クリニックを窓口としてMSM向けにHIV検査を提供した。
3.健診施設におけるHIV等検査利用者集団のHIV感染リスク評価
健診施設におけるHIV検査受検者とクリニックにおけるMSM向けHIV検査受検者、それぞれのアンケート調査結果を比較することで、健診施設におけるHIV検査受検者の相対的なHIV感染リスクを推定した。
4.HIV知識習得資材の内容と習得度を測るアンケート調査質問文の検討
健診機会におけるHIVに関する情報の提供が、HIVに対する知識習得にどの程度影響するかを正確に検討するため、情報提供の内容とその評価方法を見直した。
5.関西在住MSMが感染した梅毒トレポネーマ亜種エンデミカム(TEN)の症例シリーズにおける検討
我々が国内で初めて検出したTENは、世界的にもこれまで十分に検討・報告されていない。べジェル非流行地の臨床現場においてTEN感染症を早期に疑うため、あるいはどのような症例をTENのサーベイランス対象とするかを決定するために、既報の5例のTEN感染症の詳細な臨床像の解析を実施した。
結果と考察
1.協力健診施設における期間中の総受診者11,603名のうちHIV等検査の案内パンフレットを受け取った者は8,094名、受検者は750名(9.3%)であった。沖縄県では休止していた保健所HIV検査を11月中旬に再開し、12月末までに60名が受検した。一方、協力健診施設では同期間に311名が受検した。
2.MSMの受検者数は361名で、HIV陽性者は6名、梅毒陽性者は86名、陽性率はそれぞれ1.7%、23.8%であった。
3.令和元年12月の1ヶ月間に協力健診施設でHIV等検査受検者241名にアンケート調査への協力を依頼し、190名(男性90名、女性100名)から回答を得た。また、令和2年と3年にクリニックにおいてHIV検査を受検したMSM 358名に協力を依頼し、344名から回答を得た。両者を比較・解析した結果、アンケート調査におけるHIV感染リスクに関する設問の回答に差が認められ、その差は回答者の年齢により異なった。また、HIV検査の受検頻度や動機から、ハイリスク行動の頻度もしくは自覚に差がある事が示唆された。
4.HIVの知識の習得度を測るアンケート調査の質問文を見直した。また、知識提供のためのHIV等検査案内パンフレットを改善した。
5. TEN感染症は梅毒ハイリスク者であるMSMを中心に発症し、肉眼所見・症状・検査所見・治療成績ともに梅毒によく一致しており、臨床像からTEN感染症を梅毒と鑑別することは非常に困難であることが示唆された。また、陰部に初期病変とみられる皮膚粘膜病変が高頻度にみとめられ、性的に活発なMSMに発症していることと合わせ、性的接触による感染が強く疑われた。
結論
1.健診施設におけるHIV検査提供は、感染症流行時に保健所検査を補完・代替可能と示唆された。
2.MSM向けHIV検査を診療所で実施し、HIV陽性率を推計する資料を得た。
3.健診施設受診者とMSM向け検査受検者の比較において、HIV感染リスクに差が認められ、その差は回答者の年齢により異なった。また受検頻度や動機から、ハイリスク行動の頻度もしくは自覚に差がある事が示唆された。
4.健診に伴う資材配布によるHIV関連知識の提供が理解度へどのような影響を与えるかについての調査研究を、より確実に解析できる準備を進めた。
5.べジェル非流行地域におけるTEN感染症は、梅毒ハイリスク者に梅毒と同様の病像を呈し、性感染が示唆され、臨床像での鑑別は困難である。分子疫学的サーベイランス体制の構築とTPAとの鑑別を容易にする検査系の確立が重要である。

公開日・更新日

公開日
2022-06-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-06-22
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202120007Z