再犯防止推進計画における薬物依存症者の地域支援を推進するための政策研究

文献情報

文献番号
202118004A
報告書区分
総括
研究課題名
再犯防止推進計画における薬物依存症者の地域支援を推進するための政策研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
19GC1014
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
松本 俊彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 嶋根 卓也(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
  • 白川 教人(横浜市こころの健康相談センター)
  • 森田 展彰(国立大学法人筑波大学大学院人間総合科学研究科)
  • 引土 絵未(学校法人日本女子大学 人間社会学部社会福祉学科)
  • 高橋 康史(名古屋市立大学大学院人間文化研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
15,859,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の目的は以下の2つの課題を解決することで、再犯防止推進法制定下の薬物依存症者地域支援体制の構築に資することである。その課題とは、1つは、薬物依存症支援に係る中長期的予後の実態を把握することであり、もう1つは、初期介入からリハビリ期間を経て社会復帰に至るまでの、回復ステージに応じた切れ目のない支援体制を構築することである。
研究方法
本研究は、以下の6つの分担研究課題から構成される。1) 「保護観察の対象となった薬物依存症者のコホート調査システムの開発とその転帰に関する研究」(研究分担者: 松本俊彦)、2) 「民間支援団体利用者のコホート調査と支援の課題に関する研究」(研究分担者: 嶋根卓也)、3) 「薬物依存症者に対する地域支援体制の実態と均てん化に関する研究」(研究分担者: 白川教人)、4) 「更生保護施設における薬物依存者支援の課題と地域連携体制のあり方に関する研究」(研究分担者: 森田展彰)、5) 「薬物依存症者への就労支援のあり方に関する研究」(研究分担者: 引土絵未)、6)「司法と福祉の連携による薬物依存症者への地域支援とその回復過程に関する質的研究」(研究分担者:髙橋康史)。
結果と考察
1) 薬物問題を抱える保護観察対象者のコホート調査(VBP)は、今年度も20箇所の精神保健福祉センターの管轄エリアで継続したが、コロナ禍での保護観察所でのリクルート率低下への対策として、 2021年10月より刑務所釈放前教育時でのリクルート情報の提供を開始し、「矯正施設―保護観察―地域精神保健福祉」連携の礎石を築いた。
2) 「ダルク追っかけ調査」においては、コホート全体の50%について5年後転帰を追跡することに成功し、その高い断薬継続率が確認された。
3) 精神保健福祉センターの調査からは、薬物依存症の相談件数の増加、薬物依存症回復プログラムの普及が確認されるとともに、精神保健福祉センター主催の生活保護担当者研修を通じて、支援力の向上、ならびに薬物依存症者に対する忌避的感情の低減が進みつつあることが明らかにされた。
4) 更生保護施設における調査からは、SMARPP実施を通じて職員の意識改革が起こっている実態を確認するとともに、地域連携に資するパンフレットの開発と配布を行った。
5) 民間回復施設の就労支援に関する調査からは、これまでの実態調査と海外での情報収集の知見を踏まえ、「薬物関連問題をもつ人の就労ワークブック」を開発した。
6) 地域生活定着支援センター利用者の調査からは、薬物依存症に限局しない包括的・総合的支援の必要性、ならびに保護観察対象者に対するSMARPPの好ましい機能が明らかにされた。
結論
本研究班では、3年間の活動を通じて、エビデンス創出とともに、研究活動そのものや、研究の一環として実施される研修会や意見交換会を通じて、薬物依存症者の地域支援体制の構築を推進した。本研究班終了後も、いくつかの分担課題については研究活動、研修会、意見交換会を継続し、薬物依存症者の地域支援体制の構築を推進する予定である。

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202118004B
報告書区分
総合
研究課題名
再犯防止推進計画における薬物依存症者の地域支援を推進するための政策研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
19GC1014
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
松本 俊彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 嶋根 卓也(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
  • 白川 教人(横浜市こころの健康相談センター)
  • 森田 展彰(国立大学法人筑波大学大学院人間総合科学研究科)
  • 引土 絵未(学校法人日本女子大学 人間社会学部社会福祉学科)
  • 高橋 康史(名古屋市立大学大学院人間文化研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
研究分担者 引土絵未の所属機関においては、以下の通りである。 令和元年度~令和2年度:国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部 令和3年度:学校法人日本女子大学 人間社会学部社会福祉学科

