医療観察法における専門的医療の向上と普及に資する研究

文献情報

文献番号
202118043A
報告書区分
総括
研究課題名
医療観察法における専門的医療の向上と普及に資する研究
課題番号
21GC1012
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
平林 直次(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 第二精神診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 大鶴 卓(独立行政法人国立病院機構 琉球病院)
  • 村杉 謙次(独立行政法人国立病院機構 小諸高原病院)
  • 壁屋 康洋(独立行政法人国立病院機構 榊原病院)
  • 五十嵐 禎人(国立大学法人 千葉大学)
  • 岡田 幸之(国立大学法人 東京医科歯科大学)
  • 河野 稔明(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター)
  • 竹田 康二(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター)
  • 今村 扶美(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
7,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の主たる目的は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(以下、医療観察法)の対象者全体を類型化し、それぞれに応じた処遇のあり方や転帰・予後を明らかにすること、喫緊の課題である複雑事例に関する調査や、治療・処遇方法を開発することである。
研究方法
8つの分担研究班を編成し、各班の役割分担の明確化および連携のため2回の班会議を開催した。「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(2021年3月23日)」に従って、適宜、倫理委員会へ申請し、倫理委員会の承認9件(付議不要2件を含む)を得て分担研究班ごとに研究を進めた。研究成果は研究報告書にまとめた。
結果と考察
対象者の類型化に応じた治療や処遇を促進するため、研究参加辞退の申し出があった者を除く全数データを用いること、利用するデータの内容および分析方法を決定した。利活用研究事業事務局からのデータ提供を受け次第、類型化を実施する準備を整えた(データ提供を受け2022年4月末現在、類型化案を作成した)。
全国31の指定入院医療機関と協働し、法務省保護局および保護観察所の協力を得て予後調査を実施した。近年の重大な他害行為の累積発生率は1.2%/3年であった。指定入院医療機関退院後、処遇終了までの約3年間で43.9%の対象者が一度は精神保健福祉法入院を経験していた。
入院複雑事例では頻回/長期行動制限の実施率が高く、頻回/長期行動制限は、医療観察法処遇終了に引き続く精神保健福祉法入院(処遇終了-入院)と関連していた。頻回/長期行動制限を受け、最終的には「処遇終了-入院となった対象者」と「通院処遇へ移行した対象者」について、共通評価項目を比較したところ、両者は初回入院継続申請時には差を認めないものの、後者では多くの項目で改善が得られたのに対し、前者では改善に乏しかった。処遇終了-入院となる対象者を含め、入院複雑事例の退院促進のために、転院、SDM with CF (shared decision making with case formulation)の導入、コンサルテーションなど、施設を超えた治療促進の取り組みの効果が示唆され、臨床での定着促進のための手法や各種ツールの開発を行った。
全国の675の指定通院医療機関に調査票を送付し通院複雑事例の実態を調査した。381機関(57.9%)から回答を得た。調査該当事例54事例(42機関、11.0%)を回収した。解析の結果、第1群「処遇期間3年を超える事例」と「6か月以上の医療保護入院する事例」、第2群「物質使用の事例」と「逮捕・拘留されるような問題行動の事例」、第3群「再入院の事例」に類型化される可能性が示された。通院処遇終了後5年間の予後調査を見ると、重大な再他害行為の発生は低く抑えられていた(90例中1例)。通院処遇終了後、多くは精神保健福祉法の通院医療を継続しており、処遇終了後も通院処遇中の医療・支援体制が維持されていると考えられた。
処遇終了の審判時に医療観察法52条鑑定を実施した経験を持つ入院医療機関は22施設中(回収率66.7%)5施設であり、実施率は低値であった。
医療観察法にかかる精神鑑定の手法および鑑定書書式について検討した。鑑定書の要点として「機序」と「診立て」を記載すること、その際には鑑定入院医療とその後の医療観察法処遇の連続性を重視しケースフォーミュレーション、共通評価項目を用いる方針とした。
結論
医療観察法による医療は、統合失調症を想定したガイドラインに基づいて実施されるが、対象者の診断は均一ではなく、診断を含む対象者の類型化に応じた処遇・治療が求められている。本研究により示された類型化、および類型化に応じた治療や処遇を基にガイドラインの改訂を検討する必要がある。
大多数の対象者は、入院後予後調査や処遇終了後の追跡調査によると、再他害行為率、精神保健福祉法入院率、再入院率などの低さから良好な経過を辿っていることが確認された。
入院複雑事例、通院複雑事例、処遇終了後複雑事例、それぞれの異同や特徴を明らかにし、適切な治療や処遇の開発が必要である。入院複雑事例の退院促進のためには、施設を超えた治療促進の試みを活発化させる必要がある。
入院複雑事例では共通評価項目の多くの項目で改善が見られず、処遇終了と同時に精神保健福祉法入院となる群が確認された。処遇終了判断にあたって52条鑑定の実施率は低く、指定入院医療機関から独立した52条鑑定の実施促進や処遇終了判断の明確化が求められる。

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202118043Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,500,000円
(2)補助金確定額
9,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,479,856円
人件費・謝金 493,152円
旅費 12,760円
その他 3,322,233円
間接経費 2,192,000円
合計 9,500,001円

備考

備考
収入の「(2)補助金確定額」に対し、支出の合計が1円多く支出が生じた。預金利息(1円)にて充当した。

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
-