文献情報
研究課題名
高次脳機能障害の診断方法と診断基準に資する研究
研究代表者(所属機関)
三村 將(慶應義塾大学 医学部精神神経科学教室)
研究分担者(所属機関)
- 渡邉 修(東京慈恵会医科大学 リハビリテーション医学講座)
- 高畑 圭輔(国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 量子生命・医学部門 量子医科学研究所)
- 深津 玲子(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
- 村松 太郎(慶應義塾大学 医学部精神・神経科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究報告書(概要版)
研究目的
高次脳機能障害に関する最近の著しい知見の増大と、ICDの第11版への移行にあたり、関連の各領域に造詣の深い研究者による高次脳機能障害の診断についての包括的で十分な議論を行う場を構築し現代の医学の発展・医療の実情に即した高次脳機能障害の診断基準を作成する。
研究方法
平成2年度研究で得られた脳画像データ、文献的レビュー、医療現場における高次脳機能障害診断実態アンケート調査の結果を解析し、得られた結果の集積に基づき、新たな高次脳機能障害診断基準の案を作成した。
結果と考察
(1) 量研機構で令和4年3月31日までに収集されたデータを用いて、画像解析を行った。(2)Pubmed, Embase, PsycINFO, Medline、LEX/DB(判例データベース)等を用いて、高次脳機能障害や頭部外傷による遅発性脳障害に関する文献的レビューを実施した。(3) 医療現場における高次脳機能障害診断実態についてのアンケート調査を実施し、結果の解析を行った。(4) 新たな高次脳機能障害診断基準の案を作成した。
結論
各領域から得られたデータの集約に基づき作成した新たな高次脳機能障害診断基準(案)の、実臨床場面に試用し有用性や問題点を見出すことにより、完成版を作成する。完成版は医療現場のみならず社会全体での活用が期待される。また、診断基準作成までの過程で得られた知見は、それら自体が科学的に有益であることに加え、さらなる研究への指針となる。
研究報告書(PDF)
研究報告書(紙媒体)
文献情報
研究課題名
高次脳機能障害の診断方法と診断基準に資する研究
研究代表者(所属機関)
三村 將(慶應義塾大学 医学部精神神経科学教室)
研究分担者(所属機関)
- 渡邉 修(東京慈恵会医科大学 リハビリテーション医学講座)
- 高畑 圭輔(国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 量子生命・医学部門 量子医科学研究所)
- 深津 玲子(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
- 村松 太郎(慶應義塾大学 医学部精神・神経科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究報告書(概要版)
研究目的
高次脳機能障害に関する最近の著しい知見の増大と、ICDの第11版への移行にあたり、関連の各領域に造詣の深い研究者による高次脳機能障害の診断についての包括的で十分な議論を行う場を構築し現代の医学の発展・医療の実情に即した高次脳機能障害の診断基準を作成する。
研究方法
渡邊と深津は、1年度に実施したアンケート調査結果を分析し、我が国の現場での高次脳機能障害の診断実態をめぐる問題点を明らかにした。その結果得られたのは、社会的行動障害診断の困難さ、脳画像所見陰性で診断名がつきにくい症例の扱いについて、現場では特に苦慮しているという事実であり、新たな診断基準ではこの問題の解消を図る。
脳画像診断、特に脳外傷慢性期の画像診断を専門とする高畑が、高次脳機能障害についての従来の画像診断法及び最新の画像診断法についてレビューを1年度から継続して行っている。その結果、新たに開発されたリガンドを用いてのPETスキャン、定量的磁場率マッピング(QSM)、拡散テンソルトラクトグラフィ(DTI)などが、頭部外傷による慢性期の診断、さらには近年国内外で社会問題になっている慢性外傷性脳症(CTE)など、頭部外傷によって引き起こされる遅発性脳障害の診断に有用であることが明らかになってきているが、こうした先端技術を用いた画像診断が可能な施設は限られているという現実の状況に鑑み、診断基準における画像診断活用の具体的な記載について検討を行っている。
