地域で暮らす障害者の地域生活支援の実態把握及び効果的な支援方法、その評価方法についての研究

文献情報

文献番号
202118013A
報告書区分
総括
研究課題名
地域で暮らす障害者の地域生活支援の実態把握及び効果的な支援方法、その評価方法についての研究
課題番号
20GC1007
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
田村 綾子(聖学院大学 心理福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井 千代(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 鈴木 孝典(高知県立大学 社会福祉学部)
  • 青石 恵子(熊本大学)
  • 相馬 大祐(福井県立大学 看護福祉学部社会福祉学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
5,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
三障害一元の障害福祉サービスの提供開始から10年以上経過し、地域移行・地域定着支援や自立生活援助等により病院や施設等からの地域移行がなされていることから、地域で暮らす障害者の実態と、本人のサービス満足度や欲求充足度を把握し、フォーマル及びインフォーマルなサービスのマネジメントが成されているかについて調査し、障害福祉サービスの次期報酬改定や支援のさらなる充実に向けた提言のための基礎的データを収集することを目的とする。
研究方法
障害者の支援計画を作成する相談支援専門員及び介護支援専門員のうち、職能団体等からの紹介を受けて調査への協力を表明した者に調査票(3種類)を送付し、支援者と、地域で生活する障害者(支援者が支援計画を作成している者のうち調査への協力に同意した者で、身体障害、知的障害、精神障害、難病患者を含む上限4名)を対象とした自記式アンケート調査を実施した。調査に使用する尺度であるWHODAS2.0による評価方法に関しては、研究目的や概要と併せて支援者を対象とした説明会のオンライン開催及び説明動画の配信を行った。また、障害者のうち希望者には協力への謝礼を後日送付した。
※調査票の印刷・発送・回収・データ入力を民間業者に業務委託した。
(倫理面への配慮)
調査票はすべて無記名とし、得られた回答は個人が特定できないように取り扱うこと、返送された調査票は施錠保存し研究終了後5年以内にすべて適切な方法で廃棄処分すること、委託業者との間で誓約書の提出を含む契約を交わすこと、論文作成や学会発表において個人情報は記載しないことを厳守し、調査の実施にあたり、聖学院大学研究倫理委員会における審査によって承認を得た(承認番号第2021-4-1b号、第2021-4-2号)。以上に加えて、依頼文書には、結果を統計的にまとめて厚生労働省に報告書として提出すること、調査協力しなくても不利益が生じないことを併せて明記した。なお、調査で使用する評価尺度は、開発者(兵庫県立大学大学院社会科学研究科 筒井孝子教授)の承諾を得た。
結果と考察
地域生活を送る障害者の支援計画作成に携わる支援者377名(相談支援専門員287名、介護支援専門員90名)の協力を得て、1,068名分の障害者の個票及び障害者本人からの回答を得た。収集したデータにおける障害者の年代は10~80代以上で最多は50代、男女比は約6対4であった。障害種別は、「精神障害(発達障害含む)」が約5割、「身体障害」と「知的障害」は各3割弱、「高次脳機能障害」と「難病」は数パーセントずつであった(重複あり)。障害支援区分認定を「受けていない」者が3割弱で、認定を受けている者のなかでは「区分2」と「区分3」が各2割前後、要介護認定は「受けていない」者が5割以上で、「要支援1」~「要介護5」が各数パーセントずつであった。居住形態は「自宅」が7割以上で「グループホーム」が1.5割であり、単身者は5.5割であった。利用しているサービスは、多い順に「計画相談支援」「居宅介護」「訪問看護(精神科含む)」「就労継続支援B型」がいずれも3割を超えていた。各サービスに関する本人の満足度は、いずれも「満足である」が最多、次いで「どちらともいえない」「非常に満足である」との回答が多かった。サービス利用時以外の日中の過ごし方は、コロナ禍前後で「大きく変わった」「少し変わった」との回答が合計4割であった。入院・入所の経験は「ある」が805名で、そのうち地域に移行して「とても良かった」「良かった」との回答は87%であった。
 総体的にWHODAS2.0による評価からは「可動性」や「セルフケア」については全く問題ない者が多い傾向であり、また、障害者本人の回答で「生理的欲求」及び「安全の欲求」は9割以上が満たされていたことから、もともと自立度が高いかサービス利用によって充足されていることがうかがえる。一方で、WHODAS2.0では「他者との交流」や「社会への参加」に関しては問題のある者が増える傾向がみられ、また、障害者本人の回答では「社会的欲求」「承認の欲求」「自己実現を超越した欲求」の充足は7割強であることから、各種サービスを利用していても孤独感や社会的不安、あるいは劣等感や無力感を抱える者がいると考えられる。
結論
地域で生活する多様な障害者のサービス利用実態と、WHODAS2.0という汎用性のある評価尺度を用いた状態像の把握、さらに当事者によるサービス利用に関する満足度や欲求充足度を把握することができ、物質的欲求は充足が可能な状況であったが、精神的欲求を満たす課題が示唆された。コロナ禍の影響も考慮する必要はあるが、効果的な支援方法やその評価方法の確立に向けた示唆を得られたことに加え、病院や施設からの地域移行経験者の87%が地域移行を肯定的に捉えていることがわかった。

