強度行動障害者支援に関する効果的な情報収集と関係者による情報共有、支援効果の評価方法の開発のための研究

文献情報

文献番号
202118011A
報告書区分
総括
研究課題名
強度行動障害者支援に関する効果的な情報収集と関係者による情報共有、支援効果の評価方法の開発のための研究
課題番号
20GC1005
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
日詰 正文(独立行政法人 国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 総務企画局研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 安達 潤(北海道教育大学旭川校教育学部障害児臨床教室)
  • 井上 雅彦(鳥取大学 大学院医学系研究科 臨床心理学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在の支援現場における強度行動障害者支援の課題には、「問題となっている行動の背景要因を見つけることが難しいこと」、「チームで計画・モニタリングを行うための人材確保が難しいこと」の2点がある。その結果、行動の背景が特定できず過剰な拘束や投薬で対処することや、一部の事業所や職員のみへの負担が集中する状況が生じている。本研究では、この2つの課題を解決するためには「狭い範囲の情報だけで背景要因を見つけようとしない」「事業所内だけでなく地域の協力者を含めたチームで取り組む」ことが必要になると考え、全国の支援現場での実装につながるモデルを開発することを目的とした。
研究方法
令和3(2021)年度は、以下の2つの調査・研究を行った。
(1)強度行動障害PDCA支援パッケージを実際の支援現場で試行するとともに、効果や課題を収集し、支援パッケージの実用化に向けた資料とすることを目的として、強度行動障害者支援に取り組んでいる事業所14カ所を対象とした試行調査を一次調査として実施した。
(2)二次調査として、一次調査の結果を踏まえて改善した強度行動障害PDCA支援パッケージのさらなる試行と効果や課題の収集を行うことを目的とした「実践検討・意見交換会(以下、意見交換会)」を実施し、参加した事業所29カ所を対象とした試行を実施することによって広く意見を収集した。
結果と考察
(1)試行調査の結果、強度行動障害PDCA支援パッケージの評価として、評価点では、「パッケージの全体評価」は、「効果的であった」と「少し効果的であった」の回答の割合が全体の84.2%であり、また、「利用者の全体像の把握」が84.2%、「情報の収集」が78.9%、「記録の分析」が78.9%、「記録の負担感の軽減」が84.2%であった。
具体的には、
・ICFを活用することで対象者の障害特性や環境要因を含めた全体的な理解が可能となった。
・ICTを活用することで短時間に効率的な記録が可能となり、支援者の負担の軽減につながった。
・強度行動障害PDCA支援パッケージを活用することで情報の収集と支援者間での共有がしやすくなった。
・PDCAサイクルで支援を行うことで、支援の見直しがしやすくなった。
等の効果があった。
これらの結果より、強度行動障害の状態にある者への支援において課題となっている「目に見えにくい障害特性や強み、環境要因等の包括的な情報収集」や「収集した記録の分析と関係者間での情報共有」などについて改善が期待できるツールとして、支援パッケージが有用であることが確認できた。
(2)試行調査の結果、強度行動障害PDCA支援パッケージの評価として、評価点では、「パッケージの全体評価」は、「効果的であった」と「少し効果的であった」の回答の割合が全体の76.0%であり、また、「利用者の全体像の把握」が92.0%、「情報の収集」が76.0%、「記録の分析」が72.0%であった。
具体的には、
・ICFは対象者の障害特性や環境要因の把握に効果的であり、情報の整理がしやすくなった
・ICTは記録と分析に効果的であり、記録にかかる負担の軽減に効果的であった
・ICF、ICTを活用することで情報が視覚化され、支援者間の共有がしやすくなった
・支援パッケージによるPDCAサイクルを行うことで、支援計画や支援手順書の作成と見直しにつながった
等の効果があった。
これらの結果より、強度行動障害の状態にある者への支援において支援パッケージの活用が効果的であることが確認できた。
 一方、今後の課題として、強度行動障害支援におけるICFシステムの記入内容の検討、事業所におけるICT活用環境の整備、パッケージを活用した他機関との共有事例の試行の必要性等が考えられた。また、パッケージを支援現場で活用していくためには、事業所全体の取り組み、事業所内で推進していく中心人物の存在、パッケージの導入効果を含めたわかりやすい資料の必要性等が重要であると考えられた。
結論
一次調査、二次調査の結果より、ICFを活用することで対象者の全体的な理解と情報の整理、ICTを活用することで効率的な記録と分析、支援者の負担の軽減などに効果があり、強度行動障害PDCA支援パッケージを活用することで効果的な情報収集と事業所の支援者間での情報共有、支援計画の作成と見直しの実践などに有効であることが確認できた。この結果を踏まえて、強度行動障害PDCA支援パッケージ(「行動と環境の包括的アセスメントによる環境調整支援パッケージ」)を完成させた。
一方で、本研究で活用したICFシステムやObservationsの使い勝手、事業所でのICT環境の整備、強度行動障害PDCA支援パッケージの周知、学習の機会の必要性などの課題も明らかになった。今後も支援現場での試行と改善に向けた取り組みが求められる。