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の目的は以下の2つの課題を解決することで、再犯防止推進法制定下の薬物依存症者地域支援体制の構築に資することである。その課題とは、1つは、薬物依存症支援に係る中長期的予後の実態を把握することであり、もう1つは、初期介入からリハビリ期間を経て社会復帰に至るまでの、回復ステージに応じた切れ目のない支援体制を構築することである。
研究方法
本研究班では、上記の目的を達成するために、以下の6つの分担研究課題を立てて研究活動を実施した。1) 「保護観察の対象となった薬物依存症者のコホート調査システムの開発とその転帰に関する研究」(研究分担者: 松本俊彦)、2) 「民間支援団体利用者のコホート調査と支援の課題に関する研究」(研究分担者: 嶋根卓也)、3) 「薬物依存症者に対する地域支援体制の実態と均てん化に関する研究」(研究分担者: 白川教人)、4) 「更生保護施設における薬物依存者支援の課題と地域連携体制のあり方に関する研究」(研究分担者: 森田展彰)、5) 「薬物依存症者への就労支援のあり方に関する研究」(研究分担者: 引土絵未)、6)「司法と福祉の連携による薬物依存症者への地域支援とその回復過程に関する質的研究」(研究分担者:髙橋康史)。
結果と考察
1) 薬物問題を抱える保護観察対象者のコホート調査(VBP)では、順調に対象者と調査実施エリアを拡大し、初年度17箇所であった精神保健福祉センターは最終年度までに20箇所まで拡大し、2017年3月から2021年12月末までに、20箇所の精神保健福祉センターから計642名の保護観察対象者が調査に参加した。研究活動の結果、VBP参加を通じて、国内各地に精神保健福祉センターを起点とした保護観察対象者の地域支援体制を構築することができた。途中、コロナ禍による影響で保護観察所におけるリクルート率が低下した事を受けて、最終年度より刑務所釈放前教育時でのリクルート情報の提供を追加し、矯正―保護―地域精神保健福祉をつなぐ連携体制を築いた。
2) 「ダルク追っかけ調査」では、初年度は、計457名から同意を再取得し、薬物依存症者を対象とする縦断研究としては依然として大規模なコホートを維持できていることが確認された。2年度も、計457名から同意を再取得し、薬物依存症者を対象とする縦断研究としては国内最大規模を維持している。最終年度は、コホート全体の50%について5年後転帰を追跡することに成功し、その高い断薬継続率が確認された。
3) 精神保健福祉センターの調査からは、薬物依存症の相談件数の増加、薬物依存症回復プログラムの普及が確認されるとともに、精神保健福祉センター主催の生活保護担当者研修を通じて、支援力の向上、ならびに薬物依存症者に対する忌避的感情の低減が進みつつあることが明らかにされた。
4) 更生保護施設における調査を通じては、初年度は、同施設におけるかかわりによって、対象者が他者への信頼や自分への内省を高め、自主性を高めていることが明らかにされた。2年度は、刑の一部執行猶予制度」が対象者に好ましい意識変容を及ぼしている可能性、さらにはSMARPP実施を通じて職員の意識改革が起こっている実態が明らかにされた。最終年度は、SMARPP実施を通じて職員の意識改革が起こっている実態を確認するとともに、地域連携に資するパンフレットの開発と配布を行った。
5) 民間回復施設の就労支援に関する調査では、初年度は、物質使用障害に対する治療と職業訓練の統合システムの重要性が確認された。2年度は、テキストやワークブックなどによる構造的な就労支援プログラム開発の必要性と財政基盤の確保という課題が明らかにされた。最終年度は、これまでの実態調査と海外での情報収集の知見を踏まえ、「薬物関連問題をもつ人の就労ワークブック」を開発した。
6) 地域生活定着支援センター利用者の調査からは、初年度は、支援者がポジティヴ/ストレングスな視点から評価と介入を行うことが、薬物再使用の抑制に資する可能性が明らかにされた。2年度は、薬物依存症に限局しない包括的・総合的支援の必要性、ならびに保護観察対象者に対するSMARPPの好ましい機能が明らかにされた。最終年度は、薬物依存症に限局しない包括的・総合的支援の必要性、ならびに保護観察対象者に対するSMARPPの好ましい機能が明らかにされた。
結論
本研究班では、3年間の活動を通じて、エビデンス創出とともに、研究活動そのものや、研究の一環として実施される研修会や意見交換会を通じて、薬物依存症者の地域支援体制の構築を推進した。本研究班終了後も、いくつかの分担課題については研究活動、研修会、意見交換会を継続し、薬物依存症者の地域支援体制の構築を推進する予定である。

