骨髄間質由来筋前駆細胞と筋ジストロフィー犬を用いた筋ジストロフィーに対する細胞移植治療法の開発

文献情報

文献番号
200833018A
報告書区分
総括
研究課題名
骨髄間質由来筋前駆細胞と筋ジストロフィー犬を用いた筋ジストロフィーに対する細胞移植治療法の開発
課題番号
H18-こころ・一般-019
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
武田 伸一(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 友子(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
  • 中村 昭則(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
  • 岡田 尚巳(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部 )
  • 出沢 真理(東北大学大学院医学系研究科)
  • 鍋島 陽一(京都大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
31,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ES細胞/iPS細胞の再生医療への応用にあたっては、腫瘍化の否定など安全性の確保のために検討すべき課題が数多く残されている。骨髄間葉系細胞は容易に採取できる骨髄液から培養可能であり、繁殖力が高く、移植治療に必要な細胞数の確保が容易である。出澤らは骨髄間葉系細胞から効率よく骨格筋を誘導する方法を見出した。そこで、その方法を筋ジストロフィー犬に応用して将来的にDMDへの応用を図ることを考えた。
研究方法
1.正常犬から骨髄細胞を採取し、磁気ビーズによるMACSを用いてCD271陽性細胞を濃縮した。
2.ラットおよびイヌ由来間葉系幹細胞にMyoD発現ベクターを感染させ、筋分化マーカーであるmyogeninおよびα-actininの発現を免疫組織化学的に確認した。
3.ビーグル犬の血液よりゲノムを抽出し、多様性の高いDLA3領域(DLA-DRB1, DLA-DQA1, DLA-DQB1)に関し、塩基配列を比較した。次に正常犬由来細胞を用いてDLAのmatchした正常犬および患犬への同種移植を実施した。
4.駆血操作後、浅大腿動脈からPBSに懸濁した5x106個の骨髄間葉系細胞を注入し、移植2週後に標本を採取した。
結果と考察
1.CD271陰性細胞に比べ、陽性細胞では培養開始後20日前後で約25倍の増殖が認められた。さらに、陽性細胞は多分化能を有していた。
2.MyoDを強制発現することにより、短期間で簡便に大量の細胞を高い効率で筋分化誘導できることを確認した。
3.DLAのタイピングを行った結果、100%適合した組み合わせを、正常犬2頭、保因犬2頭、患犬1頭得た。そこで、DLAのmatchした正常犬及び患犬への同種移植を実施した結果、移植細胞の生着を確認できた。しかし患犬は免疫抑制処置に耐えることができなかった。
4.大腿動脈から細胞移植を行った2週間後の前脛骨筋組織像を観察したところ、カルジオトキシンを注入した線維化の強い部分において、GFP陽性細胞を広範囲に認めた。
結論
1.増殖効率の高い骨髄間葉系幹細胞の調製法とベクター系を利用した新たな分化誘導スイッチを開発し、動脈を介した移植が可能であることを示した。
2.骨髄間葉系細胞を用いた移植法を進めるためには、できるだけ遺伝子を用いずに筋細胞を誘導する方法を開発すると共に、筋ジストロフィー犬に対する免疫抑制法を更に確立する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2009-04-14
更新日
-

文献情報

文献番号
200833018B
報告書区分
総合
研究課題名
骨髄間質由来筋前駆細胞と筋ジストロフィー犬を用いた筋ジストロフィーに対する細胞移植治療法の開発
課題番号
H18-こころ・一般-019
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
武田 伸一(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 友子(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
  • 中村 昭則(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
  • 島津 美樹(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
  • 岡田 尚巳(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
  • 出沢 真理(東北大学大学院医学系研究科)
  • 鍋島 陽一(京都大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
重症の遺伝性筋疾患であるDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)では、原因遺伝子と分子病態の解明を受けて、治療法の開発が求められている。最近我々はNotch遺伝子とサイトカイン刺激の組み合わせによりラットおよびヒトの骨髄間質細胞を高率的に骨格筋系譜細胞へ誘導することに成功した。骨髄間葉系細胞は容易に採取できる骨髄液から培養可能であり、繁殖力が高く、移植治療に必要な細胞数の確保が容易である。そこで、その方法を筋ジストロフィー犬に応用して将来的にDMDへの応用を図ることを考えた。
研究方法
1.ラット及びヒトで開発したNotch遺伝子とサイトカインを用いて、骨髄間質細胞から筋細胞を誘導する方法を、イヌにも応用する。
2.正常犬から骨髄細胞を採取し、磁気ビーズによるMACSを用いてCD271陽性細胞を濃縮する。
3.ラットおよびイヌ由来間葉系幹細胞にMyoD発現ベクターを感染させ、筋分化を誘導する。
4.ビーグル犬ゲノム遺伝子の多様性の高いDLA3領域に関し、塩基配列を比較し、DLAのmatchした正常犬および患犬間の同種移植を実施する。
5.浅大腿動脈から骨髄間葉系細胞を注入し、移植2週後に標本を採取する。

