精神疾患脆弱性遺伝子と中間表現型に基づく新しい診断法・治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200833027A
報告書区分
総括
研究課題名
精神疾患脆弱性遺伝子と中間表現型に基づく新しい診断法・治療法の開発に関する研究
課題番号
H19-こころ・一般-002
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
武田 雅俊(大阪大学大学院 医学系研究科 情報統合医学講座(精神医学))
研究分担者(所属機関)
  • 橋本 亮太(大阪大学大学院 医学系研究科 )
  • 岡本 長久(国立精神・神経センター病院)
  • 尾崎 紀夫(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • 岩田 仲生(藤田保健衛生大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、統合失調症およびうつ病の脆弱性遺伝子と神経生物学的な表現型で精神疾患のリスクに関連する中間表現型(認知機能障害、脳MRIにて測定する脳構造異常、近赤外分光法、脳磁図等による脳機能異常、神経生理学的な指標であるプレパルス抑制テストの障害など)という成因理論に基づく診断法・治療法の開発を行うことを目的とする。
研究方法
本研究ではゲノム付の中間表現型データの収集を行い、統合失調症と健常者において、認知機能、性格検査、脳画像として3次元構造画像や拡散テンソル画像、神経生理学的指標としてプレパルス抑制テストと近赤外分光法を用いた前頭葉賦活について、100例から300例をすべての研究機関で協力して収集した。これは計画を上回るものであり、大きな成果をあげたと考えられる。また、これらを用いて以下の結果に述べるような成果を得た。
結果と考察
治療法の開発には、分子標的となる脆弱性遺伝子の同定が不可欠であるが、日本人において新たな脆弱性遺伝子であるCHI3L1を見出した。さらに中間表現型との関連を検討し、TCIにて測定した性格傾向の自己超越性が関与していることを見出した。このように、統合失調症との関連だけではなく、収集した中間表現型との関連を見出しており、今後これらの遺伝子の機能に基づく創薬に結び付く可能性がある。
 診断法の開発のために、統合失調症の寛解を予測する中間表現型を検討し、TCIの協調性の純粋な良心のみが、寛解の予測に役立つことを見出した(感度74.1%、特異度63.0%、判別率67.1%)。次に、統合失調症のリスペリドンによる治療反応性とドパミン受容体・セロトニン受容体に関連する遺伝子との関連を検討し、ドパミンD2受容体およびAKT1が関連することを見いだした。これらの治験が集積すればバイオマーカーとしての遺伝子型を用いて最適薬物の選択を可能にするものと期待される。うつ病におけるECTの治療反応性におけるSPECT上の効果予測因子の検出を試みたところ、有効群の方が海馬の血流が高いことが示唆された。
結論
本研究は、当初の予定よりも早いペースで進んでおり、まだ予備的であるが、新たな診断・治療法のシーズとなるものが見出されている。中間表現型に基づく客観的診断法の確立と新たな治療薬の開発は、医療行政上、大変有意義であり、国民の保健・精神医療において多大なる貢献ができると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2009-05-25
更新日
-