認知症者に対する最適な医療・ケアのあり方を支援する神経心理検査等の評価法の幅広い利用に向けた指針策定に関する研究

文献情報

文献番号
202117010A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症者に対する最適な医療・ケアのあり方を支援する神経心理検査等の評価法の幅広い利用に向けた指針策定に関する研究
課題番号
21GB1004
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
大沢 愛子(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター リハビリテーション科部)
研究分担者(所属機関)
  • 荒井 秀典(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 理事長室)
  • 大高 恵莉(国立長寿医療研究センター 健康長寿支援ロボットセンター)
  • 佐藤 弥生(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 先端医療開発推進センター)
  • 近藤 和泉(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター病院)
  • 吉村 貴子(京都先端科学大学)
  • 植田 郁恵(研究開発法人 国立長寿医療研究センター リハビリテーション科部)
  • 伊藤 直樹(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター リハビリテーション科部)
  • 川村 皓生(国立長寿医療研究センター リハビリテーション科部)
  • 前島 伸一郎(金城大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
6,153,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦の認知症有病者数が増え続ける中、認知症者の治療やケアに携わる全ての職種が認知症の病態の全体像や介護者の抱える問題点を的確に把握し、相互に情報を交換できるよう共通の評価法を用いて、診療・ケア・研究を実施できるシステムを確立する必要がある。認知症診療においては、これまで種々の神経心理学的検査の有用性が示されてきた。しかし、評価法はきわめて多岐にわたっているため、統一的な評価法を用いて大規模にデータを活用するには至っていない。そこで、国内外の神経心理検査の活用状況を調査するとともに、それぞれの検査の特性を整理し、多施設で共通して実施できる精度の高い病態評価システムを構築するための評価法の採択の根拠となる基礎的データを構築することを目的として本研究を実施した。
研究方法
研究は研究1-4からなる。研究1では国内外の認知症診療と研究において使用されている神経心理学的検査法等について、評価の特徴や版権の状況がひと目でわかる一覧表を評価領域別に作成した。研究2では認知症の診療に専門的に携わる医療従事者に対して、実際に現場で用いられている評価法の実態を調査し、加えて評価される当事者として軽度認知障害と認知症の人およびその家族介護者に対して評価に対する要望や意見を調査した。研究3では2011年1月〜2021年5月までに発表された論文のなかから、軽度認知障害、認知症、またはその介護者を対象とした臨床研究のうち、ランダム化比較試験に用いられている評価法を抽出し約10年間の使用動向を調査した。研究4ではSacred Heart Rehabilitation Services & St. Vincent’s Hospital Sydney(オーストラリア)において専門的な認知症診療において評価の位置づけがどのようになされているかについて調査した。
結果と考察
研究1-4の結果から、認知症の診療や研究に用いられている評価法は多岐にわたり、目的や環境によって使い分けられていることが明らかになった。いずれも概ね短時間で全体的な評価ができる評価法や客観的な数値が示される評価法が選ばれやすい傾向にあり、治療やケアの立案に不可欠な質的評価は診療報酬やマンパワーの問題、評価者の技術の問題、時間的な制約などから現実的には実施されていない場合が多かった。現時点では「正しく評価され治療やケアに活かしてほしい」「評価の内容や結果を丁寧に説明してほしい」というMCIや認知症の人並びに家族介護者の思いを反映した評価システムが構築されているとは言い難く、今後の課題であると考えられた。今後、我が国で使用される評価法の統一を考えるにあたって、評価機器や評価用紙の購入、または登録が必要なものは広く普及させにくいという懸念がある反面、著作権に関する記載がない評価法の中には様々な改訂版が存在しているものも多く、評価の信頼性や妥当性など科学的信憑性の面で問題となることが予想される。このため、今後、認知症診療に使用するために選定した評価法に関しては、可能な限り無償化を図るよう、しかるべき部署が著作権を管理する、あるいは、全く新たな評価法を開発するなどの工夫が必要であると思われた。
結論
