文献情報
文献番号
202119007A
報告書区分
総括
研究課題名
地域における感染症対策に係るネットワークの標準モデルを検証・推進するための研究
課題番号
20HA1001
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
宮入 烈(浜松医科大学 小児科学講座)
研究分担者(所属機関)
- 笠井 正志(地方独立行政法人 長野県立こども病院 総合小児科)
- 宇田 和宏(東京都立小児総合医療センター 感染症科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
8,885,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
2016 年に日本政府によって薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016-2020)が策定され、その一環として小児外来患者に対しても様々な抗菌薬適正使用対策に向けての活動が行われている。本研究の目的は、①これまでのAMR対策の評価を行い、②地域において継続可能な対策を検討し、③適正使用の評価指標を構築することである。
研究方法
上記の目的を達成するために、以下の検討を行った。①ナショナルデータベースを用いた本邦における小児の内服抗菌薬の使用実態に関する研究, ② 夜間急患センターを中心とした地域感染対策ネットワークの構築, ③ 適正使用の評価指標を構築するためのツールの開発を継続し微生物診断検査調査を開始した。
結果と考察
①AMR 対策アクションプランの策定前と策定後の小児の全国の経口抗菌薬使用量の変化を詳細に評価した。抗菌薬使用量は年齢によって異なり、8 歳以下の患者では使用量がアクションプラン導入後に減少し、15 歳以上の患者では増加した。また病院、診療所ともに、2016 年以降は、抗菌薬の処方は減少する傾向にあったが病院の処方がより低下した。小児外来経口抗菌薬全体の35%が耳鼻科医院で処方され、8%が皮膚科医院で処方されていることが明らかになった。両診療科医院からの抗菌薬処方は 2011 年から 2018 年にかけて増加する傾向にあった。今後これらの年齢層、領域も対象とした施策が望まれる。更に2018年4月から政策として導入された「小児抗菌薬適正使用支援加算(以下、ASP加算)」の導入頻度を調査したところASP加算の導入群で、抗菌薬処方の17.8%の減少が見られた、一方で、入院率、時間外受診については増加しなかった。ASP加算は比較的安全に抗菌薬適正使用を推進する政策となりうることが示唆された。
② 急病センター における抗菌薬適正使用に着目し取り組みを続けている。令和3年度は以下3つに取り組んだ。1つ目は兵庫県内3施設に加え全国の急病センター5施設をコア施設として2016年4月から2019年12月の抗菌薬処方動向を調査した。小児への外来抗菌薬処方率は全施設で低下し4〜9%に至ったが、第3世代セファロスポリン系抗菌薬処方率の施設間差と急病センターにおける成人への抗菌薬処方率が今後の課題となることが示唆された。2つ目は調査する抗菌薬及び診療科を変更した。神戸市ではそれ以外の抗菌薬の処方動向、姫路市では耳鼻咽喉科における抗菌薬処方動向調査に注目した。神戸のAmoxicillin indexは53.3%であったが、そのうち適正に使用されたのは32.3%であり狭域抗菌薬の適正使用が課題と考えた。耳鼻咽喉科では第3世代セファロスポリン系からアモキシシリンへの処方選択変化を認め、今後要因について検討していく。3つ目は神戸市こども家庭局と協力して行っている市民教育モデルの検証である。2021年4月から乳児健診案内に保護者に対する抗菌薬適正使用に関する意識調査を同封し583件の回答を得た。1歳6か月まで抗菌薬を処方されたと63%が回答し、全体の7%が医師に抗菌薬処方を希望したことがあると回答した。抗菌薬に関する知識については「抗生物質がウイルスを減らすと思う」と48%が回答し、「抗生物質が風邪症状を治すと思う」と30%が回答した。今後は4か月・9か月健診に同封したリーフレットの効果を検証していく。
なお、複数地域の急患センターにおける抗菌薬処方状況を統一した方法で簡易に集計するためのツールの開発のために、研究協力機関の生データを使用しプロトタイプを構築した。一方で救急センターにおけるレセプト情報から抗菌薬処方データの抽出が困難であることが判明した。AMRCRCで開発中のシステムとの競合もあり今後はシステム統合に向けて調整を予定する。
③ 薬剤耐性菌の検出割合と抗菌薬処方量には相関があることが従来報告されているが、他の感染対策や予防接種の影響なども関係する事項である。菌種や耐性機構ごとにその相関関係は異なることが推定され、地域レベルで菌株の遺伝子情報を解析しAMR対策の主軸とすべき対応について検討を開始した。
② 急病センター における抗菌薬適正使用に着目し取り組みを続けている。令和3年度は以下3つに取り組んだ。1つ目は兵庫県内3施設に加え全国の急病センター5施設をコア施設として2016年4月から2019年12月の抗菌薬処方動向を調査した。小児への外来抗菌薬処方率は全施設で低下し4〜9%に至ったが、第3世代セファロスポリン系抗菌薬処方率の施設間差と急病センターにおける成人への抗菌薬処方率が今後の課題となることが示唆された。2つ目は調査する抗菌薬及び診療科を変更した。神戸市ではそれ以外の抗菌薬の処方動向、姫路市では耳鼻咽喉科における抗菌薬処方動向調査に注目した。神戸のAmoxicillin indexは53.3%であったが、そのうち適正に使用されたのは32.3%であり狭域抗菌薬の適正使用が課題と考えた。耳鼻咽喉科では第3世代セファロスポリン系からアモキシシリンへの処方選択変化を認め、今後要因について検討していく。3つ目は神戸市こども家庭局と協力して行っている市民教育モデルの検証である。2021年4月から乳児健診案内に保護者に対する抗菌薬適正使用に関する意識調査を同封し583件の回答を得た。1歳6か月まで抗菌薬を処方されたと63%が回答し、全体の7%が医師に抗菌薬処方を希望したことがあると回答した。抗菌薬に関する知識については「抗生物質がウイルスを減らすと思う」と48%が回答し、「抗生物質が風邪症状を治すと思う」と30%が回答した。今後は4か月・9か月健診に同封したリーフレットの効果を検証していく。
なお、複数地域の急患センターにおける抗菌薬処方状況を統一した方法で簡易に集計するためのツールの開発のために、研究協力機関の生データを使用しプロトタイプを構築した。一方で救急センターにおけるレセプト情報から抗菌薬処方データの抽出が困難であることが判明した。AMRCRCで開発中のシステムとの競合もあり今後はシステム統合に向けて調整を予定する。
③ 薬剤耐性菌の検出割合と抗菌薬処方量には相関があることが従来報告されているが、他の感染対策や予防接種の影響なども関係する事項である。菌種や耐性機構ごとにその相関関係は異なることが推定され、地域レベルで菌株の遺伝子情報を解析しAMR対策の主軸とすべき対応について検討を開始した。
結論
AMRアクションプランにより小児抗菌薬適正使用に進展がみられたが、小児科以外の診療科への展開が必要であることが明らかになった。地域における対策推進には行政と一体となった対策が可能であり、いくつかのモデルが構築された。薬剤耐性菌の減少や感染症予後にに寄与する効果的な対策についての更なる検討が必要である。
公開日・更新日
公開日
2023-12-27
更新日
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