新規抗パーキンソン病薬ゾニサミドの神経保護作用に関する臨床研究

文献情報

文献番号
200834005A
報告書区分
総括
研究課題名
新規抗パーキンソン病薬ゾニサミドの神経保護作用に関する臨床研究
課題番号
H18-難治・一般-005
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
村田 美穂(国立精神・神経センター 国立精神・神経センター病院)
研究分担者(所属機関)
  • 浅沼 幹人(岡山大学 大学院 医歯薬総合研究科)
  • 近藤 智善(和歌山県立医科大学 医学部)
  • 戸田 達史(大阪大学大学院 医学研究科)
  • 南部 篤(自然科学研究機構 生理学研究所)
  • 長谷川 一子(国立病院機構 相模原病院)
  • 服部 信孝(順天堂大学 医学部)
  • 野元 正弘(愛媛大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
41,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2001年主任研究者は抗てんかん薬ゾニサミド(ZNS)がパーキンソン病(PD)症状を著明に改善することを発見した。さらにZNSがin vitroでも通常投与量で神経保護作用を示したことから、神経保護作用のin vivoでの確認と機序の解明さらに臨床的な効果の確認を目的とした。
研究方法
神経毒によるPDモデル、遺伝子改変PD 自然発症マウス(Engrailed-1(+/-), Engrailed-2(-/-))及び培養細胞を用い、ZNSの神経保護作用を組織学的、病理学的に検討した。その作用機序を抗酸化作用を中心に生化学的に検討した。抗振戦作用の作用機序をc-fos発現を用いて検討した。 9年までの長期投与患者の臨床経過調査を行った。ZNSの効果を規定する候補遺伝子SNP解析を行った。 
結果と考察
ZNSはMPTPマーモセットへの前投与で黒質細胞障害に対して有意な保護作用を示した。マウスでは6OHDA投与3週後にZNSを投与し6OHDA投与後3週及び4週で比較することで、進行中のドパミン細胞脱落をZNSが保護することを示した。PD自然発症モデルにおいてもZNSが線条体ドパミン神経終末及び黒質ドパミン細胞数の減少を抑制することを示した。
強力な神経保護作用の機序として、ZNSが①S100分泌亢進を介して非活性型アストログリア増殖、グリア上のシスチントランスポーター発現増加を介し、GSHを著明に増加させること、②濃度及び時間依存的にPIP3/Akt系を活性化し、FKHRL1の活性化を介し著明なMnSOD発現増加作用をもつこと、③caspase 3, 9の発現抑制を介してstaurosporineにより誘発されるapoptosisを強く抑制することを示した。これらの結果はZNSが複数の作用点に強力に作用して神経保護効果を発揮することを示し、同時にZNSがPDのみならず多くの神経変性疾患に対し、神経保護効果を期待できることを示唆している。
振戦モデルでのc-fos発現の検討からZNSが大脳皮質及び基底核の神経活動を抑制的に制御することを明らかにした。9年間までのZNSの抗PD作用の経過を検討し、長期効果の確認とZNS非投与患者に比較し良好な経過をとる傾向を認め、臨床的な神経保護効果を見ている可能性が示唆された。SNP chipを用いて、ZNSの効果決定因子となる多型をもつ候補遺伝子を得た。
結論
 ZNSの神経保護作用、抗PD効果の作用機序の解明について多面的に研究を進めた。

