大規模災害時におけるアレルギー疾患患者の問題の把握とその解決に向けた研究

文献情報

文献番号
202113004A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模災害時におけるアレルギー疾患患者の問題の把握とその解決に向けた研究
課題番号
20FE1003
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
小林 茂俊(帝京大学 医学部小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 藤澤 隆夫(独立行政法人国立病院機構三重病院 臨床研究部)
  • 足立 雄一(富山大学 学術研究部医学系小児科学)
  • 三浦 克志(宮城県立こども病院 アレルギー科)
  • 伊藤 浩明(あいち小児保健医療総合センター 総合診療科部)
  • 池田 政憲(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科小児急性疾患学講座)
  • 今野 哲(北海道大学大学院医学研究科呼吸器内科学分野)
  • 福永 興壱(慶應義塾大学 医学部 内科学(呼吸器))
  • 𠮷田 誠(国立病院機構 福岡病院)
  • 藤枝 重治(福井大学 学術研究院医学系部門)
  • 矢上 晶子(冨高 晶子)(藤田保健衛生大学 医学部 総合アレルギー科)
  • 福島 敦樹(高知大学 教育研究部)
  • 成田 雅美(杏林大学 医学部 小児科学教室)
  • 本村 知華子(国立病院機構福岡病院 医局)
  • 岬 美穂(鶴和 美穂)(国立病院機構災害医療センター臨床研究部)
  • 二村 昌樹(国立病院機構 名古屋医療センター 小児科)
  • 正木 克宜(慶應義塾大学 医学部 内科学(呼吸器))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
7,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、台風、豪雨、地震等の災害が頻発しているが、災害時にはアレルギー患者に対して、環境対策や食品等の配慮が必要であり、「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」(平成25年8月内閣府)ではアレルギー患者は「要配慮者」と明記されている。災害時のアレルギー患者への対応は喫緊の課題であるが、有効に行われているとはいえない現状である。災害時には、自助・公助・共助の3本柱が必要であるが、アレルギー患者への対応においては様々な問題点が存在する。公助としての行政のアレルギー対応は以前より進んでいるものの、実情に合っているか、有効であるかなど、細かな点についての評価は行われていない。有効な対策のためには、現場にいる行政担当者、患者・養育者、災害医療従事者等のアレルギー対応に関するアンメットニーズを正確に把握し、問題解決策を提供する必要がある。さらに、行政、患者・養育者、災害医療従事者がアレルギー疾患に関して相談できる窓口が明確でないという問題がある。アレルギー疾患対応には多角的なアプローチが必要であり、迅速な対応を促進し限られたリソースを適正に配分するためには、関連学会・団体が連携を構築し、統一された窓口を設置することが必要である。本研究では、これら問題に対応するため、多職種のメンバーで研究班を構築した。大規模災害時の対策の現状とアンメットニーズを多面的に検討し、それに基づいて問題解決に向けたツールを作成し、相談窓口などの連携システムに関する提案を行った。
研究方法
各分野の担当班として、行政班、患者・養育者班、災害医療従事者班、関連学会連携構築班、ツール作成班を構築し、研究を行った。行政班、患者・養育者班は令和2年度に行ったアンケート調査の解析に基づき、ツール作成班に提案を行った。災害医療従事者班は令和3年度初頭に災害医療従事者(災害医療コーディネータ・看護師・保健師)、栄養士、薬剤師を対象にアンケートを行い、結果解析のうえ、ツール作成班に提案を行った。ツール作成班は昨年度行った行政、学会等の情報公開内容・公開方法の調査のデータを加えて、ニーズに合ったツールを作成した。関連学会連携構築班は各学会の活動の調査とアンケート結果のデータに基づいて、「アレルギー関連災害対応窓口」の開設を日本アレルギー学会に提案した。
結果と考察