結果と考察
1.正常ビーグル犬の骨髄間質細胞から筋細胞を誘導することに成功した。
2.CD271陰性細胞に比べ、陽性細胞では培養開始後20日前後で約25倍の増殖が認められた。
3.MyoDを強制発現することにより、短期間で簡便に大量の細胞を高い効率で筋分化誘導できることを確認した。
4.DLAのmatchした正常犬及から患犬への同種移植を実施した結果、移植細胞の生着を確認できた。
5.大腿動脈から細胞移植を行った2週間後に、GFP陽性細胞を広範囲に認めた。
6.治療用のマイクロ・ジストロフィン遺伝子を組み換えた幹細胞への導入可能なレンチウィルスベクターを確立し、マウスモデルにおいてその有効性を検証した。
結論
1.増殖効率の高い骨髄間葉系幹細胞の調製法とベクター系を利用した新たな分化誘導スイッチを開発し、動脈を介したDLAのmatchした同種移植が可能であることを示した。
2.レンチウィルスベクターを用いたex vivo遺伝子治療技術を確認した。
3.骨髄間葉系細胞を用いた移植法を進めるためには、できるだけ遺伝子を用いずに筋細胞を誘導する方法を開発すると共に、筋ジストロフィー犬に対する免疫抑制法を更に
確立する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2009-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200833018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1.CD271陽性細胞分画を単離することによりイヌ骨髄から増殖力と分化力に富んだ間葉細胞を得ることが可能になった。2.MyoDを強制発現することにより、短期間で簡便に大量の細胞を高い効率で筋分化誘導できた。3.DLA (Dog leukocyte antigen) のmatchした正常犬から患犬への動脈を介した同種移植を実施し、移植細胞の広範な生着を確認した。4.幹細胞への導入可能な治療用のジストロフィン遺伝子を組み換えたレンチウィルスベクターを確立し、モデルマウスでその有効性を検証した。
臨床的観点からの成果
重症の遺伝性筋疾患であるDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)では、原因遺伝子と分子病態の解明を受けて、治療法の開発が求められている。現在、特にiPS細胞の再生移植治療への応用が期待されているが、本研究の結果はiPS細胞を筋ジストロフィーに対する治療研究に応用するためには、1.幹細胞からどのように筋細胞を誘導するのか 2.例えHLAのmatchした移植であってもどのように免疫抑制を行なうのか 以上の2点について、新たな方法論を確立することが極めて重要であることを示唆している。
ガイドライン等の開発
本研究を進める過程で、臨床グレーディング、MRI、CT等を用いた筋ジストロフィー犬の治療評価系を確立することができた。大型のモデル動物を治療研究に使用できることになったことで、内外の研究施設から多くの共同研究の申し込みを受け、アンチセンス・モルフォリノによるエクソン・スキッピング及び新規薬剤を用いた治療については既に評価を行うことができた。今後、更にサロゲート・マーカなどの研究を進め、筋ジストロフィー治療開発に関する標準プロトコルの確立を目指したい。
その他行政的観点からの成果
筋ジストロフィーに対して治療を開発するための研究は、論文・学会発表のみならず、国立精神・神経センターのホームページ、筋ジストロフィー協会の全国大会や広報等を通じて全国に発信された。DMDに対する治療を実施するためには、DMD患者登録を進めることが重要であるとの見解が広く受け容れられ、平成20年度から厚生労働省精神・神経疾患研究委託費によるDMD患者登録を進めるための研究班(川井班)の設立をみ、また国立精神・神経センターの事業としても取り上げられたことが特筆される。
その他のインパクト
主任研究者らの取り組みは、筋ジストロフィー協会の全国並びに地方大会、国立精神・神経センターで開催された市民公開講座で取り上げられた、殊に、07年9月に開催された筋ジストロフィー協会全国大会での主任研究者の講演は同協会のホームページ上で公開されて広く受け容れられた。これらを契機として08年1月、フジテレビ「僕らへの手紙」の中で現在の最先端治療について放映されたことを始め、08年11月、日本経済新聞、09年3月、日本経済新聞、読売新聞などメディアにも多数取り上げられている。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
63件
その他論文(和文)
35件
その他論文(英文等)
10件
学会発表(国内学会)
76件
学会発表(国際学会等)
60件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計4件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
8件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yokota T, Lu QL, Partridge T, et al.
Efficacy of systemic morpholino exon-skipping in Duchenne dystrophy dogs
Ann Neurol.  (2009)
原著論文2
Miyagoe-Suzuki Y, Masubuchi N, Miyamoto K,et al.
Reduced proliferative  activity of primary POMGnT1-null myoblasts in vitro
Mech Dev. , 126 (3) , 107-116  (2009)
原著論文3
Yokota T, Takeda S, Lu QL, et al.
A renaissance for antisense oligonucleotide drugs in neurology: exon skipping breaks new ground
Arch Neurol. , 66 (1) , 32-38  (2009)
原著論文4
Ohshima S, Shin JH, Yuasa K, et al.
Transduction Efficiency and Immune Response Associated With the Administration of AAV8 Vector into Dog Skeletal Muscle
Mol Ther. , 17 (1) , 73-80  (2009)
原著論文5
Motohashi N, Uezumi A, Yada E, et.al.
Muscle CD31(-) CD45(-) side population cells promote muscle regeneration by stimulating proliferation and migration of myoblasts
