青年期・成人期の自閉スペクトラム症および注意欠如多動症の社会的課題に対応するプログラムの開発と展開

文献情報

文献番号
202118008A
報告書区分
総括
研究課題名
青年期・成人期の自閉スペクトラム症および注意欠如多動症の社会的課題に対応するプログラムの開発と展開
課題番号
20GC1001
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
太田 晴久(昭和大学 発達障害医療研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 岩波 明(昭和大学医学部精神医学教室)
  • 中村 暖(昭和大学 医学部精神医学講座)
  • 横井 英樹(公益財団法人神経研究所 研究部)
  • 五十嵐 美紀(公益財団法人神経研究所 研究部)
  • 水野 健(公益財団法人神経研究所 研究部)
  • 小峰 洋子(聖心女子大学 現代教養学部)
  • 加藤 進昌(公益財団法人 神経研究所 研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
4,618,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
青年期・成人期の発達障害、特に自閉スペクトラム症と注意欠如多動症の支援ニーズは高い。しかしながら、薬物治療の効果は限定的であり、ショート・ケアプログラムなどの心理社会的治療が必要となる。
我々は青年期・成人の自閉スペクトラム症(以下、ASD)に対するショート・ケアプログラム(全20回)を開発・実施してきた。ASDプログラムが当事者の社会参加に寄与する中核的な要因の一つは、自分と似た仲間と出会い助け合えるというピアサポート効果にあるのではないかと考えている。本研究ではASDショート・ケアプログラムおよびOB会での実践を基に、ピアサポートを活用したプログラム(以下、ピアサポートプログラム)を開発・実施し、支援者向けのマニュアルを作成する。それにより、ASDプログラム修了後の継続的な支援の受け皿の拡充を目指す。
ADHDに関しては、昭和大学附属烏山病院で、デイケアにおいて体系化されたADHD専門プログラム(全12回)を実施している。専門プログラムの参加により障害特性に対する自己理解が促進され、障害特性の軽減、社会的能力の向上が得られている。しかし、専門プログラムを実施している施設はごくわずかである。本研究では、一般の医療機関でも広く実施可能な汎用ADHDプログラムおよび実施マニュアルを作成することにより、ADHDに対して心理社会的支援を受ける機会を増やすことを目指す。
研究方法
ASDに関しては、全5回のピアサポートプログラムを作成した。作成したプログラムを昭和大学および小石川東京病院において実施し、効果検証を行った。効果検証には、CSQ、STAI、GSES、WHOQOL26、SASS、SFS、GHQ‐12、CSQ-8Jを使用し、プログラム参加群にはプログラム前後に質問紙を実施、対照群(プログラムに参加していないASD)には同期間を開け前後に質問紙調査を実施した。
ADHDに関しては、R2年度で実施した現行プログラム参加者、実施スタッフに対する調査および協力施設の意見も踏まえ汎用性プログラムおよびマニュアル類を作成した。プログラムの実施およびCSQ-8 Jにおいて参加者の満足度、実施スタッフからのヒアリングを行い最終版の汎用性ADHD 専門プログラムを完成させた。
結果と考察
ASDに関しては、2機関でプログラムには31名、対照群として22名参加した。プログラム参加群において、QOLが有意に向上、CSQで向上する傾向が認められ、それぞれ対照群との間に、有意な交互作用(反復測定二元配置分散分析)が示された。CSQ-8Jの得点平均は25.4点であった。プログラム修了後、昭和大学では14名中5名が院内、4名が外部の自助活動につながり、小石川東京病院ではプログラム修了者15名が当事者主体で行う自助活動プログラムを院内で開始している。このことは、ピアサポートプログラムの参加により、自助活動への自信やモチベーションが惹起されていることを示唆しており、コミュニケーション技能の自己評価(CSQ)やQOLの向上はその現れであると推察される。また、第8回成人発達障害支援学会において、「ASDのピアサポート~治す医療から治し支える医療へ~」と題したワークショップを開催した。プログラムのデモンストレーションを行い、高い満足度(平均93.1点/100点)とともに、56%が実施を検討していた。
ADHDに関しては、全5回のプログラムを作成した。時間配分はADHDの特性や実施機関の都合を考慮し、コアコンテンツを120分とし、前後30分をウォーミングアップやアフターフォローと位置づけることとした。進めやすさという点においては、全てをディスカッションにはせず、コアコンテンツの前半は医師やコメディカルによる講義、後半をディスカッションとした。プログラムのマニュアルに加え、映像資料を作成した。作成したプログラムおよびマニュアルを用いて実施した結果、患者満足度はCSQ-8Jは平均24.0点であった。具体的な運営方法を示したマニュアル、映像資料により、実施者の経験に左右されないため取り組みやすさに加え、均一の質のサービスの提供につながることが期待できる。
結論
ASDでは、ピアサポートプログラムにより、支援の受け皿が広がるのと同時に、当事者の自主的な活動をもとにした継続的な支援も担保することが可能となる。ADHDでは、汎用性のあるプログラムにより、心理社会的支援を受ける機会を増やすことと、地域に関係なく均一なサービスを受けることが出来るようになり、多くのADHD当事者の社会適応の改善に寄与するものと考えられる。本研究により、青年期、成人期のASDおよびADHDが置かれている現状の課題に対応するプログラムが作成できたと考えている。

