「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について」の改定に資する研究

文献情報

文献番号
202119012A
報告書区分
総括
研究課題名
「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について」の改定に資する研究
課題番号
20HA1009
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 隆(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
  • 伊豫田 淳(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 岡部 信彦(川崎市健康福祉局 川崎市健康安全研究所)
  • 宮入 烈(浜松医科大学 小児科学講座)
  • 小林 徹(国立成育医療研究センター データサイエンス部門)
  • 明神 翔太(国立成育医療研究センター 感染症科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
6,260,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli; EHEC)に感染した患者および無症状病原体保有者に対する便検査の実施状況から、「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について(平成11年3月30日付け健医感発第43号厚生省保健医療局結核感染症課長通知)」での菌陰性化判定が困難な長期保菌例や陰性化確認後の二次感染例の詳細な疫学を明らかにし、このような事例の要因となる臨床的・微生物学的な特性を検討することである。このうえで「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について」の改訂に係るエビデンスを創出することである。
研究方法
本研究では令和3年度までに以下の研究を進めてきた。
① EHECの排菌期間に関する日本語文献の先行研究調査と海外文献を含めたシステマティックレビュー。②国内のEHEC保菌者に対する陰性確認、就業制限に関する実態調査 ③ 国外におけるEHEC保菌者に対する公衆衛生上の対応に関する調査 ④長期排菌に関連した微生物学的特性を明らかにするための菌株解析を行った。
結果と考察
① EHECの排菌期間に関する日本語文献の先行研究調査から、排菌状態の確認方法について国内で見解のずれがあることが確認された。ナラティブレビューでは排菌期間は約2〜3週で、小児では排菌期間が延長することが判明している。しかしエビデンスを網羅的にまとめた報告は存在しないため、一定の見解を示すことが困難な状況である。医療系の3大主要データベース(Medline, Cochrane Library, EMBASE)を用いての文献検索を行い、2596件の文献を抽出した。これらの文献の抄録を2名以上の研究者が独立して確認し、選択基準を満たし、除外基準に該当しない318件を二次スクリーニング対象として抽出し検討中である。
② 全国保健所に対して、「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について」の通知を用いての腸管出血性大腸菌保菌者の排菌陰性確認における実態調査を行った。92%の保健所において発生届が出た者全員に対して陰性確認が行われており、66%で発生届が出た者全員に就業制限の指導が行われていた。陰性化確認困難例を37%の保健所が経験していた。陰性化確認困難例のほとんどが長期排菌例に対する対応に関してであり、排菌期間は1ヶ月から数ヶ月に及んだ。
③腸管出血性大腸菌(EHEC)保菌者に対する国外における公衆衛生上の対応に関して調査した。調査対象国はアメリカ・イギリス・フランス・ドイツ・カナダ・イタリア・韓国・台湾・スウェーデン・アルゼンチン・オーストラリアの11カ国とし、各国の行政ホームページ・公的文書・各種ガイドラインなどを参照した。患者・無症状病原体保有者それぞれの、排菌陰性確認の必要性・その方法・小児(未就学児・就学児)への対応・食品取り扱い業者への対応・医療従事者への対応・除菌の考え方などの情報を調査した。EHEC保菌者の届出は殆どの国で必須だが、フランスやアルゼンチンなどの一部の国ではHUS症例のみをサーベイランス対象にしている国があった。実際の排菌陰性確認に際して使用しないといけない検査と、実施することができる検査方法の区別が今回の調査のみでは判然としなかったが、便培養と毒素PCR検査を組み合わせた検査方法が主流のようだった。陰性化確認の方法の細かい内容は国ごとにわずかな相違はあるものの、我が国の運用が他国と大きく異なるわけではない印象であった。また、未就学児・食品取り扱い業者などハイリスク者への対応は概ね各国同様であった。ハイリスクでない無症候性病原体保有者は就業制限や就学・通園停止などの社会的隔離措置を不要としている国があった。
④ 国立感染症研究所を中心に、同一患者から長期間排菌される同一血清型の腸管出血性大腸菌(EHEC)について、その細菌学的特性を明らかにするため、全ゲノム配列解析を実施し、同一患者から分離される菌株間の相同性を解析した。その結果、大腸菌のストレス耐性をコントロールするrpoS遺伝子上の変異、プラスミドや染色体上の病原性遺伝子群の脱落、志賀毒素遺伝子(stx)を運ぶファージDNAの入れ替わりなどが観察されたことから、長期間の排菌事例においてはPCR等による病原性遺伝子の有無についても詳細に解析することが重要であると考えられた。また、全国の地方衛生研究所または保健所の担当者から陰性確認手法について情報収集を行った。その結果、多くの施設ではPCRによるstxの検出によってEHECの陰性確認を実施していた。
結論
国内で実施されている陰性化確認方法は国際的な比較からも標準的であったが、一部の長期排菌者の隔離解除にあたってリスク層別化と抗菌薬による陰性化確認方法の検証が必要であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202119012Z