わが国の子宮頸がん検診におけるHPV検査導入の問題点と具体的な運用方法の検討

文献情報

文献番号
202108042A
報告書区分
総括
研究課題名
わが国の子宮頸がん検診におけるHPV検査導入の問題点と具体的な運用方法の検討
課題番号
21EA1002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
青木 大輔(慶應義塾大学 医学部 産婦人科学)
研究分担者(所属機関)
  • 八重樫 伸生(国立大学法人 東北大学 大学院医学系研究科 婦人科学分野)
  • 藤井 多久磨(藤田医科大学 医学部 産婦人科学)
  • 宮城 悦子(横浜市立大学 大学院医学研究科 生殖生育病態医学)
  • 中山 富雄(国立がん研究センター 社会と健康研究センター 検診研究部)
  • 齊藤 英子(国際医療福祉大学三田病院 予防医学センタ-)
  • 森定 徹(杏林大学 医学部 産婦人科学教室)
  • 高橋 宏和(国立がん研究センター 社会と健康研究センター 検診研究部 検診実施管理研究室)
  • 戸澤 晃子(小野 晃子)(聖マリアンナ医科大学 医学部 産婦人科)
  • 雑賀 公美子(JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター 総合医療情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
7,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の地域保健・健康増進事業の一環としての子宮頸がん検診の検査手法は「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(指針)」に基づき細胞診が実施されている。国立がん研究センターより2020年7月に「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン2019年度版(ガイドライン)」が刊行され、検診方法の推奨として細胞診単独法の推奨グレードAと並んでHPV検査単独法:同A、また細胞診・HPV検査併用法:同Cが示された。またHPV検査を子宮頸がん検診に導入して効果を上げるためには、検診プログラムの手順と運用方法(アルゴリズム)の綿密な検討と決定、さらには検診提供者と受診者とがそのアルゴリズムを遵守できるような工夫と精度管理とが必要とされている。地域住民検診の内容の決定においては、科学的根拠に基づくがん検診ガイドラインでの推奨に加え、検診の精度管理のあり方を含む実際の運用方法を決定するという過程を経る必要がある。本研究では前年度までの研究に引き続いて、実際の運用を検討する際の参考となる学術的見解を示すことを目的とする。
研究方法
以下4つの項目について調査を行う。
(1)HPV検査を用いた子宮頸がん検診のアルゴリズム内の未確定の部分の検討:
HPV検査による検診受診者の中のHPV陽性の多くはその時点では病変を有しておらずトリアージとして行う細胞診では異常を認めない集団である。一方でこの集団ではその後病変が発生する可能性があり、リスク保持者として扱う必要がある。このHPV検査陽性/細胞診陰性者に対してどのような精密検査をどのタイミングで行うのが至適かについて統一した見解がない。そこでこのリスク保持者(HPV検査陽性/細胞診陰性)のわが国における管理方法決定に資する証拠となりうる文献を収集・検討した。
(2) HPV検査を用いた子宮頸がん検診を運用する際の課題の検討:
HPV検査を用いた検診をすでに導入している国(オーストラリア・オランダ・英国など)における検診の運用の問題点について文献を用いた調査を行った。
(3) HPV検査を用いた子宮頸がん検診を導入する際の課題の検討:
HPVによる検診を実装する際にアルゴリズム中ではトリアージ手法として細胞診が組み込まれる可能性が高い。しかしながらHPV検査によるアルゴリズムを導入する際の液状化検体細胞診のわが国の充足状況などの情報は得られておらず、導入の混乱を避けるために検査関連施設等へのヒアリングおよびアンケートを実施した。
(4)細胞診単独検診における アルゴリズム内の未確定の部分の検討:
細胞診判定ASC-USの取り扱いについてわが国で実施可能性のある管理方法について検討した。
結果と考察
(1) HPV検査陽性/細胞診陰性者の管理方法について
HPV検査陽性/細胞診陰性者の管理についてキーペーパーとなる論文を検索し選定した。次にHPV検査陽性/細胞診陰性者をがん検診の枠組みの中で管理している情報を含む論文を漏れなく抽出するために複数のキーワードを用いた検索式の候補を設定し、文献検出が可能か検証を行った。この過程を経て決定した検索式によりpubmedなど複数の文献データベースから総括的に抽出を行い、673の文献候補を得た。その後、研究分担者により今回の目的を満たさないと判断される論文を候補から除外し、172文献を選別することができた。
(2) 欧州でHPV検査の導入が始まった2017年以降の期間で、key words(cervical cancer screening, HPV, screening program, など)でHPV検診の運用に関する問題点に関する論文を検索した。HPV検査を用いた場合、細胞診と比較して検診間隔が延長できることが考慮されるため、検診未受診者対応としての自己採取キット送付によるリコール打ち切りや、それによる検診登録システム構築の混乱、受診率への影響などが課題として報告されていた。
(3) わが国の液状化検体細胞診(LBC)の充足率を調べるために、国内の有数の検査会社(LSI,SRL,BML)に現状LBCの運用実績やHPV検査の導入を想定した場合の対応能力についてアンケート調査を行なった。
(4) 細胞診判定ASC-USの取り扱いについて実施可能性のある管理方法(直ちにコルポ診、6, 12, 18ヶ月の細胞診、HPV検査によるトリアージ)について海外のレビュー論文の検討を行った。
結論
今回の検討により、HPV検査陽性/細胞診陰性者の管理を含めてわが国で実施可能なHPV検診のアルゴリズムを構築するためにはさらなる調査、および関係者のコンセンサスの醸成が必要であることがわかった。またHPV検診を運用・導入面においてもLBCのインフラなど、先立って準備しておくべき項目も明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2022-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-05-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202108042C

