文献情報
文献番号
202115002A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性疼痛患者に対する簡便かつ多面的な疼痛感作評価法の開発
課題番号
19FG1002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
池内 昌彦(高知大学医学部 整形外科)
研究分担者(所属機関)
- 平田 仁(名古屋大学 医学系研究科 手の外科学)
- 寳珠山 稔(名古屋大学大学院医学系研究科 総合保健学専攻)
- 岩月 克之(名古屋大学 医学部)
- 松原 貴子(日本福祉大学 健康科学部)
- 泉 仁(高知大学 医学部 附属病院 リハビリテーション部)
- 牛田 享宏(愛知医科大学医学部 学際的痛みセンター/運動療育センター(兼任) )
- 福井 聖(滋賀医科大学・医学部)
- 西原 真理(愛知医科大学 医学部 学際的痛みセンター)
- 古谷 博和(独立行政法人 国立病院機構大牟田病院 神経・筋センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 慢性の痛み政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
慢性の痛みは身体的な要因と精神心理や社会的な要因が相まって病態が発症・維持されており、集学的に多角的な分析と治療を行うことが必要なことが多い。本研究では、慢性疼痛患者において疾患横断的にみられる共通の神経生物学的変化(疼痛感作)に注目し、その客観的評価法の確立を目的としている。検証した評価法は、定量的感覚検査(QST)、表皮内刺激電極(IES)を用いた末梢神経機能検査、Ecological momentary assessment (EMA)を用いた心理行動評価、脳磁計を用いた皮質脳活動評価である。
研究方法
1.各種客観的評価法の検証
1-1.ポータブルQST(pQST)
健常人297例を対象に疼痛感作に関わる指標の基準範囲を設定した。計測した指標は、三角筋と前脛骨筋の圧痛閾値(PPT)、手背と前脛骨筋の時間的加重(TSP)、条件刺激性疼痛調節(CPM)である。
1-2.IES
慢性足部痛患者59名を対象に、表皮内痛覚閾値検査(PINT)、Aδ線維刺激体性感覚誘発電位(SEP)を測定した。
1-3. EMS
EMAクラウドシステムを用いて、慢性疼痛患者18名を対象に10日間のEMA計測を実施した。日常生活下でのmomentaryな主観的痛みに加え、気分・身体症状(疲労感やストレス、眠気、抑うつ症状と不安)について記録した.
1-4. 脳磁計
慢性疼痛を有する患者31例について、安静時皮質脳活動を脳磁計(MEG)にて計測し、皮質領域の電流密度と計測時の自覚的疼痛、疼痛感作評価値との相関を解析した。
2.慢性疼痛患者における疼痛感作実態調査
慢性疼痛患者138名を対象とし,限局性または広範性に疼痛を有する慢性疼痛患者の中枢性疼痛調節機能の特性についてpQSTを用いて検討した。
3.医療従事者向けの疼痛感作評価法の普及活動
疼痛感作に関する教育および評価法の普及を目的に、医療従事者向けのホームページを作成した。ホームページ上では教育コンテンツや最新情報をアップロードし、評価機器の貸し出しも行った。さらに、WEB講習会をベーシックコース2回、アドバンスコース1回の計3回行った。
1-1.ポータブルQST(pQST)
健常人297例を対象に疼痛感作に関わる指標の基準範囲を設定した。計測した指標は、三角筋と前脛骨筋の圧痛閾値(PPT)、手背と前脛骨筋の時間的加重(TSP)、条件刺激性疼痛調節(CPM)である。
1-2.IES
慢性足部痛患者59名を対象に、表皮内痛覚閾値検査(PINT)、Aδ線維刺激体性感覚誘発電位(SEP)を測定した。
1-3. EMS
EMAクラウドシステムを用いて、慢性疼痛患者18名を対象に10日間のEMA計測を実施した。日常生活下でのmomentaryな主観的痛みに加え、気分・身体症状(疲労感やストレス、眠気、抑うつ症状と不安)について記録した.