行政班、患者・養育者班は令和2年度に行ったアンケート解析に基づいて、ツール班に提案を行った。災害医療従事者班は、災害医療に関わる多職種を対象にしてweb経由でアンケート調査を行った。アンケートは災害従事者の職種・支援形態・支援時期によるニーズの差異を考慮し、災害医療に携わる医師・看護師向け、薬剤師向け、栄養士向けの3種作成した。調査結果を解析した結果、アレルギー疾患対応の必要性、望ましい情報提供方法、既存ツールの認知度の低さ、相談窓口一本化の要望、患者情報収集の必要性、感染症の影響、自助啓発の重要性などが把握できた。得られたニーズをツール作成に反映させるため、ツール作成班に提案を行った。ツール作成班は、行政班、患者・養育者班、災害医療従事者班のアンケート調査、関連学会連携構築班の調査、ツール作成班の調査の結果をまとめ、問題点・アンメットニーズを抽出し、それらを可能な限り解決するツールを作成した。プロダクトは8種のパンフレット、2種のポスター、2種のツールから構成される。全部をまとめると、表紙、目次を含めて56ページからなり、印刷、ダウンロード、携帯機器やPCでの閲覧が可能なPDFで作成した。作成した資料は対象を明記したが、総合的な対応のためにはどの資料を読んでも役に立つよう工夫した。関連学会連携構築班は、「アレルギー関連災害対応窓口」の開設を提案した。窓口は、対象者からの相談をメールフォームで受け付け、内容により各科の担当者に振り分ける。窓口を通じて相談者にメールで回答するが、栄養士会、薬剤師会など他団体への支援要請が必要な場合には、各団体に支援を要請する。相談窓口の設置場所は、各アレルギー疾患の専門医が所属している日本アレルギー学会が望ましいと考え、2021年7月19日に開催された日本アレルギー学会災害対策合同委員会で提案を行った。各委員から建設的な提案が多数あり、運営法の詳細な検討を前提に、今後審議していくことになった。
結論
行政、患者・養育者、災害医療従事者を対象に、災害時のアレルギー対応に関するアンケート調査を行い、アンメットニーズを抽出した。それに基づいて、災害時に役立つツールを作成した。また、統一された窓口として、「アレルギー関連災害対応窓口」の開設を日本アレルギー学会に提案した。調査データは、今後の災害対策にも活用できると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2022-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-05-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202113004B
報告書区分
総合
研究課題名
大規模災害時におけるアレルギー疾患患者の問題の把握とその解決に向けた研究
課題番号
20FE1003
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
小林 茂俊(帝京大学 医学部小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 藤澤 隆夫(独立行政法人国立病院機構三重病院 臨床研究部)
  • 足立 雄一(富山大学 学術研究部医学系小児科学)
  • 三浦 克志(宮城県立こども病院 アレルギー科)
  • 伊藤 浩明(あいち小児保健医療総合センター 総合診療科部)
  • 池田 政憲(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科小児急性疾患学講座)
  • 今野 哲(北海道大学大学院医学研究科呼吸器内科学分野)
  • 福永 興壱(慶應義塾大学 医学部 内科学(呼吸器))
  • 𠮷田 誠(国立病院機構 福岡病院)
  • 藤枝 重治(福井大学 学術研究院医学系部門)
  • 矢上 晶子(冨高 晶子)(藤田保健衛生大学 医学部 総合アレルギー科)
  • 福島 敦樹(高知大学 教育研究部)
  • 成田 雅美(杏林大学医学部小児科学教室)
  • 本村 知華子(国立病院機構福岡病院 医局)
  • 岬 美穂(鶴和 美穂)(国立病院機構災害医療センター臨床研究部)
  • 二村 昌樹(国立病院機構 名古屋医療センター 小児科)
