糖鎖の関連するニューロパチーの分子病態の解析

文献情報

文献番号
200833012A
報告書区分
総括
研究課題名
糖鎖の関連するニューロパチーの分子病態の解析
課題番号
H18-こころ・一般-013
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
楠 進(近畿大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 潤(東京大学大学院医学系研究科)
  • 鎌倉 惠子(防衛医科大学校)
  • 北川 裕之(神戸薬科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ニューロパチーの病態と、糖鎖を合成する糖転移酵素遺伝子異常および糖鎖を標的とする免疫反応の関連を検討した。
研究方法
原因不明のニューロパチーを対象に、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)の糖鎖遺伝子であるChGn-1の塩基配列を調べた。変異のみられたChGn-1を発現させ、酵素活性を測定した。
GQ1b, GT1a, およびフォスファチジン酸(PA)との混合抗原(GQ1b+PA, GT1a+PA)のいずれかに対するIgG抗体が陽性の症例を抽出し、抗体の反応特異性と臨床病型を比較した。抗GM1/GalNAc-GD1a複合体抗体陽性のGuillain-Barré症候群(GBS)の特徴を解析した。
レプトスピラ菌の破砕菌体タンパクをウサギにアジュバントとともに接種し、臨床的・病理学的解析を行った。
結果と考察
ニューロパチー126例中2例で、ChGn-1にアミノ酸置換を伴う一塩基変異(SNP)を各1箇所ずつ見出した。これらの変異は、アミノ酸置換および酵素活性の消失を伴っており、ニューロパチーの病態に関連する可能性がある。
GQ1b+PAよりもGQ1bに強い抗体活性をもつ例で球症状の頻度が有意に高く、GQ1bよりもGT1aに強い活性を示す例でMMT 3以下の筋力低下の頻度が有意に高かった。その他は有意の差はなかった。GQ1b, GT1aおよびPA添加抗原に対する抗体の臨床的意義はほぼ同等だが、一部に抗体の反応性と臨床像の相関がみられた。
抗GM1/GalNAc-GD1a複合体抗体は純粋運動型GBSにみられ伝導ブロックの頻度が高かった。GM1とGalNAc-GD1aがRanvier絞輪上で形成する複合体を抗体が認識して可逆性伝導障害を引き起こす可能性が考えられた。
レプトスピラ菌体を接種したウサギで、一過性の動作緩慢がみられたがその後改善し、病理学的に異常はみられなかった。菌体成分の摂取量を増やしてさらに検討する必要がある。
結論
CSPGの糖鎖遺伝子に酵素活性の著明な低下をきたすSNPが存在し、ニューロパチーの病態に関連する可能性がある。
GQ1b, GT1aに対する抗体は、PA添加抗原に対する抗体を含めて、臨床的意義はほぼ同等である。
抗GM1/GalNAc-GD1a複合体抗体は、純粋運動型GBSと関連する。
レプトスピラ菌体成分に対する免疫反応と神経症状の関連は今後さらに検討が必要である。

