プログラム化された細胞死と老化の関連に関する研究

文献情報

文献番号
199700544A
報告書区分
総括
研究課題名
プログラム化された細胞死と老化の関連に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
丸山 征郎(鹿児島大学医学部臨床検査医学)
研究分担者(所属機関)
  • 清野進(千葉大学医学部高次機能制御研究センター発達生理分野)
  • 宮園浩平((財)癌研究会癌研究所生化学部)
  • 松本昌泰(大阪大学医学部第一内科)
  • 白瀧博通(大阪大学医学部分子生理化学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
細胞死は偶発的細胞死である壊死とプログラム化された細胞死であるアポトーシスに分けられる。今回のプロジェクトではアポトーシスと老化、あるいは臓器不全との関係を臓器・組織、細胞、分子の各階層毎に研究する事を目的とした。各論的には、1.内皮細胞のテロメラーゼの活性と細胞分裂の関係、2.膵臓β細胞のアポトーシスとKATPチャネル活性Kir6.2の関係、3.脳虚血後のアポトーシスにおけるBcl-2の役割、4.Fas、TNF受容体などアポトーシスに関わる膜蛋白の細胞内ソーティングの分子機構、特に低分子G蛋白関連分子の関与、5.アポトーシスにも関わるTGFβのシグナリング、などを研究して、アポトーシスの分子細胞機構にアプローチした。
研究方法
1.HUVECはヒト臍帯静脈より得た。この細胞にSV-40 Ori(-)をトランスフェクトして不死化細胞株HUVE SV01を得た。これらとマウスヘマンジオーマ細胞株(オクラホマ大Owen博士より)、鼻粘膜由来の血管内皮細胞について、ジゴキシゲニン化TRAP法でテロメラーゼ活性を調べた。2.膵臓β細胞にKATPチャネルKir6.2の変異型を過剰発現したトランスジェニックマウスを作成した。3.BCL-2過剰発現マウスの両側頚動脈を一過性に結紮した後再開通させ、経時的に屠殺して、脳切片を得た。これらに標本について神経細胞死を評価した。4.シンタキシンまたはMunc18のアフィニティカラムを作成し、ラット大脳細胞画分をかけて、両蛋白に結合する蛋白を得た。5.Smad2、3のcDNAをTGF-β受容体のcDNAなどとともにCOS細胞に導入して、免疫沈降とイムノブロッティング法などで、蛋白質のリン酸化、蛋白間の結合などを調べた。
結果と考察
結果:1.正常の血管内皮細胞にはテロメラーゼ活性はなかったが、ヒト臍帯静脈由来の内皮細胞(HUVEC)には存在した。しかしHUVECをSV-40をトランスフェクトして得た不死化細胞株HUVE-SV01にはテロメラーゼ活性は検出し得なかった。マウスヘマンジオーマ細胞にはテロメラーゼ活性が検出された。2.異常KATPチャネルKir6.2を発現させたトランスジェニックマウスは生後4週目ごろから高血糖となり、インスリン分泌も傷害されていた。このマウスの膵β細胞はアポトーシスで細胞死を起こした。3.Bcl-2を過剰発現させたトランスジェニックマウスに一過性前脳虚血を作成し、再潅流させた場合には、コントロールに比して細胞死が抑制された。4.Fas、TNF受容体などアポトーシス関連分子の細胞内輸送に低分子G蛋白Rabが重要な役割を果たしており、それらの制御系蛋白Tomosynをクローニングした。5.TGFβのシグナリングにはSmadのうちSmad2、3、4が大きな役割を果たすことが明らかになった。考察:まず正常の血管内皮細胞にはテロメラーゼ活性は検出されないものと考えられた。HUVECに検出されたのは、この細胞の由来が新生児由来であるためであろうと推察された。ヘマンジオーマ細胞にテロメラーゼ活性が検出されたことから、この細胞の不死化にテロメラーゼが関係しているものと考えられる。HUVE-SV01で強い分裂能にも拘らずテロメラーゼ活性が無かったことは、おそらくこの細胞の場合、TagがP53と結合して分裂が促進されているためと考えられる。各種細胞のアポトーシスにはBCL-2が防御的に作用することが解っているが、今回のBCL-2過剰発現マウスが一過性脳虚血に対して神経細胞アポトーシスに抵抗性であったことから、虚血後の脳神経細胞死はアポトーシスであり、これに対してもBCL-2は抑制的に作用するものと推定された。膵臓β細胞の場合にはKATPチ
ャネルがアポトーシスに対し防御的に働いているものと考えられる。アポトーシスには受容体を介するものとそうでないものがあるが、受容体を介するものにはFas/Fas ligand system,TNF/TNF receptor system などが関係することが判明している。Fas,TNF receptor などはいわゆるdeath domain を有した受容体であるが、これらが細胞膜上にソーティングされる分子機構にSNARE系が関係し、これはあらたにクローニングした蛋白Tomosynによって制御されているものと考えられる。これらのdeath domain を持った受容体からのシグナル系以外にTGFβからのシグナルもある種の細胞にアポトーシスを誘導するが、そのシグナルにはSmad2、3、4が関係する。DIAP-1はTNFαによるアポトーシスを制御することが判明しているが、この蛋白は一部TGFβ系ともクロストークする可能性が示唆された。SmadファミリーやDIAP-1などの発現の違いによって細胞に対するTGFβのアポトーシス誘導作用は変わるものと考えられる。
結論
血管内皮細胞の場合にもその細胞分裂にはテロメラーゼが重要な役割を果たしている。この酵素の活性低下はアポトーシスにつながる。膵β細胞においてはKir6.1がインスリンの分泌以外にも細胞防御的に働いていることが判明した。脳虚血-再潅流の際の神経細胞死はアポトーシスであり、BCL-2が防御的に働く。TGFβもアポトーシスに関係するが、このシグナル伝達にはSmad2、3、4が関係する。Fas,TNFαなどの細胞表面へのソーティングを制御する分子Tomosynをクローニングした。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)