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202118008B
報告書区分
総合
研究課題名
青年期・成人期の自閉スペクトラム症および注意欠如多動症の社会的課題に対応するプログラムの開発と展開
課題番号
20GC1001
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
太田 晴久(昭和大学 発達障害医療研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 岩波 明(昭和大学医学部精神医学教室)
  • 中村 暖(昭和大学 医学部精神医学講座)
  • 横井 英樹(公益財団法人神経研究所 研究部)
  • 五十嵐 美紀(公益財団法人神経研究所 研究部)
  • 水野 健(公益財団法人神経研究所 研究部)
  • 小峰 洋子(聖心女子大学 現代教養学部)
  • 加藤 進昌(公益財団法人 神経研究所 研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は青年期・成人のASDに対するショート・ケアプログラム(全20回)を開発・実施してきた。ASDプログラムが当事者の社会参加に寄与する中核的な要因の一つは、自分と似た仲間と出会い助け合えるというピアサポート効果にあるのではないかと考えている。本研究ではASDショート・ケアプログラムおよびOB会での実践を基に、ピアサポートを活用したプログラム(以下、ピアサポートプログラム)を開発・実施し、支援者向けのマニュアルを作成する。それにより、ASDプログラム修了後の継続的な支援の受け皿の拡充を目指す。
ADHDに関しては、昭和大学附属烏山病院では、デイケアにおいて体系化されたADHD専門プログラム(全12回)を実施している。専門グループの参加により障害特性に対する自己理解が促進され、障害特性の軽減、社会的能力の向上が得られている。しかし、専門プログラムを実施している施設はごくわずかである。本研究では、一般の医療機関でも広く実施可能な汎用ADHDプログラムおよび実施マニュアルを作成することにより、ADHDに対して心理社会的支援を受ける機会を増やすことを目指す。
研究方法
ASDに関しては、当事者に対するヒアリンググループにおける調査(18時間・延べ参加者179名)とアンケート調査をもとに、ピアサポートプログラムを作成した。作成したプログラムを昭和大学および小石川東京病院において実施し、効果検証を行った。効果検証には、CSQ、STAI、GSES、WHOQOL26、SASS、SFS、GHQ‐12、CSQ-8Jを使用し、プログラム参加群にはプログラム前後に質問紙を実施、対照群(プログラムに参加していないASD)には同期間を開け前後に質問紙調査を実施した。
ADHDに関しては、過去の現行プログラム参加者を対象に、診療録情報を分析した。そのうち20例を対象にヒアリング調査又はアンケートを行った。実施スタッフおよび協力施設の意見も踏まえ、汎用性プログラムおよびマニュアル類を作成した。プログラムの実施およびCSQ-8Jを用いた参加者の満足度調査および、実施スタッフからのヒアリングを行い、最終版の汎用性ADHD専門プログラムを完成させた。
結果と考察
ASDに関しては、「聴く」「話す」などの具体的なスキルトレーニングに加え、安心してグループに参加するためのルールやマニュアルの必要性が示された。それらをもとに、全5回のプログラムを作成し、効果を検証した。プログラムには2機関で31名、対照群として2機関で22名参加した。プログラム参加群において、QOLが有意に向上、CSQで向上する傾向が認められ、それぞれ対照群との間に、有意な交互作用(反復測定二元配置分散分析)が示された。プログラム修了後、昭和大学では14名中5名が院内、4名が外部の自助活動につながり、小石川東京病院ではプログラム修了者15名が当事者主体で行う自助活動プログラムを院内で開始している。このことは、ピアサポートプログラムの参加により、自助活動への自信やモチベーションが惹起されていることを示唆しており、コミュニケーション技能の自己評価(CSQ)やQOLの向上はその現れであると推察される。また、第8回成人発達障害支援学会において、「ASDのピアサポート~治す医療から治し支える医療へ~」と題したワークショップを開催した。プログラムのデモンストレーションを行い、高い満足度(平均93.1点/100点)とともに、56%が実施を検討していた。
