NAD・Sir2依存性軸索保護機構を用いた神経変性疾患治療とその分子基盤

文献情報

文献番号
200833017A
報告書区分
総括
研究課題名
NAD・Sir2依存性軸索保護機構を用いた神経変性疾患治療とその分子基盤
課題番号
H18-こころ・一般-018
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
荒木 敏之(国立精神・神経センター神経研究所 疾病研究第五部)
研究分担者(所属機関)
  • 舘野 美成子(国立精神・神経センター神経研究所 疾病研究第五部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
29,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本年度の研究においては、 (1)特にミトコンドリア機能に対して注目したNMNAT過剰発現Tgマウスのフェノタイプ解析、(2)NMNAT活性過剰発現による神経保護効果の有効性の範囲から見た神経保護メカニズムの検討 (3)NMNAT活性過剰発現の神経疾患に対する治療効果に関する検討、(4)軸索変性遅延をきたすメカニズム全般に関するスクリーニングと解析、を中心に行った。
研究方法
1) 軸索変性遅延を示したNMNAT3-Tg、wldsマウスと、軸索変性遅延を示さなかったマウスに関し、トランスジーン由来蛋白の発現部位、ミトコンドリアの電子伝達系構成蛋白の発現レベル、ミトコンドリア呼吸機能的解析結果に関する比較を行った。
2)NMNAT活性過剰発現による神経細胞の低酸素・低栄養刺激に対する保護効果の詳細、ミトコンドリア機能との関係に関する検討を行った。
3)NMNAT活性が極めて高いNMNAT3-Tgマウスを用い、これまでWldsマウスによる保護効果が得られなかった疾患モデルに対する保護効果が示せるかどうかを検討した。
4)Kinase、Phosphataseに対する阻害剤ライブラリーの化合物が軸索変性過程に対して影響を培養系で検討した。
結果と考察
1)NMNAT活性過剰発現による軸索変性遅延効果にはNMNAT活性のミトコンドリアマトリックスへの局在が重要であると考えられた。
2)NMNAT酵素活性を過剰発現する神経細胞は、低酸素・再酸素化による細胞毒性に対して保護効果を示した。更にミトコンドリア電子伝達系酵素複合体に対する阻害剤の細胞毒性に対しても、一部の阻害剤に対する保護効果を示した。
3)変異型SOD1過剰発現による家族性筋萎縮性側索硬化症モデルマウスの神経軸索変性、神経細胞死に対しNMNAT過剰発現は神経保護的治療効果を示さず、神経細胞死に先立って神経軸索変性が進行する場合であってもその背景にある分子機序は多様である可能性が示唆された。
4)軸索変性の細胞内反応として、ZNRF1-Akt-GSK3betaの反応系を同定した。
結論
NMNAT過剰発現による強い神経保護効果の細胞内反応機序として、ATP産生能の向上を伴うミトコンドリア機能の改変が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2009-04-09
更新日
-

