難治がん治療のための新技術開発

文献情報

文献番号
199700529A
報告書区分
総括
研究課題名
難治がん治療のための新技術開発
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
山口 建
研究分担者(所属機関)
  • 吉田輝彦(国立がんセンター研究所)
  • 若杉尋(国立がんセンター研究所)
  • 高上洋一(国立がんセンター中央病院)
  • 佐々木康綱(国立がんセンター東病院)
  • 荻野尚(国立がんセンター東病院)
  • 福島雅典(愛知県がんセンター)
  • 小原孝男(東京女子医科大学)
  • 望月徹(静岡県立大学薬学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
92,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、難治がんの治療成績向上につながる新しい診断技術と有効な治療法を開発することを目的としている。まず、細胞のがん化との関連が明らかにされているステロイドホルモン受容体族Nur77/NGFI-Bファミリーの機能の解明と、神経芽細胞腫に対し強力な分化誘導促進作用を有するインドロカルバゾール骨格を持つ蛋白燐酸化酵素阻害剤の作用メカニズムを検討した。遺伝性腫瘍症候群の一つである多内分泌腺腫瘍症1型及び2型に関しては、遺伝子診断技術により、保因者診断を可能とするための研究を行った。難治がんのための抗がん剤の開発については、生理活性ペプチドやプロスタグランディン誘導体をがん治療に応用するための研究を進めるとともに、抗がん剤の第1相臨床試験の方法論に関する研究をも進めた。超大量化学療法のための血液幹細胞移植に関しては、HLA不一致の親あるいは兄弟をドナーとした同種末梢血幹細胞移植法の確立を目指した。新しいがんの治療法を目指す研究としては、膵がん細胞を対象とする遺伝子治療の基礎研究において、効率よく治療遺伝子を導入しうる方法の開発を目指すとともに、新しいがん免疫理論に基づくがんの免疫療法のための基礎技術の開発を行った。さらに、がんの陽子線治療に関する新しい治療技術の開発をも目指した。
研究方法
ステロイドホルモン受容体族Nur77/NGFI-Bファミリーの一つであるNOR-1遺伝子は軟骨肉腫のがん化に関与している。NOR-1遺伝子の機能の解明を目指し、Nur77、NGFI-B及びNOR-1の各種刺激に対する反応性を乳がん細胞株で検討した。また、神経芽腫培養株NB-OK-1におけるインドロカルバゾール化合物の分化誘導作用について、形態の変化と生化学的分化の指標について検討を加えた。多内分泌腺腫瘍症については、全国の症例を集積し、臨床データについての分析を行った。さらに、1型については原因遺伝子であるMEN1を対象とした遺伝子診断を行い、2型については、散発性甲状腺髄様がん症例における胚細胞突然変異の存在を検討した。プロスタグランディン誘導体Lipo-TEI-9826については、ラットへの反復静注内投与による毒性、血中濃度推移、及びColon26移植腫瘍系における腫瘍増殖抑制効果を検討した。新規podophyllotoxin誘導体(TOP-53)については、pharmacokinetically-guided dose escalation法により100%づつ増量しながら第1相臨床試験を施行した。超大量化学療法のための同種末梢血幹細胞移植法については、HLA一致ドナーが不在の患者の血縁者にアフェレーシスを行って採取した細胞から、抗CD34抗体と免疫磁気ビーズを用いて細胞純化を行って移植し、副作用や治療効果を検討した。遺伝子治療に関する基礎検討においては、ヒト膵臓がん細胞株(AsPC-1)をBalb/cヌードマウスの腹腔内に移植し、腹膜播種モデルを作成した後、移植後21日目にSV40初期遺伝子プロモーターによりルシフェラーゼ遺伝子を発現するレポータープラスミドを各種のリポフェクション試薬とともに腹腔内に投与、24時間後に臓器に分布したルシフェラーゼ活性をルミノメーターにて測定した。また、プラスミドDNAの各種臓器への分布についても検討を加えた。新しい免疫療法に関する研究では、C57BL/6マウスの脾臓や肝臓より常法を用いて精製した単核球細胞から抗NK1.1、IL-2Rb鎖抗体およびMACSシステムやFACS Vantageセルソーターを用いたネガティブ・ポジティブ選択によりNK1.1陽性あるいはIL-2Rb鎖陽性細胞を除去・精製し、リコンビナ
ントIL-2存在下でin vitroの培養条件下で細胞培養をおこない、その細胞特性を解析した。陽子線治療においては、コンピューテッド・ラジオグラフィ装置で取得された画像を用いて位置照合のための専用ソフトウェアの構築を行った。