1-4. 脳磁計
慢性疼痛を有する患者31例について、安静時皮質脳活動を脳磁計(MEG)にて計測し、皮質領域の電流密度と計測時の自覚的疼痛、疼痛感作評価値との相関を解析した。
2.慢性疼痛患者における疼痛感作実態調査
慢性疼痛患者138名を対象とし,限局性または広範性に疼痛を有する慢性疼痛患者の中枢性疼痛調節機能の特性についてpQSTを用いて検討した。
3.医療従事者向けの疼痛感作評価法の普及活動
疼痛感作に関する教育および評価法の普及を目的に、医療従事者向けのホームページを作成した。ホームページ上では教育コンテンツや最新情報をアップロードし、評価機器の貸し出しも行った。さらに、WEB講習会をベーシックコース2回、アドバンスコース1回の計3回行った。
結果と考察
1-1.pQST
健常者の平均値(95%信頼区間)は、PPT(N)が前脛骨筋44.7 (42.4-46.9)、三角筋34.0 (31.9-36.1)、TSP(mm)が前脛骨筋20.7 (18.5-22.9)、手背23.0 (20.7-25.3)、CPMが前脛骨筋7.8 (6.9-8.6)、三角筋7.5 (6.6-8.3)であった。年齢、性別の検討では、PPTは両部位において若年群が他の2群よりも低値で、女性が男性より低値であった(P<0.01)。TSPとCPMには年齢、性別による影響を認めなかった。
1-2.IES
IESを用いたPINT検査は健常被験者0.16±0.07mA、慢性足部痛患者0.26±0.24mAであった。刺激過敏群では0.34±0.33mAであった。Aδ-SEPの検討では、健常被検者 P2潜時367±60ms、慢性疼痛患者 P2潜時370±75ms、刺激過敏群 P2潜時380±83msであった。
1-3. EMS
自覚症状(疲労感、ストレス、抑うつ気分、不安)は、痛みとの有意な正の相関関係が確認された。また、多変量回帰モデルを検討したところ、抑うつ気分以外において、有意な関係が見られた。さらに、日常生活下での60分前の身体活動データがその後の痛みのスコアと相関することが明らかになった。
1-4.脳磁計
脳機能領域のうち左第2感覚野の電流密度が計測時の自覚的疼痛と有意に相関した(p = 0.011、 R2 = 0.209)。また疼痛感作評価値では、右足背(p = 0.0063)および左足背(p = 0.040)における初回疼痛刺激のVAS値と左第2次感覚野電流密度が相関した。
2.慢性疼痛患者における疼痛感作実態調査
PPTは,健常者よりも限局性・広範性慢性疼痛患者で有意に低値を示し,さらに,広範性慢性疼痛患者の方が限局性慢性疼痛患者よりも有意に低値を示した。TSPは群間差がなかった。CPMは健常者と比較し限局性・広範性慢性疼痛患者で低い傾向を示した。
3.医療従事者向けの疼痛感作評価法の普及活動
現時点でのpQST評価機器の貸し出しおよび購入は10施設以上20セット以上におよぶ。また、WEB講習会は毎回50名以上の医療従事者が参加し、講習会後も情報交換を行っている。
健常者の平均値(95%信頼区間)は、PPT(N)が前脛骨筋44.7 (42.4-46.9)、三角筋34.0 (31.9-36.1)、TSP(mm)が前脛骨筋20.7 (18.5-22.9)、手背23.0 (20.7-25.3)、CPMが前脛骨筋7.8 (6.9-8.6)、三角筋7.5 (6.6-8.3)であった。年齢、性別の検討では、PPTは両部位において若年群が他の2群よりも低値で、女性が男性より低値であった(P<0.01)。TSPとCPMには年齢、性別による影響を認めなかった。
1-2.IES
IESを用いたPINT検査は健常被験者0.16±0.07mA、慢性足部痛患者0.26±0.24mAであった。刺激過敏群では0.34±0.33mAであった。Aδ-SEPの検討では、健常被検者 P2潜時367±60ms、慢性疼痛患者 P2潜時370±75ms、刺激過敏群 P2潜時380±83msであった。
1-3. EMS
自覚症状(疲労感、ストレス、抑うつ気分、不安)は、痛みとの有意な正の相関関係が確認された。また、多変量回帰モデルを検討したところ、抑うつ気分以外において、有意な関係が見られた。さらに、日常生活下での60分前の身体活動データがその後の痛みのスコアと相関することが明らかになった。
1-4.脳磁計
脳機能領域のうち左第2感覚野の電流密度が計測時の自覚的疼痛と有意に相関した(p = 0.011、 R2 = 0.209)。また疼痛感作評価値では、右足背(p = 0.0063)および左足背(p = 0.040)における初回疼痛刺激のVAS値と左第2次感覚野電流密度が相関した。
2.慢性疼痛患者における疼痛感作実態調査
PPTは,健常者よりも限局性・広範性慢性疼痛患者で有意に低値を示し,さらに,広範性慢性疼痛患者の方が限局性慢性疼痛患者よりも有意に低値を示した。TSPは群間差がなかった。CPMは健常者と比較し限局性・広範性慢性疼痛患者で低い傾向を示した。
3.医療従事者向けの疼痛感作評価法の普及活動
現時点でのpQST評価機器の貸し出しおよび購入は10施設以上20セット以上におよぶ。また、WEB講習会は毎回50名以上の医療従事者が参加し、講習会後も情報交換を行っている。
結論
慢性疼痛患者に対する簡便かつ多面的な疼痛感作評価法の開発を行った。pQSTツールを用いて健常者における疼痛感作指標の基準範囲を設定し、慢性疼痛患者におけるQST測定値の解釈が可能となった。IES、EMA、脳磁計は疼痛感作を客観的にとらえる上で相互補完的に用いる評価法であることが示唆された。
公開日・更新日
公開日
2022-06-20
更新日
-