がん治療における緩和的放射線治療の評価と普及啓発のための研究

文献情報

文献番号
202108007A
報告書区分
総括
研究課題名
がん治療における緩和的放射線治療の評価と普及啓発のための研究
課題番号
19EA1010
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
茂松 直之(慶應義塾大学医学部 放射線科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 健夫(埼玉医科大学 医学部)
  • 大西 洋(国立大学法人 山梨大学 大学院総合研究部医学域放射線医学講座)
  • 青山 英史(北海道大学 医学部)
  • 鹿間 直人(順天堂大学 大学院医学研究科)
  • 中村 直樹(聖マリアンナ医科大学放射線医学講座(放射線治療))
  • 原田 英幸(静岡県立静岡がんセンター 放射線治療科)
  • 渡辺 未歩(根本 未歩)(千葉大学大学院医学研究院画像診断・放射線腫瘍学)
  • 森脇 健介(立命館大学 総合科学技術研究機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、,以下の2つである。

① 緩和的放射線治療に対する実態やニーズを把握するための評価手法を開発すること、
及び継続的に評価を行う基盤を確立すること

② 緩和的放射線治療の普及啓発に向けた施策を行うこと
研究方法
① がん診療連携拠点病院等に従事する医療従事者および患者・家族のニーズ、認知度、満足度、及び緩和的放射線治療の社会経済的価値を評価する手法、基盤を確立する。

② 適応判断の適正化を目指した以下の施策を行う.
「骨転移に対する診療ガイドラインの整備」
「患者・家族に対する情報提供(リーフレット等の作成)」
「骨転移キャンサーボードの推進」
「緩和医療チームとの連携強化」
また、利便性向上を目指した以下の施策を行う。
「放射線治療装置のない長期療養型施設、在宅医療機関との連携強化」
「がん治療と仕事の両立支援」
結果と考察
① 緩和的放射線治療に対する実態やニーズを把握するための評価手法の開発
・市民1000人を対象として緩和ケア、放射線治療、緩和照射に対する意識調査をWebで実施した。
・QI策定委員会を立ち上げ、緩和照射のQuality Indicatorを策定した。
・脊椎転移に対する定位放射線治療、従来型照射法、Best supportive careの費用対効果のためのモデル作成と諸因子の調査を行った。
・商用レセプトデータベースを用いて、緩和的放射線治療の医療経済評価のために必要な費用パラメータの推定方法の検討を行った。

② 緩和的放射線治療の普及啓発に向けた施策
a) 骨転移に対する診療ガイドラインの整備
日本の実地診療を明らかにする目的で「転移性骨腫瘍に対する放射線治療の多施設共同前向き観察研究」を実施した。また、その結果から既報のガイドラインの日常診療での適用について検討し提言を作成した。
b)リーフレットの作成・配布
患者・家族に対する緩和照射に関する普及啓発を目的として、がん患者・家族向けリーフレット・動画「放射線治療による緩和ケア」を作成した。
c) 骨転移キャンサーボードの推進
骨転移キャンサーボードを先進的に行っている施設からメンバーを募りWGを結成し、骨転移のうちキャンサーボードで協議する優先度の高い病態に関する提言を作成した。
d) 放射線治療装置のない長期療養型施設、在宅医療機関との連携強化
日本放射線治療学会員に対して全国アンケート調査を実施し、連携の現状を評価した。また、地域連携モデルを作成した。
e) がん治療と仕事の両立支援
「転移性骨腫瘍に対する放射線治療の多施設共同前向き観察研究」において就労に関する情報を取得した。また、放射線治療医が療養・就労両立支援指導を行い易くするために「がん放射線治療における療養と就労両立支援マニュアル」を作成した。
結論
・緩和照射の評価ツールとしてQuality Indicatorを開発し、Advances in Radiation Oncology誌に掲載された。海外でも使用可能である。今後日本放射線腫瘍学会の緩和的放射線治療委員会にて、本研究で開発したQI指標を用いて、全国規模で経時的変化を調査することで緩和照射の質のモニタリングを目指す。
・地域連携モデルを作成し、日本放射線腫瘍学会ホームページに公開した。各地で地域連携が強化されることが期待される。
・骨転移のうちキャンサーボードで協議する優先度の高い8つの病態に関する提言をまとめ、日本放射線腫瘍学会ホームページに公開した。本提言が骨転移キャンサーボードの普及に貢献することが期待される。
・がん患者・家族向けリーフレット・動画「放射線治療による緩和ケア」を作成し、緩和ケアチーム、在宅医療施設、日本放射線腫瘍学会認定施設へ配布した。またリーフレット・動画は日本放射線腫瘍学会ホームページにて公開されている。過去に緩和照射に関する患者・家族への情報提供を全国規模で試みた例はなく、日本初の試みである。患者・家族の緩和照射に対する理解・関心が深まることが期待される。
・本研究で得られた「約3割の患者が骨転移に対する緩和照射を受ける時点でも就労していること」「緩和照射が就労の維持、復職、収入の改善に貢献していること」のような緩和照射と就労、経済状態の関連についての報告は過去に存在せず、貴重な情報である。

