療育手帳に係る統一的な判定基準の検討ならびに児童相談所等における適切な判定業務を推進させるための研究

文献情報

文献番号
202118016A
報告書区分
総括
研究課題名
療育手帳に係る統一的な判定基準の検討ならびに児童相談所等における適切な判定業務を推進させるための研究
課題番号
20GC1011
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
辻井 正次(中京大学 現代社会学部)
研究分担者(所属機関)
  • 内山 登紀夫(大正大学 心理社会学部 臨床心理学科)
  • 小林 真理子(山梨英和大学 人間文化学部)
  • 日詰 正文(独立行政法人 国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 総務企画局研究部)
  • 伊藤 大幸(お茶の水女子大学 生活科学部)
  • 浜田 恵(名古屋学芸大学ヒューマンケア学部)
  • 村山 恭朗(神戸学院大学 心理学部)
  • 大塚 晃(上智大学 総合人間科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
6,896,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
療育手帳の判定方法および障害等級の基準は全国で統一された基準はなく、その基準は都道府県及び指定都市ごとに定められている。このような療育手帳に関する基準のばらつきによる弊害(転居に伴う療育手帳の交付再判定など)は、複数の研究調査において、度々指摘されている(例えば、櫻井,2000)。しかし、未だ療育手帳の判定方法や知的障害の程度に関する統一基準は確立されていない。そこで、本研究は、4つの分研究を通じて、療育手帳の判定業務および障害等級の基準の統一化に向けた基礎資料を作成することを目的とする。
研究方法
研究1および2は文献研究により行った。研究3では、療育手帳の交付を受けている児者、既に療育手帳の判定は受け療育手帳の交付認定を受けた幼児、療育手帳の判定は受けていないが知的水準の発達に問題があり現在地域の児童発達支援を受ける幼児の98名が本調査に参加した。研究4では、研究3と同じ対象から、研究2では、厚生労働省令和2年度社会福祉推進事業「日常生活支援住居施設の対象者選定のためのシステムに関する調査研究事業」(代表者:辻井正次)における調査により、一般サンプル418名(男性208名、女性211名;平均年齢49.8歳)および知的障害者33名(男性20名、女性13名;平均年齢49.1歳)から得られたものであった。
結果と考察
研究1では、療育手帳制度の前提となる、知的障害の定義が不在の理由を身体障害者福祉法の定義に求めたこと、改革のメリットが少ないことが制度の改革を遅らせたこと、療育手帳制度の大きな課題である高機能(発達障害)の方々の取り扱いは、知的障害の定義と判定に直接かかわることを示し、今後は、知的障害と発達障害(精神障害を含めて)の整理が喫緊の課題であることを明らかにした。
研究2では、我が国では偏差IQと比例IQの区別もなく、また肝心の知能指数の信頼性や妥当性にも無頓着なままにIQを絶対視する傾向があることを論じた。さらに、療育手帳が知的障害を対象とするなら知的障害を定義する必要があることを示した。研究3では、ウェクスラー式知能検査(ノルム化検査)と田中ビネー知能検査/新版K式発達検査(非ノルム化検査)の関連を検証したところ、中程度から強い相関が認められた。その一方で、これらの尺度で評価される重症度の一致率は乏しかった。Vineland-II適応行動尺度(ノルム化尺度)とS-M社会生活能力検査(非ノルム化尺度)の関連を検証したところ、強い正の相関が認められたが、これらの尺度で評価される重症度の一致率は乏しかった。さらに、療育手帳の交付を受ける協力児者のうち、10%程度が知的発達症の診断基準に該当しない知的水準、適応行動水準を示した。
研究4では、第1に、幼児期から成人期までの療育手帳保有者を対象として3つの知能検査と2つの適応行動尺度を実施し、得点差や相関の観点から検査結果の整合性を検証結果、検査間での測定結果の系統的な乖離とランダムなブレは無視できないほど大きいことが明らかとなった。こうした検査結果のバラつきは、知能検査と適応行動尺度の結果を合成(単純平均)することによって、3分の2程度にまで低減されることが明らかとなった。
結論
(1)現行の知的水準(つまり、知能指数)のみに基づく療育手帳の交付判定は、現在の国際的な知的発達症(知的障害)の診断基準とは合致していない、(2)知的水準など単一評価にのみ基づいて機械的に、知的発達症の判定を行うことは適切でない、(3)療育手帳の判定で主に利用されている非ノルム化検査/尺度(田中ビネー知能検査など)と、ICD-11における知的発達症の診断基準で求められるノルム化検査/尺度(ウェクスラー式知能検査)で評価される知的/適応行動水準の一致程度は乏しいこと、が認められた。また、療育手帳制度に関する我が国における経緯から、療育手帳の改定には、知的発達症の定義を定めることが必要であることが示唆された。これらの結果/示唆を踏まえると、国として知的発達症の定義を明確にするとともに、療育手帳の判定では、ノルム化検査/尺度による知的および適応行動水準を評価することが推奨される。

