諸外国の看護職の性差に関する実態についての研究

文献情報

文献番号
202106024A
報告書区分
総括
研究課題名
諸外国の看護職の性差に関する実態についての研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21CA2024
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
金井Pak 雅子(関東学院大学 看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 臼井 美帆子(東京有明医療大学 看護学部)
  • 渡辺 真弓(関東学院大学 看護学部)
  • 窪田 杏奈(麓 杏奈)(慶應義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
3,047,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究では、諸外国の看護職の資格制度や規制、看護職の就業及び免許取得前の教育に関する性差の実態と課題及び、課題解決策とその過程についての情報を収集し、日本の看護職における性差に関する制度や環境整備の検討の参考とする基礎情報を得ることを目的とする。
研究方法
 研究は、次の3段階で行った。第1段階は、諸外国の実態調査である。諸外国の看護職の資格制度や規制、看護職の就業及び免許取得前の教育に関する性差の実態について文献検討を行った。この結果を基に、諸外国の看護職の性差に関する実態、課題及び課題解決策とその解決過程等について把握するための情報収集項目を検討した。日本の看護職の性差に関する実態の課題解決にむけた政策的示唆に繋がるであろう8ヶ国を選定した。8ヶ国の看護師協会または関係団体に看護職の基本情報を得るための調査票を送付した。返信のあった5ヶ国(イギリス、スペイン、台湾、韓国、オーストラリア)に対して、追加調査を行った。
 第2段階は、調査結果に関する多角的分析を行った。社会学・人類学等に関する専門的な知見を有する有識者を交えた検討会を行った。有識者から提供された情報や学術的知見を踏まえ、研究班全体で看護職の性差に関する実態の更なる分析を行った。
 第3段階は、諸外国における看護職の性差に関する実態と課題及び、課題解決策とその過程をもとに、日本の看護職の性差に関する制度や環境整備の参考とする基礎情報の検討を行った。
結果と考察
 本研究を通して看護職の性差に係る課題として、3つのことが明らかになった。1つ目は、男性看護師の割合の低さを、男女平等の観点から課題だととらえる国があったことである。このような国々では、男性と女性の割合を近づけるための政策を展開していた。台湾では男女共同参画推進事業の一環として男性看護師数を増やすための政策が実施されていた。また、イギリスでは大学における研究資金獲得の条件として学部における男子学生の割合が一定水準を超えることを要求し、大学側が男子学生数を増やすような策を展開するような誘導を行っている。これに応じて、イギリスの複数の大学は男性看護学生志望者向けのイベントや、男性看護学生向けの奨学金の設立等、幅広い活動を行っていた。
 2つ目は、男性看護職に対する根強い偏見は欧米、アジア、アフリカ等どの地域においても、看護職の性差に関する課題として挙げられていた。看護職が強く「女性の仕事」と認識されてしまったために、全世界的に看護職を選ぶ男性を「女性的」とみなす傾向が現在も存続していることが伺えた。このような偏見が、男性が職業選択時に看護を忌避したり、男性看護師の働きづらさにつながっている可能性は高い。また、このような性別に関する強い固定観念は、性別意識の平等化や多様化が進んだ現代においては最終的には女性看護職の働きづらさにもつながり得る。偏見の存在を認識し、対応策を検討することは全看護職にとっての恩恵となるであろう。この偏見を解決するための施策としては、看護職に対するアンコンシャス・バイアスへの対策も検討していく必要がある。例えば、看護職の採用ポスターやホームページに女性の画像しか掲載されていない場合も多い。台湾政府は、ジェンダーに関連する看護職のイメージを歪めているメディアの報道、書籍、雑誌を検証するという政策を展開しており、その具体的方法として「2020年世界保健デー」におけるプロモーションビデオを、男女比を考慮して作成するなどしている。
 3つ目は、男性を人材獲得のターゲット層として捉える国が少なからず存在したことである。特に先進諸国においては高齢化が進行しており、多くの国が看護職不足に直面している。看護職不足を補うために移民や定年退職後の看護職に目を向ける中で、男性を看護職不足の解決の鍵として考える国が存在した。現に、台湾の男性看護職増加政策はその意義として看護師のマンパワー不足を改善することを掲げている。先進諸国における男性看護師の割合はほとんどの国で20%以下であり、15%を超える国も稀であるのが現状である。これは裏を返せば、人材獲得の余地が大きく残ることも示唆している
結論
 看護職養成において、一部の国を除いて女子学生の割合が圧倒的に多い。看護師に占める男性の割合は一部アフリカ諸国で半数を超えていたものの、それ以外の大半の国において、男性看護師の割合は女性看護師の割合と比較して遥かに低い。男性看護師の割合の低さを、男女平等の観点から課題だととらえる国があった。
 男性看護師や男性看護学生が自身に向けられるジェンダーステレオタイプやロールモデルの不在に由来する困難を抱えている。
 男性助産師関しては、イギリス、スペイン、オーストラリアには存在し、台湾や韓国は規制はないが、実態としては存在していない。
 

公開日・更新日

公開日
2022-06-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-04-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202106024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
諸外国の性差に関する実態について、文献および5ヶ国(台湾、韓国、イギリス、スペイン、オーストラリア)の実態を分析した。男性看護師の割合の低さを、男女平等の観点から課題だととらえる国があった。男性看護職に対する根強い偏見は欧米、アジア、アフリカ等どの地域においても、看護職の性差に関する課題として挙げられていた。男性を人材獲得のターゲット層として捉える国が少なからず存在した。看護師のジェンダーステレオタイプ是正に向けた組織的取り組みが求められる。
臨床的観点からの成果
現代社会においても依然として看護は『女性の職業』という認識が多勢を占めるが、歴史的には、病人やけが人を看護する人材として男性がその役割を担っていた時代がある。助産師については日本を含め5ヶ国において、男性の資格取得を法律上制限している。今回調査対象となった5ヶ国中、台湾と韓国では特に規制はないが男性助産師は存在しない。看護職の性差に関する実態や課題は、社会的、文化的、法的(業務内容、労働法制)、組織的(給与、病院の特徴)など様々な因子が影響して発生している。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2022-06-16
更新日
2025-06-04

収支報告書

文献番号
202106024Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,961,000円
(2)補助金確定額
3,939,000円
差引額 [(1)-(2)]
22,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 778,434円
人件費・謝金 2,133,520円
旅費 0円
その他 113,711円
間接経費 914,000円
合計 3,939,665円

備考

備考
自己資金額665円

公開日・更新日

公開日
2022-12-15
更新日
-