認知症介護者のためのインターネットを用いた自己学習および支援プログラムの開発と有効性の検証

文献情報

文献番号
202117002A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症介護者のためのインターネットを用いた自己学習および支援プログラムの開発と有効性の検証
課題番号
19GB1002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
大町 佳永(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 精神診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 横井 優磨(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 精神診療部)
  • 菅原 典夫(獨協医科大学 精神神経医学講座)
  • 山下 真吾(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 精神診療部)
  • 野崎 和美(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 看護部)
  • 松井 眞琴(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 精神診療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
9,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
The World Health Organization(WHO)によって、介護者の知識や技術の向上、精神的ストレスの軽減、認知症の人と介護者双方の生活の質の向上を目指し、iSupportが開発された。iSupportは、問題解決技法および認知行動療法の技術を用いたオンラインプログラムであり、パソコン等から簡単にアクセスすることが可能である。本研究では、日本の文化や介護環境等を考慮し日本語化したiSupport日本版を作成し、フォーカスグループによる試用評価の後にプログラムを完成させ、ランダム化比較試験(RCT)を実施することで、iSupport日本版の有用性を検証する。
研究方法
iSupportの日本版を作成し、RCTにおける心理評価もオンラインで実施できるように、iSupport日本版(e-learning)に、心理評価やアンケート調査を行うシステム(ePRO)、個人情報管理システムを合わせたプログラム『iSupport-Jシステム』を開発する。本年度は、全国の認知症介護者を対象にiSupport-Jシステムを用いてRCTを実施し、iSupport日本版の有用性を検証する。本研究に参加した認知症介護者のプロフィールの解析によって、インターネットに接続可能な介護者の属性を検討する。また、インターネット環境を持たない介護者もiSupport日本版を利用できるように、ハードコピー版を作成する。
結果と考察
2021年12月10日までにホームページから383名の応募があり、同意が得られたのは270名であった。iSupport-Jシステムへの登録者数は248名、スクリーニングを実施したのが232名で、このうち適格基準を満たしたのは214名であった。2021年12月10日時点で3ヶ月目に到達したのは68名で、このうち全てのアンケート・心理評価に回答したのは92.6%だった。6ヶ月目に到達したのは19名で、このうち研究を完遂したのは73.7%であった。先行する海外のiSupport研究では脱落率の高さが報告されているが、本研究ではiSupport日本版を未学習のままである場合はメールで、心理評価・アンケート期間中は入力が完了するまでメールや電話によるリマインドを行うことで、脱落を防ぐことができていると考えられる。RCTの結果の分析は今後行われるため有用性はまだ明らかではないが、被験者によるアンケートでは、介護に対する向き合い方やストレス緩和、コミュニケーションの取り方等について、自己肯定感の高まりや負担感の軽減に関する意見が多くみられた。また、日本版オリジナルの動画や音声に対して好意的な意見があった。一方で、介護者が特に負担を感じている行動・心理症状については、学習内容に物足りなさを感じるという意見が寄せられた。iSupport-Jシステム登録者の性別は、男性が21.8%、女性が78.2%と、女性が多かった。年齢階級別に見ると、「50〜59歳」が41.3%、「60〜69歳」が30.0%と多かった。令和元年国民生活基礎調査によると、介護者の年齢は男女ともに60〜69歳の割合が最も多く、続いて男性は80歳以上、女性は70〜79歳が多いと報告されている。本研究で、これより若い50〜60代の登録者が多いことについては、年齢層によるインターネット利用率の違いが影響していると考えられる。一方で、60歳以上の登録者は全体の40%で、男性においては66.7%を占めた。高齢であってもインターネットを用いた介入は可能と考えられ、特に男性に対して有用なツールになり得ると考えられる。ただし、70歳以上の女性の登録者が少ないことから、インターネットによる介入が馴染みにくい層であると推測される。このような介護者には、iSupport日本版のハードコピー版が有用と考えられる。
結論
