小児期の大脳白質病変の病態解明に関する研究

文献情報

文献番号
200833014A
報告書区分
総括
研究課題名
小児期の大脳白質病変の病態解明に関する研究
課題番号
H18-こころ・一般-015
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
井上 健(国立精神・神経センター 神経研究所 疾病研究第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 赤澤智宏(東京医科歯科大学保健衛生学科)
  • 小坂 仁(神奈川県立こども医療センター 神経内科)
  • 出口貴美子(出口小児科 国立精神・神経センター 神経研究所 疾病研究第二部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
当該研究は大脳白質病変の病態を解明し、治療法の開発を目指した基礎研究である。小児期の遺伝性髄鞘形成不全症候群と早産児の虚血性大脳白質傷害という原因の異なる二つの大脳白質病変を伴う疾患群を対象とする。その理由として
(1)遺伝性髄鞘形成不全の病態の理解はオリゴデンドロサイトを標的とした白質保護による治療法の開発に重要である。
(2)周産期の虚血性白質病変による高次脳機能障害の病態の理解と予防や治療法の開発が急務である。
 本研究はこれら2つのアプローチから得られる結果を統合的に解析し、大脳白質病変に起因しておこる高次脳機能障害の機序を解明し、小児期の大脳白質病変の病態に基づく治療法の開発を目指す。

研究方法
遺伝性髄鞘形成不全症候群については、クルクミンを用いて、PMDの点変異モデルマウスMSDに対して治療実験を行い、その効果と分子薬理動態を解明した。また、BACトランスジェニックを用いて、変異SOX10をマウスに導入し、PCWHのモデル動物の作成し、このマウスの表現型解析を行った。早産児の虚血性大脳白質傷害の解析については、新たな長期生存例について、神経病理学的解析を行った。
結果と考察
動物モデルへのクルクミン投与による治療実験では、寿命の延長や大脳白質での細胞死の減少など、一定の治療効果を示唆する所見が得られた。反面、髄鞘化の明らかな改善効果は見られなかった。内在性のSOX10のコード領域をPCWH型の変異SOX10cDNAに置換したもBACトランスジェニックマウスを確立した。表現型解析によりPCWHに関連する症状を呈することが明らかになりつつある。超早産児PVL長期生存剖検脳を用いた病理学的解析を行い、脳室周囲の神経前駆細胞の消失や、皮質および白質の異所生神経細胞の存在を見いだした。
結論
三年目となる本年度は、昨年度に引き続きそれぞれの課題についてほぼ当初の計画通りに研究成果を得た。本年度をもって、本研究課題の研究期間が満了となるが、本研究により数多くの大脳白質病変の病態により迫る知見を得る事が出来た。課題によっては、まだ完結に至っていない研究もあるので、今後さらにこれらの研究を継続していく。長期的にはこれらの研究成果から、小児期の疾患のみならず成人や老年期における大脳白質病変の病態の理解に大きく貢献することが予想され、白質病変の予防や治療の開発に向けた基礎研究として、さらに国民の健康維持に資することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2009-04-09
更新日
-

