院内がん登録の標準化とがん予防面での活用に関する研究

文献情報

文献番号
199700523A
報告書区分
総括
研究課題名
院内がん登録の標準化とがん予防面での活用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
津熊 秀明(大阪府立成人病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 味木和喜子(大阪府立成人病センター)
  • 田中英夫(大阪府立成人病センター)
  • 村上良介(大阪府立成人病センター)
  • 岡本直幸(神奈川県立がんセンター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
11,950,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がんの予防、医療活動の企画・立案と評価には高精度のがん登録システムが必須であり、これは国、府県、病院の3段階のがん登録活動から構成されるべきものである。本研究では、これらがん登録システムの基盤をなす院内がん登録の標準方式を確立すること、併せて、登録資料の、がん予防面での活用方式を開拓することを主な研究課題とした。具体的には、これまでに院内がん登録の基本方式を確立したので、平成9年度から全がん協施設等において、高度ながん研究に対応できるシステムの開発を行う。また、これより得た資料を基に、2次がんの危険因子の解明とこれを予防するためのプログラムの開発に取り組む。さらに、前がん性病変を有する患者の登録とフォローを行い、発がんリスクの評価、発がんの修飾要因の解明を進めるとともに、がん予防の介入試験の実施に向けた基礎的研究を行う。
研究方法
1.院内がん登録の標準化と推進のためのソフト・教材開発:標準となる院内がん登録のモデルを平成8年度までに試作したが、本年度は、?診療録管理士協会、地域がん登録全国協議会の協力を得て、本モデルの全国への普及、院内登録と地域がん登録及び全国臓器がん登録との連携を強化するためのシステムを分析した。?全がん協施設で、がん予防研究の推進に主眼をおいた院内登録システムの構築を進めた。すなわち、患者のパーソナリティに関連した情報の集積をすすめつつ、これらとがん患者の予後、QOLとの関連を分析した。また、薬剤情報のデータベース化とがん予防研究への展開をはかった。
2.院内登録資料活用による多重がんのリスク評価と要因分析:乳がんにおける多重がんの発生率を解析した。調査対象は2,824人で、2次がんの罹患を大阪府がん登録との照合により調べた。平均8.6年の観察期間中に全体で117例の2次がんを認めたが、この実測値(O)を、大阪府のがん罹患統計から算出した部位別がん罹患の期待値(E)と比較した。
3.発がん高危険群の登録とリスク評価:?ヘリコバクタピロリ感染と胃がんとの関連が、萎縮性胃炎、腸上皮化生の進展を介する間接的なものか、それとも、直接の影響を有するのかを明らかにする目的でコホート内症例対照研究を実施した。調査対象は、色素内視鏡検査・生検を行い、健常もしくは良性胃疾患と診断した773人。がん登録との照合により、平均19.7年追跡し、29例の胃がんを把握した。これら29例を症例群、年齢、検査時期、萎縮の程度、腸上皮化生をマッチした非胃がん罹患145例を対照群として、ヘリコバクタピロリ感染の役割を条件付きロジスティックモデルを用いて解析した。感染の有無はヘリコバクタピロリのポリクロナール抗体による免疫組織化学染色により判定した。
?胆石症と胆道がんとの関連を分析した。調査対象は、超音波で胆石症と診断され、がんを否定された4,258人と、胆道系に著変なしとされた27,973人。がん登録との照合により平均11年追跡し、110例の胆道がんを把握した。
?C型肝炎に対するインターフェロン治療の、肝がん予防効果に関する多施設共同研究を進めた。調査対象のソースが2つあり、1つは腹腔鏡・肝生検施行の6施設協同調査、今1つは外来のC型慢性肝炎患者登録3施設協同調査である。
結果と考察
1.院内がん登録の標準化と推進のためのソフト・教材開発:?院内がん登録コア情報入力の為の支援ソフトをこれまでに試作したが、本年は実地に運用し、改良を加えた上で、インターネットを介してマニュアルとともにソフトを提供できるようにした。
