全国がん登録情報で得られる乳がん・卵巣がん・子宮体がんの発症率と胚細胞系列変異との統合解析による累積リスク評価系の構築

文献情報

文献番号
202108001A
報告書区分
総括
研究課題名
全国がん登録情報で得られる乳がん・卵巣がん・子宮体がんの発症率と胚細胞系列変異との統合解析による累積リスク評価系の構築
課題番号
19EA1002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
白石 航也(国立研究開発法人国立がん研究センター 研究所 ゲノム生物学研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 河野 隆志(国立研究開発法人国立がん研究センター 研究所 ゲノム生物学研究分野)
  • 加藤 友康(国立がん研究センター(研究所および東病院臨床開発センター)その他部局等)
  • 内藤 陽一(国立がん研究センター東病院 先端医療科)
  • 片野田 耕太(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策研究所 予防検診政策研究部)
  • 口羽 文(国立研究開発法人 国立がん研究センター 研究支援センター 生物統計部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
1,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、全国がん登録で各がん種における年齢層別での発症率などの情報を活用することで、①乳がん、卵巣がん、子宮体がんにおける年齢層別での発症率を算出、②年齢層別でのBRCA1/2胚細胞系列変異をもつ場合の発症リスクを算出する、③年齢層別のがん罹患率とBRCA1やBRCA2胚細胞系列変異などを伴う日本人乳がん・卵巣がん・子宮がん患者の累積もしくは絶対リスクを算出する。その結果、偶発的な所見の解釈を行うための基盤的な情報を構築し、ゲノム医療の社会実装に向けた基盤整備が期待される。
研究方法
国立がん研究センターが中心となり収集された乳がん、卵巣がん、子宮体がん症例合わせて 14,239例に対して実施した遺伝性腫瘍に関わる11遺伝子もしくは26遺伝子(BRCA1/2を含む)のターゲットシークエンスデータを用いる。乳がん・卵巣がん・子宮体がん症例の絶対・累積リスク算出に必要な診療情報の収集とゲノム情報の統合を行い、既取得ゲノムデータに対するアノテーション(病的バリアントの有無)を実施する。具体的には、ClinVarに登録されているACMG基準情報の他に、QCIを用いたアノテーションを行い、病的バリアントを抽出する。これらの情報をもとに、エクスパートパネルでのアノテーション評価の妥当性も合わせて確認を行う。
結果と考察
乳がん、卵巣がん、子宮体がん症例 14,239例の内、まずは乳がん症例において、BRCA2遺伝子に病的バリアントが認められたのが163例、BRCA1遺伝子に病的バリアントが認められたのが92例であった。これにより255例が遺伝性腫瘍と考えられた。また中程度の発症リスクに関わると考えられるTP53、ATM、RAD51Cなどの遺伝子にも、BRCA1/2の病的バリアントの頻度と比べると多くは認められなかった。卵巣がん症例についても同様に検討を行い、BRCA2遺伝子に病的バリアントが認められたのが57例、BRCA1遺伝子に病的バリアントが認められたのが104例であった。これにより161例が遺伝性腫瘍と考えられた。BRCA1とBRCA2では卵巣がんと乳がんではその頻度分布が逆転する結果となった。一方、子宮体がんにおけるBRCA1は差が認められなかったが、BRCA2は一般集団に比べてオッズ比が4倍となったが、ボンフェローに補正後の統計学的な有意は認められなかったため、累積リスクの評価ができなかった。一方、リンチ症候群に認められるミスマッチ修復遺伝子に病的バリアントを認めた。診療情報については、質問票等で取得される情報の他に、第一度近親者で乳がん・卵巣がんを発症した家族の発症年齢を確認する必要があったため、昨年度に引き続き各施設に連絡を取り、診療情報の取得を進めた。累積リスクを評価する上で、比較となる健常コホート群でのBRCA1/2を初めとする遺伝性腫瘍関連遺伝子で認められるバリアントの頻度も合わせて確認した。既に公開されているバイオバンクジャパンでターゲットシークエンスをされている1万人の頻度データや4.5KのToMMoのデータ、 GEM Japan Whole Genome Aggregation(GEM-J WGA)やgenomADで登録されているアジア人データでもBRCA1/2のコントロール群での頻度分布は、振れ幅が約5倍程度異なっていた。このことから正確な絶対リスク評価を行うためには、複数のコントロールデータを用いた頻度比較が正確な評価を行う上で必要になることが分かった。上記の状況を鑑み、昨年度AMED調整費で実施されたコントロールゲノム約8500例のデータも用いて解析を実施し、上記の振れ幅の中に納まった。今後はより正確な累積リスク評価系の構築を検討し、今までに報告されている症例対照研究を含めたメタ解析を実施し、より正確な累積リスク評価系を構築する予定である。まずはバイオバンクジャパンの症例を用いた累積リスク評価を実施し、共著者として論文が採択された。
結論
本研究を通して、全国がん登録より得られる絶対発症数を用いた生涯累積リスク評価を行い、複数の解析プログラムを用いたアプローチでBRCA1/2の病的バリアントの意義付けができた。今後は日本国内で実施されている複数の研究結果を用いたメタ解析を実施し、さらなる精度が高い障害累積リスク評価に繋げる。

