ヒトを対象にした精神疾患の生物学的病態解明に関する研究

文献情報

文献番号
200833009A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトを対象にした精神疾患の生物学的病態解明に関する研究
課題番号
H18-こころ・一般-010
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
三國 雅彦(群馬大学大学院医学系研究科 神経精神医学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 新井 平伊(順天堂大学医学部精神医学講座)
  • 池田 研二(慈圭病院・慈圭精神医学研究所)
  • 渡辺 義文(山口大学大学院医学系研究科 高次脳機能病態学分野)
  • 白尾 智明(群馬大学大学院医学系研究科 神経薬理学分野)
  • 川口 泰雄(自然科学研究機構・生理学研究所 大脳神経回路論研究部門)
  • 加藤 忠史(理化学研究所 脳科学総合研究センター 精神疾患動態研究チーム)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は躁うつ病などの感情障害がその発症脆弱性を有する個人にライフイベントが作用し、病態が形成されて発症すると考えられること、感情障害の初発年齢が20歳代と50 歳代にピークがあり、その病態には差異があると考えられることから、脳発達期の神経の移動・細胞死並びに退行期の動脈硬化・血管周囲の炎症に関連する感情障害の微細な脳器質性発症脆弱性や病態の解明と修復の可能性を探求し、根治的な治療法を確立することを目的としている。
研究方法
うつ病治療前と抗うつ療法奏功後のFDG-PETやMRIなどの脳形態・機能画像解析で明らかとなった障害部位である前頭前野の皮質や白質について、東京都精神医学総合研究所や米国サン脳バンクから供された剖検脳でGABA神経の亜型並びに細動脈硬化や炎症の有無について免疫組織化学的に解析した。一方、寛解した若年と高齢うつ病を対象に、寛解直後と二年後に神経心理学的評価を実施し、その器質的異常と対比した。MRIでの白質高信号を有し抗うつ薬治療抵抗性のうつ病に対する抗血小板薬併用の有用性の有無、脳血流の増加の有無を試験した。末梢白血球の遺伝子発現解析をPCRで解析し、感情障害の亜型による差異を検討した。

結果と考察
若年発症群では前頭前野の皮質第二層のGABA神経の亜型の分布異常が存在し、高齢初発群では前頭葉白質の微細な細動脈硬化とミクログリアの活性化が認められ、うつ病はその病態生理の相異する疾患群といえる。そのGABA神経の亜型の細胞構築異常は統合失調症とは相違点が存在し、感情障害と統合失調症とは組織病理学的に区別される。これは精神病理学的な疾患分類の妥当性を示唆する。MRIでの前頭葉白質高信号を有する高齢発症の抗うつ薬治療抵抗性症例に対し、抗血小板薬による抗うつ効果強化療法を開発した。双極性のうつ状態と単極性うつ病の病態は近赤外線分光法や脳磁図による脳機能解析並びに末梢リンパ球における細胞接着因子や増殖因子の遺伝子発現パターンなどの種々の生物学的マーカーによって区別される。
結論
従来考えられてきたほど、うつ病は機能的な疾患ではなく、微細な器質的要素を持ち、臨床的に寛解しても脳機能検査や神経心理学的検査では障害が残っている。双極性障害と統合失調症とは組織病理学的に区別される精神疾患である。双極性のうつ状態と単極性うつ病は種々の生物学的マーカーによって区別される。