公開日・更新日

公開日
2009-03-31
更新日
-

文献情報

文献番号
200834005B
報告書区分
総合
研究課題名
新規抗パーキンソン病薬ゾニサミドの神経保護作用に関する臨床研究
課題番号
H18-難治・一般-005
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
村田 美穂(国立精神・神経センター 国立精神・神経センター病院)
研究分担者(所属機関)
  • 浅沼 幹人(岡山大学大学院 医歯薬総合研究科)
  • 近藤 智善(和歌山県立医科大学 医学部)
  • 戸田 達史(大阪大学大学院 医学研究科)
  • 南部 篤(自然科学研究機構 生理学研究所)
  • 長谷川 一子(国立病院機構 相模原病院)
  • 服部 信孝(順天堂大学 医学部)
  • 野元 正弘(愛媛大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2001年主任研究者は抗てんかん薬ゾニサミド(ZNS)がパーキンソン病(PD)症状を著明に改善することを発見した。さらにZNSが神経保護作用をもつことをみいだしたことから、神経保護作用の確認とその作用機序の解明, さらに臨床的な効果の確認, 抗PD作用の作用機序の解明を目的とした。
研究方法
様々なPDモデルを用い、ZNSの神経保護効果を明らかにした。作用機序は生化学的、生理学的、形態学的手法を用い、多面的に解析した。臨床的に長期効果の評価及び効果を規定する候補遺伝子SNP解析を行った。 
結果と考察
培養細胞及びげっ歯類から霊長類まで、6OHDA, MPTP, Engrailed mutantなど多様なドパミン神経細胞死モデルに対し、ZNSが治療量で強い神経保護効果を示すことを明らかにした。神経保護作用の作用機序としてはZNSが、1)非活性型アストログリア増殖の促進あるいはアストログリア上のシスチン/グルタミン酸トランスポーターの発現誘導により、アストログリアでのシスチン取り込み増加を介して、神経細胞での著明なグルタチオン増加をおこすこと、2)PTEN, PIP3/Akt, FLHRL1, MnSODの一連の系を活性化しミトコンドリア内に局在して活性酸素種を除去するMnSOD発現量を著明に増加させることを明らかにした。これらの結果はZNSがドパミン神経のみならず多くの神経変性疾患において、神経保護薬として効果を示すことを示唆している。
抗PD効果の作用点は、被殻、黒質と考えられ、L-dopa併用により効果が増強されるが、ZNS単独でもPDで認める基底核の異常発射パターンを正常化すること、ドパミン合成亢進作用を示すことを明らかにした。また、ZNSがドパミン系を介さない、T型Caチャネル阻害作用を介すると思われる抗振戦作用を持つことを明らかにし、さらにこの作用機序としては振戦源そのものより運動回路網への作用であることを示した。
国際的に承認される神経保護作用の臨床評価システムがなく、臨床評価は断念したが、進行性疾患であるにもかかわらず、進行期PD患者における9年間までの長期観察ではいずれも良好な経過を示し、臨床的な神経保護作用が示唆された。
結論
 多様なモデルを用いてZNSの強力な神経保護作用を示し、その作用機序を明らかにすることにより、ZNSがドパミン神経のみならず多くの神経変性疾患において、神経保護薬として作用する可能性を示した。

公開日・更新日

公開日
2009-03-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200834005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
わが国で開発された抗てんかん薬ゾニサミド(ZNS)の抗パーキンソン(PD)作用とともに、神経保護作用を明らかにした。様々なPDモデル動物、培養細胞系で強力な神経保護効果を確認したが、なかでもPD自然発症マウスを導入し、ZNSの神経保護効果を確認したことは意味が大きい。作用機序としては、グリアを介するGSH合成亢進作用による著明なキノン体消去作用やMnSOD発現増加作用を示すことを明らかにし、ZNSがPDのみならず多くの神経変性疾患においても神経保護薬として期待できる成果を得た。
臨床的観点からの成果
現時点でドパミン神経変性を抑制する神経保護効果を確認された薬剤はまだない。安全性が確認されている既知の薬剤で新たに抗PD効果を発見し(2009年1月抗PD薬として承認)作用機序の解明と共に、強力な神経保護作用をモデル動物で確認し作用機序を明らかにしたことは、患者に大きな福音である。しかもこの神経保護効果は治療法のない他の神経変性疾患にも応用できる可能性がある。大規模SNP tag chip検索から効果決定に関連する候補遺伝子を見出したことは今後のPDのオーダーメイド医療に生かせる成果である。
ガイドライン等の開発
ゾニサミドは2009年1月、抗パーキンソン病薬として承認された。
その他行政的観点からの成果
発見当初、非常に廉価な薬剤でPD症状に極めて高い効果を示したために、医療経済上も大きな貢献ができると考えていた。しかし、抗てんかん薬としてわが国で約20年使用されている薬剤であるにもかかわらず、新規効能として承認され非常に高い薬価がついたため、医療経済上の貢献はなくなった。ただし、ZNS長期使用患者では多くが比較的良好な経過を維持しており(神経保護効果が示唆される)、ADL低下を予防するという意味では極めて大きな貢献となる可能性がある。
その他のインパクト
2007年1月3日朝日新聞記事 てんかん薬、パーキンソン病に効果 ゾニサミド運動機能が改善
2007年1月4日毎日新聞記事 パーキンソン病にも有効 てんかん薬「ゾニサミド」震えを緩和
2009年2月27日日刊薬業記事 ゾニサミドに神経保護作用の可能性
2009年3月19日NIKKEI ラジオ 抗パーキンソン病薬ゾニサミド