公開日・更新日

公開日
2022-06-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-06-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202108001B
報告書区分
総合
研究課題名
全国がん登録情報で得られる乳がん・卵巣がん・子宮体がんの発症率と胚細胞系列変異との統合解析による累積リスク評価系の構築
課題番号
19EA1002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
白石 航也(国立研究開発法人国立がん研究センター 研究所 ゲノム生物学研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 河野 隆志(国立研究開発法人国立がん研究センター 研究所 ゲノム生物学研究分野)
  • 加藤 友康(国立がん研究センター(研究所および東病院臨床開発センター)その他部局等)
  • 内藤 陽一(国立がん研究センター東病院 先端医療科)
  • 片野田 耕太(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策研究所 予防検診政策研究部)
  • 口羽 文(国立研究開発法人 国立がん研究センター 研究支援センター 生物統計部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、全国がん登録で各がん種における年齢層別での発症率などの情報を活用することで、①乳がん、卵巣がん、子宮体がんにおける年齢層別での発症率を算出、②年齢層別でのBRCA1/2胚細胞系列変異をもつ場合の発症リスクを算出する、③年齢層別のがん罹患率とBRCA1やBRCA2胚細胞系列変異などを伴う日本人乳がん・卵巣がん・子宮がん患者の累積もしくは絶対リスクを算出する。その結果、偶発的な所見の解釈を行うための基盤的な情報を構築し、ゲノム医療の社会実装に向けた基盤整備が期待される。
研究方法
国立がん研究センターが中心となり収集された乳がん、卵巣がん、子宮体がん症例合わせて 14,239例に対して実施した遺伝性腫瘍に関わる11遺伝子もしくは26遺伝子(BRCA1/2を含む)のターゲットシークエンスデータを用いる。乳がん・卵巣がん・子宮体がん症例の絶対・累積リスク算出に必要な診療情報の収集とゲノム情報の統合を行い、既取得ゲノムデータに対するアノテーション(病的バリアントの有無)を実施する。具体的には、ClinVarに登録されているACMG基準情報の他に、QCIを用いたアノテーションを行い、病的バリアントを抽出する。これらの情報をもとに、エクスパートパネルでのアノテーション評価の妥当性も合わせて確認を行う。
結果と考察
乳がん、卵巣がん、子宮体がん症例 14,239例の内、まずは乳がん症例において、BRCA2遺伝子に病的バリアントが認められたのが163例、BRCA1遺伝子に病的バリアントが認められたのが92例であった。これにより255例が遺伝性腫瘍と考えられた。また中程度の発症リスクに関わると考えられるTP53、ATM、RAD51Cなどの遺伝子にも、BRCA1/2の病的バリアントの頻度と比べると多くは認められなかった。卵巣がん症例についても同様に検討を行い、BRCA2遺伝子に病的バリアントが認められたのが57例、BRCA1遺伝子に病的バリアントが認められたのが104例であった。これにより161例が遺伝性腫瘍と考えられた。BRCA1とBRCA2では卵巣がんと乳がんではその頻度分布が逆転する結果となった。一方、子宮体がんにおけるBRCA1は差が認められなかったが、BRCA2は一般集団に比べてオッズ比が4倍となったが、ボンフェローに補正後の統計学的な有意は認められなかったため、累積リスクの評価ができなかった。一方、リンチ症候群に認められるミスマッチ修復遺伝子に病的バリアントを認めた。診療情報については、質問票等で取得される情報の他に、第一度近親者で乳がん・卵巣がんを発症した家族の発症年齢を確認する必要があったため、昨年度に引き続き各施設に連絡を取り、診療情報の取得を進めた。累積リスクを評価する上で、比較となる健常コホート群でのBRCA1/2を初めとする遺伝性腫瘍関連遺伝子で認められるバリアントの頻度も合わせて確認した。既に公開されているバイオバンクジャパンでターゲットシークエンスをされている1万人の頻度データや4.5KのToMMoのデータ、 GEM Japan Whole Genome Aggregation(GEM-J WGA)やgenomADで登録されているアジア人データでもBRCA1/2のコントロール群での頻度分布は、振れ幅が約5倍程度異なっていた。このことから正確な絶対リスク評価を行うためには、複数のコントロールデータを用いた頻度比較が正確な評価を行う上で必要になることが分かった。上記の状況を鑑み、昨年度AMED調整費で実施されたコントロールゲノム約8500例のデータも用いて解析を実施し、上記の振れ幅の中に納まった。今後はより正確な累積リスク評価系の構築を検討し、今までに報告されている症例対照研究を含めたメタ解析を実施し、より正確な累積リスク評価系を構築する予定である。まずはバイオバンクジャパンの症例を用いた累積リスク評価を実施し、共著者として論文が採択された。
結論
本研究を通して、全国がん登録より得られる絶対発症数を用いた生涯累積リスク評価を行い、複数の解析プログラムを用いたアプローチでBRCA1/2の病的バリアントの意義付けができた。今後は日本国内で実施されている複数の研究結果を用いたメタ解析を実施し、さらなる精度が高い障害累積リスク評価に繋げる。

公開日・更新日

公開日
2022-06-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-06-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202108001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
乳がん、卵巣がん、子宮体がんに関する臨床情報、生体試料を分析して、生涯発症累積リスクの評価系を構築した。これらの評価系は、今後のゲノム医療における指標の一つとして期待される。成果はJAMA Oncologに掲載された。
臨床的観点からの成果
今回の生涯累積リスク評価系は、臨床現場での指標の一つとして有益であることが期待される。
ガイドライン等の開発
該当がありません。
その他行政的観点からの成果
該当がありません。
その他のインパクト
該当がありません。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2022-06-17
更新日
-

収支報告書

文献番号
202108001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,340,000円
(2)補助金確定額
2,292,000円
差引額 [(1)-(2)]
48,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,003,431円
人件費・謝金 618,788円
旅費 0円
その他 130,483円
間接経費 540,000円
合計 2,292,702円

備考

備考
研究計画通りに研究費を執行したが、一部研究費の残額が認められたため、国庫に返納する。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-