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202118013B
報告書区分
総合
研究課題名
地域で暮らす障害者の地域生活支援の実態把握及び効果的な支援方法、その評価方法についての研究
課題番号
20GC1007
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
田村 綾子(聖学院大学 心理福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井 千代(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 鈴木 孝典(高知県立大学 社会福祉学部)
  • 青石 恵子(熊本大学)
  • 相馬 大祐(福井県立大学 看護福祉学部社会福祉学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域で生活する障害者のうち、計画相談支援や介護保険サービスを利用している者について、実態把握と、支援内容に対する障害者本人によるサービス満足度や欲求充足度を調査し、支援者による状態像の評価(WHODAS2.0使用)と合せて分析することにより、障害者の地域生活支援を効果的に行うための評価方法について考察する。
研究方法
質問紙法とインタビュー法を用いた横断面調査による実態把握、及び支援に関する評価のアウトカム調査を行った。
①インタビュー調査
多機関多職種の連携に関する勉強会や、オンラインでのプレインタビュー調査を実施したのち、障害者とその支援者を1組としたフォーカスグループインタビューを5組に対して実施した。
②質問紙調査
居宅介護支援事業所の介護支援専門員を対象として、障害者支援に関する実態把握のための質問紙調査を郵送法自記式にて実施した。
③質問紙調査
 相談支援専門員及び介護支援専門員、これらの支援者によって支援されている障害者を対象として郵送法による自記式質問紙調査を実施した。
(倫理面の配慮)
聖学院大学研究倫理委員会における審査によって承認を得た(第2019-13-1b号/第2019-13-2b号、第2021-4-1b号、第2021-4-2号)。なお、調査で使用する評価尺度は、開発者(兵庫県立大学大学院社会科学研究科 筒井孝子教授)の承諾を得た。
結果と考察
①地域で生活する障害者とその支援者を対象としたフォーカスグループインタビュー調査の結果、対象となる障害者が、自らの希望や強みに丁寧に寄り添う支援者、あるいは同じ境遇にある人々との出会いによって、レジリエンスを獲得し、希望の創発、客観的な自己理解、生活課題に対する対処技能の獲得に至ることがうかがえた。また、支援者をはじめ、自らの支えとなる人々との関係を醸成する過程のなかで、新たな生活様式の獲得や自己実現の達成に至ることが示唆された。
②居宅介護事業所の介護支援専門員を対象とした質問紙調査で843名より回答を得た(960/3,000、回収率32%)。介護保険サービスの利用者のなかには障害福祉サービス等の利用歴のある者が含まれ、共通して居宅介護を利用していたほか、障害福祉サービスに固有の「同行援護」「就労継続支援」の利用が見られた。障害者の地域生活の支援計画作成者として、一定数の介護支援専門員が存在することが把握できた。
③地域生活を送る障害者の支援計画作成に携わる支援者377名の協力で、1,068名分の障害者の個票と本人からの回答を回収した。個票データは、10~80代以上の男女で、障害種別は、精神が約5割、身体と知的は各3割弱、高次脳機能障害と難病は数パーセントずつ(重複あり)で、障害支援区分や要介護認定を受けていない者が3~5割いた。居住地は、自宅が7割以上、グループホームが1.5割、単身者は5.5割。利用サービスに対する本人の満足度は総じて高かった。サービス利用時以外の日中の過ごし方がコロナ禍前後で変化したとの回答は4割であった。
 調査対象者の約8割が地域移行経験者で、大多数は地域生活に「自由」を感じていることが明らかとなった。また、総じて「可動性」や「セルフケア」に全く問題ない者が多く、かつ、「生理的欲求」及び「安全の欲求」は9割以上が満たされていたことから、もともと比較的自立度が高いか、サービス利用によって物質的欲求は充足されていることがうかがえるが、「他者との交流」や「社会への参加」に関しては問題のある者が増える傾向、また、「社会的欲求」「承認の欲求」「自己実現を超越した欲求」の充足度は7割強であることから、サービス等を利用していても、地域生活における孤独感や社会的不安、劣等感や無力感を抱える者は存在していると考えられる。すなわち、地域で生活する障害者の物質的欲求はサービス提供によってある程度充足できているが、精神的欲求の充足に対する課題が示唆された。調査時期(令和3年度)の新型コロナウイルス禍の影響を考慮する必要があるものの、サービス利用時以外の過ごし方や自己実現に向けた支援のあり方は、地域生活を送る障害者に対する効果的な支援方法やその評価方法を検討するうえで重要な視点であると考えられる。
結論
病院や施設から移行し地域で生活する障害者は、単身やグループホームに居住しながら障害福祉サービスや介護サービスを利用している。地域移行して良かった、自由があると感じている者が多く、物質的欲求は満たされ利用サービスには概ね満足しているが、孤独感や不安感を抱えることがあり、精神的欲求の充足に向けた支援も求められている。障害者が他者との交流や社会参加の機会を得て新たな生活様式を獲得し、自己実現に向かうことができるよう、その人らしい生き方の実現に向けて障害者の内面に寄り添う支援のあり方を模索する姿勢が求められている。

