文献情報
研究課題名
AYA世代がん患者に対する精神心理的支援プログラムおよび高校教育の提供方法の開発と実用化に関する研究
研究代表者(所属機関)
堀部 敬三(独立行政法人国立病院機構 名古屋医療センター 臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 藤森 麻衣子(国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 健康支援研究部)
- 明智 龍男(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野)
- 平山 貴敏(国立がん研究センター中央病院 精神腫瘍科)
- 田中 恭子(国立成育医療研究センター こころの診療部)
- 小澤 美和(聖路加国際病院 小児科)
- 土屋 雅子(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターがんサバイバーシップ支援部)
- 森 麻希子(埼玉県立小児医療センター 血液・腫瘍科)
- 前田 尚子(国立病院機構名古屋医療センター小児科)
- 栗本 景介(名古屋大学 医学部付属病院 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、AYA世代がん患者に対して包括的な質の高い精神心理的支援および適切な後期中等教育を提供できるようにするため、①包括的精神心理支援プログラムの開発 ②疾患受容評価に基づく思春期の意思決定支援プログラムの開発 ③高校教育提供の方法および教育行政との連携方法の好事例集および保護者,医療者,高校教師に向けた高校教育支援の手引きの作成を行うことを目的とした。
研究方法
①2年目に全国8施設において実施した支援プログラムの臨床運用結果を後方視的に解析し、精神心理的支援プログラムの実施可能性と有用性を検討する。その結果を踏まえて、精神心理的支援プログラムマニュアルを作成する。②2年目に開発した意思決定能力の4要素モデルを用いたA世代版疾病受容評価面接法を用いて、面接および意思決定支援を行い、実施可能性や有用性を検討したのちに、面接法と支援をパッケージ化した意思決定支援手引きを作成する。また、A世代患者向けのリーフレットを作成する。③高校生がん患者の教育支援経験を有する施設へのインタビュー調査結果に基づいて課題の整理と好事例の類型化を行い、それをもとに好事例集を作成する。双方向性遠隔教育システムを用いた教育支援の実証研究を行う。都道府県および政令都市教育委員会を対象に行ったアンケート調査結果を分析し、教育委員会等行政と関係機関の連携のあり方を検討する。高校在学中にがん診断を受けた患者・保護者、がん診断をうけた高校生に対する教育経験を有する高校教師のインタビュー調査結果によりニーズを把握して手引きを作成する。④3つのプロジェクトで作成した成果物の関係機関への配布、ホームページでの公開、公開シンポジウム開催を通じて、AYA世代がん患者の精神心理的支援および高校教育支援のニーズと支援方法の普及啓発を図る。
結果と考察
包括的精神心理支援プログラムの開発にあたり、各施設のリソースに合わせて実施可能な支援プログラムの実施マニュアルを作成し、8施設において目標実施例数200例を大幅に上回る353例に臨床運用が行われ、包括的精神心理的支援プログラムの実施可能性と予備的有用性が示された。それを踏まえて精神心理的支援プログラムマニュアルを作成した。2年目に開発した意思決定の4要素モデルを用いたA世代版疾病受容評価面接法を7名に実施し、疾病受容評価、自律支援,多職種で行う意思決定の支援に有効である可能性が示された。これを踏まえて、疾病受容評価を用いた支援の手引と事例集を作成した。また、 A世代患者向けのトラウマインフォームドケアガイドのリーフレットを作成した。高校教育提供の方法および教育行政との連携方法の好事例集および手引きの作成に向けて、高校教育継続支援を開始するための参考になる15事例をまとめ、教育委員会調査結果を基に策定した行政側の支援モデルと合わせて好事例集を作成した。双方向性遠隔教育システムを用いた教育支援を10人の高校生に対して実証研究を行い、遠隔授業の利点と課題を明らかにした。がんと診断された高校生・保護者、医療者、高等学校の教師を対象に行ったインタビュー調査結果を踏まえて「高校生活とがん治療の両立のための教育サポートブック」を作成した。各プロジェクトにおいて作成された成果物を全国のがん診療連携拠点病院および小児がん拠点病院,小児がん連携病院の相談支援センター、関連診療科、看護部等へ、好事例集と教育サポートブックは教育関係機関にも郵送配布し、研究班のホームページにおいてもpdfを無料ダウンロードできるようにした。また、公開Webシンポジウムを開催し、普及啓発を行った。
結論