  • 正木 克宜(慶應義塾大学 医学部 内科学(呼吸器))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国民の過半数が罹患するアレルギー疾患の患者は、災害時には配慮が必要となる「要配慮者」であり、アレルギー疾患対策基本法に則り厚生労働省が策定したアレルギー疾患対策基本指針には、アレルギー疾患対策の推進に関する重要事項として「災害時の対応」が明記されている。災害時のアレルギー疾患対応は喫緊の課題と思われる。災害時のアレルギー患者対応に関しては様々な対策が実施されてるが詳細な調査は行われておらず、災害の場面での実際のニーズを満たしているかなど細部に関しては不十分と考えられる。また、アレルギー疾患対応には、学会・団体が連携して多角的な災害対応を行うことが望まれるが、まとめ役となる窓口は存在せず、まとまった形での連携した活動は行われていない。そこで、本研究では、行政、患者・養育者、災害医療従事者、関連学会・団体と連携した研究班を構築し、災害時のアンメットニーズを正確に把握し、問題解決に向けたツールの作成や連携システムの構築を行う研究を行った。令和2年度は、行政、患者・養育者へのアンケート実施と解析、災害医療従事者へのアンケート作成、関連学会・団体の活動の現状調査、関連学会・行政の災害関連情報公開の現状調査等を行った。令和3年度は、令和2年度に行った調査の解析結果に、令和3年度に行った各職種の災害医療従事者へのアンケート調査の解析結果を加え基礎資料とした。これをもとにして、災害時のアレルギー疾患対応のためのツール ーパンフレット、ポスター、情報ツールなどー を作成した。また、日本アレルギー学会に対して、統一された相談窓口を中心とした連携構築システムの提案を行った。
研究方法
行政から見た問題点を把握する行政班、患者視点からの調査を行う患者・養育者班、災害医療従事者の調査を行う災害医療従事者班、関連学会・団体の連携構築を行い窓口一本化を目標とする関連学会連携構築班、問題を解決するパンフレットなどを作成するツール作成班を構築し、研究を行った。行政班は、自治体に対して、アレルギー疾患対応の経験に関するアンケートとアレルギー疾患に対しての備えに関するアンケートを書面で行った。患者・養育者班は、患者及び養育者に、災害の経験・備えに関するアンケートをweb経由で行った。災害医療従事者班は、令和2年度に災害医療従事者、薬剤師、栄養士向けのアンケートを作成し、令和3年度にweb経由でアンケート調査を実施した。関連学会連携構築班は関連学会・団体の活動・連携についての聞き取り調査を、ツール作成班は、関連学会・行政の災害情報の公開法、情報へのアクセスのしやすさ等の調査を行った。各分担班は得られたデータをもとに提案を行い、それに基づいてツール作成班は災害時に活用できるツールを、関連学会連携構築班は、連携システムとしての統一相談窓口の草案を作成した。
結果と考察
行政アンケートでは、アレルギー患者が要配慮者であるという認識は浸透していたが、情報公開・共有など細部に関しては不十分であることがわかった。患者との認識の乖離、自助啓発の不足、職員の基本的知識不足などが判明し、学習機会提供の要望が多かった。患者・養育者班アンケートでは、自助は不十分で、既存ツールの認知度が低いこと、情報不足に対する懸念や多種類の情報への要望が強いことが判明した。災害医療従事者のアンケートでは、アレルギー疾患対応の必要性、望ましい情報提供方法、既存ツールの認知度の低さ、相談窓口一本化の要望、患者情報収集の必要性、感染症の影響、自助啓発の重要性などが把握できた。また、関連学会連携構築班の調査では、関連学会個別では活動があるものの、連携したうえでのまとまった活動は行われていないことが判明した。ツール作成班の調査では、過半数の学会が災害情報を公開していたが、一般向け情報は少ないこと、一部の自治体の情報は不十分でアクセシビリティが良好でないことが判明した。これらデータをもとに、ツール作成班は問題解決ツールとして「災害におけるアレルギー疾患の対応~アレルギー疾患をお持ちの方、災害に対応する行政の方、災害医療に従事する方へ~」をPDFにて作成した。関連学会連携構築班は、令和2年度に作成した草案に、各分担班の調査結果を加味して修正を行い、「アレルギー関連災害対応窓口」の開設を日本アレルギー学会に提案、今後詳細が審議されることになった。今回のデータは、今後の災害対策において貴重な資料となると考えられた。
結論
行政、患者・養育者、災害医療従事者、関連各学会・団体に、災害時のアレルギー疾患の対応について調査を行い、有益な情報を得た。データに基づいて、災害に実際に活用することが期待できる様々なプロダクトを作成し、また統一した相談窓口について提案した。今後は、作成したツールの普及等の追跡調査、相談窓口システム実現のための検討が必要である。