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202118013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1)研究成果
量的調査により、地域で生活する障害者の状態像や利用サービス等の実態把握及び本人の満足感に関する評価と、地域移行経験者における「地域移行して良かったこと」について把握できた。
(2)成果の意義
障害者を支援する相談支援専門員及び介護支援専門員の協力により、障害者の個票と障害当事者のサービス満足度や欲求充足度などを突合して収集したほか、WHODAS2.0の12項目版や自記式アンケートにより、地域移行支援を推進しその地域生活を支援する意義及び支援者の着眼点を明確にできた。
臨床的観点からの成果
(1)研究成果
地域で生活する障害者について、1,068名分の個票の収集及び自記式アンケートの回収により、障害種別ごとのサービス利用や生活状況を把握できた。
(2)研究成果の意義
本データが本邦で把握されている地域で生活する障害者像を代表すると考えると、福祉サービス等を利用した生活においては「可動性」や「セルフケア」には問題ない者が多く、「生理的欲求」及び「安全の欲求」は9割以上満たされている。コロナ禍前後での生活の変化は4割程度に見られ、感染拡大が与えた影響は小さくないことがわかった。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
障害福祉施策として精神科病院や障害者支援施設からの地域移行支援が促進されて久しいが、地域移行経験者にとって何が地域移行の良さであるかを量的調査によって把握分析できたことで、今後の精神保健福祉法の改正に関する検討や、社保審障害者部会等における病院・施設からの退院促進や地域移行の推進に向けた資料としての活用が考えられる。
地域生活への移行直後は即物的な欲求充足が実感され、地域生活の年数を経過するにつれて社会参加の機会や範囲が拡大し、障害者が意欲をもち主体的に生活していくことが見受けられた。
その他のインパクト
支援計画を作成する相談支援専門員や介護支援専門員は、その立案に加え、相談に応じたり一定期間ごとにモニタリングするなど一連の支援プロセスにおける役割を担っており、本研究結果を報告することで、障害者本人の意向や希望を丁寧に聞き取り、精神的欲求の充足も含めて支援する意義について省察を促す機会となった。
WHODAS2.0の評価尺度を活用することや、障害者本人に、欲求充足の観点から支援に対する効果を評価してもらうことの重要性を伝えることができた。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
第41回日本社会精神医学会演題発表
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
田村綾子
障害者の地域移行と地域生活支援の意義と課題 ~当事者アンケートに記載された「自由」という語句に着目した一考察
聖学院大学研究所紀要 ,  (69) , 23-51  (2023)

公開日・更新日

公開日
2023-05-24
更新日
2023-06-22

収支報告書

文献番号
202118013Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,000,000円
(2)補助金確定額
5,604,000円
差引額 [(1)-(2)]
1,396,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 420,485円
人件費・謝金 868,022円
旅費 0円
その他 2,701,366円
間接経費 1,615,000円
合計 5,604,873円

備考

備考
補助金対象経費実支出額の1,000円未満を自己資金にて負担したため。

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
-