ゲノム情報を活用した遺伝性腫瘍の先制的医療提供体制の整備に関する研究

文献情報

文献番号
202108038A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム情報を活用した遺伝性腫瘍の先制的医療提供体制の整備に関する研究
課題番号
20EA1027
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
櫻井 晃洋(札幌医科大学 医学部遺伝医学)
研究分担者(所属機関)
  • 青木 大輔(慶應義塾大学 医学部 産婦人科学)
  • 新井 正美(順天堂大学 大学院医学研究科 臨床遺伝学)
  • 戸崎 光宏(相良病院 放射線科)
  • 中村 清吾(昭和大学 医学部 外科学講座 乳腺外科学部門)
  • 西垣 昌和(国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科)
  • 平沢 晃(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 病態制御科学専攻 腫瘍制御学講座 (臨床遺伝子医療学分野) )
  • 山内 英子(聖路加国際大学 聖路加国際病院 ブレストセンター 乳腺外科)
  • 吉田 玲子(昭和大学 先端がん治療研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
11,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん全体の5-10%を占める遺伝性腫瘍では、より正確な臨床経過や予後の予測、ゲノム情報に基づいた薬剤選択やリスク低減治療が実現しつつある。遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)は遺伝性腫瘍の中でも最も頻度の高い疾患であり、癌における戦略的な先制医療のモデルとなる疾患と言える。遺伝学的検査を含むHBOC診療の一部保険診療化に伴い、今後は血縁者の未発症変異保持者数も飛躍的に増加すると予想されるが、わが国では十分なデータは得られておらず、また国民皆保険制度下においては、罹患者ではない未発症変異保持者は保険診療の対象外という問題もある。未発症変異保持者は先制医療の有用性が最も期待できる集団であり、わが国において未発症者に対する先制医療を実現するためのデータを集積する。
研究方法
先行研究の成果をふまえ、5つの課題を設定して研究を進める。すなわち、1)先行研究から継続してのデータの収集と解析、2)遺伝学的検査の対象者を抽出する基準と提供すべき検査の標準化、3)サーベイランスの有用性と費用対効果の評価、4)遺伝医療提供体制の整備に向けた実態評価と課題抽出、5)関連学会・団体と連携の上での遺伝性腫瘍診療標準化・均てん化実現のための教育・啓発活動、を行う。
結果と考察
1)遺伝性腫瘍の発症者及び未発症者、遺伝学的検査対象者の国内実態調査
 先行研究から継続して全国から症例の登録を行い、令和3年8月末日までに入力されたデータを用いて、全国登録集計を行った。対象者(BRCA遺伝学的検査を受検した人)は、14,157人、登録者(対象者+第2度近親者まであるいはいとこでがんを発症した人)は、48,038人、13,414家系を登録した。発端者のBRCA遺伝学的検査の結果、病的バリアント陽性率は16.4%(コンパニオン診断を含む)、またVUSは3.6%であった。昨年の集計ではVUSは5.3%、令和元年では6.9%と、着実に低下している。特にコンパニオン診断に限るとVUSは2.8%であった。
2)遺伝学的検査の対象者を抽出する基準と提供すべき検査の標準化
 2021年7月に邦初となる遺伝性乳癌卵巣癌診療ガイドラインを発刊した。2021年8月 同ガイドライン発刊に伴い、各領域リーダーによるCQの解説WEBセミナーを行った。当日のLIVEおよびアーカイブ視聴の延べ人数は1380人であった。参加者からの全質問に対し、本研究班のHP上で回答掲載した。関連団体であるJOHBOCのHP上でガイドラインのWEB掲載を行った。
3)サーベイランスの有用性と費用対効果の評価
 昭和大学で術後経過観察を行っていたのは81例で、このうち9.9%(8例;BRCA1 5例、BRCA2 3例)に同側乳房内再発または対側乳癌が診断された。乳癌の診断における発見契機は、MRIが4例、USが3例、自己発見が1例であった。MRI発見症例の4例中3例は、マンモグラフィや超音波では指摘困難な病変であり、MRIガイド下生検にて診断された。
4)遺伝医療提供体制の整備に向けた実態評価と課題抽出
 現在HBOC医療を実際に受けている患者やその血縁者が,どのような経験をしているかを明らかにすることを目的として、インタビュー調査とTwitter分析を行った。
5)関連学会・団体と連携の上での遺伝性腫瘍診療標準化・均てん化実現のための教育・啓発活動
 日本婦人科腫瘍学会がんゲノム医療、HBOC診療の適正化に関するWGと連携し、⽇本婦⼈科腫瘍学会会員に対してHBOC診療に関する診療実態についてGoogle Formによるアンケート(質問計25問 回答所要時間15分程度)によりデータ収集を行った。回答者の80.1%が本邦でのHBOC診療は十分に普及していないと答え、普及させるためには遺伝診療を専門とする医療者などの人的資源、HBOC診療に関する情報共有・教育機会が必要としていた。これまでのHBOC診療に関する教育機会が十分だったとの回答は32.1%に留まり、今後の教育機会として学会主催のe-learning/WEBセミナーが最も多く望まれていた。心理的負担を感じる診療行為として癌未発症者へのBRCA遺伝学的検査やBRCA遺伝学的検査の結果説明などが挙げられており、心理的負担を取り除くためにHBOC診療に関わる十分な時間の確保、患者に分かりやすく説明できる資料が求められていた。
結論
上記の通り、症例登録やガイドライン作成、患者・市民を対象とした調査やセミナー、HBOC診療に関連する医療者を対象としたセミナーなど、それぞれを予定通りに進めることができた。いずれの領域もこれまで以上に多くの関心を集めており、HBOC診療の一部保険収載が、医療者、患者・家族、一般市民のいずれにおいても大きな関心を集めていることがうかがわれた。

公開日・更新日

公開日
2022-06-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-06-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202108038Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
14,950,000円
(2)補助金確定額
14,603,000円
差引額 [(1)-(2)]
347,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,900,769円
人件費・謝金 2,066,410円
旅費 683,770円
その他 4,502,051円
間接経費 3,450,000円
合計 14,603,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2023-10-03
更新日
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