公開日・更新日

公開日
2022-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-06-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202113004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1) 研究成果 
災害時のアレルギー疾患患者の対応に関して、避難所を運営し、支援物資の輸送に関わる行政の担当者、アレルギー患者およびその養育者、災害に対応する医師、看護師、保健師、栄養士、薬剤師など各職種の災害医療従事者の実際的なアンメットニーズを、詳細に把握することができた。
(2) 研究成果の学術的・国際的・社会的意義
これらデータは、今後の災害対策の基礎資料として、応用範囲が広く、活用が期待できるものである。
臨床的観点からの成果
(1) 研究成果
本研究で抽出できた行政、患者・養育者、災害医療従事者のアンメットニーズのデータを解析することによって、問題点を解決するツール、システム作成の基礎資料が得られた。それに基づいて、被災者のみならず、行政、災害医療者が活用できる有用なツールの作成ができた。また、災害時のアレルギー相談システムが提案できた。
(2) 研究成果の臨床的・国際的・社会的意義
ツール、連携システムは、実際の災害の現場での有用性が期待できる。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
今回のデータとツールはアレルギーの啓発活動に利用できるため、全国の自治体等各所にツールを配布した。実際、令和5年2月、令和6年2月の国立保健医療科学院のアレルギー疾患対策研修、令和4年度アレルギー疾患医療全国拠点病院連絡会議、令和4年度東京都アレルギー疾患治療専門研修、令和5年度東京都健康安全研究センターによる都民向けアレルギー講演、川崎市、目黒区の住民・栄養士向け講演等で多面的に活用している。本年度も9月の国立保健医療科学院研修、東京都の研修会、日本アレルギー学会で教育講演を行う予定である。
その他のインパクト
本研究で作成したツールは、普及が大切である。自治体、アレルギー拠点病院、関連学会、患者会、日本栄養士会、日本看護士会、日本薬剤師会などに資料を送付し、日本アレルギー学会のアレルギーポータル、日本小児アレルギー学会のホームページに掲載し、各学会のホームページ、SNS、メールリストを通じて広報を行うなど普及に努めている。日本小児アレルギー学会では、令和3年度、令和4年度にシンポジウムが開催され、紹介された。本年度もアレルギー学会教育講演で紹介する予定である。能登半島地震での利用状況も検討したい。

発表件数

原著論文(和文)
3件
3件が日本小児アレルギー学会誌に掲載された。
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
6件
日本小児アレルギー学会誌 2022年 第36巻 シンポジウムの報告として
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
16件
日本アレルギー学会、日本小児科学会、日本小児アレルギー学会、日本災害医学会、日本災害看護学会で発表
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
そなえるブックが東京都豊島区で配布資料として採用された
その他成果(普及・啓発活動)
19件
シンポジウム2件、アレルギーポータル掲載1件、自治体への周知1件、プロダクト配布6件、関連学会ホームページ掲載4件、関連学会・団体のメール・SNSによる周知5件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2022-05-27
更新日
2024-11-14

収支報告書

文献番号
202113004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,100,000円
(2)補助金確定額
10,100,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 356,416円
人件費・謝金 75,763円
旅費 28,800円
その他 7,239,021円
間接経費 2,310,000円
合計 10,010,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2022-05-27
更新日
-