精神保健医療福祉施設におけるトラウマ(心的外傷)への対応の実態把握と指針開発のための研究

文献情報

文献番号
202118026A
報告書区分
総括
研究課題名
精神保健医療福祉施設におけるトラウマ(心的外傷)への対応の実態把握と指針開発のための研究
課題番号
20GC1021
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
西 大輔(東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 宮本 有紀(東京大学大学院 医学系研究科 健康科学・看護学専攻 精神看護学分野)
  • 神庭 重信(日本うつ病センター)
  • 竹島 正(大正大学 地域構想研究所)
  • 亀岡 智美(兵庫県こころのケアセンター)
  • 臼田 謙太郎(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 公共精神健康医療研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
4,985,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
子ども期の逆境体験(ACEs)の頻度は高く、米国では研究参加者の52.1%が18歳以前に1つ以上の、6.2%は4つ以上のACEsを経験しており、4つ以上のACEsを体験している人はACEsがない人に比べて非常に多くの精神・身体疾患の発症リスクが増大することが示されている。
ACEsの頻度の高さと影響の大きさが明らかになったこと等から、近年「トラウマインフォームドケア(TIC)」が注目されている。TICはPTSDに特化した治療ではなく、ACEsのようなトラウマ体験の影響を理解し、当事者がトラウマを体験したことが明らかではなくともその可能性を念頭に置き、それを踏まえた対応を通常の医療やサービスの中に組み込んでいくことである。TICは患者の症状緩和や支援者の燃えつきを予防する可能性がJAMAでも指摘され、既にTICのための手引きも出版されているが、わが国においてTICの実践に向けた取り組みは進んでいるとは言えない。
本研究では、精神科医療機関をはじめとする支援機関において、支援者が潜在的なトラウマ体験者にどのように対応しているかについて実態を把握するとともに、TICの実践・普及のために有用な指針および研修を作成しその有効性を検討することを目的とする。
研究方法
1.精神保健福祉センター・保健所が活用可能な研修資材の作成・検討
TIC動画研修の一部を公開するとともに、提供可能な資材を作成した。
また、昨年度得られた知見をもとに、精神保健福祉センターとの意見交換を行った。全国精神保健福祉連絡協議会主催の研修会に研究代表者、分担研究者が講師として参加した。
2.看護職員に対するITC研修の有効性の検討
ある1つの精神科医療機関の看護職員を対象として、介入群にTICに関する動画研修を実施した後、対照群と比較して、TICに関する質問紙(Attitude related TIC: ARTIC)、バーンアウト、心理的安全性等の評価項目が改善しているかどうかを検討する非ランダム化比較試験を行った。
3.隔離・身体拘束最小化に対するTIC研修の有効性の検討
TICは、隔離・身体拘束最小化の理論的基礎の1つに含まれており、先行研究では隔離・身体拘束の減少をアウトカムとしてTIC導入の効果を測定しているものもある。
そこで、介入群の精神科医療機関の看護職員を対象にTIC研修と隔離・身体拘束を最小化するための研修を合わせて実施し、対照群の医療機関・看護職員と比較して、隔離・身体拘束の件数の減少や時間の短縮が認められるかどうか、看護職員のTICに関する態度の変化や精神健康の改善が認められるかどうかを検討することを目的に非ランダム化比較試験を開始した。
4.精神科医療機関以外の支援機関での実態把握
ヒアリング等を通して、児童相談所等、精神科医療機関以外の支援機関におけるTICの実態把握を行った。
結果と考察
1.精神保健福祉センターとの意見交換、および研修での報告を通して、我が国においてもTICについて、徐々に認知され始めている点や、また行政においては各県やあるいは各施設においてメンタルヘルスの専門家が職員として所属しているかどうかや、また日本においては児童福祉系の施設の方がTICやトラウマに対する普及が進んでいるという意見も見られた。そのため、今後のTICの普及・実装のためには都道府県や市区町村の児童福祉系の部署や、児童相談所等を中心として研修などを実施していくことも効果的な方法の一つであると考えられた。
2.特に全4回の動画を視聴した研究参加者に関しては、TIC研修によってTICの知識等の向上だけでなく、バーンアウトの軽減や心理的安全性の向上も期待できる可能性があることが示唆された。詳細な解析結果については今後論文化する予定である。
3.介入群、対照群の間でベースラインではTICに関する知識や燃え尽き、精神健康の間に差は認められず、TIC研修の実施によりその効果を検出できること期待できると考えられた。
4.TIC研修のニーズは比較的高く、児童相談所・自治体職員向けに新たに研修動画を作成したほうが理解されやすいというフィードバックを得たことから、児童相談所・自治体職員向けに新たに研修動画を作成することを検討する必要がある。
結論
TIC動画研修の看護職員、患者および隔離・身体拘束最小化に対する有効性を検討するために2つの非ランダム化比較試験を開始し、そのうち1つについては介入3か月後調査を完遂し、有望な予備的結果を得た。また、上記の介入研究でも用いているTIC動画研修の一部とガイダンスをウエブサイトで公開するとともに、全国の精神保健福祉センターや精神科医療機関以外の支援機関でのTIC普及のために研修企画やヒアリングを行い、TIC普及のための環境整備や研修内容に関するフィードバックを得て、TIC普及の土台を形成した。

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202118026Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
64,800,000円
(2)補助金確定額
64,800,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,865,693円
人件費・謝金 1,119,270円
旅費 3,370円
その他 1,996,667円
間接経費 1,495,000円
合計 6,480,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
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