アルコール依存症の早期介入から回復支援に至る切れ目のない支援体制整備のための研究

文献情報

文献番号
202118020A
報告書区分
総括
研究課題名
アルコール依存症の早期介入から回復支援に至る切れ目のない支援体制整備のための研究
課題番号
20GC1015
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
木村 充(独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 神田 秀幸(岡山大学 学術研究院医歯薬学域)
  • 湯本 洋介(独立行政法人 国立病院機構 久里浜医療センター 精神科)
  • 杠 岳文(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター(臨床研究部))
  • 佐久間 寛之(独立行政法人国立病院機構さいがた医療センター 精神科)
  • 森田 展彰(国立大学法人筑波大学大学院人間総合科学研究科)
  • 吉本 尚(筑波大学 医学医療系)
  • 加賀谷 有行(瀬野川病院 KONUMA記念依存とこころの研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
7,201,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は、早期介入から回復支援に至る切れ目のない支援体制整備のため、飲酒量低減の治療目標が健康障害の改善に寄与しているかどうかのエビデンスを集め、より幅広い対象に対する飲酒による身体・社会的問題の介入を可能とすることを目的としている。主に、外来での集団治療プログラムの開発とその有効性の検証、新ガイドラインに基づく診療の実施状況調査、飲酒量低減によるアルコール健康障害の改善効果に関するエビデンスの収集、女性・高齢者や災害・救急医療におけるアルコール問題、専門治療施設、プライマリケア、自助グループでの支援についての課題抽出を行う。
研究方法
(1)アルコール使用障害の外来集団治療プログラムの有効性の評価をプログラム群と通常治療群に分けて、RCTを行った。(2)全国のアルコール専門治療機関に治療状況のアンケートを行った。(3)ナルメフェンの処方を受けた患者、主治医、調剤薬局の薬剤師を対象としたアンケートを行った。(4)推計・試算にもとづくアルコールと医療費、飲酒と医療費に関するコホート研究、アルコール性慢性膵炎の医療費に関する文献レビューを行った。(5)介護支援専門員に対するアンケート調査を行った。(6)妊産婦へのリーフレットの作成、認知行動療法の実施状況についての文献レビューを行った。(7)救急医療にかかわる医師、看護師にアルコール問題についてアンケート調査を行った。(8)自助グループへの橋渡しを行うツールを調査し、MAEEZというツールを翻訳した。(9)ナルメフェン処方した患者カルテを後方視的に調査した。広島県アルコール健康障害サポート医おにアンケートを行った。(10)日本の内科領域で初めて設置したアルコール低減外来の効果について検証した。
結果と考察
(1)外来集団治療プログラムの効果を検証するためランダム化比較試験を行い、プログラムを完了した患者では、通常治療群よりも断酒率が高い傾向が示唆された。
(2)アルコール専門治療機関に対する治療実態のアンケート調査を行い、多くの医療機関で減酒を目標とする治療を行っていた。コロナ禍前後の比較で、患者数が減少した医療機関が多かった。
(3)“断酒を最終目標に見据えた減酒”のためナルメフェンを処方された患者の継続割合の中央値は34.4%であったが、ナルメフェン服用終了後も通院している患者が多かった。
(4)総医療費の0.52%から6.9%がアルコール関連疾患で占めると見込まれた。また、飲酒と医療費に関するコホート研究では、多量飲酒者は、それ未満の飲酒者に比べ、月額約2000円の医療費を過剰に使用し、その過剰は入院医療費から生じている可能性が示唆された。
(5)全国の介護支援専門員に対するアンケート調査によって、介護支援専門員が関わるケースの男性で8.0%にアルコール問題が明らかにあるか疑われ、また介護者のアルコール問題も0.93%に認められた。
(6)産婦人科医らと協力して、実践的な妊産婦への飲酒に対する指導用のリーフレット作成を行った。
(7)救急医療の現場で、飲酒問題を抱える患者に苦慮した経験を持つ回答者は104名中102名(98.1%)であり、ほぼ全員が飲酒問題への対応困難を経験していた。
(8)12ステップファシテーションプログラム(TSFプログラム)について文献検討を行った結果、MAEEZというプログラムがマニュアルなども整備されており、日本での自助グループ導入プログラムのツールを作成するうえで、参考になることを確認し、「MAAEZマニュアル」と「MAAEZ実践ガイド」の日本語版を作成した。
(9)専門医療機関でも減酒治療を行うことで治療の選択肢が広がり早期治療が進む可能性が示唆された。早期のアルコール依存症に対する介入に前向きな医師が増えつつあるが、重症患者については専門医療機関への紹介の希望も強く、適切な医療連携が必要である。
(10)日本の内科領域で初めて設置したアルコール低減外来が、治療ギャップを埋める意味でも、受診ハードルを下げる意味でも効果的であることが示唆された。
結論
疫学レビューの結果から、アルコールによる医療費の負担は大きいことが示された。介護者や救急医療の現場では、アルコール問題を経験することが多く、負担になっていた。アルコール治療専門機関では多くが減酒を目標とした治療を行っており、地域の精神科で早期からの介入に積極的な医師が増えつつある。内科での減酒外来も、治療ギャップを埋める意味で効果的であった。妊産婦向けのアルコールの害の啓発リーフレットや自助グループへの橋渡しとなるツールの開発を行った。

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202118020Z