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-01-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202118004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
わが国には薬物依存症者に関する中長期的なコホート研究が存在せず、その意味で保護観察対象者、ならびにダルク利用者のコホート研究の学術的意義は高い。特に、前者の場合、「全部執行猶予」「仮釈放」「一部執行猶予」のいずれの保護観察対象者を追跡するので、保護観察制度の制度評価を行うことも可能である。
臨床的観点からの成果
3年間の研究活動により、本研究班は、地域において関連機関が連携しての薬物依存症者支援に資する包括的支援指針の開発、薬物依存症者の転帰調査システムの開発、ならびに、地域における薬物依存症者に対する保健福祉的支援の質の向上、ならびに、就労支援や更生保護施設における支援マニュアルの開発という目的を遂行することができた。
ガイドライン等の開発
3年間の研究期間を通じて、保護観察所および民間支援団体における薬物依存症者コホート調査の実施体制を構築した。さらに、各種調査を通じて、地域保健機関および自治体関係者、医療機関、保護観察所、民間支援団体、更生保護施設などの連携の実態、支援の課題を明らかにするとともに、支援の指針となるマニュアルを開発した。以上の研究知見を踏まえ、研究班活動の知見を踏まえ、「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」の課題、ならびに追記・補強すべき事項を整理し、提言としてまとめた。
その他行政的観点からの成果
本研究班は保護観察所、精神保健福祉センター、民間リハビリ施設、更生保護施設といった多機関による支援システムの構築ならびに多機関による合意形成を踏まえた支援指針を開発したという点でその行政的意義は高い。特に保護観察対象者のコホート研究は保護観察から地域の社会資源へのつなぎを促進する支援システムとして、将来の事業化が期待されるものである。なお、その成果は、2021年厚生労働省医薬生活食品局「大麻取締法等あり方検討会」、ならびに、2022年同局「大麻規制小委員会」において資料として引用された。
その他のインパクト
保護観察対象者のコホート研究は、2017年5月の治療的司法研究会の公開シンポジウム、ならびに2019年5月の刑法学会シンポジウムや発表され、法曹関係者からの注目を集めた。また、ダルク利用者コホート研究の成果は、ASK(アルコール問題を考える市民の会)の機関誌「Be!」(2019年5月号)にて取り上げられ、特集時が組まれた。また、保護観察対象者のコホート研究は、松本俊彦著「薬物依存症」(ちくま書房,2018)において、大きく取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
37件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
37件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
講演2件: 2021年精神神経学会の教育講演「最近の薬物関連精神障害の傾向と対策」、および、2022年成城大学治療的司法研究センター主催学生サポーター懇談会「臨床からみたTJ」

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
松本俊彦,高野歩,熊倉陽介 他
保護観察の対象となった薬物依存症者のコホート調査システムの開発:「Voice Bridges Project」
更生保護学研究 ,  (14) , 3-18  (2019)
原著論文2
片山宗紀,白川教人,藤城聡 他
専門家と薬物依存症当事者による協働的な研修が生活保護担当ケースワーカーの薬物依存症の支援態度に与える影響
日本アルコール関連問題学会雑誌 , 21 (2) , 54-59  (2019)
原著論文3
新田千枝,井ノ口恵子,他 森田展彰
刑の一部執行猶予制度下における薬物依存症者の地域支援-更生保護施設を中心とした意見交換会-その1-
日本アルコール・薬物医学会雑誌 , 54 (4) , 217-217  (2019)
原著論文4
井ノ口恵子,新田千枝,森田展彰 他
刑の一部執行猶予制度下における薬物依存症者の地域支援-更生保護施設を中心とした意見交換会-その2-
日本アルコール・薬物 医学会雑誌 , 54 (4) , 218-218  (2019)
原著論文5
1) Risa Yamada, Takuya Shimane, Ayumi Kondo et al
The relationship between severity of drug problems and perceived interdependence of drug use and sexual intercourse among adult males in drug addiction rehabilitation centers in Japan.
Subst Abuse Treat Prev Policy , 16 (1)  (2021)
10.1186/s13011-020-00339-6.
原著論文6
宇佐美貴士,熊倉陽介,高野歩,金澤由佳,松本俊彦
薬物犯罪による保護観察対象者の1年後転帰に関する検討:保護観察から地域精神保健的支援への架け橋「Voice Bridges Project」
日本アルコール・薬物医学会雑誌 , 57 (3) , 143-157  (2022)
原著論文7
Ayumi Takano, Kunihiko Takahashi, Tatsuhiko Anzai, Takashi Usami, Shiori Tsutsumi, Yuka Kanazawa, Yo
Predictors for recurrence of drug use among males on probation for methamphetamine use in Japan: a one-year follow-up study
Drug and Alcohol Dependence Reports  (2024)
https://doi.org/10.1016/j.dadr.2024.100316
原著論文8
堤史織,宇佐美貴士,高野歩,熊倉陽介,金澤由佳,武林亨,杉山大典,松本俊彦
薬物犯罪の更生保護施設利用者における健康格差
アルコール・薬物医学会雑誌 , 59 (3) , 53-66  (2024)

公開日・更新日

公開日
2024-03-18
更新日
2025-07-01

収支報告書

文献番号
202118004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
20,120,000円
(2)補助金確定額
20,118,000円
差引額 [(1)-(2)]
2,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,255,090円
人件費・謝金 7,626,535円
旅費 149,320円
その他 6,827,230円
間接経費 4,261,000円
合計 20,119,175円

備考

備考
収入の「(2)補助金確定額」は各研究分担者の補助金対象経費実支出額の1,000円未満を切り捨てた額を積み上げているのに対し、支出の「合計」は、各研究分担者の実数を積み上げているため差異が生じた。

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
-