結果と考察
ステロイドホルモン受容体族NOR-1遺伝子及びNGFI-B, Nurr-1の発現調節を解析し、NOR-1のみがヒト乳がん細胞MCF7においてレチノイン酸による誘導を受けることを明らかにした。神経芽腫培養株において、スタウロスポリンは、in vitroではAキナーゼを含む蛋白質リン酸化酵素阻害剤であるが、本剤で処理された細胞ではcAMP依存性のAキナーゼの活性が亢進していることが明らかとなった。多内分泌腺腫瘍症の遺伝子診断に関しては、1型において全国調査により86例の臨床所見を分析した。さらに、これらの症例の一部について原因遺伝子であるMEN1遺伝子の胚細胞突然変異を解析し、5家系でエキソン部分に変異を認めた。また、エキソン部分に変異を認めなかった症例のうち1家系では遺伝子全体の欠失があることを見出した。このようなMEN1遺伝子全体の欠失は世界で初めての症例であるが、従来の遺伝性がんの遺伝子診断法では見落とされる変化であるため、今後の方法論の改良が必要である。一方、2型については、臨床的に散発性甲状腺髄様がんと診断された46例におけるRET遺伝子の胚細胞突然変異を解析し、9例に点突然変異を同定し、本疾患に含まれる潜在性の多内分泌腺腫瘍症2型患者の発見に遺伝子診断が有用であることを明らかにした。プロスタグランディン誘導体Lipo-TEI-9826については、ラットの7日間連続投与耐容量が80mg/kgであることが明らかとなった。15-deoxy-Δ7-PGA1の血中動態は、in vivoにおける抗腫瘍効果が静注よりも腹腔内投与でより顕著で、至適投与が持続静注であることを裏付ける結果と考えられた。このような実験結果を基に、シスプラチン耐性再発卵巣がん患者や5-FU不応性再発大腸がん患者を対象として第1相臨床試験を計画する。一方、新規podophyllotoxin誘導体の第1相臨床試験においては、phar-macokinetically-guided dose escalation法及びcontinual reassessment法を用い、既存の方法より増量ステップ数及び症例数を減ずることが可能であり、最小の症例数で最大耐量に到達するための抗がん剤第1相試験法として有望である。同種末梢血幹細胞移植法に関する検討では、HLA不一致血縁者ドナーにG-CSFを投与して末梢血幹細胞を採取し、更に抗CD34抗体を用いて純化し、安全に同種移植が行えることを明らかにした。さらに、移植後の造血回復を更に促進させるために、幹細胞の末梢血中への動員や輸注後の骨髄への定着機序の解明に努め、移植細胞を直接骨髄内に輸注して骨髄へのホーミングを高めうる可能性を示唆する成績を得た。遺伝子治療の基礎技術開発に関する研究においては、ルシフェラーゼ発現プラスミドを直鎖状polyethylenimine(PEI)と混合して腹腔内に投与し、腫瘍への選択的な治療遺伝子の導入が認められた。また、免疫療法に関する基礎研究では、CD3陽性IL-2Rb鎖陽性NK1.1陰性細胞の一部がNK1.1抗原を発現することが明らかとなった。陽子線治療におけるコンピューテッド・ラジオグラフィを用いた位置照合システムは、位置照合精度と視認性の向上を実現し、治療精度と効率を上昇させる優れた方法であることが明らかにされた。
結論
遺伝性腫瘍症候群の一つである多内分泌腺腫瘍症1型及び2型について、我が国の症例を分析し、保因者診断法を確立した。さらに1型については原因遺伝子MEN1の全体の欠失例を発見し、2型については散発性甲状腺髄様がんと診断されている症例の中に多くの遺伝性腫瘍が含まれていることを明らかにした。抗がん剤に関する研究では、第1相臨床試験において、最小の症例数で最大耐量に到達することを目的としたpharmacokinetically-guided dose es-calation法及びcontinual reassessment法が有用であることを示した。また、超大量化学療法において、確実にドナーを確保出来る造血幹細胞移植法であるHLA不一致の親あるいは兄弟をドナーとした同種末梢血幹細胞移植法を確立した。遺
伝子治療に関する基礎研究では、PEIとDNAとの複合体を腹腔内に注入することにより、効率良く、かつ腫瘍選択的に治療遺伝子の発現を誘導できることをヌ-ドマウス移植膵がん腹膜播種モデルを用いて示し、免疫療法に関しては、LAK細胞のprecursor細胞がCD3陽性IL-2Rb鎖陽性NK1.1陰性細胞の一部であることを明らかにした。さらに、陽子線治療における治療精度と効率を上昇させるため、コンピューテッド・ラディオグラフィ(CR)を用いた位置照合システムを開発した。

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