肢帯型筋ジストロフィー1B型の社会医学的・分子細胞生物学的研究

文献情報

文献番号
200833013A
報告書区分
総括
研究課題名
肢帯型筋ジストロフィー1B型の社会医学的・分子細胞生物学的研究
課題番号
H18-こころ・一般-014
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
林 由起子(国立精神・神経センター神経研究所 疾病研究第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 西野 一三(国立精神・神経センター神経研究所 疾病研究第一部 )
  • 野口 悟(国立精神・神経センター神経研究所 疾病研究第一部 )
  • 松田 知栄(独立行政法人産業技術総合研究所 脳神経情報研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 肢帯型筋ジストロフィー1B型(LGMD1B)は、核膜蛋白質ラミンA/C遺伝子(LMNA)変異による疾患で、筋ジストロフィーに加え、心合併症によって高率に突然死をきたす臨床的に極めて重要な疾患である。本研究は、LMNA変異によって生じる核の変化およびゲノム情報の破綻を明らかにし、臨床社会医学的、分子細胞生物学的にその病態を明らかにすることを目的とした。
研究方法
 LGMD1Bおよび類縁疾患患者について詳細な臨床病理学的解析を行うとともに,新規疾患関連遺伝子を含む変異スクリーニングを行った.また,ラミンA/Cのリン酸化特異抗体を作製し,疾患特異的リン酸化を利用した診断システムの開発を目指した.細胞質内噴出核成分の除去システムの解析には,患者およびモデルマウスの組織学的解析に加え,培養細胞を用いた検討を行った.
結果と考察
  変異スクリーニングによって,LMNA変異が乳児筋炎の原因遺伝子であることを発見するとともに,SYN,FHL1ならびに複数の新規疾患関連遺伝子に変異をみいだした.現在新規変異についての機能解析を進めている.一方,4種のラミンA/Cリン酸化特異抗体を作製し,疾患筋における特異変化を確認中である.また,核膜病で共通に認められる核近傍の空胞に注目し,その形成機構を明らかにした.すなわち脆弱な核膜によって細胞質内へ噴出した核成分が,オートファジーによって処理されること,その際に巨大な空胞が形成されうることを明らかにした.これは特殊な自己貪食機構による核成分の分解現象を哺乳類細胞で初めて明らかにしたものである.
結論
 本研究成果によって,LGMD1Bおよび類縁疾患の病因・病態の一部を明らかにすることができた.今回得られた結果を基に,さらなる病態の解明,そして治療法の開発へと研究を継続していきたいと考えている.

公開日・更新日

公開日
2009-04-13
更新日
-

文献情報

文献番号
200833013B
報告書区分
総合
研究課題名
肢帯型筋ジストロフィー1B型の社会医学的・分子細胞生物学的研究
課題番号
H18-こころ・一般-014
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
林 由起子(国立精神・神経センター神経研究所 疾病研究第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 西野 一三(国立精神・神経センター神経研究所 疾病研究第一部 )
  • 野口 悟(国立精神・神経センター神経研究所 疾病研究第一部 )
  • 松田 知栄(独立行政法人産業総合研究所 脳神経情報研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 肢帯型筋ジストロフィー1B型(LGMD1B)は、核膜蛋白質ラミンA/C遺伝子(LMNA)変異による疾患で、筋ジストロフィーに加え、心合併症によって高率に突然死をきたす臨床的に極めて重要な疾患である。本研究は、LGMD1Bを中心とした核膜関連筋疾患について、社会医学的、臨床病理学的、分子細胞生物学的にその病態を明らかにすることを目的とした。
研究方法
 LGMD1Bおよび類縁疾患患者について詳細な臨床病理学的解析を行うとともに、新規疾患関連遺伝子を含む幅広い変異スクリーニングを行った。また、患者およびモデルマウスの組織を用いて詳細な筋病理学的解析を行うとともに、細胞質内噴出核成分の除去システムの解析には培養細胞を用いた検討も行った。網羅的遺伝子発現解析をおこない核膜病における遺伝子発現変化と臨床病態の関連を検討した。ラミンA/Cのリン酸化特異抗体を作製し,疾患特異的リン酸化を利用した診断システムの開発を目指した.
結果と考察
 変異スクリーニングによって,LGMD1Bが本邦で3番目に多いLGMD亜型であることを明らかにし,その具体的臨床病理学的特徴を明らかにした.またLMNA変異が乳児筋炎の原因遺伝子であることを発見するとともに,FHL1ならびに複数の新規疾患関連遺伝子に変異をみいだした.現在これらの変異についての機能解析を進めている.遺伝子発現解析では、筋萎縮関連遺伝子およびTGFβ関連遺伝子の発現亢進が認められ、臨床病理学的変化と一致する結果であった。一方,核膜病で共通に認められる核近傍の空胞に注目し,その形成機構を明らかにした.すなわち脆弱な核膜によって細胞質内へ噴出した核成分が,オートファジーによって処理されること,その際に巨大な空胞が形成されうることを明らかにした.これは特殊な自己貪食機構による核成分の分解現象を哺乳類細胞で初めて明らかにしたものである.ラミンA/Cリン酸化特異抗体を作製し,疾患筋における特異変化を解析中である.
結論
 本研究成果によって,LGMD1Bおよび類縁疾患の病因・病態の一部を明らかにすることができた.今回得られた結果を基に,さらなる病態の解明,そして治療法の開発へと研究を継続していきたいと考えている.