公開日・更新日

公開日
2009-04-20
更新日
-

文献情報

文献番号
200833009B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒトを対象にした精神疾患の生物学的病態解明に関する研究
課題番号
H18-こころ・一般-010
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
三國 雅彦(群馬大学大学院医学系研究科 神経精神医学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 新井 平伊(順天堂大学医学部精神医学講座)
  • 池田 研二(慈圭病院・慈圭精神医学研究所)
  • 渡辺 義文(山口大学大学院医学系研究科 高次脳機能病態学分野)
  • 白尾 智明(群馬大学大学院医学系研究科 神経薬理学分野)
  • 川口 泰雄(自然科学研究機構・生理学研究所)
  • 加藤 忠史(理化学研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チーム)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は躁うつ病などの感情障害がその発症脆弱性を有する個人にライフイベントが作用し、病態が形成されて発症すると考えられること、感情障害の初発年齢が20歳代と50 歳代にピークがあり、その病態には差異があると考えられることから、脳発達期の神経の移動・細胞死並びに退行期の動脈硬化・血管周囲の炎症に関連する感情障害の微細な脳器質性発症脆弱性や病態の解明と修復の可能性を探求し、根治的な治療法を確立することを目的としている。
研究方法
 うつ病治療前と抗うつ療法奏功後のFDG-PETやMRIなどの脳形態・機能画像解析で明らかとなった障害部位である前頭前野の皮質や白質について、東京都精神医学総合研究所や米国サン脳バンクから供された剖検脳でGABA神経の亜型並びに細動脈硬化や炎症の有無について免疫組織化学的に解析した。一方、寛解した若年と高齢うつ病を対象に、寛解直後と二年後に神経心理学的評価を実施し、その器質的異常と対比した。MRIでの白質高信号を有し抗うつ薬治療抵抗性のうつ病に対する抗血小板薬併用の有用性の有無、脳血流の増加の有無を試験した。末梢白血球の遺伝子発現解析をPCRで解析し、感情障害の亜型による差異を検討した。
結果と考察
若年発症群では前頭前野の皮質第二層のGABA神経の亜型の分布異常が存在し、高齢初発群では前頭葉白質の微細な細動脈硬化とミクログリアの活性化が認められ、うつ病はその病態生理の相異する疾患群といえる。そのGABA神経の亜型の細胞構築異常は統合失調症とは相違点が存在し、感情障害と統合失調症とは組織病理学的に区別される。これは精神病理学的な疾患分類の妥当性を示唆する。MRIでの前頭葉白質高信号を有する高齢発症の抗うつ薬治療抵抗性症例に対し、抗血小板薬による抗うつ効果強化療法を開発した。双極性のうつ状態と単極性うつ病の病態は近赤外線分光法や脳磁図による脳機能解析並びに末梢リンパ球における細胞接着因子や増殖因子の遺伝子発現パターンなどの種々の生物学的マーカーによって区別される。
結論
従来考えられてきたほど、うつ病は機能的な疾患ではなく、微細な器質的要素を持ち、臨床的に寛解しても脳機能検査や神経心理学的検査では障害が残っている。双極性障害と統合失調症とは組織病理学的に区別される精神疾患である。双極性のうつ状態と単極性うつ病は種々の生物学的マーカーによって区別される。