RCTの目標症例数に到達していないため、中間解析の結果を踏まえて2022年度以降もRCTを継続する。高齢であってもインターネットを用いた介入は可能で、特に男性介護者に対しては有用なツールになり得ると考えられる。一方で、インターネットによる介入が馴染みにくい層のために、iSupport日本版のハードコピー版を作成した。ただし、現在のiSupport日本版は、行動・心理症状への対応や全体の所要時間など、認知症介護者の求めるレベルにはまだ達していない可能性があるため、RCTの結果次第ではさらなる改訂、あるいは我が国独自の認知症介護者のためのアプリケーションの開発が必要と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2023-05-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-05-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202117002B
報告書区分
総合
研究課題名
認知症介護者のためのインターネットを用いた自己学習および支援プログラムの開発と有効性の検証
課題番号
19GB1002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
大町 佳永(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 精神診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 横井 優磨(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 精神診療部)
  • 菅原 典夫(獨協医科大学 精神神経医学講座)
  • 山下 真吾(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 精神診療部)
  • 野崎 和美(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 看護部)
  • 松井 眞琴(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 精神診療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
The World Health Organization(WHO)によって、介護者の知識や技術の向上、精神的ストレスの軽減、認知症の人と介護者双方の生活の質の向上を目指し、iSupportが開発された。iSupportは、問題解決技法および認知行動療法の技術を用いたオンラインプログラムであり、パソコン等から簡単にアクセスすることが可能である。本研究では、日本の文化や介護環境等を考慮し日本語化したiSupport日本版を作成し、試用評価の後にプログラムを完成させ、ランダム化比較試験(RCT)を実施することで、iSupport日本版の有用性を検証する。
研究方法
iSupportの著作権契約をWHOとの間で締結し、iSupport日本版のプログラムを作成する。RCTにおける心理評価もオンラインで実施できるよう、iSupport日本版(e-learning)に、心理評価やアンケート調査を行うシステム(ePRO)、個人情報管理システムを合わせた『iSupport-Jシステム』を開発する。介護者と専門家から構成される2つのフォーカスグループにより試用評価を行い、プログラムを修正し完成させる。全国の認知症介護者を対象にiSupport-Jシステムを用いてRCTを実施し、iSupport日本版の有用性を検証する。本研究に登録した認知症介護者のプロフィールの解析によって、インターネットに接続可能な介護者の属性を検討する。また、インターネット環境を持たない介護者もiSupport日本版を利用できるように、ハードコピー版を作成する。
結果と考察
リラクセーションのためのストレッチ等は、オリジナルでは文章で提示されるが、利用者にとってわかりやすく飽きさせないものにするため、日本版独自のコンテンツとして動画や音声を収録した。RCTのデザインは、対照群に割り付けられてもiSupportを使用することができるよう、ウェイティングリスト・コントロール・デザインとし、主要評価項目は介護者の介護負担度とした。目標症例数は、iSupport介入群、ウェイティングリスト群の各群104名、追跡期間は6カ月とした。2つのフォーカスグループによりiSupport日本版のパイロット版を試用・評価した結果、専門家に比べて家族介護者の満足度が低いという結果であった。家族介護者の満足度を高めるため、問題形式の正誤の表現や表示方法などの修正を行い、WHOの承認を得て、iSupport日本版を完成させた。フォーカスグループからの意見を取り入れたことで、プログラム全体の操作性が向上し、全体を学習するために必要な時間も短縮されたと考えられる。2021年1月よりRCTの被験者募集を開始した。先行する海外のiSupport研究では脱落率の高さが報告されているが、本研究ではiSupport-Jを未学習のままである場合はメールで、心理評価・アンケート期間中は入力が完了するまでメールや電話によるリマインドを行うことで、脱落を防ぐことができていると考えられる。被験者によるアンケートでは、介護に対する向き合い方やストレス緩和、コミュニケーションの取り方等について、自己肯定感の高まりや負担感の軽減に関する意見が多くみられた。また、日本版オリジナルの動画や音声に対して好意的な意見があった。一方で、介護者が特に負担を感じている行動・心理症状については、学習内容に物足りなさを感じるという意見が寄せられた。iSupport-Jシステム登録者のうち、60歳以上は全体の40%で、男性においては66.7%を占めた。高齢であってもインターネットを用いた介入は可能と考えられ、特に男性に対して有用なツールになり得ると考えられる。ただし、70歳以上の女性の登録者が少ないことから、インターネットによる介入が馴染みにくい層であると推測される。このような介護者には、iSupport日本版のハードコピー版が有用と考えられる。
