地域特性に対応した精神保健医療サービスにおける早期相談・介入の方法と実施システム開発についての研究

文献情報

文献番号
202118005A
報告書区分
総括
研究課題名
地域特性に対応した精神保健医療サービスにおける早期相談・介入の方法と実施システム開発についての研究
課題番号
19GC1015
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
根本 隆洋(東邦大学 医学部精神神経医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 徹男(秋田県精神保健福祉センター)
  • 田中 邦明(東邦大学医学部精神神経医学講座)
  • 藤井 千代(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 辻野 尚久(東邦大学医学部精神神経医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
10,842,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦各地において「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」構築に向けての取り組みが進められている。本システムを持続可能(sustainable)なものとするには、早期相談・介入を当初から組み入れる必要がある。早期相談・介入の社会実装においては、都市への人口や機能の集中、地方の人口や産業の減少、少子高齢化、増加する在留外国人、経済的格差などの、「地域差・地域特性」を考慮した提案が不可欠である。
本研究の目的は、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの理念のもとで、わが国の保健医療福祉体制および行政システムの中で実施可能な、メンタルヘルスや精神疾患の早期相談・支援の仕組みを提案することである。
研究方法
本研究をMEICIS(メイシス、Mental health and Early Intervention in the Community-based Integrated care System)と名付け研究・実践を行ってきた。本邦の地域特性の典型と考えられる4か所のモデル地域(京浜地区[大田区、横浜市鶴見区]、秋田県、東京都足立区、埼玉県所沢市)を設定し、その特性を踏まえた具体的な早期相談・支援の体制の在り方を検討し、社会実装の可能性が高く政策提言につながる取り組みを実践した。また、コロナ禍において、ICT(情報通信技術)を利用した取り組みを一層推し進めた。
結果と考察
1.「多文化共生ボーダレスモデル」(京浜地区):今後再び増加が見込まれる在留外国人を対象に、早期相談・支援を検討した。2021年度は、引き続き在留外国人を対象としたメンタルヘルス相談会を実施し、延べ142件の相談が寄せられ、世代によって抱える悩みに特徴があることが明らかとなった。また、日系ブラジル人高校生および日本人高校生を対象として、精神的健康度などに関するアンケート調査を行い、日系ブラジル人高校生は精神的健康度が低く、援助希求も乏しいことが示された。相談会を通して、全国的な医療通訳の不足や地域医療機関における医療通訳の認知度の低さ、地域との関わりは少なく社会資源も周知されていないことなどが明らかとなった。
2.「地方過疎地ICTモデル」(秋田県):広大な面積を擁し過疎と人口減少に悩む秋田県のような地方で「にも包括ケアシステム」を構築することは容易なことではない。2021年度は、人材育成・体制整備事業を「保健所保健師エンパワメント事業」と名づけ実施した。結果として、ツールの提供、実践研修・ワークショップの開催、出張事例検討会の開催、センターと保健所をつなぐICTシステムの導入など、さまざまな手段を用いたボトムアップ式の本事業は、相談支援実績を確実に向上させることが示された。また、遠隔精神保健の試みであるAkita Mental health ICT Network (AMIN)を活用し、その有用性を示した。
3.「大都市対面型モデル」(東京都足立区):2019年7月足立区に、精神疾患の予防や軽症化を目指し、若年者に向けた早期相談・支援窓口「ワンストップ相談センターSODA」を開始した。2021年度は377名の新規の相談が入り、延べ3638回の支援対応を実施した(2019年7月の開設から2022年3月までの間で909名の相談、延べ8870回の支援対応を実施)。相談利用者から高い満足度が得られ、また地域の関係機関からも高いニーズが認められた。相談・支援の実施により、全般的機能に対して一定の改善効果が示唆された。
4.「都市近郊アウトリーチモデル」(埼玉県所沢市):実施中の精神障害者アウトリーチ支援事業は、多職種チームで利用者のニーズに合わせて多様な支援を展開すること可能である。新規登録者44名について、2019年からの3年間の利用状況の変化を検討したところ、「ひきこもり」状況については、59%から18%に減少し、「治療中断・未治療」状況については、59%から18%に減少、「社会的役割継続の問題」は84%から57%に減少していた。サービスの新規導入時は心理社会的背景を含めニーズアセスメントを徹底し、チーム内で全ケースレビューを行い、積極的な連携を行うことで、望ましい転帰につながったものと考えられた。
結論
「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」が、地域において有用で住民の理解・支持を得た機能と仕組みになるためには、各地域の特性を十分に考慮した早期相談・支援体制を実装することが必要である。同システムは、国連がSDGsに掲げる「誰一人取り残さない」という理念を共有するものであり、地域特性とも関連する多様(diverse)なニーズに応え、利用しやすい(accessible)システムを、高い有効性と有用性が期待される早期段階をその中心に据えて構築することが不可欠である。

