がん患者の自殺予防プログラムの開発に向けた研究

文献情報

文献番号
202108048A
報告書区分
総括
研究課題名
がん患者の自殺予防プログラムの開発に向けた研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21EA1008
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
藤森 麻衣子(国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 健康支援研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 内富 庸介(国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院 支持療法開発部門)
  • 明智 龍男(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野)
  • 吉本 世一(独立行政法人国立がん研究センター中央病院頭頸部腫瘍科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
8,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
実証的エビデンスに基づき確立されたがん患者の自殺予防対策は世界的に存在せず、がん種、病期、診断後早期といったリスク因子に着目した予防法開発の必要性が指摘されている(Kawashima et al, 2019)。我々は全国がん登録データを用いた記述疫学的分析により、がん患者は一般人口と比して自殺リスクが有意に高いこと(標準化死亡比2.68, 95%Cl 2.26-3.16)を示した。手段は縊首が73.1%を占め、発生場所は自宅が72.4%であった(Harashima, Fujimori et al, 2021)。また、東京都監察医務院の検案事例の検討から、がん既往のある自殺者は、自殺者全体の約5%を占め、相対的に高齢男性や同居者がいる者、生活保護・年金受給者に多いこと、飲酒者に少ないこと、72.8%が治療中であり、5%が入院中であること、頭頚部がんに多いこと、がん治療による機能障害への苦痛を表出していた者に多いことを報告した(H29革新的自殺研究推進プログラム内富班報告書)。がん患者の社会保障や飲酒の結果は一般人口と異なる特徴を示した。上記を踏まえ、がん患者の自殺予防を推進するために令和元年度に、がん医療に携わる医療従事者に向けた『がん医療における自殺対策の手引き』を作成、公開した。さらにR2年度に、がん医療および自殺に関連する学会代表者、がん患者代表者、市民代表者で構成されるパネルによる『がん医療における自殺対策のための提言』を作成し、I. 啓発・教育の推進、II. 全国がん登録を用いたサーベイランス体制の整備と結果の公表、III. 予防法のためのリスクを含む実態把握、IV. 科学的根拠に基づく予防法開発、V. 遺族や医療従事者に対する支援法の検討の必要性を提言した。本研究では、実証的ながん患者の自殺予防対策の実現を目指し、以下の3点を目的とする。研究1)自殺実数、リスク因子を含む実態を解明する。研究2)ハイリスク集団への予防介入法を開発する。研究3)医療安全の視点に基づき病院内自殺が発生した際の遺族や医療従事者への支援法を検討した。
研究方法
研究1)では、がん患者の自殺の実態のサーベイランスのため、研究1-1「全国がん登録を用いたがん患者の自殺に関する記述疫学的研究」と研究1-2「日本医療機能評価機構医療安全情報収集事例データベースを用いたリスク因子分析」を実施した。研究2)では、ハイリスク群である頭頸部がん患者を対象とした実態調査と予防介入法の開発を行うため、研究2-1「頭頸部がん患者自殺の全国一律実態調査:施設責任者へのアンケート調査票」と研究2-2国立がん研究センター中央病院頭頸部外科で治療をうける頭頸部がん患者を対象とした「頭頸部がんを有する患者の心理状態の推移と関連要因の検討」を実施した。研究3)では、研究 3-1遺族を対象とした「悲嘆に対する対人関係療法の有用性-予備的研究」と研究3-2医療者を対象とした「医療従事者への事後対応法の検討」を実施した。
結果と考察
研究1-1)がん患者の自殺対策は、診断後早期が重要であることが示唆された。また、診断後2年経過してもリスクが高いことから、長期にわたる対策が必要であると考えられた。研究1-2)データベースに登録されている入院患者の自殺の約半数はがん患者であった。がん種は、頭頚部がんが最も多かった。主な第一発見者は看護師であった。がんが死の病であるとするスティグマや、がん特有の痛みなどが関連すると考えられるがん告知や病状に関する診断が自殺に関わる可能性がある。研究2-1)頭頸部がん治療医の約半数が担当患者の自殺を経験しており、頭頸部がん治療医にとっては稀な経験ではないと推察された。研究2-2)国立がん研究センター中央病院倫理委員会の研究計画審査が完了し、症例登録を開始した。目標症例登録数200例を目指し症例登録を進めている。研究3-1)研究計画の倫理審査委員会にて承認され、2施設にて研究対象者のリクルートを開始した。
結論
研究1-1)がん患者における自殺、その他の心疾患および心血管系疾患による死亡のSMRは、診断後2年経過しても一般集団と比較して高かった。研究1-2)がん種は、頭頚部がんが最も多かった。主な第一発見者は看護師であった。病院内自殺時の医療者への支援として、特に看護師への支援が重要であることが示唆された。研究2-1)2022年度は本研究結果を学会発表と論文公開にて公表する。また、追加調査を立案し、年度内に調査を開始する。研究3-1)遺族に対しての対人関係療法は、良好なアドヒアランスを期待できると考えられるため、研究実施を継続していく。研究3-2)病院内での多職種が参画する自殺対策や事後対応法に関する手順書、学習法を作成し、提案する。

公開日・更新日

公開日
2022-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-06-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202108048Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,375,000円
(2)補助金確定額
11,077,000円
差引額 [(1)-(2)]
298,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,189,854円
人件費・謝金 4,987,408円
旅費 5,040円
その他 2,270,304円
間接経費 2,625,000円
合計 11,077,606円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2023-10-02
更新日
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