結論
iSupport日本版はただ翻訳し、日本の文化や制度に合わせただけでなく、介護者や専門家の声を取り入れながら日本版独自のコンテンツを収録し改良を重ねた。高齢でもインターネットを用いた介入は可能で、特に男性介護者に対しては有用なツールになり得ると考えられる。また、インターネットによる介入が馴染みにくい層のために、ハードコピー版を作成した。現在はまだRCTの目標症例数に到達していないため、中間解析の結果を踏まえて2022年度以降もRCTを継続する。ただし、現在のiSupport日本版は、行動・心理症状への対応や全体の所要時間など、認知症介護者の求めるレベルにはまだ達していない可能性があるため、RCTの結果次第ではさらなる改訂、あるいは我が国独自の認知症介護者のためのアプリケーションの開発が必要と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2023-05-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-08-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202117002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
WHOが開発した認知症介護者のためのオンライン自己学習プログラムiSupportの日本版(iSupport-J)を作成し、非盲検無作為化平行群間比較試験を実施した。2021年1月から2024年1月までの36ヶ月間で、同意取得数は433名、割付対象は240名であった。iSupport-Jを3ヶ月使用した群は、対照群と比べてZarit介護負担尺度(介護負担)の統計学的に有意な改善を認め、CES-D scale(抑うつ)は統計学的に有意ではないものの改善傾向を認めた。
臨床的観点からの成果
iSupport-Jの3ヶ月間の使用により、認知症介護者の介護負担感が軽減することが示唆された。また、iSupport-Jを利用した被験者のアンケートからも、介護に対する向き合い方やストレス緩和、コミュニケーションの取り方について好意的な感想が寄せられた。時間的・体力的制約が大きい介護者にとって、インターネットを用いたプログラムは有用なツールになり得ると考えられる。一方で、インターネット接続機会の少ない介護者のために、iSupport-Jのハードコピー版を作成した。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
共生社会の実現を推進するための認知症基本法(認知症基本法)の基本理念として、「認知症に関する専門的、学際的又は総合的な研究を推進するとともに、認知症及び軽度認知障害に係る予防、診断及び治療並びにリハビリテーション及び介護方法その他の事項に関する研究開発等の成果を普及し、活用し、及び発展させること」が挙げられている。本研究は、介護者の負担軽減、認知症の行動・心理症状の予防を目的とした家族・介護者対象のオンライン教育プログラムの開発、効果検証を目的としており、この施策の実現に資するものである。
その他のインパクト
市民公開講座(2022年2月、2022年5月、2023年3月)でiSupport-Jを紹介した。日本認知療法・認知行動療法学会(2020年11月)、日本認知症学会学術集会(2020年11月)、International Conference of ADI(2020年12月)、日本うつ病学会総会・日本認知療法・認知行動療法学会(2021年7月)で発表した。WHOが主催する各国のiSupport研究チームとの会議で本研究の成果を報告し、各国のRCTの比較についてAAIC(2023年7月)で発表した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
認知症医療介護推進会議2件
その他成果(普及・啓発活動)
16件
講演3件、ホームページ1件、新聞広告9件、会報3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-05-17
更新日
2024-06-12

収支報告書

文献番号
202117002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,200,000円
(2)補助金確定額
11,850,000円
差引額 [(1)-(2)]
350,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 537,333円
人件費・謝金 3,370,618円
旅費 0円
その他 5,127,156円
間接経費 2,815,000円
合計 11,850,107円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-05-17
更新日
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