公開日・更新日

公開日
2009-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200833013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 肢帯型筋ジストロフィー1B型は、核ラミナの主要構成タンパク質lamin A/Cの異常により筋核数の増加、クロマチンの変化、核近傍の空胞形成といった強い核変化を認め、核の異常と病態との直接の関連を明らかにした。また、筋再生の鍵となる筋衛星細胞でも同様のクロマチン異常を確認し、筋再生能の低下を示唆する結果を得た。さらに核近傍の空胞は、細胞質内へ噴出した核成分が処理される際に形成される可能性を見いだした。これは特殊な自己貪食機構による核成分の分解現象を哺乳類細胞で初めて明らかにしたものである。
臨床的観点からの成果
 LMNAの変異スクリーニングによって、LGMD1Bが本邦で3番目に多いLGMD亜型であることを明らかにした。また臨床的にBecker 型筋ジストロフィーと似ること、予後を左右する心合併症が思春期以降に出現しやすいことを明らかにした。またLMNA変異が乳児筋炎の原因遺伝子であることを新たに発見するとともに、FHL1および複数の新規疾患関連遺伝子を見いだした。また、現在変異スクリーニングしか診断方法のない本疾患に対し、疾患特異的リン酸化を利用した簡易診断システムを開発し良好な結果を得ている。
ガイドライン等の開発
 特になし
その他行政的観点からの成果
 若年者に突然死を来しうるLGMD1Bが比較的頻度の高いLGMDであること、他のミオパチーをも呈しうることなどを明らかにすることによって、幅広い疾患スクリーニングの重要性を示した。また、突然死の原因となる心合併症が思春期以降にみられるようになることから、厳重に経過観察を行い、適宜除細動付きペースメーカー挿入を検討する必要があることを明らかにした。

その他のインパクト
 特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
15件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
18件
日本神経学会総会、日本小児神経学会、小児神経筋疾患懇話会など
学会発表(国際学会等)
20件
国際神経筋学会、世界筋学会国際会議(WMS)、アジアオセアニア筋学センター年次総会(AOMC)、日仏ジストロフィーワークショップなど
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Goto K, Nishino I, Hayashi YK
Rapid and accurate diagnosis of facioscapulohumeral muscular dystrophy
Neuromuscul Disord , 16 , 256-261  (2006)
原著論文2
Taniguchi M, Kurahashi H, Noguchi S, et al.
Aberrant neuromuscular junctions and delayed terminal muscle fiber maturation in α-dystroglycanopathies.
Hum Mol Genet. , 15 , 1279-1289  (2006)
原著論文3
Wu S, Ibarra MCA, Malicdan MCV, et al.
Central core disease is due to RYR1 mutations in more than 90% of patients.
Brain. , 129 , 1470-1480  (2006)
原著論文4
Malicdan MCV, Noguchi S, Nonaka I, et al.
A Gne knockout mouse expressing human V572L mutation develops features similar to distal myopathy with rimmed vacuoles or hereditary inclusion body myopathy.
Hum Mol Genet. , 16 , 115-128  (2007)
原著論文5
Osawa M, Liewluck T, Ogata K, et al.
Familial reducing body myopathy.
Brain Dev. , 29 , 112-116  (2007)
原著論文6
Liewluck T, Hayashi YK, Osawa M, et al.
Unfolded protein response and aggresome formation in hereditary reducing body myopathy.
Muscle Nerve. , 35 , 322-326  (2007)
原著論文7
Keira Y, Noguchi S, Kurokawa R, et al.
Characterization of lobulated fibers in limb girdle muscular dystrophy type 2A by gene expression profiling.
Neurosci Res. , 57 , 513-521  (2007)
原著論文8
Ura S, Hayashi YK, Goto K, et al.
Limb-Girdle Muscular Dystrophy Due to Emerin Gene Mutations.
Arch Neurol. , 64 , 1038-1041  (2007)
原著論文9
Muchir A, Pavlidis P, Bonne G, et al.
Activation of MAPK in hearts of EMD null mice: similarities between mouse models of X-linked and autosomal dominant Emery-Dreifuss muscular dystrophy.
Hum. Mol. Genet. , 16 , 1884-1895  (2007)
原著論文10
Matsuda C, Kameyama K, Suzuki A, et al.
Affixin activates Rac1 via βPIX in C2C12 myoblast.
FEBS Lett , 582 , 1189-1196  (2008)
原著論文11
Shalaby S, Hayashi YK, Goto K, et al.
Rigid spine syndrome caused by a novel mutation in four-and-a-half LIM domain 1 gene (FHL1).
Neuromuscul Disord. , 18 , 959-961  (2008)
原著論文12
Arimura T, Hayashi YK, Murakami T, et al.
Mutational Analysis of Fukutin Gene in Dilated Cardiomyopathy and Hypertrophic Cardiomyopathy.
Circ J. , 73 , 158-161  (2009)
原著論文13
Park YE, Hayashi YK, Goto K, et al.
Nuclear changes in skeletal muscle extend to satellite cells in autosomal dominant Emery-Dreifuss muscular dystrophy/limb-girdle muscular dystrophy 1B.
Neuromuscul Disord. , 19 , 29-36  (2009)
原著論文14
Shalaby S, Hayashi YK, Nonaka I, et al.
Novel FHL1 mutations in fatal and benign reducing body myopathy.
Neurology. , 72 , 375-376  (2009)
原著論文15
Murakami T, Hayashi YK, Ogawa M, et al.
A novel POMT2 mutation causes mild congenital muscular dystrophy with normal brain MRI.
Brain Dev. , 18  (2009)
原著論文16


公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2017-05-23