骨粗鬆症の予防及び検診提供体制の整備のための研究

文献情報

文献番号
202109011A
報告書区分
総括
研究課題名
骨粗鬆症の予防及び検診提供体制の整備のための研究
課題番号
19FA1014
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
田中 栄(東京大学医学部附属病院  整形外科)
研究分担者(所属機関)
  • 曽根 照喜(川崎医科大学 放射線医学(核医学))
  • 藤原 佐枝子(安田女子大学 薬学部)
  • 萩野 浩(鳥取大学医学部)
  • 上西 一弘(女子栄養大学 栄養生理学研究室)
  • 小川 純人(東京大学 医学部附属病院)
  • 吉村 典子(東京大学医学部附属病院 22世紀医療センター ロコモ予防学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
6,150,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は科学的根拠に基づいた骨粗鬆症の予防方法および検診手法について検討し、エビデンスに基づく持続可能で効果的な骨粗鬆症検診体制を構築し、今後の骨粗鬆症対策の推進に資する成果を得ることである。令和3年度も、この目的達成のために、研究代表者田中の総括のもと、各分担研究者が個別の研究目的を達成するために研究活動に従事するとともに、全員で骨粗鬆症検診の手法を決定し、骨粗鬆症検診マニュアルの原案作りに着手することとした。
研究方法
令和3年度は2021年度は、研究代表者の田中の総括のもと、それぞれが担当する文献レビューや疫学研究の結果をいかして、全員で骨粗鬆症検診の手法、対象者の年齢について決定し、骨粗鬆症検診マニュアルの原案作成に着手した。
過去2年間にわたる研究班での話し合いや分担研究者小川による文献レビューの結果から、Fracture Risk Assessment Tool (FRAX)が骨粗鬆症検診における有力なツールであることで全員の意見が一致した。そこで、FRAXについて、骨粗鬆症要精査の範疇に入る対象者を最も効率よく検出するためのカットオフ値を求めることとした。カットオフ値の設定については、分担研究者吉村が設立管理している大規模住民コホートベースライン調査における骨粗鬆症検診参加者1690人(男性596人、女性1094人)を対象とし、ベースライン調査時に質問紙にて回答を得たFRAXの項目とDXAによって測定した骨密度値を含むデータセットを作成した。対象者の腰椎L2-4及び大腿骨頸部の骨密度のいずれかが日本骨代謝学会の基準による骨量減少以上(若年最大骨密度の80%未満)にあたる場合を、骨粗鬆症スクリーニング要精査者と判定した。そのデータセット用いて、FRAXを用いた10年間の脆弱性骨折(major fracture)のリスク値による骨量減少者の判定について、ROCカーブを用いた解析を行った。
結果と考察
ROCカーブのAUCは0.793であり、最近傍法を用いたカットオフ値は8.75であった。このカットオフ値を用いた場合、sensitivityは 68.1% 、specificity 74.2%と良好な結果が得られた。これを性、年齢別に解析し、50歳代以下、60-74歳、75歳以上に分けた場合の男性のカットオフ値はそれぞれ5%、5%、10%、女性は5%、10%、全員骨密度測定が提案された。FRAXによる解析終了後、1) 骨折歴を別立てにすべきかどうか、2)骨粗鬆症のリスク評価を行うためのツールであるFOSTA(Female Osteoporosis Self Assessment Tool for Asia)を併用したほうがいいのではないかとの意見が出た。FOSTAとは、(体重(kg)-年齢(歳))×0.2での結果より、マイナス4未満:危険度が高い、マイナス4~マイナス1未満:危険度が中等度、マイナス1未満:危険度が低い と判定される骨粗鬆症の簡易判定ツールである。本来女性用の判定ツールであるが、男性にも転用することは認められている。骨量減少の判定基準にはFOSTA−1以下を用いた。まず骨折歴の骨量減少者の判定について解析したところ、「骨折歴あり」は若年層(59歳以下)において骨量減少に対する感度を上げることがわかった。次にFRAXとFOSTAの併用において、感度特異度の上昇が期待できるかについて追加解析を行った。その結果、男女、全年齢において、FOSTAのみでは感度85.6%、FOSTAまたは FRAX は91.1%になった。
これらの結果より、FRAXを主体とし、FOSTAを併用、骨折歴ありの場合を別立てとすることになった。対象者は男女40歳以上とし、それぞれ年齢別にカットオフ値を決定し、検診フローの提案に至った。
今後の課題としては、検診間隔の設定と、検診フローの検証がある。これらが未決定のため、検診マニュアルの策定までには至らなかった。ただし、栄養や運動指導のパンフレットなど検診後指導についてはすでに完成した。
結論
効果的な骨粗鬆症検診体制の策定に向けて、実際に検診を行っている集団のデータ解析に基づき、検診フローの提案に至った。検診後指導向けの運動プログラム、栄養パンフレットも作成し得た。