公開日・更新日

公開日
2022-06-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202108007B
報告書区分
総合
研究課題名
がん治療における緩和的放射線治療の評価と普及啓発のための研究
課題番号
19EA1010
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
茂松 直之(慶應義塾大学医学部 放射線科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 健夫(埼玉医科大学 医学部)
  • 大西 洋(国立大学法人 山梨大学 大学院総合研究部医学域放射線医学講座)
  • 白土 博樹(国立大学法人 北海道大学 大学院医学研究院)
  • 鹿間 直人(順天堂大学 大学院医学研究科)
  • 中村 直樹(聖マリアンナ医科大学放射線医学講座(放射線治療))
  • 原田 英幸(静岡県立静岡がんセンター 放射線治療科)
  • 渡辺 未歩(根本 未歩)(千葉大学大学院医学研究院画像診断・放射線腫瘍学)
  • 森脇 健介(立命館大学 総合科学技術研究機構)
  • 青山 英史(北海道大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
研究分担者に関して、2021年度(令和3年度)の研究期間から下記の変更があった。 白土博樹(北海道大学) → 青山英史(北海道大学)

研究報告書(概要版)

研究目的
緩和的放射線治療は緩和医療で非薬物療法の中心的存在であるが、鎮痛薬などの他の治療法との比較データは限定的であり、その有用性に関する医療従事者、又は、がん患者・家族の認知度は満足できるものではない。そのため、国民が緩和的放射線治療の恩恵を十分に享受できていない可能性がある。この問題を解決するためには、緩和的放射線治療に関する実態やニーズを把握した上で、適切に普及啓発を行っていく必要がある。本研究の目的は、以下の2つである。

① 緩和的放射線治療に対する実態やニーズを把握するための評価手法の開発と継続的評価を可能にする基盤の確立

② 緩和的放射線治療の普及啓発に向けた施策の実施
研究方法
① がん診療連携拠点病院等に従事する医療従事者、がん患者・家族のニーズ、認知度、満足度、及び緩和的放射線治療の社会経済的価値を評価する手法、基盤を確立する。

② 適応判断の適正化を目指した以下の施策を行う。
「骨転移に対する診療ガイドラインの整備」
「がん患者・家族に対する情報提供(リーフレットなどの作成)」
「骨転移キャンサーボードの推進」
「緩和医療チームとの連携強化」
また、利便性向上を目指した以下の施策を行う。
「放射線治療装置のない長期療養型施設、在宅医療機関との連携強化」
「がん治療と仕事の両立支援」
結果と考察
・緩和的放射線治療の費用対効果を公表することで、緩和的放射線治療の適正使用および医療費軽減に貢献できる。

・新規に開発した緩和的放射線治療の質の評価指標であるQI(quality indicator)は、海外学術誌に掲載したので、国際的に利用可能な状況である。今後、日本放射線腫瘍学会に設置されている緩和的放射線治療委員会にて、本研究で開発したQI指標を利用し、全国規模で経時的変化を調査することにより、緩和的放射線治療の質のモニタリングを目指している。

・地域連携モデルを作成し、日本放射線腫瘍学会のホームページに公開した。この地域連携のモデルが活用され、各地で地域連携が強化されることが期待される。

・骨転移の中で、キャンサーボードで協議する優先度の高い8つの病態に関する提言をまとめ、日本放射線腫瘍学会のホームページに公開した。本提言が骨転移キャンサーボードの普及に貢献することが期待される。

・診療ガイドラインの整備、骨転移キャンサーボードの推進、緩和医療チーム・長期療養型施設・在宅医療機関との連携強化を通じて、緩和的放射線治療の適正使用に貢献できる。

・「転移性骨腫瘍に対する放射線治療の多施設共同前向き観察研究」の結果を解析し、国内の骨転移緩和的放射線治療の実態ならびに症状緩和効果を明らかにし、緩和的放射線治療の普及に結び付ける。

・がん患者・家族向けリーフレット・動画「放射線治療による緩和ケア」を作成し、緩和ケアチーム、在宅医療施設、日本放射線腫瘍学会の認定施設へ配布した。これらのリーフレット・動画は、日本放射線腫瘍学会のホームページで公開されている。過去に緩和的放射線治療に関する患者・家族への情報提供を全国規模で試みた例はなく、日本初の試みである。患者・家族の緩和的放射線治療に対する理解・関心が深まることが期待される。

・配布したがん患者・家族に対する緩和的放射線治療の説明用のリーフレットの評価を一般市民と医療者向けのアンケート調査で行い、普及啓発にリーフレットが有用かどうか評価する。

・「がん治療と仕事の両立」に向けて緩和的放射線治療を活用する指針を示す。

・本研究で得られた「約3割の患者が骨転移に対する緩和的放射線治療を受ける時点でも就労していること」、「緩和的放射線治療が就労の維持、復職、収入の改善に貢献していること」のような緩和的放射線治療と就労、経済状態の関連についての報告は過去に存在せず、貴重な情報である。
結論
本研究による成果は、緩和的放射線治療の適正使用、高品質化、均てん化などを促し、緩和的放射線治療を推進することで医療費軽減や患者のがん治療と仕事の両立などに大きく貢献するものと予想される。