村松太郎は、1年度において、高次脳機能障害の診断における神経心理学的検査について、臨床および社会での適用の実態についてレビューを行い、高次脳機能障害という用語の扱われ方は多様であり、時には誤用に近い事態さえ発生していることを明らかにした。新たな診断基準の作成にあたってはかかる問題を最小限にとどめることを目指す。
さらに村松は精神科診断学の立場から、我が国の臨床現場で用いられている診断体系における高次脳機能障害の位置づけを、特にICDとの関係において整理し、新たなICD-11における器質性精神障害と日本の高次脳機能障害診断基準ガイドラインの関係を明らかにした。この知見を新たな診断基準に収載する。
以上を総合し、三村の統括の下に新たな高次脳機能障害診断基準ガイドラインの原案を作成し、この原案の実臨床における有用性と問題点を調査し、その結果に基づき診断基準に洗練を重ね、新たな診断基準を完成する。
結果と考察
平成2年度研究では、画像診断に関しては、頭部外傷患者を対象としたマルチモーダルイメージングによって得られた所見が、異なる症候と関連することが明らかとなった。文献レビューからは、単に高次脳機能障害をキーワードとして検索を進めるのではなく、社会的行動障害等も含めて展開していく方が有意義であるという方向性が確立され、さらに、賠償等をめぐる裁判実務においては高次脳機能障害についての複数の概念がやや混乱気味に用いられていることが判明した。また、医療現場での診断実態についてのアンケートの配布・収集を実施した。平成3年度研究では、同アンケート結果を解析するとともに、画像診断・文献的レビューをさらに押し進め、以上により得られた結果の集積に基づき、新たな高次脳機能障害診断基準の案を作成した。
結論
アンケート調査及び文献レビューの結果を総合することで、医学の発展と社会の変化に適合した診断基準のあり方を明確化することができ、新たな診断基準原案の作成を達成した。
新たな診断基準原案の作成自体も学術的意義を有するものであるが、同案作成までの過程で得られた、脳画像診断発展の現状及び症状評価についての実臨床における問題点の明確化は、高次脳機能障害についてのより客観性のある洗練された診断手法の確立に繋がるものである。
現代医学の発展および医療現場の現状に即し、また、ICD-11にも呼応した、洗練されかつ実用的な高次脳機能障害の診断基準の作成は、障害当事者の最大限に有益な支援に資するものである。
2020年4月頃からの新型コロナウィルスパンデミックにより、当初の進行計画に多大な影響が出ていたが、感染状況を慎重に見据え、影響を最小限にすべく、可能な範囲で最大限の作業の進行の努力を続けている。
研究報告書(PDF)
研究報告書(紙媒体)
行政効果報告
成果
専門的・学術的観点からの成果
高次脳機能障害についての従来の画像診断法及び最新の画像診断法についてのレビューにより、頭部外傷による慢性期の症候に関連する候補マーカーが抽出された。それらは診断の精度を画期的に高めることが期待されるもので、成果はNeuroscience of traumatic brain injuryや和文誌『細胞』などに掲載された。
臨床的観点からの成果
画像診断、学術的論文、法的論文のレビュー結果と、臨床現場(医療従事者・当事者ご家族)アンケート調査結果を総合し、高次脳機能障害診断基準の改訂案を作成した。改訂案に特に盛り込んだのは、画像診断の格段の進歩と現場への普及の実態を考慮した画像所見の活用、及び、臨床現場において社会的行動障害等診断に苦慮するケースの扱いである。
ガイドライン等の開発
高次脳機能障害診断基準改訂案を作成した。本改訂案の信頼性・妥当性について、学術的見地及び臨床現場での検討を通し検証し、さらに洗練された完成版を令和4年度内に作成する。
その他行政的観点からの成果
高次脳機能障害を有しながら従来は行政的支援を受けることに難渋していた対象者の特徴が明らかになり、あわせて示された脳画像診断の進歩、学術界等における高次脳機能障害の概念の範囲を踏まえて本研究で作成した高次脳機能障害診断基準が、従来診断が困難なため支援が受けにくかった対象者に適切な支援提供が可能になることが期待される。
その他のインパクト
新たな高次脳機能障害診断基準を、関連学会のみならず、臨床現場、当事者、当事者ご家族に広く開示していく予定である。
発表件数
その他成果(施策への反映)
3件
ガイドライン作成3件
特許
主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)
収支報告書
支出
研究費 (内訳) |
直接研究費 |
物品費 |
2,297,963円 |
人件費・謝金 |
1,422,091円 |
旅費 |
45,710円 |
その他 |
777,406円 |
間接経費 |
1,605,000円 |
合計 |
6,148,170円 |