?今後のがん予防研究には、喫煙・飲酒等の生活習慣とともに、薬剤情報や、患者の性格・パーソナリティー情報も必須と考えられるので、これらのデータベース化に向けた研究を進めた。
2.院内登録資料活用による多重がんのリスク評価と要因分析:?昨年喫煙者で多重がんのリスクが高いことを示したが、これを受け患者に対する禁煙サポートを開始した。
?乳がん患者における多重がん(全部位)のO/E比は1.28と有意に高く、部位別には、胃、結腸、肺、卵巣で高くなった。子宮体がんは、タモキシフェンとの関連で注目を集めているが、タモキシフェンによる体がんリスクの上昇は定かではなかった。一方、非ホジキンリンパ腫のO/E比は3.4と有意に高く、化学療法群でのリンパ腫発生ハザード比が2.65と高くなった。
3.発がん高危険群の登録とリスク評価:?ヘリコバクタピロリ感染者の胃がん罹患リスクは性・年齢・追跡期間・萎縮の程度をマッチした非感染群より有意に高い(オッズ比5.1倍)ことが示され、特に分化型胃がんで高い感染率が認められた。ピロリ菌の影響を、萎縮の程度別に観察すると、高度・中等度群で10.9倍と大きくなった。腸上皮化生の拡がり別には、なし・限局で6.7倍と大きく、一方、びまん性では小さくなった。組織型では、不完全型で大きく、完全型で小さくなった。追跡期間や他の交絡因子の吟味も必要であるが、本成績は、ピロリの除菌の適応・効果を判断する上で、重要な知見と考えられた。 ?胆石群で3年以内に診断された患者数とその割合を、年齢階級別にみると、50歳代、60歳代で多く、割合も高くなった(50歳以上の胆石保有者の1.12%が3年以内に胆道がんに罹患)。本成績は、中高年の胆石患者を丹念にフォローすれば、比較的効率よく早期のがんを発見できる可能性を示唆するものである。胆石の診断から胆道がん診断までの期間が2年未満の例を除外し、胆石の胆道がん罹患の危険因子としての役割を分析した。その結果、性年齢調整ハザード比が胆石群で有意に高い(2.23倍)ことが確認された。
?腹腔鏡・肝生検施行の6施設協同調査では、インターフェロン投与群603例、非投与群150例を収集し、外来のC型慢性肝炎患者登録3施設協同調査では、投与群360例、非投与群1,021例を収集した。現在予後調査を進めている。本研究のねらいは、高精度の予後調査と、治療中断例をも解析対象に含める研究デザインにより、肝がん予防の合理的評価を行うことである。
結論
本研究では、がん予防・がん医療活動の評価の基盤となる院内登録の標準方式を確立すること、また登録資料を活用して、がん予防面での研究を推進することを、主な課題とした。
(1) 院内登録の標準化と推進のためのソフト・教材開発を進め、ソフトをインターネットにより、そのマニュアルとともに提供できるようにした。がん予防研究に必須と考えられる喫煙・飲酒等の生活習慣と、薬剤情報や患者の性格・パーソナリティー情報のデータベース化を進めた。
(2) 院内登録資料を活用して多重がんのリスク評価と要因分析を推進した。昨年喫煙者で多重がんのリスクが高いことを示したが、これを受け患者に対する禁煙サポート事業を開始した。乳がんに対する補助療法と多重がん発生との関連を調べた結果、化学療法群で非ホジキンリンパ腫の発生率が高いこと、一方、タモキシフェン投与群で子宮体がんのリスク上昇が必ずしも明瞭でないことが示された。
(3)発がん高危険群の登録とリスク評価に努めた。ヘリコバクタピロリ感染と胃がんとの関連は、必ずしも萎縮性胃炎・腸上皮化生を介する間接的なものだけでなく、直接胃がんリスクを高める可能性も示唆された。胆石は、胆道がんの存在を示唆するマーカーとなること、また胆道がんのリスク要因になることも示唆された。C型慢性肝炎に対するインターフェロン治療の肝がん予防効果を検証するため、多施設が協同して追跡調査のベースラインデータを集積した。
院内登録の基盤が整えば多施設協同研究が容易になり、また、院内登録患者データベースと地域がん登録ファイルとの記録照合により、がん罹患の把握、予後調査が迅速かつ正確になることが示された。今後こうしたがん登録の枠組みを全がん協加盟施設等を中心に構築すれば、これらを活用したがん予防研究が一層推進される可能性が示唆された。

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