文献情報
文献番号
202109001A
報告書区分
総括
研究課題名
歯科口腔保健の新たな評価方法・評価指標の開発のための調査研究~我が国の歯科健康格差縮小へのヘルスサービスリサーチ~
課題番号
19FA1001
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
田宮 菜奈子(国立大学法人筑波大学 医学医療系 / ヘルスサービス開発研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 財津 崇(東京医科歯科大学大学院健康推進歯学分野)
- 高橋 秀人(国立保健医療科学院 統括研究官)
- 森 隆浩(千葉大学大学院医学研究院総合医科学講座)
- 佐方 信夫(国立大学法人筑波大学 医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野)
- 岩上 将夫(筑波大学 医学医療系 ヘルスサービスリサーチ分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
5,433,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
歯科の健康格差について地域間・社会経済学的要因が指摘され、その縮小が求められている。しかしながら、現在まで歯科口腔保健の評価は、歯科疾患実態調査、国民健康・栄養調査等の公的統計調査から行われてきたが、これらは評価できる対象が限られており、また健康な人が多く回答している可能性があった。本研究では、我が国の歯科健康実態を正しく把握分析すること、また歯科口腔保健の有効な評価指標の開発を行うことを目的として、診療報酬情報データベース、公的統計調査の利活用可能性と評価指標を検討する。
研究方法
本研究は<1>文献レビューによる評価方法・評価指標の現状把、<2>既存公的統計の歯科口腔保健に関連する評価指標の再評価・改善策の検討、<3>全国規模の歯科保健の実態把握および各地域・社会経済的要因間における格差の検討に資する評価指標の開発、<4>要支援・要介護者の歯科口腔保健の実態把握、<5>新たな歯科口腔保健の評価方法・指標の考察と開発及び検証、<6>現在の歯科健康の課題及びこの解消に向けた施策についての考察、により構成する。本最終年度は<3>・<4>に加え,本年度までの研究も踏まえ,<5>・<6>として歯科口腔保健の評価指標の整理と今後の改善策および施策について検討を行った。倫理面への配慮として本研究は,筑波大学医の倫理委員会(通知番号:第1339号,第1446号,第1490号、第1594号)、東京医科歯科大学歯学部附属病院倫理審査委員会(受付番号:D2019-065)の審査による承認を得て実施した。
結果と考察
<2>「歯科疾患実態調査」「国民健康・栄養査」の分析から,歯科受診,歯科検診受診は,運動習慣等の健康意識とボランティア等の社会参加活動との関連がみられた。また家庭における家族の喫煙状況が残存歯数に影響を与えていた。<3>「国民生活基礎調査」の分析から,男性の家族介護者には満たされない歯科医療ニーズ(unmet dental needs)が存在する可能性が示唆された。就労者ではその約半数に満たされない歯科医療ニーズが存在していたが,就労状況との関連はみられなかった。「NDBオープンデータ」「国民生活基礎調査公表データ」の分析から,歯科疾患有訴者と歯科外来受診には有意な地域相関が認められた。歯や歯肉に症状のある者は,投薬及び, う蝕治療・歯周病治療の初期治療を受けている実態が窺えた。他方で, 口腔機能障害に至った者に対する咬合回復治療には課題がある可能性が考えられた。歯科医療受療の全国地域差の経年変化は,歯科受診では,外来受診の地域差に大きな変化が認められない一方で,訪問歯科診療では地域差に減少傾向が窺えた。治療内容では,う蝕治療,歯周病治療,補綴治療では地域差に一定した経年の変化はみられなかったが,抜歯治療において経年の増加傾向がみられた。<4>「自治体の医療介護データ」の分析から,後期高齢者では年齢と要介護度が高くなるほど歯科受診割合が減少する傾向がみられたが,95歳以上の高齢者では要介護認定がない集団で受診割合が最も低い状況が認められた。この集団に対して、歯科受診を促すアプローチを検討することが今後,、高齢者の口腔健康や全身状態を向上させる上で必要であると考えられた。<5>今後望まれる歯科口腔保健の指標体系としては,①「要因」と「結果」の両者の情報を収集する視点,② PDCAサイクルの考え方に対応している視点,③事業を3段階「行政」「施設」「個人」の枠組みで展開する視点,が必要であり,この3視点を有する「口腔保健事業評価モデル」の構築が歯科口腔保健の「改善」に寄与するものと考えられた。本研究班で得られた結果から、政策として以下の三つを提言する。(1)NDBオープンデータの利活用の推進、(2)多くの歯科指標の地域差を算出可能とするための施策、(3)量の指標から機能や予防を重視した指標への転換のための施策である。
結論
本年度の研究により,歯科口腔保健における評価指標として、歯科口腔保健行動,健康行動の視点からは,歯科受診や歯科検診の受診割状況、運動習慣等が,社会・経済的視点かは,介護施設入所中の歯科連携の実施、家族介護の有無,就労状況,家庭における受動喫煙等が有用であることが示唆された。また歯科口腔保健指標をPDCAサイクルの視点から3層D-Plus評価マトリクスを用いて評価活用することで歯科口腔保健の「改善」への有用性が示唆された。
公開日・更新日
公開日
2022-10-12
更新日
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