公開日・更新日

公開日
2022-11-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-11-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202109011B
報告書区分
総合
研究課題名
骨粗鬆症の予防及び検診提供体制の整備のための研究
課題番号
19FA1014
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
田中 栄(東京大学医学部附属病院  整形外科)
研究分担者(所属機関)
  • 曽根 照喜(川崎医科大学 放射線医学(核医学))
  • 藤原 佐枝子(安田女子大学 薬学部)
  • 萩野 浩(鳥取大学医学部)
  • 上西 一弘(女子栄養大学 栄養生理学研究室)
  • 小川 純人(東京大学 医学部附属病院)
  • 吉村 典子(東京大学医学部附属病院 22世紀医療センター ロコモ予防学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨粗鬆症の予防は人生100 年時代に向かうわが国にとって、健康寿命の延伸を目指す上で極めて重要であり、科学的根拠に基づいた有効な予防方法の普及啓発及び早期発見に向けた骨粗鬆症対策の実施が必要とされている。しかしながら早期発見のための骨粗鬆症検診の自治体における実施率は全国平均で5.0%と極めて低く、検診の手法や対象者の年齢、実施間隔も統一されておらず、それらの効果も明らかではない。そこで我々は科学的根拠に基づいた骨粗鬆症の予防方法および検診手法について検討し、エビデンスに基づく持続可能で効果的な骨粗鬆症検診体制を構築し、今後の骨粗鬆症対策の推進に資する成果を得ることを目的として本研究を開始した。
研究方法
令和元年度〜2年度は、分担研究者らのシステマティックレビューにおいて、骨粗鬆症の検診方法として、Fracture Risk Assessment Tool(FRAX)を用いたスクリーニングの後大腿骨近位部骨折発症率減少が認められることが報告された。自治体における骨粗鬆症検診の実態の解明も行い、公表されている骨粗鬆症検診のデータを用いて、検診実施率、検診受診率、要精検者の結果の割合(精密検査の結果、未受診率、未把握率)を、節目年齢別、県別に求めた。
最終年度はこれまでの研究をもとに、全員で具体的な骨粗鬆症検診の手法、対象者の年齢などを決定した。骨粗鬆症検診における有力なツールと考えられるFRAXについて、要精査の範疇に入る対象者を最も効率よく検出するためのカットオフ値を求めた。カットオフ値の設定については、分担研究者が設立管理している大規模住民コホートベースライン調査における骨粗鬆症検診参加者1690人(男性596人、女性1094人)を対象とし、ベースライン調査時に質問紙にて回答を得たFRAXの項目とDXAによって測定した骨密度値を含むデータセットを作成した。対象者の腰椎L2-4及び大腿骨頸部の骨密度のいずれかが日本骨代謝学会の基準による骨量減少以上(若年最大骨密度の80%未満)にあたる場合を、骨粗鬆症スクリーニング要精査者と判定した。そのデータセット用いて、FRAXを用いた10年間の脆弱性骨折(major fracture)のリスク値による骨量減少者の判定について、ROCカーブを用いた解析を行った
結果と考察
ROCカーブのAUCは0.793であり、最近傍法を用いたカットオフ値は8.75であった。このカットオフ値を用いた場合、sensitivityは 68.1% 、specificity 74.2%と良好な結果が得られた。これを性、年齢別に解析し、男女とも50歳代以下、60-74歳、75歳以上に分けた場合の男性のカットオフ値はそれぞれ5%、5%、10%、女性は5%、10%、全員骨密度測定が提案された。FRAXによる解析終了後、1) 骨折歴を別立てにすべきかどうか、2)骨粗鬆症のリスク評価を行うためのツールであるFOSTA(Female Osteoporosis Self Assessment Tool for Asia)を併用したほうがいいのではないかとの意見が出た。まず骨折歴の骨量減少者の判定について解析したところ、「骨折歴あり」は若年層(59歳以下)において骨量減少に対する感度を上げることがわかった。次にFRAXとFOSTAの併用において、感度特異度の上昇が期待できるかについて追加解析を行った。骨量減少の判定基準にはFOSTA−1以下を用いた。その結果、男女、全年齢において、FOSTAのみでは感度85.6%、FOSTAまたは FRAX は91.1%であった。
これらの結果より、FRAXを主体とし、FOSTAを併用、骨折歴ありの場合を別立てとすることになった。対象者は男女40歳以上とし、それぞれ年齢別にカットオフ値を決定し、検診フローを提案した。
今後の課題としては、検診間隔の設定と、検診フローの検証がある。これらが未決定のため、検診マニュアルの策定までには至らなかった。ただし、栄養や運動指導のパンフレットなど検診後指導についてはすでに完成した。
結論
効果的な骨粗鬆症検診体制の策定に向けて、実際に検診を行っている集団のデータ解析に基づき、検診フローの提案に至った。検診後指導向けの運動プログラム、栄養パンフレットも作成し得た。