AYA世代がん患者に対して包括的な質の高い精神心理的支援、および、適切な後期中等教育を提供できるようにするため3つのプロジェクトを実施した。包括的精神心理的支援プログラムを開発し、その実施可能性と有用性を確認し、精神心理的支援プログラムマニュアルを作成した。病状説明の実態調査結果を踏まえ、思春期の意思決定支援プログラムとして、疾病受容評価評価面接法の開発、および、疾病受容支援ツールの作成を行った。高校教育提供の方法、ならびに、関係機関と行政の連携方法の15の好事例を集めた好事例集、ならびに、高校生・保護者、医療者、高等学校教師向けに教育サポートブックを作成した。これらの成果物を全国の関係機関への送付やホームページでの公開、公開シンポジウムのWeb開催を通じて普及啓発を行った。今後、AYA世代がん患者への質の高い精神心理的支援と教育支援が普及することが期待される。
研究報告書(PDF)
研究報告書(紙媒体)
文献情報
研究課題名
AYA世代がん患者に対する精神心理的支援プログラムおよび高校教育の提供方法の開発と実用化に関する研究
研究代表者(所属機関)
堀部 敬三(独立行政法人国立病院機構 名古屋医療センター 臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 藤森 麻衣子(国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所・支持・サバイ バーシップTR研究部/行動科学研究部)
- 明智 龍男(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野)
- 平山 貴敏(国立がん研究センター中央病院 精神腫瘍科)
- 田中 恭子(国立成育医療研究センター こころの診療部)
- 小澤 美和(聖路加国際病院 小児科)
- 土屋 雅子(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所 医療提供・サバイバーシップ政策研究部)
- 森 麻希子(埼玉県立小児医療センター 血液・腫瘍科)
- 前田 尚子(国立病院機構名古屋医療センター小児科)
- 栗本 景介(名古屋大学 医学部附属病院 消化器外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、AYA世代がん患者に対して包括的な質の高い精神心理的支援および適切な後期中等教育を提供できるようにするため、①包括的精神心理支援プログラムの開発 ②疾患受容評価に基づく思春期の意思決定支援プログラムの開発 ③高校教育提供の方法および教育行政との連携方法の好事例集および保護者,医療者,高校教師に向けた高校教育支援の手引きの作成を行うことを目的とした。
研究方法
国立がん研究センター中央病院の支援プログラムの後方視的解析と外的妥当性を検討した結果を踏まえて精神心理支援プログラムを策定し、各施設で実施可能なマニュアルを作成し、全国8施設において臨床運用を実施する。その結果を踏まえて、精神心理的支援プログラムマニュアルを完成させる。A世代患者への病状説明の実態調査結果を踏まえて意思決定の4要素モデルを用いたA世代版疾病受容評価面接法を開発する。それを臨床実装して実施可能性や有用性を検討したのちに、面接法と支援をパッケージ化した意思決定支援手引きを作成する。また、トラウマインフォームドケアガイドを翻訳し、A世代患者向けと親向けの2つのリーフレットを作成する。高校教育提供の現状について小児および成人診療科にアンケート調査を実施し、教育支援の実態を把握する。高校生がん患者の教育支援経験を有する施設に対してインタビュー調査を実施し、好事例について課題の整理と類型化を行い、好事例集を作成する。双方向性遠隔教育支援の実証研究を行う。都道府県および政令都市教育委員会を対象にアンケート調査を実施し、教育委員会等行政と関係機関の連携方法を検討する。高校在がん患者・保護者、高校生がん患者の教育経験を有する高校教師のインタビュー調査を行い、ニーズを把握して手引きを作成する。これらを用いて、AYA世代がん患者の精神心理的支援および高校教育支援の支援の必要性と方法の普及啓発を図る。
結果と考察
各施設のリソースに合わせて実施可能な精神心理支援支援プログラムの実施マニュアルを作成した。8施設353人に臨床運用を行い、本プログラムの実施可能性の高さが示唆された。小児がん拠点病院の医師を対象に行ったA世代に対する病状説明の実態調査結果と専門家との意見交換を踏まえてA世代版疾病受容評価面接法を開発した。疾病受容評価面接および多職種による支援を7人に実施し、回答内容と面接前後の経過について質的に検討し、支援の手引と事例集を作成した。また、A世代患者向けと親向けの2つのトラウマインフォームドケアガイドのリーフレットを作成した。高校生の教育支援の実施状況について日本小児がん研究グループ(JCCG)、および、成人白血病治療共同研究機構(JALSG)の参加施設を対象にアンケート調査を実施した。成人診療科の回答率、高校教育の継続の経験値が少なく、成人診療科への啓発の必要性が示唆された。好事例を有するJCCG参加施設への二次調査により医療機関、行政、在籍高校、特別支援学校の関わりや抱える課題を整理・類型化し、好事例集を作成した。双方向性遠隔教育システムを用いた教育支援を10人の高校生に対して実証研究を行い、遠隔授業の利点と課題を明らかにした。全国の教育委員会を対象にアンケート調査を行った。高校生入院患者の把握と教育支援に携わる機関間の調整が重要であることを踏まえて、行政側の支援モデルを策定した。高校生がん患者・保護者、がん患者の教育経験を有する高校教師のインタビュー調査を行い、高校教育支援の手引きに求められる事柄を把握し、教育サポートブックを作成した。これら成果物を全国のがん拠点病院や高等学校、行政機関に配布するとともに、ホームページでの公開、公開シンポジウム開催を通じて普及啓発を行った。