成果

専門的・学術的観点からの成果
わが国の子宮頸がん検診は市町村における対策型検診で行われ、子宮頸部細胞診が採用されている。これに対しHPV検査をわが国の子宮頸がん検診に導入、効果を上げるには、実現可能な検診プログラム手順とアルゴリズムの検討が必要である。HPV検査を用いた検診アルゴリズム内の未確定部分の検討として、HPV検査陽性/細胞診陰性者の追跡管理方法について文献検索を行いHPV検診の運用上の課題についての検討に資する知見を収集した。またASC-USの扱いについて関連論文を公表し、引き続き網羅的文献調査を進めた。
臨床的観点からの成果
本研究では、HPV検査を子宮頸がん検診に導入した際の効果を評価できる検診プログラム構築を念頭に、国内外文献の調査より、HPV検診におけるHPV検査陽性/細胞診陰性者の追跡管理方法の実例や効果、HPV検診の運用上の課題や液状化検体などHPV検診導入前にその対応能力を見定めておくべきインフラについて調査した。昨年度一部自治体にHPV検査による検診の実施可能性についてアンケートフォームを作成、令和5年度は先行し「HPV 検査単独法による子宮頸がん検診の導入に向けた精度管理支援研修会」を一部行った。
ガイドライン等の開発
今回の検討により、HPV検査陽性/細胞診陰性者の管理を含めてわが国で実施可能なHPV検診のアルゴリズムを構築するためにはさらなる調査、および関係者のコンセンサスの醸成が必要であることがわかった。それらを含め、令和5年度は、暫定的ではあるが「対策型検診におけるHPV 検査単独法による子宮頸がん検診マニュアル」(案)の策定を行った。(2024年2月公開) これは本研究班で作成の第一部と、研究班が厚生労働省の依頼を受けて両者相談の上、共同で作成した第二部の二部構成になっている。
その他行政的観点からの成果
検討中の内容については、これまで「第35回がん検診のあり方に関する検討会(R4/5/25)」「第38回がん検診のあり方に関する検討会(R5/6/2)」等で報告してきた。また、検討会での議論や厚生労働省の指示により、地域住民検診に限らず、対策型検診にHPV 検査単独法を導入する場合の最低限必要な要件や実際に実施すべきことについてのマニュアル(案)を策定、がん検診のあり方についての検討会に提出し、本アルゴリズムとマニュアルに基づくHPV単独検診の実施にはパイロット事業が不可避という意見を多数得た。
その他のインパクト
令和5年5月27日 青木大輔 市民公開講座 「婦人科のがん~予防、早期発見と治療~」(国際医療福祉大学 東京赤坂キャンパス)を行った。  2023年11月9日 朝日新聞朝刊に子宮頸がん検診の指針改正に関する記事が掲載され、研究代表 青木大輔のコメントも掲載されている。

発表件数

原著論文(和文)
2件
日本がん検診・診断学会誌
原著論文(英文等)
2件
International Journal of Clinical Oncology, Journal of Gynecologic Oncology
その他論文(和文)
19件
日本婦人科腫瘍学会誌 , 日本産科婦人科学会雑誌 , 日本がん検診・診断学会誌, 公衆衛生情報雑誌 , 産婦人科の実際 , 人間ドック, 総合検診, 日本医師会雑誌, 母性衛生 等
その他論文(英文等)
14件
J Gynecol Oncol , Cancer Sci, Vaccines, Int J Clin Oncol, JCO Glob Oncol, Healthcare,Prev Med Rep. 等
学会発表(国内学会)
52件
日本産科婦人科学会学術講演会, 日本臨床細胞学会, 日本婦人科腫瘍学会, 日本婦人科がん検診学会総会・学術講演会, 日本がん検診・診断学会総会, 日本公衆衛生学会 , 日本人間ドック学会学術大会 等
学会発表(国際学会等)
7件
Biennial Meeting of the Asian Society of Gynecologic Oncology (ASGO), IGCS等
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
6件
がん検診のあり方に関する検討会発表,  研究班作成「対策型検診におけるHPV検査単独法による子宮頸がん検診マニュアル」
その他成果(普及・啓発活動)
12件
講演(東京産婦人科医会臨床研究会, がん検診精度管理医師等研修会, 医師会産業医講習会, 産婦人科医会招待講演, コルポスコピー研修会, 市民公開講座 他)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2022-06-09
更新日
2024-06-10

収支報告書

文献番号
202108042Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,230,000円
(2)補助金確定額
9,230,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,637,519円
人件費・謝金 1,222,490円
旅費 2,224円
その他 2,237,833円
間接経費 2,130,000円
合計 9,230,066円

備考

備考
66円は自己資金より支出

公開日・更新日

公開日
2023-09-29
更新日
-