ADHDに関しては、就労者が多いこと、AQ得点が高いこと、プログラム参加までの期間が長いこと等が調査から示された。これらを踏まえ、全5回のプログラムを作成した。時間配分はADHDの特性や実施機関の都合を考慮し、コアコンテンツを120分とし、前後30分をウォーミングアップやアフターフォローと位置づけることとした。進めやすさという点から、全てをディスカッションにはせず、コアコンテンツの前半は医師やコメディカルによる講義、後半をディスカッションとした。プログラムのマニュアルに加え、映像資料を作成した。作成したプログラムおよびマニュアルを用いて実施した結果、患者満足度はCSQ-8Jは平均24.0点であった。具体的な運営方法を示したマニュアル、映像資料により、実施者の経験に左右されないため取り組みやすさに加え、均一の質のサービスの提供につながることが期待できる。
結論
ASDでは、ピアサポートプログラムにより、支援の受け皿が広がるのと同時に、当事者の自主的な活動をもとにした継続的な支援も担保することが可能となる。ADHDでは、汎用性のあるプログラムにより、心理社会的支援を受ける機会を増やすことと、地域に関係なく均一なサービスを受けることが出来るようになり、多くのADHDの当事者の社会適応の改善に寄与すると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202118008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 ASDに関しては、ピアサポートプログラムの効果について、対照群との比較を行い、QOLとCSQにおいて、統計学的に有意な変化が認められた。プログラム参加群と非参加群(対照群)の選別において、ランダム化はしていないが、両群で年齢、性別、AQ、FIQに関して統計学的な有意差はみられなかった。
 ADHDに関しては、テーマ毎の満足度をCSQ-8Jでの評価、参加者やスタッフへの詳細な調査にて、汎用性ADHDプログラムの作成を行なった。
臨床的観点からの成果
 ASDに関しては、ピアサポートプログラム参加後の転帰調査にて、多くが院内、院外の自助的な活動に繋がっていた。これは、コミュニケーションが不得手なASDが、プログラムの参加により、自助活動への自信やモチベーションが惹起されたことが推察される。
 ADHDに関しては、プログラム回数を5回に短縮して利便性を高めたが、患者満足度は比較的(CSQ-8J、平均24.0点)良好であった。
ガイドライン等の開発
 ASDに関しては、ピアサポートプログラムのマニュアルを作成した。ADHDに関しては、汎用性ADHDプログラムのマニュアルに加え、要望が高かった映像資料を作成した。マニュアルにより、教示の仕方、プログラムの進め方、予想される困難さへの対応策を示した。映像資料により、文字だけでは伝わりにくいニュアンスや雰囲気が理解しやすくなった。これらにより、他機関でのプログラム実施可能性を高め、質の担保に繋がることが期待できる。
その他行政的観点からの成果
ASDに関しては、特性は生涯にわたり持続することが想定され、医療のみならず、社会全体での支援が求められる。ピアサポートを活用したプログラムにより、支援の受け皿が広がるのと同時に、当事者の自主的な活動をもとにした継続的な支援も担保することが可能となる。
 ADHDに関しては、一般の医療機関で実施しやすい汎用ADHDプログラムにより、心理社会的支援を受ける機会を増やし、多くの当事者の社会適応に寄与すると考えられる。
その他のインパクト
ASDに関しては、第8回成人発達障害学会において、ピアサポートプログラムのワークショップを実施し高い満足度を得た。R4年度においては、昭和大学と小石川東京病院で3つの当事者グループが継続され、外部の自助グループとの相互交流も生じている。ADHDに関しては、第13回日本ADHD学会において、シンポジウムにてプログラムに関する報告をしている。R4年度には、日本成人期発達障害臨床医学会を通じてADHD診療を行っている病院機関へ紹介、資料配布を行った。また、昭和大学にてプログラムを4期完了している。

発表件数

原著論文(和文)
26件
原著論文(英文等)
20件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
14件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
23件
講演・研修会23件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-05-24
更新日
2024-03-26

収支報告書

文献番号
202118008Z