公開日・更新日

公開日
2022-11-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-11-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202109011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
エビデンスに基づく持続可能で効果的な骨粗鬆症検診体制として、FRAXを主体とし、OSTAを併用、骨折歴ありの場合を別立てとした検診項目と、それを用いた検診フローを提案した。この骨粗鬆症検診フローについては、第24回日本骨粗鬆症学会(2022年9月、大阪国際会議場)において「骨粗鬆症健診の普及をめざして」にて報告され、専門家らと活発な議論がかわされた。
臨床的観点からの成果
本研究班では、FRAXを主体とし、OSTAを併用、骨折歴ありの場合を別立てとした検診項目と、それを用いた検診フローを提案した。これは従来の骨粗鬆症検診の問題点を克服する始めての試みであり、骨粗鬆症予防の現場においても、医師や骨密度計がなくても実施できる簡便さにより、骨粗鬆症検診実施率、受診率の上昇と早期予防対策の効果的な推進に貢献することが期待される。骨粗鬆症検診を円滑に実施するために、「骨粗鬆症検診マニュアル作成に向けた研究(22FA1009)」班にて、検診マニュアルの作成がすすんでいる。
ガイドライン等の開発
本研究はエビデンスに基づく持続可能で効果的な骨粗鬆症検診体制を構築し、今後の骨粗鬆症対策の推進に資する成果を得ることを目的とした本研究班では、検診フローの提案には到達したが、マニュアルの完成までには至らなかった。現在「骨粗鬆症検診マニュアル作成に向けた研究(22FA1009)」班にてマニュアルの作成が進んでいる。
その他行政的観点からの成果
本研究の一環として、総務省統計局から公表されている国勢調査および地域保健・健康増進事業報告のデータを用いて、検診実施率、検診受診率、検診の結果、要精検となった人の転帰を、節目年齢別、県別に求めた。さらに検診実施率の高かった自治体には分担研究者がインタビューに行き検診成功例の経験を共有した。今後検診フローを普及する上での自治体のニーズを把握する貴重な成果となった。また今後の検診事後指導に用いることができる栄養、運動パンフレットも完成した。
その他のインパクト
効果的な骨粗鬆症検診体制の策定に向けて、実際に検診を行っているコホート集団のデータ解析に基づき、検診フローの提案に至った。第24回日本骨粗鬆症学会(大阪国際会議場)においてシンポジウムが開催され骨粗鬆症検診の項目や検診率改善に向けて活発な議論がなされた。検診後指導向けの運動プログラム、栄養パンフレットも作成した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
118件
その他論文(和文)
15件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
25件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
14件
シンポジウム10件、講演4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Saeko Fujiwara, et al
Incidence of fractures among patients receiving medications for type 2 diabetes or chronic obstructive pulmonary disease and glucocorticoid users according to the National Claims Database in Japan
Arch Osteoporos , 16 (1) , 106-106  (2021)
10.1007/s11657-021-00968-9
原著論文2
Noriko Yoshimura, et al
Epidemiology of locomotive syndrome using updated clinical decision limits: 6-year follow-ups of the ROAD study
Journal of Bone and Mineral Metabolism , - (-) , ---  (2022)
10.1007/s00774-022-01324-8
原著論文3
Yuki Kitsuda, et al
Impact of high‑load resistance training on bone mineral density in osteoporosis and osteopenia: a meta‑analysis
Journal of Bone and Mineral Metabolism , 39 (5) , 787-803  (2021)
10.1007/s00774-021-01218-1

公開日・更新日

公開日
2022-11-16
更新日
2023-06-22

収支報告書

文献番号
202109011Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,995,000円
(2)補助金確定額
7,995,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,381,163円
人件費・謝金 2,215,674円
旅費 114,760円
その他 1,449,159円
間接経費 1,845,000円
合計 8,005,756円

備考

備考
自己資金:10,756円

公開日・更新日

公開日
2022-11-10
更新日
-