文献情報

文献番号
200833017B
報告書区分
総合
研究課題名
NAD・Sir2依存性軸索保護機構を用いた神経変性疾患治療とその分子基盤
課題番号
H18-こころ・一般-018
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
荒木 敏之(国立精神・神経センター神経研究所 疾病研究第五部)
研究分担者(所属機関)
  • 舘野 美成子(国立精神・神経センター神経研究所 疾病研究第五部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、NAD・Sir2依存性軸索保護のメカニズムを解明し、神経疾患への治療応用を実現することを目的とし、具体的には 1)軸索保護をもたらす細胞内シグナル伝達機構の解明、2)ウイルスベクター等を用いてこのメカニズムを疾患治療に応用するための基礎的技術の開発、3)トランスジェニックマウスの作成、並びに疾患モデルマウスとの掛けあわせによる治療効果の検討、を行うことを目標とした。
研究方法
1)主として初代培養神経細胞を用いてNAD・Sir2依存性神経保護をもたらす細胞内シグナル伝達機構に関する検討、ならびに軸索変性に関わる細胞内反応全般のスクリーニング、2)主にAAVベクターを用いたNMNATのマウス神経細胞への過剰発現の最適化とパーキンソン病モデルマウスへの発現、3)NMNATファミリーメンバーの過剰発現モデルマウスの作成とフェノタイプ発現機構の解析、家族性筋萎縮性側索硬化症(FALS)モデルマウスとの交配による疾患フェノタイプの変化に関する検討、を行った。 
結果と考察
1)NMNAT過剰発現が最も強い軸索保護効果を示した。NADの合成反応系には細胞種特異性があり、神経細胞ではNmR-NMN-NADという経路が重要と考えられた。軸索変性の細胞内反応として、ZNRF1-Akt-GSK3betaの反応系を同定した。
2)AAV1-NMNAT3の作成とin vivo発現の最適化を行った。
3)wldsマウスに見られるin vivoでの軸索変性遅延はNMNAT活性の過剰発現によるものであるが、NMNAT1-Tgは軸索保護を示さず、NMNAT3-Tgがwldsマウスと同様のフェノタイプを示した。NMNAT3-Tg、wldsではNMNAT活性がミトコンドリアマトリックスに存在し、結果としてATP産生能が向上していたため、これが軸索変性遅延につながる可能性が示唆された。NMNAT3過剰発現はFALSモデルであるSOD1(G93A)Tgの神経変性、発症時期、寿命に対し影響を与えず、神経細胞死に先立って神経軸索変性が進行する場合であってもその背景にある分子機序は多様である可能性が示唆された。
結論
軸索変性遅延を目的とするNAD合成反応系改変の手法としてNMNAT過剰発現が最も強力であり、その細胞内反応機序としてはATP産生能の向上を伴うミトコンドリア機能の改変が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2009-04-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200833017C

成果

専門的・学術的観点からの成果
神経軸索変性過程を細胞死とは独立した細胞内反応系として確立し、その多様性を明らかにすると共に、神経変性阻止につながる主要な分子メカニズムを解明し、治療応用の可能性を示した。特に、NAD合成系酵素の過剰発現によって実現される著明な神経保護効果におけるミトコンドリア機能変化の関与を示した研究成果は、エネルギー代謝系と神経の正常機能維持や神経変性メカニズムとの関係を初めて明確に示したものである。
臨床的観点からの成果
NAD合成系酵素発現による強力な神経保護効果の有効性の範囲を示すことで、神経軸索変性を伴う神経変性疾患の変性メカニズムの多様性を明らかにした。ミトコンドリア機能変化による治療効果が大きいと考えられるパーキンソン病、虚血再還流による神経傷害に関し、培養細胞、モデル動物での成果を示すことによって、今後このメカニズムによる治療法開発の方向性を示した。
ガイドライン等の開発
ガイドライン等の開発に関する具体的な寄与はない。
その他行政的観点からの成果
神経変性疾患等の神経系難治疾患には治療法はおろか疾患の進行を抑制する方法も確立しておらず、本研究が提案する神経変性疾患の治療アプローチは今後非常に有力な方法となると考える。また高齢でのQuality of Lifeを維持する上で神経機能の保護を可能にすることは極めて大きな意義を持つ。
その他のインパクト
本研究の成果に関しては、学術集会におけるシンポジウム講演、国内外の学術研究機関における招待講演などで、主として生命科学研究者に対して示した。また、製薬企業からの研究内容に関する照会に応じ、関係者への知見、技術の紹介を行うなどの形で、創薬への応用のための協力を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tateno M, Kato S, Sakurai T et al.
Mutant SOD1 impairs axonal transport of choline acetyltransferase and acetylcholine release by sequestering KAP3.
Human Molecular Genetics , 18 (5) , 942-955  (2009)
原著論文2
Wakatsuki S, Yumoto N, Komatsu K et al.
Roles of Meltrin-β/ADAM19 in Progression of Schwann Cell Differentiation and Myelination during Sciatic Nerve Regeneration
Journal of Biological Chemistry , 284 (5) , 2957-2966  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-