文献情報
文献番号
202106019A
報告書区分
総括
研究課題名
新興感染症およびパンデミックに対応する検案・剖検体制の確立のための研究
課題番号
21CA2019
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
近藤 稔和(和歌山県立医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 木下 博之(国立大学法人 香川大学 医学部 人間社会環境医学講座 法医学)
- 久保 真一(福岡大学 医学部)
- 清水 惠子(旭川医科大学 医学部)
- 池松 和哉(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
- 林 敬人(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科法医学分野)
- 高宮 正隆(岩手医科大学 法科学講座法医学分野)
- 鈴木 秀人(自治医科大学 医学部解剖学講座法医学部門)
- 井濱 容子(横浜市立大学 医学部)
- 斉藤 久子(千葉大学 大学院医学研究院法医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
24,030,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関移動
研究分担者:鈴木秀人
東京都監察医務院(令和3年4月1日から令和4年3月31日)
自治医科大学 医学部解剖学講座法医学部門
(令和4年4月1日以降)
研究報告書(概要版)
研究目的
新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の拡大により,COVID-19感染の有無と死因との関連性を明らかにすることが必要である.医療機関以外でCOVID-19陽性者死亡時に,感染と死因との関連性を解剖により解明することは,病態生理解明の一助となる.加えて,COVID-19ワクチン接種後の死亡例についても同様に死因との関連性を明らかにする必要がある.特に自宅等で急死したCOVID-19感染者の死因を究明することは喫緊の課題である.本研究の目的は,法医剖検例におけるCOVID-19陽性例を調査し,未診断のCOVID-19陽性患者を抽出することで,医療機関受診者以外のCOVID-19感染拡大の実態を明らかにし,軽症COVID-19感染者で自宅,宿泊施設等で療養中に死亡した方等について,解剖による詳細な死因究明を行い,日本人における重症化危険因子や血栓症等の合併症率を検討することで,COVID-19感染死の病態を解明するとともに,適切な予防策や治療戦略を提供するための基礎的データを収集する.さらに,日本の剖検体制の実態調査及び課題の抽出を行い,新興感染症およびパンデミックにおける解剖実施体制の見直しに関する提言を行う.感染事例の剖検の実施に際して必要なハード面での感染防御設備の設置状況の調査をすることで,今後の新興感染症およびパンデミック時の地域における解剖体制の構築の基礎データとする.また,新興感染症やパンデミック発生時には,感染情報の収集とその利用体制において,緊急性を要する部分については新たな解剖制度構築することで,今後の未知の感染症によるパンデミック発生当初時にも迅速に対応可能な剖検の実施体制,重症例の病態解明や感染情報の利用体制の構築を進めるための提言を行う.
研究方法
法医剖検例および死体検案例において,COVID-19の抗原検査またはPCR検査を実施し,未診断のCOVID-19陽性患者を抽出することで,医療機関受診者以外のCOVID-19感染拡大の実態を明らかにする.さらに軽症または中等症のCOVID-19感染者で自宅,宿泊施設等で療養中に死亡した方等について,法医解剖による詳細な死因究明を行い,日本人における重症化危険因子や肺炎以外の心筋炎・血栓症等の合併症率を検討することで,COVID-19感染死の病態を解明するとともに,適切な予防策や治療戦略を提供するための基礎的データを収集する.
結果と考察
法医剖検例 においてPCR 検査,または抗原検査によって COVID-19 陽性例は抽出した.死因については,新型コロナ感染症によるものだけではなく,COVID-19感染とは関連しない外因死の事例も認められた.新型コロナ感染症による死亡事例では,未診断のまま解剖時の検査ではじめてCOVID-19感染症と判明した事例や既にCOVID-19陽性で自宅や宿泊施設療養中に症状が悪化して死亡した事例が見受けられた.それらの死因については,肺炎、心筋炎の他喉頭気管支炎等多様であった.一方,外因死では,溺死,一酸化炭素中毒,高所からの転落による多発外傷,縊死,焼死等の死因が見られた.
COVID-19陽性の解剖ならびに検案症例に対して、外表ならびに体液等におけるウイルスの分布と定量に関する検討を行った.ウイルスの検出率ならびに検出されたウイルス量が最も多かった試料は鼻粘膜であった.さらに,鼻粘膜から検出された SARS-Cov-2 には約半数で感染性を維持していた。剖検例では,鼻粘膜だけでなく胃内容からも感染性のあるウイルスが検出された。死後経過時間と感染性の検討では,最長で死後 9 日の症例からSARS- Cov-2 の感染性が認められた.さらに,解剖事例における鼻咽頭拭い試料及び肺検体においては SARS- CoV-2 が残存した.また,ネクロプシー事例において,エンバーミング前後の遺体の鼻咽頭拭いを用いた抗原検査,鼻咽頭及び咽頭拭い及び外表部位9 箇所のPCR 検査結果は,エンバーミング後では全事例において陰性となった.
COVID-19陽性の解剖ならびに検案症例に対して、外表ならびに体液等におけるウイルスの分布と定量に関する検討を行った.ウイルスの検出率ならびに検出されたウイルス量が最も多かった試料は鼻粘膜であった.さらに,鼻粘膜から検出された SARS-Cov-2 には約半数で感染性を維持していた。剖検例では,鼻粘膜だけでなく胃内容からも感染性のあるウイルスが検出された。死後経過時間と感染性の検討では,最長で死後 9 日の症例からSARS- Cov-2 の感染性が認められた.さらに,解剖事例における鼻咽頭拭い試料及び肺検体においては SARS- CoV-2 が残存した.また,ネクロプシー事例において,エンバーミング前後の遺体の鼻咽頭拭いを用いた抗原検査,鼻咽頭及び咽頭拭い及び外表部位9 箇所のPCR 検査結果は,エンバーミング後では全事例において陰性となった.
結論
法医剖検例および死体検案例における COVID-19感染死の病態を解明するとともに,適切な予防策や治療戦略を提供するための 基礎的データの収集が必要である.さらに,,新興感染症およびパンデミックにおける解 剖実施体制の見直しに関する提言を行うた めに,感染事例の剖検の実施に際して必要 なハード面での感染防御設備の設置状況の 調査をすることで,今後の新興感染症およ びパンデミック時の地域における解剖体制 の構築の基礎データとなるものと考える.
公開日・更新日
公開日
2024-02-20
更新日
-