MR1拘束性T細胞(MAIT細胞)を介した多発性硬化症の予防と治療に関する研究

文献情報

文献番号
200833022A
報告書区分
総括
研究課題名
MR1拘束性T細胞(MAIT細胞)を介した多発性硬化症の予防と治療に関する研究
課題番号
H18-こころ・一般-023
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
山村 隆(国立精神・神経センター 神経研究所疾病研究第六部)
研究分担者(所属機関)
  • 三宅幸子(国立精神・神経センター神経研究所免疫研究部)
  • 荒浪利昌(国立精神・神経センター神経研究所免疫研究部)
  • 大木伸司(国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第六部)
  • 島村道夫(三菱化学生命科学研究所)
  • 松本 満(徳島大学疾患酵素学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多発性硬化症(MS)の発症には遺伝と環境の両因子が密接に関与する。近年我が国におけるMS患者数の増加傾向が顕著であるが、その背景にある環境因子として腸内細菌と免疫系の関与に着目し、食生活の欧米化がMS増加の原因であるという作業仮説を検証する。あわせてMSの新しい自然発症動物モデルの開発を目指す。
研究方法
1)MOG35-55ペプチド感作EAEに対する抗生物質投与の影響解析:対照群および抗生物質投与群において、EAEの臨床スコアを評価するとともに、所属リンパ節、脾臓、腸間膜リンパ節、粘膜固有相などのリンパ球を分離し、サイトカイン産生能を評価した。また、抗生物質によるEAE抑制におけるNKT細胞およびMAIT細胞の関与を確認するために、NKT細胞を欠損するマウス(β2-microglobulin KO、CD1d KO、Jα281 KO)およびMAIT細胞を欠損するMR1 KOマウスを用いて、同様の実験を行った。
2)新規MSモデルの開発:胸腺自己抗原発現を制御するaire (autoimmune regulator)遺伝子の欠損マウスの中枢神経系浸潤細胞を分離し、ミエリン由来ペプチドに対するサイトカイン反応性をELISA法によって解析した。

結果と考察
1) 抗生物質投与により、野生型B6およびMAIT細胞欠損マウスに誘導したEAEは有意に抑制されたが、NKT細胞欠損マウスではEAEは抑制されなかった。ナイーブなマウスに抗生物質を投与したところ、脳炎惹起性Th17細胞が脾臓を除くリンパ組織において有意に減少することも確認したが、この現象はNKT細胞欠損マウスでは確認できなかった。
2) 高齢のaire KOマウスでは、中枢神経浸潤細胞数が有意に増加していた。また、この細胞をミエリンPLPペプチドで刺激したところ、aire KOの中枢神経由来細胞は、強い炎症性サイトカイン産生能を示し、病原性を発揮していることが推察された。

結論
抗生物質投与による腸内細菌の偏倚は、Th17細胞に影響を与えてEAEを軽症化する。腸内環境変化のセンサーとしてNKT細胞が重要な役割を果たすことが推測される。戦後日本ではMSを含めた免疫・アレルギー疾患の増加傾向が著しいが、腸内環境の変化が誘因である可能性が示された。aire欠損マウスの自然発症脳炎は、MSの動物モデルとしての用途が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2009-05-25
更新日
-

文献情報

文献番号
200833022B
報告書区分
総合
研究課題名
MR1拘束性T細胞(MAIT細胞)を介した多発性硬化症の予防と治療に関する研究
課題番号
H18-こころ・一般-023
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
山村 隆(国立精神・神経センター 神経研究所疾病研究第六部)
研究分担者(所属機関)
  • 三宅幸子(国立精神・神経センター神経研究所免疫研究部)
  • 大木伸司(国立精神・神経センター疾病研究第六部)
  • 島村道夫(三菱化学生命科学研究所)
  • 松本 満(徳島大学疾患酵素学研究センター)
  • 荒浪利昌(国立精神・神経センター神経研究所免疫研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多発性硬化症(MS)の発症には遺伝と環境の両因子が密接に関与する。過去30年間に日本国内におけるMS患者数は10倍以上に増加した。その背景には後天的要因の関与が推測されるが、非遺伝的因子に関する基礎的な研究は進んでいない。本研究では腸内細菌依存性で免疫制御能を持つリンパ球(MAIT細胞)と炎症惹起活性を持つリンパ球Th17細胞に焦点を当て、腸内細菌と免疫系の関係を解明し、食生活の欧米化がMS増加の原因であるという作業仮説を検証した。
研究方法
1)MAIT細胞のEAE制御能の解析:対照のB6マウスおよびMAIT細胞を過剰発現または欠損する遺伝子改変マウスにMOG35-55ペプチドでEAEを誘導し、その臨床病理像を解析した。
2)EAEに対する抗生物質投与の影響解析:対照群および抗生物質投与群において、EAEの臨床スコアを評価するとともに、所属リンパ節、脾臓、腸間膜リンパ節、粘膜固有相などのリンパ球を分離し、サイトカイン産生能を評価した。また、抗生物質によるEAE抑制におけるNKT細胞およびMAIT細胞の関与を確認するために、NKT細胞を欠損するマウス(β2-microglobulin KO、CD1d KO、Jα281 KO)およびMAIT細胞を欠損するMR1 KOマウスを用いて、同様の実験を行った。