Am J Pathol. , 173 (3) , 781-791  (2008)
原著論文6
Sato K, Yokota T, Ichioka S, et al.
Vasodilation of intramuscular arterioles under shear stress in dystrophin-deficient skeletal muscle is impaired through decreased nNOS expression
Acta Myol. , 30-36  (2008)
原著論文7
Nishiyama A, Ampong BN, Ohshima S, et al.
Recombinant adeno-associated virus type 8-mediated extensive therapeutic gene delivery into skeletal muscle of alpha-sarcoglycan-deficient mice
Hum Gene Ther. , 19 (7) , 719-730  (2008)
原著論文8
Tanihata J, Suzuki N, Miyagoe-Suzuki Y, et al.
Downstream utrophin enhancer is required for expression of utrophin in skeletal muscle
J Gene Med , 10 (6) , 702-713  (2008)
原著論文9
Yuasa K, Nakamura A, Hijikata T, et al.
Dystrophin deficiency in canine X-linked muscular dystrophy in Japan (CXMDJ) alters myosin heavy chain expression profiles in the diaphragm more markedly than in the tibialis cranialis muscle
BMC Musculoskelet Disord. , 9 (1) , 1-12  (2008)
原著論文10
Fukada SI, Uezumi A, Ikemoto M, et al.
Molecular Signature of Quiescent Satellite Cells In Adult Skeletal Muscle
Stem Cells , 25 (10) , 2448-2459  (2007)
原著論文11
Yuasa K, Yoshimura M, Urasawa N, et al.
Injection of a recombinant AAV serotype 2 into canine skeletal muscles evokes strong immune responses against transgene products
Gene Ther. , 25 (10) , 2448-2459  (2007)
原著論文12
Suzuki N, Motohashi N, Uezumi A, et al.
NO production results in suspension-induced muscle atrophy through dislocation of neuronal NOS
J Clin Invest , 117 (9) , 2468-2476  (2007)
原著論文13
Ikemoto M, Fukada SI, Uezumi A, et al.
Autologous Transplantation of SM/C-2.6 (+) Satellite Cells Transduced with Micro- dystrophin CS1 cDNA by Lentiviral Vector into mdx Mice
Mol Ther. , 15 (12) , 2178-2185  (2007)
原著論文14
Suzuki N, Miyagoe-Suzuki Y, Takeda S
Gene Therapy for Duchenne Muscular Dystrophy
Future Neurology , 2 , 87-96  (2006)
原著論文15
Yugeta N, Urasawa N, Fujii Y, et al.
Cardiac involvement in Beagle-based canine X-linked muscular dystrophy in Japan (CXMDJ): electrocardiographic, echocardiographic, and morphologic studies
BMC Cardiovasc Disor , 6 , 47-  (2006)
原著論文16
Uezumi A, Ojima K, Ikemoto M, et al.
Functional heterogeneity of side population cells in skeletal muscle
Biochem Biophys Res Commun , 341 , 864-873  (2006)
原著論文17
Dezawa M
Induction system of neuronal and muscle cells from bone marrow stromal cells and applications for degenerative diseases
Inflammation and Regeneration , 27 (2) , 96-101  (2007)
原著論文18
Dezawa M
Insights into autotransplantation: the unexpected discovery of specific induction systems in bone marrow stromal cells
Cellular and Molecular Life Sciences , 63 , 2764-2772  (2006)
原著論文19
Dezawa M, Ishikawa H, Itokazu Y, et al.
Bone marrow stromal cells generate muscle cells and repair muscle degeneration
Science , 309 , 314-317  (2005)
原著論文20
Miyagoe- Suzuki Y, Uezumi A, Takeda S
Side population (SP) cells and skeletal muscle differentiation
Recent Advances of Skeletal Muscle Differentiation , 61-78  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-