文献情報
文献番号
202116006A
報告書区分
総括
研究課題名
介護及び医療レセプト分析による疾患並びに状態別の最適訪問看護提供パッケージの提案と自治体担当者向けの訪問看護実態可視化ツールの開発
課題番号
20GA1005
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
福井 小紀子(国立大学法人 東京医科歯科大学 大学院保健衛生学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 林田 賢史(産業医科大学 大学病院)
- 宇田 淳(滋慶医療科学大学 医療管理学)
- 五十嵐 歩(東京大学大学院 医学系研究科 健康科学・看護学専攻)
- 野口 麻衣子(渡邊 麻衣子)(国立大学法人 東京医科歯科大学 大学院保健衛生学研究科)
- 藤田 淳子(国立看護大学校 在宅看護学)
- 梅津 千香子(福井県立大学 看護福祉学部)
- 清水 準一(東京医療保健大学 千葉看護学部)
- 北村 智美(一般財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構 研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
5,908,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
人口減少多死社会において、今後さらに増える医療介護ニーズを併せ持つ人々への効果的な訪問看護提供とその体制整備を確立することが求められている。今後、在宅ケアの質担保及び医療経済的観点を統合した医療介護資源の効率的な再分配を行うためには、自治体担当者が自地域の訪問看護を含む医療介護サービスの提供実態を把握・分析し、課題の解決や政策立案に繋げることが重要となる。そこで本研究は、疾患並びに状態別の最適訪問看護提供パッケージの提案と自治体担当者向けの訪問看護実態可視化ツールを開発することを目指し、4つの研究を行った。
研究方法
静岡県の協力を得て、研究協力に同意が得られた県下33市町の国保データベースシステムで取り扱う医療・介護情報を用いて、研究1~3を実施した。医療介護レセプトの連結が可能となる解析用データセットの構築(研究1)、介護保険サービス利用者を対象とした状態別での介護及び医療サービスの利用実態と医療介護費用の比較分析(研究2)、自治体担当者向け訪問看護実態可視化ツールの作成(研究3)を実施し、介護及び医療レセプト分析による疾患ならびに状態別の訪問看護提供量の実態把握のための手法を検討した。さらに、訪問看護事業所の利用者の診療・介護報酬請求書収集と訪問看護師、管理者を対象としたウェブ調査(研究4)を実施し、利用している介護サービスの組み合わせ別の状態像及び医療介護費用について検討した。
結果と考察
研究1では、提供を受けた2012年4月~2018年9月分のデータ把握と並行し、本研究で用いる疾患及び介護サービス分類の検討とコードリストの作成を行った。前述のプロセスを経て、被保険者単位で医療介護レセプトの連結が可能となる解析用データセットを構築した。研究2では、2013年及び2017年10月の介護保険サービス利用者を対象とし、利用者全体と介護保険の訪問看護利用者に大別し、記述統計によるサービスの利用実態と訪問看護費を含む医療介護費用の分析を行った。2013年の介護保険訪問看護利用割合は、3.8〜14.3%と要介護度が高くなるにつれ、利用割合が高くなっていた。2017年も概ね同様の傾向がみられた。本研究では、あらかじめ訪問看護利用者に多いと考える6疾患(心不全、認知症、脳血管疾患、肺疾患、糖尿病、腎疾患)を選定し、それに対応する傷病名コードによる疾患抽出を試みたが、疾患を特定できた対象者が少数にとどまった。そのため、状態別での結果の解釈には限界があるが、疾患により利用傾向が異なる可能性が推察された。研究3では、研究1において作成されたデータを基に、自治体担当者向けの分析可視化ツール(BIツール)を作成した。本研究では、疾患や年齢・性別・要介護度等の利用者特性、市町及び二次医療圏といった条件を選択することで、条件変数によって絞り込まれた対象者のサービス利用や介護費・医療費の結果が個人や地域単位で結果画面にグラフが表示される仕様とした。県及び市町担当者との意見交換と研究者間での議論も重ね、表示する項目や単位の選択を行い、自治体担当者による医療介護計画に活用可能なツールを具体的に例示できたと考える。研究4では、訪問看護利用者77名を6か月間追跡し、3か月間の利用者状態および訪問看護と介護サービスの利用状況の変化、6か月間の転帰を収集した。クラスター分析した結果、サービスの利用パターンは「訪問系サービス利用」群、「通所系 サービス利用」群、「総合的なサービス利用」群に分類されることが示された。「訪問系サービス利用」群において医療保険による訪問看護利用割合が高かった一方、「通所系サービス利用」群では全員が介護保険による訪問看護を利用していた等、日常生活自立度や主疾患、長期ケアにおいて望ましい状態の達成状況に群ごとの特徴が見られた。医療介護レセプトを用いた研究1~3を進める中で、解析用データセットの作成や医療・介護双方の保険にまたがる訪問看護の捉えにくさなどレセプト分析における課題もあった。以上のことから、課題はあるものの、本研究で得られたこれらの結果と課題を踏まえることで、レセプト情報を用いた総医療介護サービスを考慮した訪問看護提供量の最適性の検討が可能となることから、次に展開する研究の基礎資料として本研究を提示できると考えられる。
結論
KDBで取り扱う医療・介護レセプトデータを用いて作成したデータを基に、利用者特性や地域の条件設定に応じて医療介護費等を把握できる可視化ツールは、自治体担当者による医療介護計画に活用可能であると考えられた。また、疾患等により医療介護にかかる費用が異なることが示されたことから、医療と介護レセプト情報を連結することで、在宅療養継続や介護度の改善に寄与する訪問看護提供量を検討できる可能性が示唆された。
公開日・更新日
公開日
2022-06-10
更新日
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