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202118016B
報告書区分
総合
研究課題名
療育手帳に係る統一的な判定基準の検討ならびに児童相談所等における適切な判定業務を推進させるための研究
課題番号
20GC1011
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
辻井 正次(中京大学 現代社会学部)
研究分担者(所属機関)
  • 大塚 晃(上智大学 総合人間科学部)
  • 内山 登紀夫(大正大学 心理社会学部 臨床心理学科)
  • 小林 真理子(山梨英和大学 人間文化学部)
  • 日詰 正文(独立行政法人 国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 総務企画局研究部)
  • 伊藤 大幸(お茶の水女子大学 生活科学部)
  • 浜田 恵(名古屋学芸大学ヒューマンケア学部)
  • 村山 恭朗(神戸学院大学 心理学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、10の分研究を通じて、療育手帳の判定業務および障害等級の基準の統一化に向けた基礎資料を作成することを目的とした。
研究方法
文献研究ならびに調査研究を行った。研究4では、全国の児童相談所136箇所、知的障害者更生相談所57箇所、両方の機能を備える機関16箇所の計209箇所(回収率65.3%)を分析対象とした。研究9では、療育手帳の交付を受けている児者、既に療育手帳の判定は受け療育手帳の交付認定を受けた幼児、療育手帳の判定は受けていないが知的水準の発達に問題があり現在地域の児童発達支援を受ける幼児の98名が参加した。研究10では、研究9と同じ対象から、研究2では、厚生労働省令和2年度社会福祉推進事業「日常生活支援住居施設の対象者選定のためのシステムに関する調査研究事業」(代表者:辻井正次)における調査により、一般サンプル418名および知的障害者33名から得られたものであった。
結果と考察
①現在、療育手帳制度は適切に運用されているとは言い難い現状にあり、早急に統一的な療育手帳の判定基準を設けるべきである。②療育手帳の判定は知的水準および適応行動水準の2側面から行うべきである。③療育手帳の判定においてノルム化尺度/検査の利用を推奨するが、非ノルム化尺度/検査を利用する場合には慎重な判定業務が必要である。④知的発達症の定義を明確し、法制化するべきである。⑤今後、簡便に知的および適応行動水準の評価が可能なノルム化検査を開発する必要がある。
結論
2か年に渡る本研究から、以下を結論として示す。
① 療育手帳は「知的障害児(者)に手帳を交付」と要綱に明記されているが、一部の自治体では、知的発達症の診断基準に合致しない知的水準(IQ>76)を示す児者に対しても療育手帳を交付し、実際、平均以上の知的水準を示す児者が療育手帳の交付を受けている。そのため、現在、療育手帳制度は適切に運用されているとは言い難い現状にある。このような不適切な運用は地域間の公平性を害する可能性があるため、早急に統一的な療育手帳の判定基準を設けるべきである。
② 現在、多くの自治体で行われている療育手帳の判定では、知的水準の評価が中心に行われているが、知的発達症の国際的診断基準や本研究で得られた実証的知見から、療育手帳の判定は知的水準および適応行動水準の2側面から行うべきである。
③ 現在、療育手帳の判定で利用されている非ノルム化尺度/検査による判定結果はある程度信頼性があるものの、国際的な診断基準が求めるノルム化がなされていないこと、国内で行われた標準化の手続きが十分でないこと、ノルム化尺度/検査で評価される重症度との一致率が乏しいことから、療育手帳の判定において非ノルム化尺度/検査を利用する場合には、他の検査を並行して実施するなど、慎重な判定業務が必要である。
④ 統一的な療育手帳の判定基準の設定など、今後、療育手帳制度の改定を図るうえで、知的発達症(知的障害)の定義を明確し、法制化するべきである。
⑤ 統一的な療育手帳の判定基準の構築を図る際、児童相談所等の業務負担の軽減も考慮すべきである。本研究で実証されたように、多くの自治体では、業務負担の面から、ノルム化尺度/検査を療育手帳の判定に利用することを懸念している。そのため、今後、簡便に知的および適応行動水準の評価が可能なノルム化検査を開発する必要がある。
⑥ 療育手帳の判定の全国統一判定基準ガイドライン(案)
1. 医学的診断:
初回判定では、ICD-11の診断基準に基づく医学的診断を必要とする。
2. 心理・社会的診断:
 知能検査:基本的に、偏差IQが算出できるノルム化尺度/検査(ウェクスラー式知能検査等)を利用する。なお、田中ビネー知能検査および新版K式発達検査(K式に関しては、5歳まで)も利用可能とする。
 適応行動尺度:基本的に、偏差指数が算出できるノルム化尺度(Vineland-II適応行動尺度等)を利用する。なお、申請対象が中学生年齢以下(15歳以下)である場合には、S-M社会生活能力検査も利用可能とする。
 心理検査の実施:上記の心理検査の実施が児童相談所以外の機関で行われる場合には、公認心理師が実施することを認める。
 生育歴・病歴・家族歴等(発症に関わる情報の収集等)
注)申請対象が成人(18歳以上)の場合、通常学級の所属経験があること、高校進学の事実があることをもって、知的発達症(知的障害)の存在を除外することはできないため、小・中・高等学校時の適応状態(学業成績等)を検証し、手帳交付の適切性を判断すること。
3. 重症度(等級):ICD-11に基づき、4区分とする。
4. 再判定:幼児では2年、学齢児では3年、成人では5年を越えない範囲で再判定を実施する。
5. その他:身体障害者福祉手帳、精神障害者福祉手帳との重複は認める。

