ME機器の進歩に基づく新しい診断法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199700526A
報告書区分
総括
研究課題名
ME機器の進歩に基づく新しい診断法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
森山 紀之(国立がんセンター東病院)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田茂昭(国立がんセンター東病院)
  • 大山永昭(東京工業大学)
  • 向井清(国立がんセンター研究所支所)
  • 牛尾恭輔(国立がんセンター中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
87,450,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
早期に正確ながんの診断を行うことはがんの治療成績を向上させるために非常に大切なことである。近年の診断技術の進歩には大きく分けて遺伝子工学、細胞工学などのバイオテクノロジーに基づいたがん診断と、画像コンピュータサイエンスの進歩に基づいたメディカルエレクトロニクス機器(ME機器)による診断とがある。本研究のねらいは?近年のコンピュータ技術の飛躍的な技術進歩を画像ME機器に導入し、新しい診断機器の機器開発を行うこと、?これらの開発された診断機器を用いた新しいがん診断方法の開発を行うこと、?病理画像を含む診断用画像情報の解析システムおよびレファレンシャルデータベースシステムの構築を行いがん診断能の総合的な向上を目指すものである。
研究方法
主として以下の研究計画、研究方針でME機器の進歩に基づくがん診断能の向上に関する研究を行った。
1.ヘリカルCTの開発
画像情報が連続し、短時間の撮影時間で目的とする臓器全体の撮影を終了させることが可能なヘリカルCTの機器開発をメーカー側技術者と行った。研究者側より臨床医療に必要な新しいヘリカルCTの技術と具体的な使用方法の構想提案を行い、メーカー側技術者とともに提案された構想に対して技術的な対応と現実化が可能であるか否かの検討を行った。今年度の研究では、肝、膵、腎などの実質臓器に対して造影剤の投与を行った場合に、最適の条件で動脈相、静脈相での撮影が自動的に行えるヘリカルCTの開発を行った。具体的には経静脈的な造影剤の注入を行った後の腹部大動脈のCT値の変化をリアルタイムに認識させ、このCT値の変化を基に最も適切なときに自動的に撮影が開始されるようなシステムの研究を行った。
2.腹部ヘリカルCT画像のコンピュータ支援自動診断システムの開発
今後、膨大な数になると予想される腹部ヘリカルCT画像に対するコンピュータ自動診断技術の開発に関する研究を行った。研究のすすめ方としては、臨床において胸部の画像診断を行っている場合での診断認識項目および方法を医療研究者側から提案し、これらを画像工学系研究者が解析しプログラム化する方法で行われた。このようにして開発されたソフトウェアを用いて実際の医療現場で撮影された画像情報をコンピュータで読影をした結果と画像読影を専門としている読影医との読影結果の比較検討を行った。
3.ヘリカルCTを用いた肺がん検診
ヘリカルCTによる肺がん検診を実際に行い、胸部単純X線写真との比較を行うとともに、発見された肺がんの病理学的検索を行った。
4.分光内視鏡装置の開発
がんの分光スペクトル特性に基づいた画像診断を行う目的で、生体固有の分光スペクトル情報を集積した。経電子内視鏡的直視下分光測定システムを用いて180例、1,908データについての解析を行った。
5.画像転送、保管技術システム開発に関する研究
ネットワークを用いた保健医療情報システムにおいて画像情報の伝送・蓄積に関する基盤技術の研究がなされ、今年度の研究では、ICカードを用いた医療情報システムにおいてICカードと認証サーバを用いて利用者の認証に関するシステムの確立についての研究が行われた。
6.臨床画像および病理画像のレファレンスデータベースに関する研究
臨床医療における画像および病理画像のデジタル化を行い、これらの画像をがんの発生部位、画像上の特性、病理分類、がんの特性別に自由に画像ワークステーションで検索できるシステムの開発を行い、実際にレファレンスデータベースの構築を行った。
結果と考察
1.経静脈的な造影剤の注入後に腹部大動脈のCT値の絶対値の測定およびCT値の変化を経時点に測定し、このデータを基に自動的に最適条件での動脈相、静脈相CT撮影を開始することが可能となった。このシステムを導入することによって、どのような施設においても良好な造影CT画像の撮影が可能になり、実質臓器がんの診断能は向上するものと考えられた。
2.画像診断専門医との比較読影の結果、医師ががんと診断した症例では、コンピュータも100%がんとの診断であった。医師ががんの疑があり精密検査を必要としたものでは、コンピュータは81%を検出しており、良好な結果であった。このことにより、コンピュータ支援自動診断装置は今後、補助診断として充分使用可能と考えられた。
3.ヘリカルCTによる肺がん検診を継続して行い、29人の肺がんを発見した。これらの肺がんでは、通常の胸部単純X線撮影で発見可能であったものは9人(31%)であり、予後良好な肺がんを効率よく発見するためにはヘリカルCTを積極的に肺がん検診に応用すべきと考えた。症例の病理学的検索では、通常の胸部単純X線写真で発見不可能なものはがん細胞が肺胞上皮に沿って広がっており、肺胞の含気が保たれていることが証明され、この含気のため正常肺との鑑別が困難であったことが証明された。
4.経内視鏡的な分光測定装置による病変部のデータ解析の結果、各々の病変部には病変固有の色調の差異に関する情報が含まれていることが判明した。この病変固有の色調差異をさらに詳細に観察するためには、接触型プローブの他に非接触型プローブを用いた測定が必要であることが明らかとなった。
5.ICカードを用いた医療情報システムに関しては、ICカードそ相互認証として汎用的、広域的に利用する際に、公開鍵、共通鍵等の暗号方式に依存しない管理、認証システムの開発を行い、ICカードと認証サーバを用いて電子的・押印や利用者の資格認証等を行う方法を確立した。
6.腫瘍画像1,472症例、7,355画像を画像レファレンスデータベースとして登録した。この中にはX線、CT、MRI、超音波、内視鏡、病理切除標本、病理組織像などが含まれる。病理画像データベースでは典型例、非典型例の教育的レファレンスデータベースのフォーマットが確立された。
結論
1.造影CT検査において、造影剤注入後自動的に最適な条件で検査が行えるヘリカルCTを開発した。このことによって実質臓器がん診断能の向上が得られるものと考えられる。
2.膨大な量の検診胸部CT画像の読影を行うコンピュータ支援装置の開発とこの装置の読影実験を行い、良好な結果が得られた。
3.ヘリカルCTを用いた検診を行い、通常の胸部単純X線撮影で発見不能な早期の肺がんが数多く発見された。また、これらの病理学的検索が行われ、病理学的特徴が明らかとなった。
4.分光内視鏡検査のデータ解析により、病変は固有の色調差異が存在することが明らかとなり、接触型プローブでの他に非接触型プローブの必要が明らかとなった。
5.利用者の保健医療資格認証を正確に行い、秘密性の高いICカードシステムの確立を行った。
6.実際に画像データベースとしての臨床および病理画像の取り込みと登録が行われた。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)