現時点において、認知症の診療や研究のための評価法として、著作権や費用、評価時間などの問題から、全ての問題をクリアし推奨できる評価法を推奨することは難しく、目的や状況に応じて、また最近の論文で用いられる評価法の動向を見ながら必要な評価法を選定し、症状の簡単な全体像を捉えたうえで、病態などに基づき種々の評価法を個別に選んで使用することが妥当と考えられた。しかし、今後の評価の統一に向けて、著作権や診療報酬点数、費用などに留意しつつ、本研究の成果を参照し、評価選定のための判断基準を示したマニュアルなどを整備する必要があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2022-08-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-08-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202117010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
認知症の診療および研究で使用される神経心理学的評価法等について、認知症を専門に診療する医療従事者による臨床現場からの視点と質の高い科学的論文で採用されている評価法という視点から抽出し、検査の特徴がひと目でわかる一覧表を作成した。さらに評価される側としての当事者(認知症/MCI/家族介護者)の評価に対する要望と海外での認知症診療における評価法の位置づけも合わせて調査し、今後の評価法の選定に資する基礎的データとなった。
臨床的観点からの成果
今後の認知症診療において使用すべき評価法が、本研究の成果である一覧表と各種データを参照することで選定しやすくなり、認知症診療の評価法の統一に向けた議論の促進に寄与できた。また、現状では、著作権や診療報酬の問題、評価器具の整備不足、評価技術不足、当事者の要望に対する理解不足などから適切な評価法の選定が困難となっており、これらの情報や評価法の特徴などがまとめられた神経心理学的評価法等の一覧を参照することで、どのような評価を選定すべきかが理解しやすく、認知症診療の質の向上につながるものと考える。
ガイドライン等の開発
本研究は認知症者に対する最適な医療・ケアのあり方を支援する神経心理検査等の評価法の幅広い利用に向けた指針策定に関し、評価法の特徴や使用の動向について基礎的データを収集することを目的としており、ガイドライン等の開発は実施していない。
その他行政的観点からの成果
本邦の認知症診療において、今後、診断や治療・ケアの統一、並びに研究における大規模なデータ収集などの研究を促進するためには、使用される評価法の統一が重要である。今後の評価法の選定において、各種評価法の特徴がわかりやすく整理されただけでなく、評価される側の視点から認知症診療の評価法の選定を考えた研究はこれまでになく、本研究で得られた成果は認知症施策推進大綱の「認知症の人や家族の当事者の視点やニーズを活かした支援」の実現につながる重要な知見であると考える。
その他のインパクト
本研究でまとめられた認知症診療及び研究で使用される神経心理学的評価等の一覧表や我が国における評価の動向は論文として発表し、広く啓発を行った。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
大沢愛子, 前島伸一郎, 伊藤直樹, 他
認知症診療および研究に用いられる神経心 理学的検査など評価法一覧の作成.
日本老年医学会雑誌 , 60 (1) , 76-78  (2023)
https://doi.org/10.3143/geriatrics.60.76
原著論文2
Maeshima S, Osawa A, Kawamura K, et al.
Neuropsychological tests used for dementia assessment in Japan: Current status.
Geriatr Gerontol Int , 24 , 102-109  (2024)
https://doi.org/10.1111/ggi.14678

公開日・更新日

公開日
2023-05-24
更新日
2024-07-24

収支報告書

文献番号
202117010Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,998,000円
(2)補助金確定額
5,681,000円
差引額 [(1)-(2)]
2,317,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,844,564円
人件費・謝金 0円
旅費 264,877円
その他 1,727,522円
間接経費 1,845,000円
合計 5,681,963円

備考

備考
昨今の新型コロナウイルス感染症の流行拡大に伴い、人件費については大幅に研究使用の方向性を変えざるを得ず、人件費を使って雇用しデータ解析作業予定であったが、雇用を見送ることとなったため、PCや解析ソフトを購入することで代用し物品費が増額となった。旅費については海外での現地調査や、国際学会への参加が困難となり、旅費に支出される額が大幅な減額となった。一方、専門職や関連職種へのアンケートの印刷送付・調査結果の印刷送付を委託したことにより、その他が当初予定より増額となった。

公開日・更新日

公開日
2023-05-17
更新日
-