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202118005B
報告書区分
総合
研究課題名
地域特性に対応した精神保健医療サービスにおける早期相談・介入の方法と実施システム開発についての研究
課題番号
19GC1015
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
根本 隆洋(東邦大学 医学部精神神経医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 徹男(秋田県精神保健福祉センター)
  • 田中 邦明(東邦大学医学部精神神経医学講座)
  • 藤井 千代(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 辻野 尚久(東邦大学医学部精神神経医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦各地において「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」構築に向けての取り組みが進められている。本システムを持続可能(sustainable)なものとするには、早期相談・支援を当初から組み入れる必要がある。早期段階での対応により精神疾患の発症予防や軽症化が期待され、また罹患した際においても早期の社会参加や社会復帰が可能となる。
早期相談・支援の社会実装においては、都市への人口や機能の集中、地方の人口や産業の減少、少子高齢化、増加する在留外国人、経済的格差などの、「地域差・地域特性」を考慮した提案が不可欠である。
本研究の目的は、同システムの理念のもとで、わが国の保健医療体制および行政システムの中で実施可能な、メンタルヘルスや精神疾患の早期相談・支援の仕組みを、実践を通じて提案することである。
研究方法
本研究をMEICIS(メイシス、Mental health and Early Intervention in the Community-based Integrated care System)と名付け研究・実践を行った。本邦の地域特性の典型と考えられる4か所のモデル地域を設定した。京浜地区(大田区、横浜市鶴見区)サイトは「ボーダレスモデル」、秋田県サイトは「地方過疎地ICTモデル」、足立区サイトは「大都市対面型モデル」、所沢市サイトは「都市近郊アウトリーチモデル」と位置付けた。
結果と考察
京浜地区サイトでは、ボーダレスに関わる課題として在留外国人を取り上げ、在留ラテンアメリカ人を対象とした心理相談会を全国的にも開催した。相談者数は延べ142名にのぼった。8割の相談者が通訳を要した。さらに、在留日系ブラジル人高校生を対象に、異文化適応についての調査を行った。ブラジル人生徒群は同地域の日本人生徒群と比較して、有意に精神的健康状態が低下していた。また、地域ネットワークの有用性を検証する一環として、COVID-19流行前と流行中に出産した女性を対象とした、メンタルヘルス比較調査を行った。その結果、流行中に出産した女性の不安が有意に高く、社会的サポートへのアクセス困難が考えられた。さらに、大田区の相談機関検索サイト「MEICISメンタル相談室」を作成し公開した。親しみやすいイラストやデザインを導入するとともに、ニーズに対応できる13の相談カテゴリーを設定した。同サイトには、妊産婦がセルフチェックして最も適切なサポートを選択できる、チャットボットを活用したシステムも開発し備え付けた。
秋田県サイトでは、「アルコール依存回復支援プログラム」の開発、「依存症支援者向けガイドブック」や「ひきこもり相談支援ガイドブック」の作成を行い、県精神保健福祉センターと県内保健所との連携を深めてきた。「保健所保健師エンパワメント事業」と名づけた人材育成・体制整備を行い、遠隔精神保健の取り組みであるAkita Mental health ICT Network(AMIN, アミン)も構築した。様々な手段を用いたボトムアップ式の同事業は、保健所の相談支援実績を向上させた。個人情報保護に配慮し安全に遠隔事例検討会を行えるAMINは、同事業の推進に有用であった。
足立区サイトでは、若年者に特化した早期相談・支援窓口「SODA」を開設し、地域のニーズを収集しながら実践や普及啓発活動を継続した。地域の様々な機関から紹介され、909名の相談、延べ8870回の支援対応を行った。相談事業の効果について、一定期間にわたる臨床型ケースマネジメントを実施した群において、全体的機能尺度得点が有意に改善した。SODAの取り組みは、諸外国で有用性が示されている「ワンストップ・ケア」の本邦における新たな試みとして注目を集め、同サービスを取り入れる自治体もみられている。
所沢市サイトでは、多職種チームによるアウトリーチ事業を継続し発展させてきた。3年間の利用状況の変化を検討したところ、「ひきこもり」状況は59%から18%に減少、「治療中断・未治療」状況は59%から18%に減少、「社会的役割継続の問題」は84%から57%に減少した。
結論
「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」が、地域において有用で住民の理解・支持を得た機能と仕組みになるためには、各地域の特性を十分に考慮し、誰にとっても自分事であるメンタルヘルスに関する相談や、精神疾患に対する早期相談・支援の体制を実装することが不可欠である。同システムは、国連がSDGsに掲げる「誰一人取り残さない」という理念を共有するものである。地域特性とも関連する多様(diverse)なニーズに応え、そして誰もが利用しやすい(accessible)システムを、高い有効性と有用性が期待される精神保健医療の早期段階をその標的の中心に据えて、今後構築していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202118005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築とそれを持続可能(sustainable)なものとするには、早期相談・支援サービスの導入と実装が不可欠であることを示した。豪州のシステムも参考にした、研究モデル地区北千住での若者向けワンストップ相談センター「SODA」の運営を通じて、同様のサービスのニーズの高さと効果を示し、精神保健医療福祉分野のみならず、行政・民間を含めた多領域に跨る対応を可能とする施策の必要性を示した。
臨床的観点からの成果
研究モデル地区秋田県サイトでは、Akita Mental health ICT Network(AMIN, アミン)と名付けた、県精神保健福祉センターと県内保健所を結ぶICTネットワークを構築し、これを用いた遠隔精神保健の取り組みを行った。保健所保健師の人材育成・体制整備などの技術支援を行うことで、保健所の精神保健相談・支援実績を向上させた。個人情報保護に配慮した遠隔事例検討を安全に実施するシステムの構築が非常に有用であることが示された。
ガイドライン等の開発
「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」における早期相談・支援のための手引き Version 1.1を作成した。
その他行政的観点からの成果
本研究事業における足立区サイトでの取り組みが、埼玉県川口市の「若年者早期相談・支援事業」に採用された。
その他のインパクト
1. 研究HP「MEICIS」: https://meicis.jp/; 2. 相談機関検索サイト「MEICIS相談室」: https://sodan.meicis.jp/; 3. コロナ禍におけるメンタルヘルスを考えるWeb市民公開講座 (2022.3.6); 4. NHK NEWS おはよう日本 (2021.4.3); 5. フジテレビ Mr.サンデー (2021.10.10); 6. m3.com地域版 (2022.3.25); 7. m3.com地域版 (2022.4.1)