公開日・更新日

公開日
2009-04-15
更新日
-

文献情報

文献番号
200833012B
報告書区分
総合
研究課題名
糖鎖の関連するニューロパチーの分子病態の解析
課題番号
H18-こころ・一般-013
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
楠 進(近畿大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 潤(東京大学大学院医学系研究科)
  • 鎌倉 恵子(防衛医科大学校)
  • 北川 裕之(神戸薬科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ニューロパチーの病態と、糖鎖を合成する糖転移酵素遺伝子異常および糖鎖を標的とする免疫反応の関連を検討した。
研究方法
原因不明のニューロパチーを対象に、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)の糖鎖遺伝子のひとつであるChGn-1の塩基配列を調べた。変異のみられたChGn-1を発現させ、酵素活性を測定した。
GD1b感作によるウサギ失調性ニューロパチー(GD1b-SAN)の後根神経節細胞のアポトーシスの有無をしらべた。
各種の抗ガングリオシド抗体および抗ガングリオシド複合体抗体陽性症例の臨床像を解析した。
レプトスピラ感染後のニューロパチーと抗ガングリオシド抗体の関連を検討した。
結果と考察
ニューロパチー症例で、ChGn-1にアミノ酸置換を伴う一塩基変異(SNP)を見出した。これらの変異は、アミノ酸置換および酵素活性の消失を伴っており、ニューロパチーの病態に関連する可能性がある。
GD1b-SANに罹患したウサギ後根神経節大型細胞に、TUNEL法および抗caspase 3抗体による染色が陽性の細胞を見出し、抗GD1b抗体の大型細胞への結合に伴うアポトーシスが病態メカニズムであることがわかった。
失調に関連する抗GD1b抗体はGD1bへの特異性がきわめて高いこと、抗GM1/GalNAc-GD1a複合体抗体は純粋運動型GBSにみられることがわかった。
Fisher症候群および関連疾患の抗体には、GQ1b、GQ1b/GM1複合体、GQ1b/GD1a複合体の3種の特異性をもつものに大別できることがわかった。
抗GQ1b抗体の微細反応性の違いは臨床像に大きな影響は与えないが、一部の症状との相関がみられた。
レプトスピラ感染後血清中に抗ガングリオシド抗体陽性のものがあり、抗ガングリオシド抗体陽性血清がレプトスピラ菌体と反応した。
結論
CSPGの糖鎖遺伝子に酵素活性の著明な低下をきたすSNPが存在し、ニューロパチーの病態に関連する可能性がある。
抗GD1b抗体による失調性ニューロパチーは一次感覚ニューロンのアポトーシスによる。
抗GD1b抗体は失調と、また抗GM1/GalNAc-GD1a複合体抗体は純粋運動型GBSと関連する。
抗GQ1b抗体の微細反応性は多様であるが、臨床的意義はほぼ同等である。
レプトスピラ感染に伴うニューロパチーの病態に抗ガングリオシド抗体が関与する可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2009-04-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200833012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1)糖鎖遺伝子異常と末梢神経障害の関連が示唆された。プロテオグリカン糖鎖遺伝子に複数のSNPが存在することが明らかとなり、神経疾患との関連の詳細な検討が必要であることが示された。(2)ガングリオシド複合体に対する抗体の検討が大きくすすんだ。このテーマは現在、糖鎖生物学的にも注目されており、成果は海外の一流誌の論文にも引用された。抗GD1b抗体の結合が、神経細胞のアポトーシスを引き起こすことが明確に示され、ガングリオシドとシグナル伝達の関連が、病態と深く関わっていることが示唆された。
臨床的観点からの成果
(1)プロテオグリカンの糖鎖遺伝子に複数のSNPの存在が明らかとなり、神経疾患の治療効果や予後の予測に有力な手がかりが得られた。(2)免疫性ニューロパチーの新たな標的抗原のエピトープとしてガングリオシド複合体が見出された。ガングリオシド複合体を検討対象とすることにより、抗ガングリオシド抗体検査の、診断・重症度予測などにおける有用性が増した。 (3)レプトスピラ感染に伴う神経障害のメカニズムと糖鎖に対する抗体の関連がはじめて明らかとなった。
ガイドライン等の開発
ガイドライン策定までには至らなかったが、ギラン・バレー症候群の重症化や病型と関連する抗体が明らかとなり、テーラーメード医療を視野に入れた今後のガイドライン作成に有用な知見が得られた。
その他行政的観点からの成果
(1)糖転移酵素遺伝子の異常が、難治性ニューロパチーに関連することが示されたことは、病態解明と新規治療法開発につながり、医療福祉に貢献する可能性がある。(2)ギラン・バレー症候群の重症度や病型に関連する抗体が次々に見出され、治療ガイドライン作成の際などに有用なマーカーとして使用可能である。(3)レプトスピラ感染の神経障害機序解明の手がかりが得られ、感染対策を策定する上でも有用である。
その他のインパクト
ギラン・バレー症候群などの免疫性ニューロパチーにおけるガングリオシド複合体抗体を含めた抗ガングリオシド抗体検査について、全国の施設からの依頼に応えている。その有用性が認識されてきており、依頼件数は月に約200件となっている。抗ガングリオシド抗体検査については、近畿大学医学部神経内科ホームページ上に案内を掲示している。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
11件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
45件
学会発表(国際学会等)
15件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kaida K, Kanzaki M, Morita D, et al.
Anti-ganglioside complex antibodies in Miller Fisher syndrome.
J Neurol Neurosurg Psychiatry , 77 , 1043-1046  (2006)
原著論文2
Kaida K, Morita D, Kanzaki M, et al.
Anti-ganglioside complex antibodies associated with severe disability in GBS.
J Neuroimmunol , 182 , 212-218  (2007)
原著論文3
Takada K, Shimizu J, Kusunoki S.
Apoptosis of primary sensory neurons in GD1b-induced sensory ataxic neuropathy.
Exp Neurol , 209 , 279-283  (2008)
原著論文4
Kanzaki M, Kaida K, Ueda M, et al.
Ganglioside complexes containing GQ1b as targets in Miller Fisher and Guillain-Barré syndromes.
J Neurol Neurosurg Psychiatry , 79 , 1148-1152  (2008)
原著論文5
Kaida K, Kamakura K, Ogawa G, et al.
GD1b-specific antibody induces ataxia in Guillain-Barré syndrome.
Neurology , 71 , 196-201  (2008)
原著論文6
Kaida K, Sonoo M, Ogawa G, et al.
GM1/GalNAc-GD1a complex: a target for pure motor Guillain-Barré syndrome.
Neurology , 71 , 1683-1690  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-