結論
AYA世代がん患者に対して包括的な質の高い精神心理的支援、および、適切な後期中等教育を提供できるようにするため3つのプロジェクトを実施した。包括的精神心理的支援プログラムを開発し、その実施可能性と有用性を確認し、精神心理的支援プログラムマニュアルを作成した。思春期の意思決定支援プログラムとして、疾病受容評価面接法の開発、および、疾病受容支援ツールの作成を行った。高校教育提供の方法、ならびに、関係機関と行政の連携方法の好事例を集めた好事例集、ならびに、高校生・保護者、医療者、高等学校教師向けに教育サポートブックを作成した。これらの成果物を全国の関係機関への送付やホームページでの公開、公開シンポジウム開催を通じて普及啓発を行った。今後、AYA世代がん患者への質の高い精神心理的支援と教育支援が普及することが期待される。
研究報告書(PDF)
研究報告書(紙媒体)
行政効果報告
成果
専門的・学術的観点からの成果
つらさの寒暖計の得点およびチェック項目を基に個別化支援を行う包括的精神心理的支援プログラムを開発し、後方視的解析によりその実施可能性と予備的有用性が示された。貴重な日本発のエビデンスであり、本成果は英文で論文発表された。全国での実用化が期待される。また、A世代がん診療に携わる医師を対象に病状説明の実態調査を行い、A世代がん患者や親への説明、および、IC取得の臨床的困難さが明らかとなり、思春期世代向けの疾患受容評価ツールの必要性が示され、ツール開発に繋げられた。成果は英文で論文発表された。
臨床的観点からの成果
AYA世代がん患者の精神心理的支援プログラムを全国8施設で実施し、その臨床運用結果を基に、施設のリソースに合わせて実施可能な「AYA世代がん患者への精神心理的支援プログラムマニュアル」を作成し、全国の臨床現場での活用を可能にした。関係者・関係機関へのインタビュー調査を基に「長期療養中の高校生の希望に応える好事例集」「高校生活とがん治療の両立のための教育サポートブック」を作成し、地域の実情に応じた患者・家族、学校(原籍校、支援校)、病院、行政の連携による教育支援の円滑な実施を可能にした。
ガイドライン等の開発
AYA世代がん患者に対して包括的な質の高い精神心理的支援を行うための支援プログラムとその実施マニュアルを開発した。思春期世代がん患者の意思決定支援のためA世代版疾病受容評価面接法を開発し、その手引および事例集を作成した。さらに、A世代患者向けと A世代患者の親向けの2つのトラウマインフォームドケアガイドのリーフレットを作成した。また、闘病中の高校生に対して適切な高校教育を提供できるようにするため、高校教育とがん治療の両立のための教育支援の好事例集および教育サポートブックを作成した。
その他行政的観点からの成果
全国の都道府県および政令市教育委員会を対象に入院中の高校生等の教育に係るアンケート調査・一部ヒアリング調査を行い、行政側支援モデルを策定した。文部科学省令和3年度「高等学校段階の病気療養中等の生徒に対するICT を活用した遠隔教育の調査研究事業」中間成果報告会において成果報告を交えて受託団体への指導助言を行った。オンライン授業の実証研究を機に、愛知県議会で取り上げられ、2022年4月より愛知県内の高校に在籍する病気療養中の生徒を対象に同時双方向オンライン授業による学習支援制度が開始された。
その他のインパクト
2022年3月5日に公開Webシンポジウムを開催し、研究成果の発表及び成果物の普及啓発を行った。各種成果物を全国のがん拠点病院、小児がん拠点・連携病院、および、教育関係機関に郵送配布して普及啓発した。成果物のpdfを研究班HP<https://sites.google.com/nnh.go.jp/aya-shien>に掲載した。朝日新聞「患者を生きる」(2022.4.21)に高校教育支援の資材が紹介された。中日新聞「つなごう医療」(2021.10.19)にオンライン授業の実証研究が紹介された。
発表件数
その他成果(普及・啓発活動)
5件
講演1件、シンポジウム開催1件、マスコミ発表2件、ホームページ1件
特許
主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)
収支報告書
支出
研究費 (内訳) |
直接研究費 |
物品費 |
259,184円 |
人件費・謝金 |
1,780,198円 |
旅費 |
0円 |
その他 |
4,480,620円 |
間接経費 |
1,476,000円 |
合計 |
7,996,002円 |