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

総合研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202118016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、療育手帳の交付児者を対象として,知的および適応行動水準を浄化するノルム化検査と非ノルム化検査の関連を検証し、ノルム化検査と非ノルム化検査が評価する知的発達症の重症度の一致率は乏しいことを明らかにした。加えて、知能検査など単一の検査によって「知的発達症」と判定することは信頼性が低く、知的および適応行動水準の両評価を行うことで、信頼性の高い判定が可能になることを実証した。成果は学会で発表され、大きな反響を得た。
臨床的観点からの成果
本研究で示された実証知見から、現在、療育手帳の判定における非ノルム化検査/尺度の利用するうえでの検討事項を整理し、さらに療育手帳の判定に関するガイドラインを示した。以上の成果は、長年問題視されてきている療育手帳の判定基準の不統一の是正に寄与し得る。
ガイドライン等の開発
療育手帳判定の統一的基準ガイドライン(案)を作成した。
その他行政的観点からの成果
本研究は、現在、療育手帳の判定業務で利用されている検査の信頼性および妥当性を明らかにした。この実証知見は、長年問題視されている、各自治体が運用する療育手帳の判定基準の不統一の解消に寄与し得る。
その他のインパクト
本研究の取組は、知的発達症児者の当事者団体である「全国手をつなぐ育成会連合会」の機関誌に取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-05-24
更新日
2024-06-13

収支報告書

文献番号
202118016Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,620,000円
(2)補助金確定額
8,615,000円
差引額 [(1)-(2)]
5,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,396,000円
人件費・謝金 3,000,000円
旅費 500,000円
その他 2,000,000円
間接経費 1,724,000円
合計 8,620,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2023-10-19
更新日
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