公開日・更新日

公開日
2022-06-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-08-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202108007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
緩和照射の質を評価するためには、適切な線量分割選択や速やかな実施体制など、客観性の高い評価指標が必要となるが、有用な評価指標が無かった。そこで、7項目からなるQuality Indicator(QI)を評価指標として開発した。この成果は、海外学術誌に掲載したので、国際的に利用可能な状況である。今後、日本放射線腫瘍学会に設置されている緩和的放射線治療委員会にて、本研究で開発したQI指標を利用し、全国規模で経時的変化を調査することにより、緩和照射の質のモニタリングを目指している。
臨床的観点からの成果
緩和照射を適切に提供する上で、放射線治療装置が無い施設や緩和ケアチームとの円滑な地域連携が不可欠である。本研究の一環として行ったアンケート調査により、国内の地域連携が不十分である実態が明確となった。そこで、地域連携を強化するために、地域連携が十分に達成できている施設を参考に、「事前相談」、「単回照射」、「連携窓口」をキーワードとした地域連携のモデルを作成し、日本放射線腫瘍学会のホームページに公開した。この地域連携のモデルが活用され、各地で地域連携が強化されることが期待される。
ガイドライン等の開発
骨転移の診療には、多職種・多診療科が連携し、骨転移に特化したキャンサーボード(CB)での協議を経て、診断、治療方針などを決定することが望ましい。一方、多数ある骨転移の患者の全てをCBで協議することは、医療資源の観点から困難である。そのため、整形外科、リハビリテーションなどの医師と協力してワーキンググループを結成した。ここでは、CBで協議すべき骨転移の中で優先度の高い8つの病態に関する提言をまとめ、日本放射線腫瘍学会のホームページに公開した。本提言が骨転移のCBの普及に貢献することが期待される。
その他行政的観点からの成果
患者・家族に対する緩和照射の普及啓発を目的として、がん患者・家族向けのリーフレット及び「放射線治療による緩和ケア」の動画を作成した。リーフレットは、約500施設ある緩和ケアチーム、約800施設の在宅医療施設、約250施設の日本放射線腫瘍学会認定施設に配布した。また、本資料は日本放射線腫瘍学会のホームページで公開されている。過去に緩和照射に関する患者・家族への情報提供を全国規模で試みた例は他に無く、日本初の試みである。この活動により、患者・家族に対して緩和照射の理解・関心が深まることが期待される。
その他のインパクト
国内の実地診療を明確にするため、「転移性骨腫瘍に対する放射線治療の多施設共同前向き観察研究」を実施し、過去の臨床試験と同様の治療が選択されていること、有効性・安全性も同等であることを確認した。また、就労に関する情報も収集し、約3割の患者が骨転移に対する緩和照射を受ける時点でも就労していること、緩和照射が就労の維持、復職、収入の改善に貢献していることが明確となった。緩和照射と就労、経済状態の関連性に焦点を当てた報告は過去に無いため、この成果は緩和照射を普及させる上で貴重な資料となる。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
14件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
4件
①放射線治療における療養と就労両立支援マニュアル/②放射線治療による緩和ケアー生活の質の向上のために-/③緩和照射地域連携モデルを作成し全国へ配布/④骨転移診療ガイドライン委員
その他成果(普及・啓発活動)
15件
講演4/シンポジウム9/マスコミ発表1/ホームページ公開(日本放射線腫瘍学会)1

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Saito T, Shikama N, Takahashi T, et al.
Quality Indicators in Palliative Radiation Oncology: Development and Pilot Testing
Advances in Radiation Oncology , 7 (2) , 100856-  (2021)
10.1016/j.adro.2021.100856
原著論文2
Shirato H, Harada H, Iwasaki Y, et al.
Income and Employment of Patients at the Start of and During Follow-up After Palliative Radiation Therapy for Bone Metastasis
Advances in Radiation Oncology , 8 (4) , 101205-  (2023)
10.1016/j.adro.2023.101205
原著論文3
Saito T, Shikama N, Takahashi T, et al.
Quality Indicators in Palliative Radiation Oncology: Development and Pilot Testing
Advances in Radiation Oncology , 7 (2) , 100856-  (2022)
10.1016/j.adro.2021.100856
原著論文4
Ito K, Saito T, Nakamura N, et al.
Stereotactic body radiotherapy versus conventional radiotherapy for painful bone metastases: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials
Radiation Oncology , 17 (156) , 1-10  (2022)
10.1186/s13014-022-02128-w

公開日・更新日

公開日
2022-06-17
更新日
2023-08-24

収支報告書

文献番号
202108007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,500,000円
(2)補助金確定額
6,483,000円
差引額 [(1)-(2)]
17,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,119,254円
人件費・謝金 633,177円
旅費 133,080円
その他 2,097,902円
間接経費 1,500,000円
合計 6,483,413円

備考

備考
コロナ禍により、現地参加を予定していた学会などがWEB開催になったため、国内旅費などの費用が節約された。

公開日・更新日

公開日
2023-10-02
更新日
-