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
21件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
24件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
1件
その他成果(施策への反映)
1件
ガイダンス作成1件
その他成果(普及・啓発活動)
8件
市民公開講座1件、マスコミ発表5件、ホームページ作成2件

特許

特許の名称
商標:SODA
詳細情報
分類:
特許番号: 登録第6409677号
取得年月日: 20210701
国内外の別: 日本

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
内野敬, 小辻有美, 飯田さとみ, 他
若年者に向けたワンストップ相談センター「SODA」の試み―これまでの精神科早期介入から地域における早期相談・支援へ―
精神神経学雑誌 , 123 (3) , 126-137  (2021)
原著論文2
Takubo Y, Nemoto T, Iwai M, et al.
Demographic and clinical characteristics of foreign nationals accessing psychiatric services in Japan: a multicentre study in a metropolitan area
BMC psychiatry , 20 (1) , 569-  (2020)
10.1186/s12888-020-02951-z
原著論文3
Takubo Y, Tsujino N, Aikawa Y, et al.
Psychological impacts of the COVID-19 pandemic on one-month postpartum mothers in a metropolitan area of Japan
BMC Pregnancy and Childbirth , 21 (1) , 845-  (2021)
10.1186/s12884-021-04331-1
原著論文4
Uchino T, Kotsuji Y, Kitano T, et al.
An integrated youth mental health service in a densely populated metropolitan area in Japan: Clinical case management bridges the gap between mental health and illness services
Early Intervention in Psychiatry , 16 , 568-575  (2022)
10.1111/eip.13229

公開日・更新日

公開日
2023-05-24
更新日
-

収支報告書

文献番号
202118005Z