発表件数

原著論文(和文)
29件
原著論文(英文等)
120件
その他論文(和文)
204件
その他論文(英文等)
13件
学会発表(国内学会)
247件
学会発表(国際学会等)
79件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Miyazaki I, Asanuma M.
Approaches to Prevent Dopamine Quinone-Induced Neurotoxicity
Neurochem Res. , 34 (4) , 698-706  (2009)
原著論文2
Tsuji T, Asanuma M, Miyazaki I, Miyoshi K, Ogawa N.
Reduction of Nuclear Peroxisome Proliferator-Activated Receptor γ Expression in Methamphetamine-Induced Neurotoxicity and Neuroprotective Effects of Ibuprofen
Neurochem Res. , 34 (4) , 764-774  (2009)
原著論文3
Asanuma M, Miyazaki I.
Nonsteroidal Anti-Inflammatory Drugs in Esperimental Parkinsonian Models and Parkinson's Disease
Curr Pharmaceu Design. , 14 , 1428-1434  (2008)
原著論文4
Miyazaki I, Asanuma M.
Dopaminergic Neuron-Specific Oxidative Stress Caused by Dopamine Itself
Acta Med. , 62 (3) , 141-150  (2008)
原著論文5
Shimizu M, Miyazaki I, Higasgi Y, Eslava-Alva MJ, Diaz-Corrales FJ, Asanuma M, Ogawa N.
Specific inducation of PAG608 in cranial and spinal Motor neurons of L-DOPA-treated parkinsonian rats
Neurosci Res. , 60 , 355-363  (2008)
原著論文6
Hozumi H, Asanuma M, Miyazaki I, Fukuoka S, Kikkawa Y, et al.
Protective effects of interferon-γ against methamphetamine-induced neurotoxicity
Toxicol Lett , 177 , 123-129  (2008)
原著論文7
Asanuma M, Miyazaki I, Diaz-Corrales FJ, Niyoshi K, Ogawa N, Murata M.
Preventing effects of a novel anti-parkinsonian agent zonisamide on dopamine quinone formation
Neurosci Res , 60 , 106-113  (2008)
原著論文8
Diaz-Corrales FJ, Asanuma M, Miyazaki I, Miyoshi K, Hattori N.
Dopamine Induces Supernumerary Centrosomes and Subsequent Cell Death through Cdk2 up-Regulation in Dopaminergic Neuronal Cells
Neurotoxic Res , 14 (4) , 295-305  (2008)
原著論文9
Miyazaki I, Asanuma M.
Dopaminergic Neuron-Specific Oxidative Stress Caused by Dopamine Itself
Acta Med Okayama , 62 (3) , 141-150  (2008)
原著論文10
Miyazaki I, Asanuma M, Hozumi H, Miyoshi K, Sogawa N.
Protective effects of metallothionein against dopamine quinone-induced dopaminergic neurotoxicity
FEBS Letters , 581 , 5003-5008  (2007)
原著論文11
Asanuma M, Miyazaki I,Diaz-Corrales FJ, Kimoto N, Kikkawa Y, Takeshima M, Miyoshi K, Murata M.
Neuroprotective effects of zonisamide target astrocyte
Ann Neurol , 67 , 239-249  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-