公開日・更新日

公開日
2009-04-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200833009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 従来考えられてきたほど、うつ病は機能的な疾患ではなく、微細な器質的要素を持ち、臨床的に軽快・寛解しても脳機能検査や神経心理学的検査では障害が残っている疾患であることを明確にした。しかし、これらの微細な器質的異常は発症前から存在し、日常生活や職業活動に支障のない程度のものであった。次に双極性障害と統合失調症とは組織病理学的に区別される精神疾患であり、双極性のうつ状態と単極性うつ病は種々の生物学的マーカーによって区別されることを明確にした。
臨床的観点からの成果
 うつ病の若年発症群では前頭前野の皮質第二層のGABA神経の亜型の分布異常が存在し、高齢初発群では前頭葉深部白質の微細な細動脈硬化とミクログリアの活性化が認められることを明らかにし、うつ病はその病態生理の相異する疾患群であり、双極性のうつ状態と単極性うつ病は種々の生物学的マーカーによって区別されるので、治療法において適応することによるメリットを明確にした。
ガイドライン等の開発
 うつ病が初発年齢で区別される症候群であり、双極性のうつ状態と単極性うつ病は種々の生物学的マーカーによって区別されることを明らかにし、治療ガイドラインにおける客観的評価基準を示すことができた。また、MRIでの白質高信号を有する治療抵抗性の中高年初発うつ病に対する抗血小板療法を報告でき、高齢化が進むなかでのうつ病対策に有効な治療法を提示できた。
その他行政的観点からの成果
うつ病は微細な器質的要素を持ち、臨床的に軽快・寛解しても脳機能検査や神経心理学的検査では障害が残っている疾患であることが明らかになった事で、うつ病後の復職や再発防止の対応策に寄与する事ができた。この為、労働災害の補償に関わるH20年度の「精神障害に係るストレスと発症時期等に関する調査研究」の報告書に「労災認定と精神疾患の客観的補助診断法の進歩」の寄稿を求められ報告した。しかもこれらの微細な器質的異常は発症前から存在し日常生活や職業活動に支障のない程度のものであるので偏見、差別の除去にも寄与できた
その他のインパクト
 平成18年10月16日読売新聞朝刊と平成20年1月20日朝日新聞朝刊で、うつ病に関する最新の研究成果と自殺予防について取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
42件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
12件
学会発表(国内学会)
63件
学会発表(国際学会等)
41件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Aihara M,Ida I, Yuuki N, et al.
HPA axis dysfunction in unmedicated major depressive disorder and its normalization by pharmacotherapy correlates alteration of neural activities in prefrontal cortex and limbic/ paralimbic regions.Psychiatry Reseach
Psychiatry Res:Neuroimaging , 155 , 245-256  (2007)
原著論文2
Kumano H,Ida I, Oshima A, et al.
Brain metabolic changes associated with predisposition to the onset of major depressive disorder and adjusutment disorder in cancer patients. -A preliminary PET study.
J Psychiat Res, , 41 , 591-599  (2007)
原著論文3
Sakai T,Oshima A, Nozaki Y, et al
Changes in density of calcium-binding-protein-immunoreactive GABAergic neurons in prefrontal cortex in schizophrenia and bipolar disorder
Neuropathology. , 28 , 143-150  (2008)
原著論文4
Takahashi K,Oshima A, Ida I, et al
Relationship between age at onset and magnetic resonance imagedefined hyperintensities in mood disorders.
J Psychiatr Res , 42 , 443-450  (2008)
原著論文5
Takahashi K,Oshima A, Inoue K, et al.
Novel Augmentation therapy with cilostazol for the geriatric major depressive disorder patient with deep white matter hyperintensities on T2-Weighted brain MRI: A case report
Pharmacopsychiatry , 41 , 37-39  (2008)
原著論文6
Takei Y,Kumano S, Hattori S, et al
Preattentive dysfunction in major depression: A magnetoencephalography study using auditory mismatch negativity.
Psychophysiology , 46 , 52-61  (2009)
原著論文7
Nakano Y, Baba H, Maeshima H, et al.
Executive dysfunction in medicated, remitted state of major depression
J Affect Disord. , 111 , 46-51  (2008)
原著論文8
Iritani S, Tsuchiya K, Arai T, et al.
An atypical autopsy case of Lewy body disease with clinically diagnosed major depression.
Neuropathology , 28 , 652-659  (2008)
原著論文9
Watanuki T, Funato H, Uchida S, et al.
Increased expression of splicing factor SRp20 mRNA in bipolar disorder patients.
Journal of Affective Disorders , 110 , 62-69  (2008)
原著論文10
Otsuki K, Uchida S, Watanuki T, et al.
Altered expression of neurotrophic factors in patients with major depression. 
Journal of Psychiatric Research , 42 , 1145-1153  (2008)
原著論文11
Wakabayashi Y, Uchida S, Funato H, et al.
State-dependent changes in the expression levels of NCAM-140 and L1 in the peripheral blood cells of bipolar disorders, but not in the major depressive disorders.
Progress in Neuropsychopharmacology and Biological Psychiatry , 32 , 1199-1205  (2008)
原著論文12
Matsubara T, Funato H, Kobayashi A, et al.
Reduced glucocorticoid receptor alpha expression in mood disorder patients and first-degree relatives.
Biological Psychiatry , 59 , 689-695  (2006)
原著論文13
Chang EH, Savage MJ, Flood DG, et al.
“AMPA receptor downscaling at the onset of Alzheimer’s pathology in double knock-in mice”
Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) , 103 , 3410-3415  (2006)
原著論文14
Song M, Kojima N, Hanamura K, et al
“Expression of drebrin E in migrating neuroblasts in adult rat brain: coincidence between drebrin E disappearance from cell body and cessation of migration”
Neuroscience. , 152 , 670-682  (2008)
原著論文15
Kawaguchi Y., Karube F.,Kubota Y
Dendritic branch typing and spine expression patterns in cortical nonpyramidal cells.
Cereb Cortex , 16 , 696-711  (2006)
原著論文16
Kubota Y, Hatada S, Kondo S, et al.
Neocortical inhibitory terminals innervate dendritic spines targeted by thalamocortical afferents.
J Neurosci , 27 , 1139-1150  (2007)
原著論文17
Kato T, Ishiwata M, Yamada K, et al.
Behavioral and gene expression analyses of Wfs1 knockout mice as a possible animal model of mood disorder.
Neurosci Res , 61 , 143-158  (2008)
原著論文18
Hayashi A, Kasahara T, Kametani M, et al.
Aberrant endoplasmic reticulum stress response in lymphoblastoid cells from patients with bipolar disorder.
Int J Neuropsychopharmacol. , 12 , 33-43  (2009)
原著論文19
Kakiuchi C, Ishigaki S, Oslowski CM, et al.
Valproate, a mood stabilizer, induces WFS1 expression and modulates its interaction with ER stress protein GRP94.
PLoS ONE , 4  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-