結果と考察
1) MAIT細胞の過剰マウスではEAEは軽症化し、欠損マウスでは重症化した。MAIT細胞の免疫制御にはB細胞との相互作用によって産生されるIL-10が重要であることが明らかになった。
2) 抗生物質投与により、野生型B6およびMAIT細胞欠損マウスに誘導したEAEは有意に抑制されたが、NKT細胞欠損マウスではEAEは抑制されなかった。ナイーブなマウスに抗生物質を投与したところ、脳炎惹起性Th17細胞が脾臓を除くリンパ組織において有意に減少することも確認したが、この現象はNKT細胞欠損マウスでは確認できなかった。

結論
腸内細菌依存性のMAIT細胞は、MSの動物モデルにおいて免疫抑制活性を示すことがわかった。一方、抗生物質投与による腸内細菌の偏倚は、Th17細胞に影響を与えてEAEを軽症化する。腸内環境変化のセンサーとしてMAIT細胞とNKT細胞が重要な役割を果たすことが推測される。戦後日本ではMSを含めた免疫・アレルギー疾患の増加傾向が著しいが、腸内環境の変化が誘因である可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2009-05-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200833022C

成果

専門的・学術的観点からの成果
研究成果はNature Immunology、American Journal of Pathology などの一流雑誌に掲載された。また国際免疫学会(ICI2007)のメジャーシンポジウム、Keystoneシンポジウム、CD1/NKT細胞国際シンポジウムなどの国際シンポジウムや国内学会で発表する機会を与えられた他、雑誌・教科書に数多くの総説を発表した。以上から、本研究は十分な学術的成果を挙げたと考えられる。
臨床的観点からの成果
本研究により抗生物質が腸内環境を修飾し、その結果腸管免疫のみならず、全身の免疫応答や自己免疫疾患を修飾することが明らかになった。この事実は臨床医が腸内細菌叢と疾患発症の関連に目を開くきっかけとなった。またMAIT細胞の重要性が明らかになったことから、その測定法の開発が盛んになり、近い将来には臨床で活用できる状況が生じている。
ガイドライン等の開発
本研究は現時点では動物実験の成果にとどまっているが、将来的にヒトでのエビデンスが積み上げられれば、臨床ガイドラインの作成などに貢献することが可能であると考える。
その他行政的観点からの成果
知る限りでは特にないが、最近、朝日新聞の夕刊で、「食品と健康」に関する一連の記事が紹介されたので、いろいろな状況で腸内環境、食生活、乳酸菌飲料と健康などへの関心が高まり、行政にも影響を与えるであろうことが推測される。
その他のインパクト
MAIT細胞の免疫制御活性を証明した業績については、2006年7月に読売新聞、朝日新聞、日本経済新聞に掲載された他、共同通信で全国に配信され、数多くの地方紙で紹介された。厚生労働科学の成果の発表会を、2006年、2007年、2008年の12月に、患者団体(NPO法人)と共同開催した。400名以上の参加者があり、研究に期待する方々から多くの意見が寄せられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
8件
学会発表(国内学会)
21件
学会発表(国際学会等)
15件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
NPO法人「MSキャビン」との共催で、「MSフォーラム」を六本木ヒルズで3回開催した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Croxford, J.L., S. Miyake, Y-Y. Huang et al.
Invariant Vα19i T cells regulate autoimmune inflammation.
Nat. Immunol , 7 , 987-994  (2006)
原著論文2
Miyamoto, K., S. Miyake, M. Mizuno et al.
Selective COX-2 inhibitor celecoxib prevents experimental autoimmune encephalomyelitis through COX-2 independent pathway
Brain , 129 (8) , 1984-1992  (2006)
原著論文3
Maresz, K., G. Pryce, E. D. Ponomarev et al.
Direct Suppression of CNS Autoimmune inflammation via the cannabinoid receptor CB1 on neurons and CB2 on autoreactive T cells
Nat. Med , 13 , 492-497  (2007)
原著論文4
Sato, W., T. Aranami, and T. Yamamura
Cutting Edge. Human Th17 cells are identified as bearing CCR2+CCR5-phenotype
. J. Immunol , 178 , 7525-7529  (2007)
原著論文5
Sakuishi, K., S. Oki, M. Araki et al.
Invariant NKT cells biased for IL-5 production act as crucial regulators of inflammation
J. Immunol , 179 , 3452-3462  (2007)
原著論文6
Doi, Y., S. Oki, T. Ozawa et al.
Orphan nuclear receptor NR4A2 expressed in T cells from multiple sclerosis mediates production of inflammatory cytokines
Proc Natl Acad Sci U S A , 105 , 8381-8386  (2008)
原著論文7
Shimamura, M., Y-Y. Huang, R. Migishima et al.
Localization of NK1.1+ invariant Vα19 TCR+ cells in the liver with potential to promptly respond to TCR stimulation
Immunol. Lett , 121 , 38-44  (2008)
原著論文8
Yokote, H., S. Miyake, J.L. Croxford et al.
NKT cell-dependent amelioration of a mouse model of multiple sclerosis by altering gut flora
Am. J. Pathol. , 173 , 1714-1723  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-