文献情報

文献番号
200833014B
報告書区分
総合
研究課題名
小児期の大脳白質病変の病態解明に関する研究
課題番号
H18-こころ・一般-015
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
井上 健(国立精神・神経センター 神経研究所 疾病研究第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 赤澤智宏(東京医科歯科大学保健衛生学科)
  • 小坂 仁(神奈川県立こども医療センター 神経内科)
  • 出口貴美子(出口小児科 国立精神・神経センター 神経研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 当該研究は大脳白質病変の病態を解明し、治療法の開発を目指した基礎研究である。小児期の遺伝性髄鞘形成不全症候群と早産児の虚血性大脳白質傷害という原因の異なる二つの大脳白質病変を伴う疾患群を対象とする。その理由として
(1)遺伝性髄鞘形成不全の病態の理解はオリゴデンドロサイトを標的とした白質保護による治療法の開発に重要である。
(2)周産期の虚血性白質病変による高次脳機能障害の病態の理解と予防や治療法の開発が急務である。
 本研究はこれら2つのアプローチから得られる結果を統合的に解析し、大脳白質病変に起因しておこる高次脳機能障害の機序を解明し、小児期の大脳白質病変の病態に基づく治療法の開発を目指す。
研究方法
I. 遺伝性髄鞘形成不全症ペリツェウス・メルツバッハ病の小胞体ストレス性細胞死によるオリゴデンドロサイト傷害モデルに対するクルクミン投与による治療の有効性を検討する。
II. SOX10異常による遺伝性髄鞘形成不全症PCWHを引き起こすSOX10遺伝子変異の病態解明のため、分子遺伝学的手法を用いた培養細胞レベルあるいはBACトランスジェニックマウスを用いたモデルマウス作成による成体レベルでの解析を行う。
III. ヒト超早産児の剖検脳を用いた神経病理学的解析により、超早産児の虚血性大脳白質病変に伴う神経前駆細胞の傷害と大脳発達障害の病態の解明を行う。
結果と考察
I:初めての遺伝性髄鞘形成不全症治療薬としてのクルクミンの有効性を確認することができた。今後、さらに詳細な分子薬理機構の解明により、クルクミンの標的分子を明らかにしていく。
II:SOX10遺伝子変異が、PCWHを引き起こす分子病態機構を初めて明らかにすることができた。また、BAC-Tgの作成により、神経堤幹細胞研究や白質変性症の病態研究において、その過程を追跡することができる有用な研究試材の確立し、さらに初めてPCWHの動物モデルを確立することができた。
III:超早産児の高次脳機能障害の新たな病態モデルとして、神経前駆細胞の障害とこれに基づく生後の大脳発達の障害モデルについて、これを支持する所見を多数例の患者検体の解析から得ることができた。

結論
小児期の遺伝性髄鞘形成不全疾患と早産児の深部白質の虚血病変の二つに焦点を絞り、細胞生物学、分子生物学および神経病理学的手法を用いて多面的に大脳白質病変をとらえ、その病因・病態機序に即した治療法の開発を目指した基礎研究を行った。これらの所見は、小児期の大脳白質病変の予防と治療法の開発のための有意義な知見であると思われる。

公開日・更新日

公開日
2009-04-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200833014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
小児期の大脳白質病変をきたす様々な疾患の病態解明と病態に基づく治療法開発において、先進的な成果を挙げることができた。初めての遺伝性髄鞘形成不全症治療薬としてのクルクミンの有効性を確認することができた。SOX10遺伝子変異が、PCWHを引き起こす分子病態機構を初めて明らかにすることができた。PCWHの動物モデルを確立することができた。超早産児の高次脳機能障害の新たな病態仮説として、神経前駆細胞の障害とこれに基づく生後の大脳発達の障害を提唱した。
臨床的観点からの成果
クルクミンは安全性が確立している食品化合物であり、今後、特定の遺伝性髄鞘形成不全症治療薬として臨床応用できる可能性が高い。PCWHの病態の解明やモデル動物の確立は、今後治療法開発のための基盤となる。超早産児の高次脳機能障害についての新たな病態仮説は後遺症の予防法開発に重要である。
ガイドライン等の開発
本研究は病態解明のための基礎研究であるので、ガイドライン等の開発は行われていないが、今後大脳白質形成不全症の診断基準策定に重要な情報を提供することができた。
その他行政的観点からの成果
本研究は病態解明のための基礎研究であるので、その成果は直接、行政施策に反映されるものではない。しかし、本研究の成果は来年度から行われる大脳白質形成不全症の診断基準の策定のための基盤的知見を提供するものである。
その他のインパクト
本研究の成果により作成されたSOX10BACトランスジェニックマウスは、特許申請中である。遺伝性大脳白質形成不全症については、今後患者家族会への情報提供のための講演会を行っていく予定である。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
15件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Lee JA, Inoue K, Cheung SW, et al.
Role of genomic architecture in PLP1 duplication causing Pelizaeus-Merzbacher disease.
Human Molecular Genetics , 15 (14) , 2250-2265  (2006)
原著論文2
Inoue K, Ohyama T, Sakuragi Y et al.
Translation of SOX10 3' untranslated region causes a complex severe neurocristopathy by generation of a deleterious functional domain.
Human Molecular Genetics , 16 (24) , 3037-3046  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2017-05-23