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
その他
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202118011B
報告書区分
総合
研究課題名
強度行動障害者支援に関する効果的な情報収集と関係者による情報共有、支援効果の評価方法の開発のための研究
課題番号
20GC1005
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
日詰 正文(独立行政法人 国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 総務企画局研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 安達 潤(北海道教育大学旭川校教育学部障害児臨床教室)
  • 井上 雅彦(鳥取大学 大学院医学系研究科 臨床心理学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在の支援現場における強度行動障害者支援の課題には、「問題となっている行動の背景要因を見つけることが難しいこと」、「チームで計画・モニタリングを行うための人材確保が難しいこと」の2点がある。その結果、行動の背景が特定できず過剰な拘束や投薬で対処することや、一部の事業所や職員のみへの負担が集中する状況が生じている。本研究では、この2つの課題を解決するためには「狭い範囲の情報だけで背景要因を見つけようとしない」「事業所内だけでなく地域の協力者を含めたチームで取り組む」ことが必要になると考え、全国の支援現場での実装につながるモデルを開発することを目的とした。
研究方法
1年目(令和2、2020年度)は、以下3つの調査・研究を行った。
(1)強度行動障害者支援について、本研究の目的とする効果的なアセスメント、記録、情報収集、情報共有などに関する先行研究を把握することを目的として、「アセスメント」「記録」、「ICF」、「ICT」などをキーワードとした文献調査を実施した。
(2)強度行動障害者支援の現場において行っている「背景要因の分析」のために行っている「アセスメント」「記録」「情報共有の方法」の現状を把握することを目的として、強度行動障害者支援を行っている事業所へのヒアリング調査を実施した。
(3)調査1,2を通じて把握した内容を基に、支援現場で実施しやすいパッケージを開発することを目的として、運用マニュアルの検討を行った。
2年目(令和3、2021年度)は、以下2つの調査・研究を行った。
(4)強度行動障害PDCA支援パッケージの効果や課題を把握することを目的として、強度行動障害者支援に取り組んでいる事業所14カ所を対象に支援現場での試行と意見収集のための調査を行った。
(5)強度行動障害PDCA支援パッケージの効果や課題を把握することを目的として、「実践検討・意見交換会」に参加した強度行動障害者支援に取り組んでいる事業所29カ所を対象に支援現場での試行と意見収集のための調査を行った。
結果と考察
(1)強度行動障害者支援に関して、特に本研究に関わる「アセスメント」や「記録」、「ICF」、「ICT」などは先行研究が少ないが、対象を発達障害者や知的障害者に広げると実践事例の報告等見られることがわかった。先行研究で把握したICFの共通言語としての利点は、強度行動障害者支援を行っている事業所内外の関係者間における効果的な情報共有においても有用であると考えられた。ICTにおいては、アプリを活用した記録の有効性を把握できた。
(2)各事業所が行っている記録方法として、①アセスメント、②日常の記録、③臨時の記録、の3つに整理できた。各方法の課題点として、①事業所内外との円滑な情報共有、②支援への効果を感じづらく負担感があること、③支援しながらの正確な記録や分析時間がとれず有効的な活用ができていないこと等があげられた。これら課題の解決策としてICFや先行研究で把握したICT(Observations等)の活用が有効であると考えられた。
(3)上記(1)(2)の結果をもとに、ICFとICTについて先進的に取り組み一定の効果を確認できているツールを試行的に導入した運用マニュアル案を作成した。
(4)強度行動障害PDCA支援パッケージ全体の評価として、アンケート回答者の84.2%から効果的との回答を得られた。強度行動障害の状態にある者への支援において課題となっている「目に見えにくい障害特性や強み、環境要因等の包括的な情報収集」や「収集した記録の分析と関係者間での情報共有」などについて改善が期待できるツールとして、支援パッケージが有用であると考えられた。
(5)強度行動障害PDCA支援パッケージ全体の評価として、アンケート回答者の76.0%から効果的との回答を得られた。今後パッケージを支援現場で有効的に活用していくためには、事業所全体の取り組み、事業所内で推進していく中心人物の存在、パッケージの導入効果を含めたわかりやすい資料等の必要性があげられ、継続的な試行と検討が必要であると考えられた。
結論
本研究において、最終的な強度行動障害PDCA支援パッケージ(「行動と環境の包括的アセスメントによる環境調整支援パッケージ」)を完成させた。
強度行動障害PDCA支援パッケージは「強度行動障害の状態にある者の全体的な理解と情報の整理」、「効率的な記録と分析」、「支援計画の作成と見直し」などに効果があると考えられた。一方で、本研究で活用したICFシステムやObservationsの使い勝手、事業所でのICT環境の整備、強度行動障害PDCA支援パッケージの周知、学習の機会の必要性などの課題も明らかになった。今後も支援現場での試行と改善に向けた取り組みが求められる。

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202118011C

収支報告書

文献番号
202118011Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,000,000円
(2)補助金確定額
4,263,680円
差引額 [(1)-(2)]
736,320円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,750,790円
人件費・謝金 499,700円
旅費 0円
その他 1,013,190円
間接経費 1,000,000円
合計 4,263,680円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-06-12
更新日
-