がん諸対策の評価の指標と手法に関する研究

文献情報

文献番号
199700537A
報告書区分
総括
研究課題名
がん諸対策の評価の指標と手法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 久繁哲徳(徳島大学医学部)
  • 武藤正樹(国立長野病院)
  • 濱島ちさと(慶應義塾大学医学部)
  • 西村周三(京都大学経済学部)
  • 馬淵清彦((財)放射線影響研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の死因の第1位はがん(悪性腫瘍)であり、これまでさまざまなレベルでがん対策が実施されてきた。にもかかわらず、今後もがんはわが国の死因のトップであり続けることが予想されている。一方で、急激な高齢化、疾病構造の変化、つまり健康転換 Health Transitionにより、がん治療の目的も早死の予防とQOLの向上に重点が置かれるべきである。また、健康需要の拡大と資源の限界から、効率的な健康政策の実施、つまり健康変革 Health Sector Reform が必要とされている。近年、従来の指標に加えて、QOL(およびQALY)、PYLL、DALY等の新しい健康指標が開発されている。本研究は、がん対策のレベルにしたがってこれらの新しい健康指標を応用し、がん諸対策の評価を行ための手法を確立することを目的としている。
研究方法
研究方法としては、
1)地域レベルの評価指標と手法
? 全国レベルの評価として、1974年から1993年のがん死亡統計について、年齢訂正死亡率とともに、65歳以下の早死を表すPYLL(年齢訂正値)を全がんおよび主要な臓器別がんごとに算出した。循環器とがんのPYLLの時系列に比較した。都道府県ごとのがんのPYLLを1983年と1993年で比較した。
? 集団でのQOL測定の試みとして、健康関連生活の質(HRQOL)評価法に関して、EuroQol日本語版を用いて、住民台帳から無作為に抽出した18歳以上京都市一般住民1390名を対象に郵送法による調査を行った。
2)保健医療システムの評価指標と手法
以下の2つの手法を用いて、Disease Management Flow(DMF)の手法の開発を試みた。
? 実態の分析として、1993年9月の患者調査と医療施設調査をもとにして、病床の規模とがん患者の入院経路、治療、予後との関係を分析した。
? 胃がん診療の適切な医療資源の利用について、がん専門診療施設を中心とする20施設の専門家にアンケート調査を実施した。
3)個人レベルの評価指標と手法
? がん治療に関する生活の質の測定とその臨床判断への影響をみるため、早期乳がん治療での意思決定支援システムを開発し試験的に応用した。実際の乳がん患者15名に、早期乳がんの2つの治療法(乳房温存療法、乳房切除術)による期待生存年および生活の質を調整した生存年を算出し、インフォームドコンセントを行い、治療法選択への影響をみた。
? 患者満足度調査として、グループインタビューを行いKJ法にて分析した。同時に、ターミナルケア、がん告示、がんの診断・治療場所等についても意見聴取を行った。
結果と考察
研究結果としては、
1)地域レベルの評価指標と手法
?全国レベルの指標としてPYLLを使うと、1983年から1993年の10年間に年齢調整死亡率は、男性でほぼ横ばい、女性で低下していた。胃がんを除くと、女性ではほぼ横ばい、男性では明らかな上昇を認めた。特に、PYLLで見た場合、胃がん死亡の減少の影響が全体に大きな影響を与えていた。部位別には、男性で、肝がんは急激に増加し1986年をピークに減少、肺がんは漸増、大腸がんは漸増横ばいであった。女性では大腸が急速に増加していた。また、循環器疾患のPYLLと比較したところ、1972年からがんのPYLLが循環器のPYLLを上回っていた。都道府県レベルでのPYLLを時系列(1983年と1993年との比較)で検討したが、1県を除いてがんのPYLLは減少していた。PYLLは早死(ここでは65歳以下)の死亡のインパクトを全国レベルで評価する指標として適当と考えられる。また、地域レベルで活用も年齢調整死亡率に加えて、PYLLは国あるいは地方レベルでのがん対策の評価と政策的意志決定に不可欠であると考えられた。今後は、2次医療圏あるいは市町村レベルで、あるいは部位ごとにがんにりよるPYLLを算出し、がん対策の評価と今後の対策に活用すべきであると考える。
?HRQolのアンケートは、 675名(48.6%)から回答があった。HRQOLは加齢とともに緩やかに減少していた。VAS(Visual Analogue Scale)は全年齢を通じて比較的安定した結果が得られた。EuroQolは多くの国でその国の言語に翻訳されて使われており、一般的なHRQol測定に有用だけでなく、特に国際比較に有用と考えられた。
2)保健医療システムの評価指標と手法
? 患者調査によると、1993年9月の1ヶ月間にがん退院患者は76400名で、うち手術有は28400名(37%)であった。500床以上施設の手術有入院で42%、手術無で34%、300床以上はそれぞれ73%、63%を占めていた。自医療圏でのがん入院率80%以上は全国342医療圏の32%、60~80%は38%、60%未満は30%であった。
? 癌専門施設のアンケートでは、15施設77名の胃癌担当の医長から回答を得た。高度先進技術ほど専門施設、専門家が望ましいとする傾向が認められた。
?効率的ながん診療体制を確立するためには、今回の胃がんをモデルをしたDMFを他のがんに応用することで、高度機器、専門医などの資源配分および施設の機能分担を促進することが可能となると考えられる。
3)個人レベルの評価指標と手法
? 期待生存年と生活の質を調整した生存年(QALY)を比較した場合、放射線療法を施行しない場合には乳房切除術より温存療法が優れており、した場合には乳房切除術が優れていた。
こうした情報の提供は医師と患者双方にとって利点が認められた。
? 患者満足の研究では、人間関係を基本とする「信頼」が安心の中核をなし、階層的に満足・不満足を形成していることが判明した。同時に行ったがん診療に対する意見では、ホスピスでのターミナルケア希望、がん告示への積極性、専門病院でのがん診断・治療指向の傾向がみられた。
結論
今回、がん対策の各レベルにおいて新しい評価の指標を提言し、モデル的に実際に定量的な評価を行った。地域および国レベルでは、PYLLは新しいがん早死の指標として有効であることが確認され、保健医療システムレベルでの評価としてDMFをがん診療に応用したが、がん診療の効果的、効率的な体制づくりにはこうした研究が不可欠であると考えられる。
最後に、個人レベルでの評価として、QALYによる臨床判断と患者満足度の調査を行い、臨床現場での応用が可能であることが判明した。

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